※情報量が非常に膨大なので、Google等から特定ワードでお越しの方は「Ctrl + F」か「ページ内を検索」で検索してみてください。

弊社ではM&Aの初期段階での無料相談や、M&Aプロセス進行中でのサポートといった機会において、売り手オーナー様から様々なご相談をいただいております。

業種も経歴も性別もバラバラな社長様たちですが、お悩みの根源にある不安はそう変わりません。会社に人生を懸けてきた経営者にとって、M&Aという選択が如何に重い決断であり、深く悩ませるものかを強く感じるところです。

無料相談といっても対面はまだ抵抗感が強く、なかなか申し込めず独りで悩んでいる方も多くいらっしゃるでしょう。そこで、我々が受けてきたご質問の中で、多くの売り手オーナー様が共通して感じるであろう疑問とその回答を、Q&A形式ですべて公開します。これを読むだけで、弊社の無料相談4~5回分の知識は得られるでしょう。

なお、ページの一番下部に追加の質問フォームを設置しています。匿名でも構いませんので、ぜひお気軽にご質問ください。

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M&A成功のコツがわかる本 M&A成功のコツがわかる本

多くの質問に答えられるよう項目を増やしていったら、いつの間にか書籍1冊分の文字数になってしまいました。一気に全部読むのは多分無理なので、お気に入り登録などして、以下のページコンテンツを活用しながら少しずつ読んでもらえればと思います。また、Googleなどからお越しの方は「Ctrl + F」か「ページ内を検索」で目的のQ&Aを探してみてください。

相談者様に必ず伺う、たった1つの弊社からのご質問

まず本題のQ&Aに入る前に、ご相談にいらっしゃった方に弊社側から必ず伺う質問をご紹介します。

それは、「あなたはM&Aで何を実現したいのか?」ということです。「M&Aの目的」、あるいは「M&Aの成功条件」と言ってもいいでしょう。

「会社を売りたい」は答えになっていません。会社や事業を売ることによって、どのような未来を実現したいのか?ということです。

これを伺うと、驚くほど異なる回答が待っています。

  • 従業員の雇用を維持したい
  • 子どもに事業ではなく財産として残したい
  • 事業を誰かに引き継いでほしい
  • 業績不振だが廃業はしたくない

などなど、挙げていったらキリがありません。そして、「創業者利益、つまりお金が欲しい」という回答を最初にする方は、意外なほど少数です(2個目か3個目に言う方が多いです)。

この答えには正解/不正解はありません。だからこそ、自分でしっかりと答えを持ち合わせていない限り、M&Aの成功にはたどり着けないのです。

M&Aの成功が曖昧だと、M&Aは確実に失敗する

なぜなら、実際にやってみると、M&Aは精神的・肉体的に非常に大変なプロセスを辿るからです。ほとんどの方が、1度ならず何度もM&Aを投げ出したくなってしまいます。

「この苦労が早く終わってほしい」「もう同じことは繰り返したくない」と思うことによって、肝心の相手との交渉がおざなりになり、呑むべきでない要求を呑んでしまったり、主張すべき要求を主張できなくなったりすることもあります。

このような状況で自分の甘さを制御する方法が「M&Aの成功条件を思い出す」ということなのですが、最初に成功を曖昧にしているとそれすらも甘くなり、つい余計な妥協をしてしまうのです。

弊社では、M&Aの成功条件を明確にすることを「M&Aの成功定義」と呼んでいますが、これを満たさないM&Aはすべて失敗です。M&Aが不成立のほうがまだマシで、成功条件を満たさないM&Aが「成立」してしまうと、もう取り返しのつかない永遠の失敗になるからです。

M&Aの成功定義は、最初に明確に行うこと

したがって弊社では、ご相談者様にM&Aの成功定義を徹底的に追求するようにアドバイスをしています。お話をしてみて「まだ成功定義の練りこみが甘いな」と思う方には、拙速にM&Aを選択しないようアドバイスをしています。

M&Aの成功定義は、すべてのM&Aプロセスの価値判断の基準であり、根幹です。成功定義のノウハウは以下の記事で公開していますので、ぜひご覧になり、あなただけのM&Aの成功条件を明確にしてみてください。

これがM&Aの第一歩!【M&Aの成功定義】の7ステップ

M&A全般に関する19の質問

M&Aは名前は知っていても、怪しい金融の世界の出来事のようで、不安を感じている相談者さんがほとんどです。まずはM&A全般に関するご質問とその答えを紹介していきましょう。

Q.私の会社は売れるだろうか?

自分の会社に買い手が付くかどうかは、中小企業経営者であれば誰でも必ず1回は考えることでしょう。会社の買い手を探すということ自体が非常に勇気の必要なことですので、無駄足になるならやりたくないのは当然です。

A.満足の行く条件が出るかは「やってみなければわからない」が正直な回答です

残念ながら、売れるかどうかを事前に予測するのは非常に困難です。M&Aの世界では、十分な利益が出て将来性も期待できる会社でも売買が成立しないこともありますし、逆に赤字・債務超過でもポンと売れることがあります。

なぜなら、M&Aはあくまで売り手と買い手が条件に合意したときに成立しますので、買い手が高い条件を出しても売り手が満足できなければ成立しませんし、その逆もまた然りということです。

多少経験を積んだ人ならば、買い手が付きそうな会社かどうかは、すぐにわかります。しかし、売り手が満足のいく条件が引き出せるかどうかは、なかなか予測ができないところです。

ただ、好条件を引き出す方法はありますので、これをしっかりとこなすことで、満足できる条件で売れる確率は高まります。(リンク先は各項目の詳細記事です)

以上を完璧にやればどんな会社でも最大の好条件を引き出せます。それに満足できるかどうかは冷静に判断しましょう。

Q.M&Aが「成立」する確率は?

M&Aは相手のいることなので、成立させたくても成立しないことは少なくありません。そのため、どれだけの確率で売れるものなのかは気になるところでしょう。

A.実際のところ1~2割程度。しかし、それだけあれば十分な数字です

成立しない案件は公表されないので集計はできませんが、体感としては、売り手がM&Aを決断してから成立まで行く確率は1割か2割程度です。

しかし、なぜこんなに確率が低いかというと、それは以下の理由からです。

  • 売りに出る案件の大半は赤字や債務超過が大きすぎて「価値のない状態」である
  • 価値のある会社だが売り手の理想が高く、条件が折り合わないことが多い

前者は1円でもいいから手放したい会社、後者は高値でなければ売りたくない会社です。世の中のほとんどの会社は後者であり、「売り」に出せば普通に売れる会社です。しかし、売り手が満足できないからM&Aが成立しないのです。

しかし、だからといって譲歩する必要はまったくありません。売り手はあくまで自分が納得できる場合だけ売ればよく、そうでなければ絶対に売ってはいけないのです。仮に理想が高すぎたとしても、納得できないのであれば売るべきではありません。したがって、M&Aの「不成立」は決して「失敗」ではなく、「引き分け」程度に考えるべきでしょう。

Q.売り手にとってのM&Aの成功率は?

では、「成立」したM&Aの中で、何割ぐらいが「成功」と呼べるのでしょうか。売り手と買い手で成功の定義が異なりますので、売り手にフォーカスして回答します。

A.体感では5割未満。なぜなら、みんな勉強不足だから

M&Aを成立させた方に色々本音を訊き出してみると、意外と大きな不満を抱え込んでいる方は少なくありません。他人にはなかなか言えないものの、後悔だらけだという方のほうが多いのが現状です。ちなみに、不満のない方の中には「実は損をしているけど気付いていない」という御目出度いケースも少なくありません。

原因はいろいろありますが、大半の失敗者に共通するのが「最初にちゃんとM&Aを勉強していなかった」ということです。M&Aという特殊領域を、何がなんだかよくわからないまま仲介屋の言いなりで進んでいけば、普通に考えて失敗するのは目に見えています。

とはいえ、M&Aの情報は限られています。実は、当サイトでM&Aノウハウを積極的に発信するようになったのも、このような状況が問題と思ったからです。M&Aノウハウは以下のページにまとめていますので、ぜひとも参考にしていただければと思います。

事業承継でM&Aを大成功させるための知識と知恵のすべて

M&Aのことをしっかり勉強し、ご自分のM&Aの成功について明確に定め、妥協なく努力すれば、M&Aに失敗することはまずありません。なぜなら、破談させて「引き分け」に持ち込めばいいからです。しかし、熟練の買い手企業に対して駆け引きをするには知識が不可欠ですので、きちんと勉強してからM&Aに臨みましょう。

Q.誰が会社を買っているのか?

新聞を読んでいると、「ファンド」や「総合商社」といったよくわからない人々がM&Aの買い手になっています。そのため、会社を売るとなったときにどのような買い手に売られるのか心配になるという方も少なくありません。

A.中小企業の場合、同業他社が圧倒的多数です

「ファンド」や「総合商社」が出てくるM&A案件は、中小企業の中では少々サイズの大きめの会社(業種にもよりますが、株式価値10億円を超える案件など)です。それ以外のケースでは、大手または準大手の同業他社が買うことが多いです。

ただし同業他社と言っても完全な競合であることは少なく、エリアが異なっていたり、周辺業種であったりと、少し範囲がズレているぐらいが多いでしょう。

もちろん、まったくの異業種やファンドが買い手になることもありますが、このケースでは売り手・買い手双方にとってM&Aを成功させる難易度はある程度上がります。

Q.M&Aは大変だと聞くが、本当か?

M&Aを経験した方の意見を訊いてみれば、「大変だった」という回答が多いかと思います。具体的に何が大変なのかイメージできないと、ますます不安になるかと思います。

A.大変ですが、しっかり準備しておけば、だいぶ楽になります

ただ、「大変ですか?」と訊かれると、「大変です」というのがまぎれもない答えです。具体的には以下の理由で大変になります。

  • 初体験の連続で先が見通せないまま進んでいく
  • その中で容易に後戻りできない判断を連続して迫られる
  • 飛び交う用語も高度なのでついていくのが大変
  • 人生の大決断であるプレッシャーが何カ月も続く
  • それも、経営者として事業や組織のマネジメントをしながら取り組まなければならない
  • 極めつけはデューデリジェンス(買収前の調査対応)がとても手間

M&Aは売り手も買い手も全力を注ぎ込まなければ成功しませんので、ある程度は覚悟していただくしかありません。

ただし、M&Aプロセスの開始前にしっかりと勉強し、M&Aのポイントが頭に入っていれば、行く先々で面喰うこともありません。また、成功定義がしっかりしていれば連続する決断に頭を悩ませることもありません。

「段取り八部」という言葉がありますが、しっかりと準備さえしておけば、苦労の80%は軽減できるように思います。

Q.M&Aはどんな風に進むのか?

実際にM&Aをやってみないと、どんな風に進むのかすら想像できず不安だらけでしょう。少しずつでもイメージできるように情報を仕入れていただければと思います。

A.オークション形式ですが、その手順は特殊です

中小企業のM&Aは、その多くが入札方式で進んでいきます。複数の入札が集まるように買収に興味を持ってくれる買い手候補を集め、一番良い条件(価格だけでなく、M&A後の事業運営も含めて判断)を提示した買い手を選びます。

ただし、世間一般のセリやオークションとは異なり、入札後になってから、買い手による本格的なM&A対象会社の調査が始まるのがM&Aの特徴です。詳しくは「初めてのM&Aを入札で成功させるために売主本人が学ぶべき基礎知識」をご覧ください。

Q.同業者の軍門に下ったと思われるのは嫌だ

中小企業のM&A最大の難関が、このような売り手側の心理によるものです。M&A業者は売ることの素晴らしさを語ってくれますが、経営者として割り切れない思いがあるのは当然のことでしょう。

A.無理に自分を曲げて売るなら、売らないほうがいいでしょう

M&Aは中小企業経営者の「個人的願望」の追求です。詳しくは「中小企業M&Aの本質は売り手経営者の『個人的願望』を追求すること」にて解説していますが、売り手本人が腹落ちしていないことを、外野の声で無理に捻じ曲げて強行する必要はどこにもありません。

もっとも、私自身も「会社を売る=他社の軍門に下る」ことだとは考えていません。そのような考え方は全国的に急激に薄らいでいると感じています。とはいえ、それはあくまで他人の意見。あなたが心から納得できないなら、敢えてする必要はありません。

Q.社員に迷惑を掛けないためには何をすればいいのか?

経営者として、頑張ってくれている社員・従業員を路頭に迷わせるようなことだけはできないという方は少なくありません。M&Aは経営者としての最後のリーダーシップを見せる場面でもあります。

現実問題として、M&A後にリストラの嵐が吹き荒れることもあります。このような事態を引き起こしてしまうと、一生の後悔に苛まれます。

A.相手の考えを見極め、信頼できる相手にだけ売りましょう

M&Aが成立してしまうと、従業員の生殺与奪はすべて買い手が握ります。買い手がリストラを決断すればリストラしますし、賃下げを決断すれば必ず実施されます。元オーナーに止める権利はありません。

相手の権利を侵害することはできませんので、そもそも売る前に信頼できる相手なのかどうかを確認することに尽きます。

信頼できる相手かどうかを見極めるためには、以下のポイントに注意しましょう。

  • 「雇用維持が絶対条件」など、買い手選びの基準を最初に宣言する
  • 買い手候補のM&A後の事業計画を確認・比較する
  • トップ面談に万全の準備で臨み、相手をしっかり見極める

具体的な方法については「M&A相手を選択するために確認したい事業計画の9つの重要ポイント」および「最良の後継者を選ぶM&Aでのトップ面談の7つの意義と6つの準備」で解説しています。

Q.M&Aは何から始めるべきか?

M&Aをしようと思っても、最初に何から始めればいいのかよくわからないという人がほとんどです。銀行や税理士に相談しても的を得た回答が出てこないことのほうが多く、むしろ怪しいM&Aアドバイザーを紹介されるだけということもあります。

A.まずは情報を集め、M&Aを勉強してください

大事な会社を売るのに、よくわからないままM&Aアドバイザーに丸投げするなんてとんでもないことです。まずはご自分で、本を読むなり検索するなりして、M&Aがどういうものなのかを勉強してください。そうしなければ、不誠実なM&Aアドバイザーやバックマージンのことしか考えていない銀行・税理士に騙されるのは必定です。

M&Aの知識については前掲の「事業承継でM&Aを大成功させるための知識と知恵のすべて」で徹底解説していますし、その他「5つのステップでわかる成功するM&Aの始め方とハマりがちな落し穴」にてより詳しい始め方を解説していますので、ぜひご覧ください。

Q.M&Aのデメリットは?

M&A仲介アドバイザーが書いた本や仲介会社のセミナー・Webサイトには、「M&Aのメリット」や「M&Aの大成功事例」で溢れています。これは単なる宣伝物ですので、「本当のところはどうなの?」と知りたくなるのは当然のことです。

A.最大のデメリットは“突然”経営者ではなくなること

実際にM&Aを実施した売り手経営者さんに伺うと、他の事業承継手段と比べたときのM&Aの最大のデメリットは、ある日を境に突然経営者ではなくなり、対象会社に直接的に関与することができなくなることのようです。

M&Aが成立したその日から、あなたは対象会社の経営者ではなくなります。もしかしたら社長の椅子に引き続き座らせてもらえるかもしれませんが、その仕事は「経営者」ではなく「経営者から会社の管理を任された人」です。

会社を売ってしまうと、基本的には外部アドバイザー以上の関与はできません。もし買い手企業が対象会社のリストラを敢行しても、あなたに止める権限は一切ありません。

その他、M&A特有のデメリットは「仲介会社は教えてくれないM&Aの売り手の9つのデメリット」にまとめていますので、ぜひご参考になさってください。

ちなみに、M&Aアドバイザーがよく言うM&Aのメリットと、そこに留意すべき点については「鵜呑みは厳禁!M&A業者が言う『売り手のメリット』7選とその真相」をご覧ください。

Q.家族にはどのタイミングで話すべきか?

M&Aに興味があって我々に相談に来る方の中にも、まだ家族には内緒という方もいらっしゃいます。特に親御さんから引き継いだ家業の場合、苦労を重ねて事業をつないでくれた先代には、非常に言い出しづらいというお気持ちを強く感じます。

A.本来は真っ先に相談すべき相手ですが・・・

まず、本来は真っ先に相談すべき相手だということは強調させていただきます。一家にとってもこれほどの重大な決断を、事前の相談なく動いていたと知ったときにいい気持ちがする人はいません。

また、ご子息の意見はぜひ求めてみましょう。親が継ぐ気がないと思っていても、意外と子はその気がある場合があります。

さて、親御さんですが、多少不興を買っても最後は何とかなると思われる場合は、M&A成立の直前まで黙っているのも現実的な選択肢ではあります。失礼な話ではありますが、特に判断能力が低下している場合、感情的に反対されることで、双方が非常につらい思いをすることがあります。心が痛いと感じるとは思いますが、M&Aでお金が入ったら思い切り親孝行すると心に決め、後戻りできないところまで突き進むのも、仕方のない選択肢だと思います。

ただし、その方が1株でも持っている場合は、へそを曲げてしまってとんでもないトラブルを引き起こすことがありますので、早めにお伝えしておいたほうがいいでしょう。

Q.従業員にはどのタイミングで話すべきか?

M&Aは従業員さんにとっても人生を変える一大事です。これまで自分を信じて頑張ってくれた皆さんを裏切るような気がして大変心を痛める方は少なくありません。

A.つらいと思いますが、最後まで内密に

つらいこととは思いますが、一般の従業員さんにはM&A成立の直前まで極秘にすべきです。自分の勤める会社が他社に買収されるというのは、他人や雇用主が想像するよりも遥かに衝撃的なことで、将来に対して強い不安を覚えます。

そのときに湧き出る「自分たちはこれからどうなるのか?」という当たり前の疑問に対して、「それはこれから相手と交渉して決めるんだ」という回答は無責任でしょう。間違いなく社長に失望し、退職者も出るかもしれません。

M&Aプロセスの最中は極秘で進め、すべてが決まった段階で全員一斉に公表しましょう。

Q.役員にはどのタイミングで話すべきか?

役員ともなると従業員とは別の立場になります。特に経理財務や営業担当の役員(またはそれに近いエース社員)は、M&Aプロセスの中で買い手側の面談対象になることもあります。

A.基本合意後からデューデリジェンスまでに話しましょう

ケースバイケースで柔軟に対応すべきですが、基本的には「基本合意」(入札後、買い手候補を1社に絞り込んだ段階)から「デューデリジェンス」(買い手候補による対象会社の本格調査)ぐらいの期間で、極秘に通知するのがよいと思います。

入札まではまともな条件を出す買い手が現れるかわかりませんし、買い手候補を1社に絞り込むまではあまり他人の意見を聞かないほうがよいと思います。役員に次のボスを選択する権利を与えたいというお気持ちもわかりますが、急に意見具申を求められても、社長の想いを正確に汲み取れず、気を使って本心ではない高値の買い手を奨めてしまうことが少なくありません。

買い手選びは経営者としての最後の大仕事です。部下たちのために、責任を一身に背負った決断をなさってください。

一方、デューデリジェンス時点では、役員がどのような人材かという点も買い手の重大な調査事項です。また、会社の内部情報が調査される以上、役員が裏側を知っておくことは非常に重要です。そのため、デューデリジェンスまでには話を通しておいた方がよいでしょう。

こちらは、遅くなると「こんなに大事なことを一般社員とほぼ同時発表?」というシラケた感情が沸き起こります。プロパー役員が非協力的な案件は失敗リスクが高まりますので、タイミングには要注意です。

従業員さんへの発表方法については、「事例で学ぶ円満なM&Aのための従業員への説明のタイミングと方法」にまとめています。

Q.顧問税理士にはどのタイミングで話すべきか?

多くの中小企業経営者にとって、顧問税理士は一番身近な社外コンサルタントです。部外者とはいえ、先代からお世話になっていてそれなりに権力を持っているケースもあり、伝えるタイミングに悩まれる経営者さんは案外多くいらっしゃいます。

A.デューデリジェンス前にお伝えするのがベストです

通知のタイミングとしては、役員と同様に、デューデリジェンス前にされるのがよいと思います。

残念ながら、税務顧問をメインに活動している税理士さんは、中堅税理士法人以下であればほとんどがM&Aのことなんてサッパリわかりません。初期段階では「相談されてもね・・・」というのが本音で、大抵はバックマージンが高額なM&A仲介会社につないで終わりです。

M&Aの初期の相談相手については「巧みな話術に要注意?株式譲渡M&Aの初期の相談相手とその裏側」を、バックマージンについては「オススメなんてカネ次第?M&Aのウラで動く【紹介手数料】の話」をそれぞれご覧ください。

少なくとも、買い手が一本化されるまでは雑音を発せられても困りますので、内密にしておいたほうがいいでしょう。一方で、対象会社の経理や税務を熟知した方であればデューデリジェンスでインタビュー対象になることもありますので、デューデリジェンス前にはお伝えしておきましょう。

Q.金融機関にはどのタイミングで話すべきか?

お金を貸してくれる銀行は、中小企業経営者にとって大変お世話になっている存在です。やっぱり不義理はできないし・・・ということで、お話になるタイミングに迷う経営者さんもいらっしゃいます。

A.最終契約調印後速やかに挨拶へ

実は、金融機関はM&Aにおいてそんなに気を遣うべき相手ではありません。M&A後は対象会社ではなく買い手の信用で資金調達することになりますので、関係が切れることも少なくないのです。

そのためM&Aが固まるまでは内緒にすべきである一方、だからこそ、固まったら真っ先にご挨拶に伺いましょう。優良な融資先が1つなくなって残念に思うでしょうが、きちんと義理を通せばわかってもらえます。

なお、M&A決断後真っ先に金融機関にご相談される方もいらっしゃいますが、上記の顧問税理士と同様の理由であまりおすすめしません。

Q.株式が分散しているが、どうすればいいか?

過去に功労者に株式を与えていたり、代替わりで相続されていくなどの理由で、株式が分散してしまっている会社さんもあります。実はこれは中小企業M&Aにおいては結構な難問です。

A.人間関係最優先で考えましょう

すべての類似事例に共通する解決策はなかなかありません。教科書的な回答をすれば、M&Aプロセス開始前に相続税法評価額などの安価で買い集めるのがベストなのですが、自分が数十万円で売った株式が数カ月後に億単位になったと知ったら相手はどう思うでしょうか?

この答えは売り手経営者とその他の株主との個人的な人間関係や、その方が出資してくれた経緯、その方の事業への貢献度合いを考慮しながら、買取りのタイミングと金額を考えていく必要があります。もちろん、M&A成立まで株主でいてもらい、その方にも売却益を得てもらったほうがよいケースもあります。

いずれにせよ、教科書的な回答が全パターンに適用できるわけではなく、それがかえって大きなトラブルを生むリスクもある点には注意が必要です。

Q.名義株があるのだが、どうすればいいか?

かつては7人の出資者(発起人)がいなければ株式会社を設立できなかったため、知り合いの名前を借りて登記することがよくありました。このような名前だけ書き換えた株式を「名義株」といいますが、こちらは中小企業M&Aでは典型論点で、対応策もだいたい決まっています。

A.最終的には契約書で売り手が責任を持つ

名義株に対する一般的な解決策は以下の3つです。

  • 名義株主から名義株であることの確認書をもらう
  • 買い手がリスクテイクできる資料を揃える
  • 最終契約書の「表明・保証」で売り手が保証する

この3つのどれかにより対策を行います。詳しくは「株主名簿に別の人!中小企業M&Aの【名義株】3つの解決策」をご覧ください。

いずれにせよ、最終的には売り手側が「何かあったら責任を取ります」と宣言しておけば、よほどナーバスな買い手でないかぎり解決します。

Q.事業の一部だけ残すことはできるのか?

店舗を全部売ってしまうと息子に何も残らないので、1店舗だけ残して仕事をさせていきたいという方がいらっしゃいました。経営者としてキャリアを重ねてしまうと一般のサラリーマンになるのは簡単ではないですし、採用側も抵抗があるかもしれないので、スモールダウンしてでも事業を残すのはよい選択だと思います。

A.会社分割で会社を分けるのがおすすめです。

M&A前に残したい事業(店舗単位や資産単位でもOK)を新会社に移してから譲渡する方法(ヨコの会社分割スキーム)や、残したい事業以外を子会社にしてから譲渡する方法(タテの会社分割スキーム)など、会社法の「組織再編」という制度を活用することでかなり自由な切り分けが可能です。

このような「売り方」と「売る物」の整理を「M&Aスキーム(M&A手法)」と言いますが、これによって税金のかかり方や売りやすさも大きく変わりますので、総合的に考えていきましょう。

Q.事業を分けて売るのと一括で売るのでは、どちらが売りやすいか?

「会社分割」や「事業譲渡」を使えば、複数の事業を切り分けで売ることができたり、不採算の事業だけ排除して売ることも可能です。トータルで考えたとき、どちらのほうが売りやすいのでしょうか。

A.一般的には、切り分けて売ったほうが価値は高くなります

これは小売店の仕組みを考えたら理解しやすいかもしれません。小売店ではパレット単位で仕入れ、段ボール単位で店舗に輸送し、パッケージ単位で顧客に販売しています。こうすることで買い手は買いやすくなり、トータルでは高値でも出してくれるようになります。

M&Aも同じで、買い手が欲しいと考えている事業単位で売るのが最適です。

M&A後の事業・組織に関する12の質問

経営者として、必ず気になるのがM&A後に事業や組織がどうなるのかということです。最終的な答えは常に「買い手次第」なのですが、どのような事例が多いかという観点からご回答します。

Q.自分はどうなるのか?

M&A後に自分がどうなるのか気にならない方はいないと思います。売り手さんのご希望が「しばらく残りたい」という方と「なるべく早く退任したい」という方に分かれることも特徴です。

A.社長に残れることもありますが、管理職としてです

多くの場合では、数カ月から2年程度、「顧問」「会長」「相談役」などの役職で会社に関与します。職務内容は「社長としての業務の引継」と「M&A後の組織統合(PMI)のお手伝い」です。

たとえ「会長」の肩書であっても、何か責任ある仕事を任されることはありません。M&A直後の作業が落ち着いてくるとお飾りの役員になってしまいますが、一定期間は存在するだけでプロパー社員の安心感に貢献できますので、多少面倒でも引き受けましょう(もちろん報酬はもらえます)。

なお、お飾りではなく「社長」として残れるケースもあります。これは買い手が決めることですので、買い手があなたに対象会社の管理を任せたいと思えば、断らない限り残れます。ただし、残るといってもあくまで「親会社から子会社の管理を任された人」としてです。これまでとは勝手が違うので、その点は要注意です。

詳しくは「社長交代?M&A後の経営者の処遇と仕事、引退のタイミング」も併せてご覧ください。

Q.誰が社長になるのか?

自分が退任した後の新社長は気になって当然です。特に中小企業は経営者の器によるところが大きいため、後継者の器を確認したくなるのは経営者の性でしょう。

A.「中間管理職」として優秀な方が来ます

新社長は2パターンあり、1つはフットワークの軽い役員・執行役員級の人材が「代表取締役社長」として部下数名を従えて送り込まれるケース、もう1つは親会社の社長や重役が名ばかりの社長となり、現場監督者として優秀な人材数名が送り込まれるケースです。

残念ながら、「経営者」として優秀な方が派遣され、自分の分身のようにリーダーシップを発揮してくれると考えないほうがいいでしょう。そのような人材は大企業でもほとんどいないので、送り込まれるのはせいぜい「中間管理職」として優秀な人材です。

ただし、他社の100%子会社になるというのは、その会社の1部門になるのと本質的には同じことです。中間管理職として十分ですし、むしろ経営者としてアクの強い人間は現場で拒否反応を起こしやすいので、必ずしも適役ではないのです。

M&Aをすると、中小企業の組織論理は大企業の組織論理に変わっていきますので、中間管理職で満足しておきましょう。詳しくは「M&A後に「現状維持」できない理由と買い手が全力で実施すべきこと」もご参考にしてください。

Q.債務の個人保証は外してもらえるのか?

中小企業では経営者が債務を個人保証することが一般的で、これがどうなるのかは次の世代のご家族にまで影響する重大な問題です。多くの方がM&Aの絶対条件に上げるのは当然のことです。

A.外さない買い手はほぼ皆無です

基本的に、個人保証を外さない買い手はいないと考えていただいて構いません。そのリスクも負えずに中小企業のM&Aをしようなどという買い手企業はおそらくないでしょう。

ただし、法律で外さなければいけないと決まっているわけでもありませんので、契約書に保証外しの義務は必ず記載してください。大手のM&Aばかり経験している弁護士がよく忘れる項目ですので要注意です。

最終契約について、詳しくは「甘く見ると大火傷!M&A株式譲渡契約で絶対注意すべき5条項」をご覧ください。

Q.役員はどうなるのか?

ご自分は退任するとして、では、役員はどうなるのかという疑問が生じます。せめて能力に応じたポストを用意してほしいと思うのは当然の気持ちです。

A.ある程度能力があれば続投になるケースが多い

これに関しては完全に買い手の経営方針次第であり、ケースバイケースですが、本人の能力に問題がない限り続投になるケースが多いです。

買い手としても、M&A後は混乱を大きくするようなことはしたくないので、必要最低限の変化だけで済ませようとします。

仮に役員退任になっても、対象会社か親会社でポストが与えられることも少なくありません。ただし、すべては買い手の思惑次第であり、クビになるケースもないわけではないので、買い手をしっかりと見定める必要があります。

Q.息子が役員だが、残れるか?

ご家族を何らかのポストで重用している場合、その方の処遇が気になるのは当たり前です。もし大事なご家族が不幸になってしまったら、何百億円で売れようがそれはM&Aの失敗でしょう。

A.能力があれば残す買い手は多いです

これは役員と同様で、一定の能力があれば無理にクビにすることは通常はありません。もちろん買い手次第ではありますので、こだわる場合はM&Aの絶対条件であることを首尾一貫して買い手候補に主張し続けましょう。理解してくれる買い手だけが残るようにすることです。

ただし、能力に見合わない報酬や役職を受け取っている場合、普通は適正水準に戻されます。もっとも、そちらのほうが本人もM&A後に身を振りやすいでしょう。

とはいえ、次期社長としての地位は白紙になりますし、不正が起こりやすい財務関係の仕事は外されるかもしれません。その点だけは覚悟していただく必要があります。

Q.従業員に不利益変更はないのか?

M&A後に従業員がリストラされたり、給与水準が下がるという事態は、経営者としては何としても避けたいと考える方が非常に多いです。人件費は最大のコストカット原資であることが多く、心配に感じるのはもっともです。

A.買い手次第なので、しっかりと見極めましょう

実は、買収後にリストラや賃下げをしたいという気持ちは、買い手企業なら一度は考えることです。そこで本当にやってしまう会社と、評判や紛争リスクを考慮してしない会社とに分かれます。そして、高い入札額を出せるのは、大きなコストカットを見込める「リストラや賃下げを厭わない企業やファンド」です。

もしリストラや賃下げを受け入れられないなら、買い手企業のM&A後の事業計画をじっくりと検証し、後継者として満足できる相手かどうかをしっかりと考えましょう。もしそうでないと感じたなら、迷わずその買い手はお断りすべきです。買い手が描いている事業の方針だけでなく、その計画の実現可能性もしっかりチェックしましょう。

なお、M&Aの最終契約書に「従業員の解雇の禁止」などの買い手の義務を記載することが多いです。しかし、従業員を自己都合退職に追い込むこともそう難しくないため、最後は誠実な買い手を選べたかどうかが重要になります。

Q.ブランド名は残るのか?

店舗名や商品名などのブランド名を残したいという方は多いです。特に先祖代々引き継いできた場合は、そのブランドによって今の自分があるという気持ちもありますので、こだわって当然だと思います。

A.買い手が決めることであり、引き継いでくれる相手を選びましょう

やはりこれも買い手が決めることです。買い手が残したほうが儲かると思えば残りますし、変更したほうが儲かると思えば変更されます。リストラと違って不幸になる人がいないので、買い手としては気楽に変えてしまいます。

買い手の考えを変えるのは簡単ではありません。もし変えて欲しくないならば、「残した方が儲かる」と考えている買い手企業を探して選びましょう。そのための具体的な方法は「社名やブランド名を変更させずに会社を売る5つのM&A戦術」をご覧ください。

Q.会社名は変わらないのか?

会社名を残したいという売り手オーナーさんも少なくありません。24時間365日ずっと頭のどこかで離れなかった自分の2つ名ですので、まったく違う名前になってしまうことに寂しさを感じるのは当たり前と言えるでしょう。

A.こちらも買い手次第なので、よく検討を

やはりブランド名と同様、買い手が決めることです。ただし、社名変更はいろいろと手続きが多いため、買い手としてもブランド名に比べると抵抗感は感じます。

ブランド名と同様、社名変更をしない方針の会社を選ぶしかありません。こちらも「社名やブランド名を変更させずにか会社を売る5つのM&A戦術」に具体的な方法を記載しています。

Q.合併で会社がなくなることは珍しいことなのか?

会社を他人に渡すだけでもつらいことなのに、その会社が合併で消滅してしまうなんて耐えらないと考える売り手オーナーさんもいらっしゃいます。そのせいか、どうも「M&Aで合併が選ばれることは稀ですよ」といった売り文句で売り手オーナーを安心させようとしている仲介アドバイザーもいるようです。

A.M&Aスキームとしては稀だが、M&A後の合併は珍しくない

結論を言うと、M&A後に対象会社が合併で吸収されてしまうことは珍しくありません。買い手はその会社の事業が欲しいのであって、事業にとってメリットがあれば柔軟に合併も行います。

ただし、M&Aスキーム(売買を成立させるための手法)として「合併」が選ばれることはほぼありません。それは手続や税金等で大きな問題があるため、わざわざ迂回的に買収しているだけです(詳しくは「M&Aスキームで『合併』を絶対選んではいけない3つの理由」をご覧ください)。

これもブランド名や社名と同じで、買い手がM&A後にどのような事業運営を考えているかを理解し、売り手の意に沿う相手に売るということが大切です。

Q.ファンドに売ることの注意点は?

M&Aではファンドと呼ばれる特殊な企業体から入札が入ることがあります。往々にして、その場合は普通の会社より高い金額が入札されますが、特殊な業種なので売ることに不安を感じるかもしれません。

A.M&A後の事業運営に関しては相当な覚悟が必要

ファンドに売ることに対して反対をするわけではありませんが、ファンドに売るとお金以外の面では成功させるハードルは大きく上がります。

いかんせん特別な経営方針を持っているわけではなく、その一方で短期的利益に対する責任は上場会社の比ではないので、対象会社には短期間での企業価値向上が強く強く求められます。

現実問題として、ファンドのM&A成功率は必ずしも高くありません。私もファンドに買われたことでボロボロになってしまった会社を何社も知っています(一時期はそれが嫌になってM&A関係の仕事を避けていました)。ファンドに売る際は相当な覚悟を持って売ってください。

ファンドに売るリスクについて、詳しくは「M&Aの買い手に【ファンド】を選ぶことのメリットとデメリット」をご覧ください。

Q.PMIについて売り手が気を配ることはあるか?

PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)とは、M&A直後に買い手企業が対象会社をグループ企業として迎え入れるために行う一連の取り組みのことです。たとえば社長業を引き継いだり、対象会社の社内ルールを整備することなどですが、このPMIで失敗すると、対象会社は大きな混乱の渦に巻き込まれ、M&Aの失敗に直結します。

A.特に従業員さんたちに気を配りましょう

PMIは買い手企業が責任をもって行うものであり、売り手オーナーとしてはサポート役に徹すべきものです。あまり出しゃばるべきではありません。しかし、M&A後の事業運営が気になる方であればまったく何もしないわけにもいきません。PMIで特に重要な以下の点はよく認識し、うまくサポートしてあげましょう。

  • 取引先への挨拶は速やかに行うこと
  • 従業員さんの衝撃は予想以上であり、特に気を使うこと
  • 事業の引継で知ってもらうべきことは何度も伝えること

特に従業員さんのケアがもっとも重要な仕事になります。買い手企業から派遣されてきた人が速やかに組織文化を把握することは難しく、うまく波長が合わないと従業員さんたちの不安は短期間で増幅されていきます。少しでも安心してもらえるように立ち回りましょう。

Q.上場会社に売った後、連結決算は何をすればいいのか?

上場会社の子会社になると、規模にもよりますが、子会社の会計が親会社のグループ連結決算に組み込まれます。上場会社は四半期ごとに決算開示を行うため、経理面の強化は不可欠であり、自社のメンバーがついていけるか心配になる売り手経営者さんは少なくありません。

A.基本はそのままですが、親会社へのレポーティングが必要になります

まず、通常の月次決算はあまり変わりません。特別な会計処理は親会社側で実施してくれるので、いわゆる「税務会計」をしていれば問題ありません。

ただし、親会社の連結決算のスケジュールに合わせて、四半期ごとに報告を行う必要があります。これには1~2週間で月次決算を報告しなければならないので、その期間はいつもより忙しい状態になります。

また、「税務会計」で作られた会計数値を、親会社側で上場会社に適用される会計基準に修正する作業があり、その処理に必要な情報データの提出も求められます。

そのため、上場会社ほどではないものの、経理に求められるレベルは一段階上がります。ただし、通常はM&A後に親会社の経理チームが派遣され、業務の段取りを整えたり、決算期だけ優秀な人やコンサルタントを送り込んでくれますので、現場メンバーが対応できないほど難しくなると思う必要はないでしょう。

なお、買い手によっては毎月の月次決算を短期間で提出するよう要求することもあります。もちろん親会社からのサポートはありますが、月次決算が締まるまでに1カ月以上かかっている場合は改革が求められるでしょう。

買い手探しと選択に関する10の質問

次に、どのように買い手を探し選んでいくべきか、その方法論に関するご質問をご紹介します。買い手探しとは後継者探しであり、どうすれば事業を託すに相応しい後継者に出会えるのか、悩ましいと考える方も多いようです。

Q.買い手候補はどのように探していくのか?

「そもそもみんなどうやって買い手を探しているの?」というのが一番最初の疑問かもしれません。周りにM&Aをした人がいない場合、見当もつかないのは致し方ないことです。

A.M&Aアドバイザーを雇い、入札で買い手を探すのが一般的

中小企業M&Aの場合、仲介会社などのM&Aアドバイザーを雇い入れ、オークションを開催して買い手候補を探していきます。自分の会社を競売にかけるなんてと抵抗があるかもしれませんが、M&A初心者である売り手が熟練者である買い手から好条件を引き出すには、最適な方法です。

入札M&Aについて、詳しくは「初めてのM&Aを入札で成功させるために売主本人が学ぶべき基礎知識」をご覧ください。

Q.やっぱりたくさんの買い手候補と会ったほうがいいか?

入札である以上、たくさんの買い手候補企業に声を掛け、なるべく多くの会社に入札してもらったほうが、好条件が出やすいのではないかと思う方も多いでしょう。実際、少し前までは大量の買い手候補を連れてくるのが良い仲介アドバイザーという考え方もありました。

A.買い手集めは量よりも質のほうが重要

確かに、ある程度の買い手候補を集めなければ、なかなか良い相手に出会うのは難しいかもしれません。しかし、量より質のほうが重要である点にはご留意ください。

というのも、現在の買い手企業は対象会社をしっかり吟味したうえで買います。しっかり吟味してもらうためには売り手側から適切に対象会社の情報を開示していく必要がありますので、入札に参加する買い手企業が多すぎると開示のクオリティが間違いなく下がっていきます。結果、良い買い手企業から相手にされなくなったり、買い叩きに遭うことにつながります。

M&Aを真剣に考えている買い手企業はこのように吟味するという発想ですので、それに対応できる数しか集めないほうがよいでしょう。

Q.M&Aマッチングサイトについてどう思うか?

このサイトを読んでいる皆さんのパソコンには、怒涛のようにM&Aマッチングサービスの広告が表示されるのではないでしょうか。現在雨後の筍のように増えているM&Aマッチングサイトについて、なんとなく不信感を覚えている方も多いでしょう。

A.初心者には難しいツールだと考えています

M&Aマッチングサイトの最大の問題は、売り手や買い手が直接相手とやりとりしなければならないという点です。

M&Aは、初心者である売り手と熟練者である買い手の交渉です。やったことがない人は気付きもしないと思いますが、プロを挟まないことで受ける損失は想像以上です。金銭的な損失ならまだしも、不誠実な買い手に売ってしまったときの精神的な損失は、永遠に取り返しがつきません。

もちろん自信があるという方の利用を止めはしませんが、初めての場合はちょっと考えたほうがよいのではないかと思っています。

Q.ショートリスト作成時の留意点を教えて欲しい

ショートリストとは、買い手を探す際に、声を掛ける企業と掛けない企業を選別するための「声掛けリスト」です。たいていはM&Aアドバイザーがたたき台を持ってきて、それを削ったり追加したりして作っていきます。

A.売りたい相手をイメージしてから作りましょう

主婦向けのカフェを作るならオフィス街ではなく住宅街に出店すべきように、想定するターゲットを明確にしてから声を掛けていく相手を絞りこんでいきましょう。ターゲットは非現実的な買い手(トヨタやGoogle)でも構いません。そのターゲットモデルにあこがれた理由を分析し、それに近いか遠いかという基準で探していけば、現実的な範囲内で最良の買い手イメージができるでしょう。

具体的なショートリストの作り方については「ぜひ売りたくなる相手とのご縁をつなぐM&Aショートリストの作り方」をご覧ください。

Q.ノンネームシート作成時のコツを教えて欲しい

ノンネームシートとは、M&A対象会社の事業内容、規模感、特徴などを、対象会社が特定されない範囲内で提供する紙のことです。守秘義務契約のない相手に「守秘義務を結んでまで買収を検討すべきかどうか?」を判断させるための資料です。

A.濃度を変えて複数作成しましょう

ノンネームシートは具体的な情報を載せるほど買い手候補のレスポンスが良くなりますが、一方で対象会社を特定されるリスクが高まります。

そこで、ぜひ興味を持ってほしいと思う企業に対してはギリギリまで濃密な内容を、興味があるかを慎重に確認したい同業他社には薄い内容を開示しましょう。Webやメール配信での開示の場合は情報拡散が桁違いに速いので、かなり薄い内容に留めたほうがいいでしょう。

ノンネームシートの記載内容など、詳しくは「秘密を守り有望な買い手を集めるM&Aのノンネームシートの記載内容」をご覧ください。

Q.良いインフォメーションメモランダムとはどういうものか?

インフォメーションメモランダムはM&Aにおける最重要資料と言っても過言ではないほど大事なものです。とはいえ、今まで見たこともない売り手オーナーとしては、どのようなインフォメーションメモランダムが良いのかもよくわからないでしょう。その結果、M&Aアドバイザーが作ってきたお粗末なインフォメーションメモランダムを無批判に使ってしまう方も少なくありません。

A.買い手の立場になって、欲しい情報を提供してください

良いインフォメーションメモランダムというのは、買い手が安心して高値を入札できる記載内容である必要があります。したがって、買い手の立場になって、「事業を買い取る検討に必要な情報が網羅されているか?」を確認してみましょう。

具体的な記載内容については「会社の値段に3倍差が付くインフォメーションメモランダムの記載内容」で詳細に解説していますが、本質的に重要なことは買い手に必要な情報が届いているかという点です。

Q.入札前に出したくない情報開示を求められたが、どうすべきか?

M&Aでは買収に前向きな買い手候補ほど、入札前に様々な情報が欲しいと考えています。そのため、顧客情報や社員の年収など、質疑応答でインフォメーションメモランダム以上の情報を尋ねられることは少なくありません。その際に気を付けなければならないのは、「情報の出しすぎ」です。

A.断って構いませんが、その理由は明確にしましょう

秘密情報は秘密にされてこそ価値があるため、入札するかどうかすらわからない買い手候補に開示するわけにはいきません。重大な情報が流出すると信用を失ったり、会社の価値そのものが下がることもありますので、慎重に対応しましょう。

情報開示を断ることは問題ないのですが、なぜ開示できないのか、いつなら開示できるのかは明確にしたいところです。「営業上の重要機密」「取引先との約束」「プライバシーの問題」などの理由で、「デューデリジェンス時に開示します」なら、それ以上の追求はありません。

ただし、そういう秘密情報こそM&A価格を引き上げるポイントでもありますので、できればジャンル別集計値やランキングなど、少しぼかした情報開示をしたいところではあります。

情報開示のコツについて、「最高の後継者が争奪戦を起こしてくれるM&Aの【情報開示の5原則】」もご参考にしてみてください。

Q.買い手が描いている事業計画を評価する際のポイントを教えて欲しい

M&Aを単なる資産の売買ではなく、自分の育ててきた事業を引き継いでもらうことだと考えているなら、M&A後に買い手がどのような事業運営をする計画なのかに気を配るのは当たり前のことです。しかし、他人が作った事業計画を見る機会はそうそうないので、どのように評価すればいいかと不安になる方も少なくありません。

A.「理想的か?」と「現実的か?」の2つの視点で評価しましょう

中小企業M&Aは、売り手経営者がその個人的願望を追求してもよいものです。そのため、買い手企業が自分にとって理想的な事業運営を計画しているかという視点でチェックしましょう。

もう一つは、その理想が絵に描いた餅ではないかをチェックする視点です。どんな計画も実現できなければ意味がなく、もし投資回収できない事態になれば買い手は必ず計画を変更します。

より具体的な評価の方法は「M&A相手を選択するために確認したい事業計画の9つのポイント」で解説していますが、特に重要な視点は上記2つであることを忘れないようにしてください。

Q.買い手が事業計画を提出してくれない場合はどうすべきか?

事業計画と言っても、上場会社が決算説明会で発表する立派な資料が必要なわけではありません。要求水準が高すぎると入札率が下がりますので、匙加減が必要なところです。

A.簡単なメモでもわかればOKです

もちろん気合の入った計画があれば最良ですが、「いつまでに何をするのか?」と「どのような成果を目指すのか?」をわかりやすく説明したものがあれば十分です。足りない情報は質疑応答で補っていきましょう。

なお、気合の入った事業計画書が提出されたほうが、買い手の意欲を感じて評価したくなるものですが、単に外部アドバイザーに丸投げして作らせただけのケースもあるので要注意です。質疑応答していけば必ず馬脚を現しますので、見栄えだけで信用しすぎないようにしましょう。

Q.M&Aが下手な買い手企業に特徴はあるか?

売り手にとってM&Aの成立が成功とは違うように、買い手にとってもM&Aの成立は成功とは限りません。そして、M&Aのコツを掴めておらず、失敗を繰り返している買い手企業もあります。お金だけをM&Aの成功と定義するならともかく、M&A後の事業運営がうまくない買い手にはなるべく売りたくないというのが本音でしょう。では、どのような買い手に注意すべきでしょうか?

A.デューデリジェンスがいい加減な買い手は、たいていM&Aが下手です

M&Aが下手な買い手企業は、例外なくデューデリジェンスに手を抜いています。買い手にとってデューデリジェンスとは、自分たちが考えている事業計画の実現可能性を確認し、その成功を阻害する要因を認識する重要なプロセスです。これに手を抜くということは、そもそもM&Aをわかっていないとしか言いようがありません。

より具体的には、以下のような特徴があります。

  • 外部の弁護士・会計士任せで、会社の人間が現場に来ない
  • DDチームの質問が表面的で、ビジネスの本質に踏み込んでこない
  • キーパーソンを確認したり、面談を希望したりしない
  • 名義株など、中小企業M&Aではよくある些末な問題に時間を使いすぎる

こういう買い手に売ると、M&A後の事業運営で失敗することが少なくありません。よく注意して相手を見定めましょう。

M&Aアドバイザーに関する13の質問

M&AアドバイザーはM&Aの成功を左右する重要なキーマンですが、やはり「胡散臭さ」やアドバイザー報酬の高さを気にされている方が多くいらっしゃいます。やはり「仲介」や「コンサルタント」などのワードは本能的に警戒感を引き起こすようです。

Q.M&Aアドバイザーは必要なのか?

自分で買い手を見つけることができれば、そもそもM&Aアドバイザーは不要なのではないかという方もかなり多くいらっしゃいます。実際のM&Aを体験しないと、なかなかその必要性を体感できないというのは仕方ないところかもしれません。

A.成功を目指すなら使うことをおすすめします

「M&Aは総合格闘技」という言葉もありますが、経営上のあらゆる課題を取引対象として広範に検討・交渉していく必要があります。買い手にとっては何億、何十億の投資ですから、確実に成功するように徹底的に調査してきますし、売り手が十分な対応ができない場合はすぐに購買意欲を失ってしまいます。

このような状況でM&Aの成功を目指すにはノウハウが不可欠です。まして、M&Aの初心者である売り手と熟練者である買い手との交渉であり、丸腰で戦ったのではそもそも勝負になりません。

したがって、弊社ではM&Aアドバイザーの利用を強くおすすめしております。

Q.守秘義務契約って本当に効果があるのか?

M&Aアドバイザーとコンタクトする際に必ず気を付けなければならないのが、秘密が保持されるかどうかです。M&Aアドバイザーに会いに来たという事実だけでも流出すると、あらぬ噂を招くリスクがあります。

A.立証・損害賠償請求は困難なので過信は厳禁です

守秘義務契約自体は必ず結ぶべきだと思いますが、基本的に相手が情報を漏らしたことの立証や、それによって生じた損害額の主張は非常に困難です。

したがって、守秘義務契約があるから安心というわけでは決してありません。そもそも信用できる相手なのかどうかをご自分の目で確認してから、重要な情報を提供しましょう。

Q.安いM&Aアドバイザーを使うことのデメリットは?

M&Aアドバイザーの報酬は、実際のところ高いです。そのような批判を受けてか、かなりの低価格で引き受けてくれるM&Aアドバイザーも増えてきているようです。

A.実力はアドバイザー次第であり、見極めが重要です

M&Aアドバイザーの世界は高ければ優秀な人が多いというものではありません。しかしながら、格安ゾーンで優秀な方を見つけるのはなかなか難しいように思います。

もちろん、これからは価格競争が盛り上がり、低価格でもハイレベルなM&Aアドバイザーは増えてくるとは思います。しかし、格安ゾーンにはそれ以上に低品質なアドバイザーが溜まっていくものと思います。

価格が高ければよいというものでは決してないものの、格安のアドバイザーほど見極めが大変ではないかと思います。

Q.仲介アドバイザー報酬は値切れるのか?

仲介アドバイザー報酬はかなり高額ですので、少しでも安くしたいと思う方は少なくありません。原価はあまりかかっていないので値切れるのではないかという発想は、経営者であれば誰しもが思うところでしょう。

A.「売れる会社」なら、少しだけ値切れることもあるようです

事実として、値切れたという話は結構聞きます。特に「着手金」が値切れるようです。

仲介アドバイザーにとって、着手金はインフォメーションメモランダムなどの資料作成の人件費が空振りに終わるリスクを回避する手段です。そのため、「この会社は頑張らなくても売れそうだ」と思えば、着手金と独占契約を天秤にかけて負けてくれることもあるようです。実際、着手金はアドバイザー報酬の中ではごく一部なので、損して得取るという感覚なのでしょう。

ただ、現実問題として「頑張らなくても売れる」という認識でいられることが、売り手オーナーにとって良いことかどうかはわかりません。少なくとも、仲介アドバイザーが無責任な感覚しか持っていないのであれば、売り手自信がしっかりとご自分の「成功」を見失わない必要があるでしょう。

Q.「売り手は無料」の「仲介」アドバイザーの問題点は?

M&A仲介は良質な売り手を抑えることが重要な「仕入の商売」ですので、中には売り手側からは報酬をもらわないという売り文句の「仲介」アドバイザーまで出てきました。胡散臭さを感じつつも、興味はある売り手オーナーさんは多いようです。

A.中立性も気になりますが、買い手の手数料は必ず確認しましょう。

一番気になるのは、そんな報酬の受け取り方で「中立」を守れるのだろうかという点です。私なら、肝心の交渉場面では露骨になりすぎない程度に買い手の味方をしますし、より多くの報酬を気持ちよく払ってくれる買い手を選ぶよう可能な限り誘導します。

また、買い手が1つのM&A案件に掛けられる予算は決まっていますので、買い手が支払うアドバイザー報酬分だけ、売り手が受け取るM&A対価は確実に減ります。他社が売り手に請求している額を買い手に請求しているだけだったら何の意味もありませんので、必ず確認しましょう。

Q.複数のM&Aアドバイザーを併用することは可能か?

もしM&Aアドバイザーごとに買い手探しのルートが大きく違うのではあれば、複数のアドバイザーを併用して探させたほうが、よい買い手に出会う可能性は高いのではないかと思うかもしれません。特にレベル差が激しいM&Aアドバイザー業界で一発で最良のアドバイザーを見つけるのは簡単ではないため、できれば併用して様子を見たいところです。

A.基本的には受けてもらえません

M&A仲介は単に高値を出す買い手を見つけてくればよいというものではなく、どうやって連れてきた買い手とのM&A取引を「成立」させるかという仕事です。売り手はお金だけでなく事業計画や相性を加味して主観的に選びますので、最後の最後で口のうまいだけの他社に売上を掻っ攫われるリスクは取れないというアドバイザーが大半でしょう。よって、M&A仲介は基本的に排他的な独占契約となります。

ちなみに、買収意欲の高い買い手企業は、主要な仲介アドバイザーとはすべてパイプを持っていますし、パイプのないアドバイザーがノンネームシートを持ってきてもちゃんと検討してくれます。よほど胡散臭い場合を除き、M&Aアドバイザーの違いで買い手候補の幅が狭まるということはありませんので、ご安心ください。

ただし、「事務所は自宅でメールアドレスはyahooのフリーメール」というM&Aアドバイザーもいました。さすがにこの場合は良い案件を持っていても相手にしない買い手企業は少なくありません。

Q.オススメのM&Aアドバイザーは?

弊社では多くの優秀なM&Aアドバイザーと面識がありますので、おすすめのアドバイザーをご紹介させていただくことは可能です。M&AアドバイザーはM&A成功の根幹を担いますので、優秀で誠実な方を選びましょう。

A.個人単位で、ご自分の成功定義に最適なアドバイザーを選びましょう

M&Aアドバイザーを選ぶ際の重要なポイントは、「この人は自分が実現したいM&Aの成功を目指すうえで最適な人物だろうか」と考えることです。

M&Aの成功定義は十人十色ですから、最適なM&Aアドバイザーもまたそれぞれです。従業員の雇用維持が最重要目的なら、労務問題に強く大手の買い手が得意なアドバイザーがいいですし、高く売りたいなら、財務に強く節税にも明るいアドバイザーがよいでしょう。弊社では、売り手オーナーさんがM&Aで何を実現したいのかを丁寧にヒアリングし、最適なM&Aアドバイザーをご紹介しています。

なお、M&Aのアドバイザリーサービスで重要なのは組織力より個人の力だと考えていますので、オススメのアドバイザーは個人単位でご指名させていただいております。

Q.M&Aアドバイザーを評価する際に重視しているポイントは?

「優秀なアドバイザーを選びましょう」と言われても、M&Aの経験があまりないと、どのようなアドバイザーが優秀かわからないこともあるでしょう。弊社がM&Aアドバイザーを評価するときのポイントは何ですか?と尋ねられることもあります。

A.一番はプレゼン能力だと考えています

財務や法務に明るかったり、仕事が丁寧だったりと、M&Aアドバイザーに求められる能力は多岐にわたります。その中で、もっとも重要なスキルはプレゼン能力だと考えます(「コミュニケーション能力」ではなく)。

M&Aアドバイザーは売り手に代わって対象会社の状況を買い手に説明し、買い手が売り手の希望に沿う条件を出すように誘導する必要があります。売り手と買い手の情報・意見交換を正確・確実に促し、双方にプレゼンテーションしていく能力は欠かせません。

特に、インフォメーションメモランダムはM&Aを成功させる最重要資料であり、M&Aアドバイザーの能力が露骨に発揮される場面です。インフォメーションメモランダムづくりがいい加減なM&Aアドバイザーは使わないほうがいいでしょう。

その他、M&Aアドバイザー選びのポイントは、「初心者にオススメなM&A仲介の選び方!大手ランキングや手数料比較」にてより具体的に説明していますので、ご参考にしてみてください。

Q.FA(ファイナンシャルアドバイザー)と契約したいのだが可能か?

肝心な場面で中立として助けてくれない仲介会社よりも、終始一貫味方をしてくれるFAのほうを使いたいと思う売り手オーナーさんは少なくありません。同じような報酬を払うなら、FAのほうがよいと思うのは当然のことではあります。

A.ちゃんとしたFAを使うには、ある程度の事業規模が必要です

FAのほうが責任が重いうえに片手取りですので、仲介会社に比べて実入りが悪い仕事です。そのため、ある程度大きな案件でなければ受けてくれないFAが多いため、探すのは少々大変かもしれません。

最近は「クライアントのご希望に合わせて仲介もFAもやります」という会社が増えてきたようで、こういうところは比較的安いです。しかし、実際のところFAの仕事は仲介屋ができるほど簡単ではありません。「FAがメインで仲介はオマケ」という会社であればともかく、その逆はあまり期待できないかもしれません。

いずれにせよ、優秀な味方はそれなりに高いことは覚悟しておきましょう。

Q.顧問税理士がFAをやると言い出したが、大丈夫か?

最近某仲介会社が、顧問税理士に買い手候補企業のデータベースを提供し、FAを担当させるというサービスを始めたそうです。実際に、顧問税理士にFAを任せて大丈夫だろうかというご相談も受けています。

A.出来る税理士もいますが、多分大半はお話になりません

M&Aの経験値が高い税理士さんが故郷に帰って顧問業をやっていることもありますので、そういう方であればいいと思いますが、普通の税理士さんであれば、まぁ無理です。M&Aを甘く見てはいけません。私が買い手企業なら間違いなくカモだと考えて買い叩きを狙います。

念のため申し上げておきますが、その顧問税理士が「M&Aとかのエキスパート」とか「ナントカ協会認定アドバイザー」の資格を持っていたとしても、そんなものは現場では何の役にも立ちません。詳しくは「なぜ優秀なM&Aアドバイザーほど【資格】を名乗らないのか?」をご覧ください。

Q.M&Aアドバイザーと契約する際の注意点は?

M&Aアドバイザーとの契約は初めての方が多いので、契約書を見てもどこに気を付けるべきかわからないかもしれません。報酬体系が当初の説明通りかは当然確認すべきですが、他に何を確認すればいいでしょうか?

A.契約解除条項には気を付けましょう

契約後、実際に仕事を任せていく中で、「この人期待していたよりだいぶダメなんじゃないの?」と思うことがあるかもしれません。M&Aプロセスは進めば進むほど後戻りが大変になっていきますので、そのような場合は速やかに契約解除するかどうかを検討すべきです。

このような場合に備えて、契約解除の条件は確認しておきましょう。売り手の一方的な通知で一切の制約なく契約解除できるのか、違約金が発生するのかなど、事前に確認しておかないと思わぬ制約に足を引っ張られる可能性があります。

Q.M&Aアドバイザーと突然連絡がつかなくなったが、どうすればよいか?

M&Aの検討段階や、M&A交渉中に、突然M&Aアドバイザーと連絡が付かなくなったというご相談を受けることがあります。結構あるようですが、このような場合はどうすればよいのでしょうか。

A.一方的に契約解除を通知し、忘れましょう

おそらく、連絡が付かなくなった理由は、残念ですがそのアドバイザーが「あなたの会社は簡単には売れない」と感じたからです。要するに「お断り」なのですが、この業界は社会常識がまるでない人も少なくないので、その連絡すらくれないということがよくあります。

念のため、「この話はなかったことに」とメールで通知し、もうその人のことは忘れましょう。独占契約期間中であっても、契約解除の連絡を一方的にして数日返信がなければ、もう他を探して問題ありません。

なお、このような社会常識のないアドバイザーでは、仮に運よく(?)M&Aが「成立」しても、「成功」することはありません。下手に成立しなくてラッキーと考えたほうがいいでしょう。

Q.仲介アドバイザーのせいで大損したのだが、訴えられるか?

繰延税金資産の話をしたときに、すでにM&Aを終わらせた方から「価格をもっと引き上げるこんないい方法があったのに、仲介アドバイザーは何も言ってくれなかった。損害賠償モノではないか」という憤りを聞いたことがあります。現実問題として、訴えたら勝てるのでしょうか?

A.FAはともかく、仲介ではなかなか難しいと思います

民事訴訟の専門家にご確認いただければと思いますが、たぶん難しいように思います。

仲介はあくまで中立の立場であって、あなたの利益を最大化するのが仕事ではありません。売り手に価格交渉戦略を耳打ちすることは買い手にとって不利な動きをすることですから、中立が建前である以上できることではないはずです。

結局、仲介会社はそのぐらいのサポートしかしてくれません。仲介会社を使うときは、ご自身でしっかり勉強するなり、M&Aに詳しい味方を確保するなりして、自分の利益は最後まで自分で守るという覚悟を持ちましょう。

M&Aスキームに関する9つの質問

M&Aスキームとは、売買を成立させるための法形式のことです。このM&Aスキーム次第で、買い手にとっての買いやすさが大幅に変わったり、事業の価値が跳ね上がったり、税金が半分になったりすることもありますので、M&Aスキーム選択は慎重に行いましょう。

Q.使えるM&Aスキームの選択肢を教えて欲しい

M&Aの書籍やWebサイトを見ていると、「株式売買」や「事業譲渡」以外に「合併」とか「第三者割当増資」果ては「事業提携」のようなピント外れのM&Aスキームが紹介されています。あなたが今知るべきM&Aスキームの選択肢を正確に理解しておきましょう。

A.中小企業M&Aに使えるのは以下の4つのスキームです

ほとんどの中小企業M&Aで選択肢に上がり、実際に広く使われているM&Aスキームは以下の4つです。

  • 単純な株式売買を用いたスキーム
  • ヨコの会社分割(分割型分割)を用いたスキーム
  • 事業譲渡を用いたスキーム
  • タテの会社分割(分社型分割)を用いたスキーム

それぞれの手順やメリットデメリットについては、「4大スキームを図解!中小企業のM&A手法のメリットデメリット比較」にて詳細に記載していますので、ぜひご覧ください。

Q.M&Aアドバイザーが単純な株式売買しか説明しないのだが、なぜか?

M&AアドバイザーにM&Aスキームを相談すると、80%以上は、単純な株式売買スキームしか薦めません。単純な株式売買スキームは税金面で極めて非効率であるにも関わらずです。なぜでしょうか?

A.「自分が楽だから」か、「よく知らないから」でしょうね

M&Aアドバイザーは売り手と買い手を結び付けてM&Aを成立させる商売です。なるべく型にはまってサクッと成立させられるM&Aスキームのほうが好都合です。

そのため、クライアントの不利益になると知りつつ、単純な株式売買スキームに誘導しようとするM&Aアドバイザーは少なくありません。

もっとも、そこまで悪質でなく、単純に勉強不足で株式売買以外のスキームを理解していないというアドバイザーも多いので、なんとも言えません。

Q.会社分割はM&A契約締結の前にすべきか?後にすべきか?

会社分割を利用したスキームの話をすると、買い手を探し始める前から会社分割をしようとする方もいらっしゃいます。実際には、どのタイミングで実施するのがよいのでしょうか?

A.M&A契約後の着手がおすすめです

会社を分割することは、豆腐を切るような簡単な話ではありません。商流や支払いの流れを再整備しなければなりませんし、特に従業員さんの所属会社が変わる場合は大量の労務手続があります。

実際問題として、M&A契約締結前の極秘状態で会社分割を貫徹するのは非常に困難です。

そのため、M&A契約締結後、1~2カ月の時間を使って会社分割を成立させましょう。M&A契約締結後であれば公表可能なので圧倒的に動きやすいですし、買い手企業のリソースも活用できます。

ただし、M&Aの成立(クロージング)は会社分割成立後になりますので、契約締結からクロージングまで1~2カ月要するということです。売り手としてはこの期間はできるだけ短くしたいと思うものですので、その点は我慢していただく必要があります。

Q.ヨコの会社分割で対象会社を債務超過にすることは可能か?

後述しますが、ヨコの会社分割スキームでは、対象会社の純資産は少なければ少ないほど税金が安くなります。極論を言えば、債務超過のほうが節税が図れます。では、会社分割で債務超過状態にすることは可能でしょうか。

A.債務超過自体は可能ですが、不自然な場合は税務否認リスクが高まります

結論から言うと可能です。ただし、現実問題として債務超過の会社を買うことに抵抗を感じる買い手企業は少なくないので、あまり無理に節税を狙わないほうが得策だとは思います。

また、債務超過にするために借入を起こすなど、不自然性を感じるような方法で純資産を過度に圧縮した場合は税務否認リスクが高まります。

Q.ヨコの会社分割では減資が必要と聞いたが本当か?

ある司法書士さん(弊社が連れてきた人ではない)がヨコの会社分割(分割型分割)では資本金の減額が必要になると主張していたことがあります。資本金は会計と法務という2つの専門性が入り混じる難しい部分ですので、妙な誤解が広がることがあります。

A.減資する処理方法もありますが、実際にはほとんど見たことがありません

ヨコの会社分割(正確には、「共通支配下の取引に該当する分割型の分割」)には、2通りの会計処理があり、どちらかを選択的に採用することができます。

1つは減資を行う処理方法、もう1つは減資を行わない処理方法です。どちらを選んでも構いません。

普通に考えれば当たり前ですが、世の中の大半の会社分割は、より簡単な減資を行わない方法で処理されています。

Q.M&Aで合併はほとんどないと聞いたが本当か?

やはり合併を嫌がる売り手オーナーが多いせいか、理由もなく「M&Aでは合併はほとんどありません」という説明をしているM&Aアドバイザーもいるようです。これは本当なのでしょうか?

A.ある意味本当で、ある意味嘘です

まず、「M&A(会社や事業の経営権の売買)を成立させるためのスキームとして合併が選ばれる」ことはありません。合併によって売買を成立させてしまうと、社内は大混乱に陥るとともに、とんでもない税金が発生するからです。詳しくは「M&Aスキームで「合併」を絶対選んではいけない3つの理由」にて解説しています。

一方、「M&A後数カ月以内に合併する」ということは必ずしも珍しくありません。さらには「結果的に数年以内に合併した」という事例なら山ほどあります。

入り口が合併でなくても、事業を運用する中で買い手が合併したほうがよいと思えば合併します。したがって、「合併はほとんどないらしいから安心だ」と思わず、買い手がどのような事業運営を予定しているかを確認し、意に沿う事業方針の買い手を選びましょう。

Q.会社分割をする際の注意点を教えて欲しい

会社分割を実際に行った経験のある売り手経営者はなかなかいません。どんなことが起こるのか、どんな注意点があるのかを知っておき、特に意識を配りたいところです。

A.ちゃんとしたプロを雇い、従業員のケアに意識しましょう

ポイントの1つは、ちゃんとしたプロの専門家を雇うことです。単に資格を持っているだけでは意味がありません。組織再編は複雑で難解、そして会計・税務・法務・労務などの手続を同時進行で進める必要があるため、有資格者でも調べながら進めているようでは必ず失敗します。会社分割をちゃんと回した経験が豊富な専門家を雇いましょう。

手続は専門家に任せる一方で、従業員さんたちの心の問題は専門家では解決できません。M&Aや組織再編は所属する会社名が変わることもありますし、何よりリストラや人員整理を連想させるため、経営者が思っているよりはるかに従業員さんは不安を感じます。その点を軽視せず、きちんとケアをしないと、最悪の場合大量退職を招きます。

Q.子会社を売りたいのだが良い方法はないか?

当サイトでは、中小企業で一般的な「オーナー一族がすべての株式を持っている単一の会社」を前提にM&Aのポイントを説明していますが、持株会社体制を敷く中小企業も少なくはありません。このような場合、どう売っていけばいいのでしょうか?

A.合併や会社分割、配当を組み合わせれば大きな節税になることも

実は、100%のグループ会社であれば、税金を発生させることなく資産や負債を法人間で行き来させる方法はかなり豊富にあります。さまざまなパターンを考え、一番売りやすく、税も少ない方法で売るようにしましょう。詳しくは「親会社が子会社株式をM&Aで売却する前に検討したい2つの税金対策」をご覧ください。

ただし、税負担の軽減以外にマトモな理由のない組織再編を強行すると、税務否認を受けるリスクがあります。その点には細心の注意を払って、思わぬ否認を受けないようにしましょう。

Q.会社分割や事業譲渡では売掛金や買掛金は移転対象になるのか?

売掛金や買掛金は日々動く債権債務であり、金額の確定に少なくとも数日は掛かります。会社分割や事業譲渡で事業を他法人に動かす場合は、これらの債権債務はどのように扱われるのでしょうか?

A.移転対象にしないことが多いです

一般的な実務で言うと、移転事業に直接かかわるものであっても、このような「日々動くもの」で「相手があるもの」は、移転対象にしないことのほうが多いです。

たとえば、売掛金のように短期で回収できる債権をM&A対象にすると、その金額だけM&A対価が上がりますし、対象外にするとその金額だけ下がります。つまり、売掛金の入金先が買い手になるか売り手になるかの違いでしかなく、M&A対象にしようがしまいが損得はほぼありません。それであれば、自分たちも取引先も大変な名義変更手続きなどはせず、M&A価格で調整したほうが賢明です。

M&A価格と税金に関する23の質問

中小企業のM&Aでは「後継者」と「財産」が売り手にとっての成功の2要素です。お金の問題はご自身とご家族の将来にとって極めて重要なものであり、たった1度のM&Aを後悔しないためには徹底的にこだわりましょう。

Q.当社はいくらぐらいで売れるのか?

非常によく聞くご質問です。経営者として、自社の価値がどの程度かが気になるのは当然ですし、それを気にするのは経営者の大事な仕事かもしれません。

A.やってみないとわかりません

大変申し訳ない回答になってしまいますが、実際のところ、どの程度で売れるかを事前に予測することは極めて困難です。

中小企業のM&Aプロセスはオークションで行われることが多く、買い手企業の買収意欲が高まるほど、他社に負けない高値を出さなければという気持ちが高まります。このような「争奪戦」の状態になると、M&A価格は想定をはるかに超えていきます。これは決して珍しい現象ではありません。

代替の方法として、複数のM&Aアドバイザーに市況感を訊いてみるという方法があり、私はこれが唯一の現実的な方法だと考えています。ただし、複数のM&Aアドバイザーにコンタクトすることはそれなりにリスクがある点に注意が必要です。詳しくは「何の利益の何年分?会社売却M&Aの【価格目安】の見積り方」をご覧ください。

Q.「DCF法」なら適正な株式価値が算定できると聞いたが?

「DCF法」とは「キャッシュフロー割引法」と呼ばれる資産価値算定の手法で、もっとも理論的な株式価値を算定できると言われています。これを使えばM&A価格の目安が見積れるのではないか?と訊かれることも少なくありません。

A.M&A価格は「理論的な価値」では決まりません

DCF法は間違いなく「株式の理論的な価値」を算定する優れた方法ですが、その理論的な価値は、M&A価格とはあまり関係のないものです。

「出張なんでも鑑定団」を見ていると、数千万円の価値のある美術品が出てきますが、あなたはそれをその鑑定額で買うでしょうか? 一方で、数百円の価値しかない偽物の絵画も出てきますが、その絵が本当に気に入った人さえ見つかれば鑑定額の100倍でだって売れるはずです。

DCF法で計算された価値はあくまで鑑定額であって、実際のM&A成立額はまったく別の論理で成り立っているのです。詳しくは「セラーズバリューとバイヤーズバリュー/価格が決まる唯一の仕組み」にて解説していますので、ぜひご覧ください。

Q.多くの会社が「年買法(年倍法)」を使っていると聞いたが?

年買法(年倍法)とは、株式の入札上限額を「時価純資産+利益の3~5年分」などの計算式で決める方法です。M&Aアドバイザーが「大半の会社が年買法で入札額を決めているんですよ」ということがありますが、この方法でM&A価格を見積もることはできないのでしょうか。

A.買い手の運用法がわからないので、できません

多くの買い手企業が「年買法」を採用しているのは事実です。しかし、これによって売り手が買い手の入札額を予想することはできません。

まず年買法は時価純資産に「3~5年分」の利益を上乗せしますが、3年分と5年分ではだいぶ差があります。もっと言えば2年で運用している会社もあれば6年以上で運用している会社もあるので、まったくアテにはなりません。

さらに、上乗せする「利益」には、買い手が今後稼ぎ出すと見込む利益を計算に使います(そうしなければ、他社と入札額に差が付きません)。M&Aする買い手は現状維持ではなくそれ以上の利益を求めていきますので、どこまで強気の利益を考えているかは、買い手に訊かない限り絶対にわかりません。

もう一点、年買法はあくまで買い手企業内部の「値決めルール」であり、入札額に歯止めを利かせるために運用するものです。したがって、年買法で計算されるのは「入札の上限額」であって、入札額そのものではありません。

よって、年買法でM&A価格の目安を事前に見積もることはできないのです。

買い手企業の値決めルールは年買法以外にもいろいろ使われています。詳しくは「DCFなんて嘘?M&Aの入札で買主が本当に使う3つの株式値決め法」をご覧ください。

Q.高く売るためのコツを教えて欲しい

上述のとおり、M&Aでは「適正な価値」と「M&A成立額」はほとんど関係がありません。ではどうすれば高く売れるのか?というのは当然の関心でしょう。

A.入札前の適切な情報開示が最重要です

M&A価格を引き上げる方法は、次の2つです。

  • 会社(事業)の価値そのものを引き上げる
  • 会社(事業)の価値を買い手に正しく理解させる

価格の引き上げは長い期間を掛けて会社を育てていくことであり、短期間で上げることには(そこそこテクニックはあるものの)限界があります。したがって、短期間のM&Aプロセスでより重要なのは後者の「価値を正しく理解させる」ことです。

特に正念場となるのが入札までの期間の情報開示です。ここまでに適切な情報開示をしておけば確実にM&A価格が上がります。詳しくは「最高の後継者が争奪戦を起こしてくれるM&Aの【情報開示の5原則】」をご覧ください。

Q.今が売り時だと思うか?

こちらも非常によく訊かれるご質問です。理論上は景気が悪くなると株式価値は下がりますし、東京オリンピックや大阪万博後の経済悪化に警戒する方は多いようです。

A.売り時は外部要因ではわかりません

M&A価格は必ずしも理論上の価値とは連動しないので、必ずしもわかりません。景気が悪くなったときに他社と同様に減益すれば価格は下がりますが、何らかの理由で維持できた場合、買い手がその「何らかの理由」を買うために高値を付けることもあります。

また、景気が悪くなると新規事業が始めにくいので、早く結果が出やすいM&Aが活発になることもあります。

将来の景気変動やそのM&A市場への影響を予測することは不可能です。外に目を向けるよりも社内の状況で判断しましょう。

Q.赤字だが、売れるだろうか?

なかなか他人には言えないものの、赤字の会社でもそれなりの値段で売れるなら売りたいと考えている方はたくさんいらっしゃいます。時間を掛けるほど「手遅れ」に近づいていきますので、ぜひ早めに決断されるべきだと思います。

A.条件は悪いが売れることは十分ある

M&Aは事業の過去ではなく未来の売買です。今が赤字でも、買い手が将来利益が出せそうだと思えば、売れる可能性は十分にあります。残念ながら黒字の会社に比べて割安にはなりますが、決して売れないとは限らないのでやってみる価値はあるでしょう。

ただし、赤字の会社の処理はスピード勝負です。M&Aに着手しても不成立に終わった場合、もっと早く経営改善や廃業を選べばよかったと後悔する可能性はあります。

赤字の会社を売るコツは、赤字の原因を客観的に分析し、買い手に説明することです。より詳しくは「スピード勝負!赤字の会社をM&Aで譲渡する7つのコツ」をご覧ください。

Q.税金はどのぐらいかかるのか?

M&Aは高額の資産譲渡ですので、税金も当然高額になります。どの程度の税金が発生するのかを把握しておかなければ、後で思わぬ資産の目減りに直面することになります。

A.譲渡益に対し、個人なら約20%、法人なら30~35%

個人が株式を譲渡した場合、譲渡益に対して20.315%の所得税等が課されます。法人が株式や事業を譲渡した場合、30~35%の法人税等(外形標準課税含む)が発生します(他の損益と通算)。スキーム別にどちらの税目が発生するかは以下の表をご覧ください。(なお、株主が個人の場合です)

M&Aスキーム発生税目
単純な株式売買所得税等(20.315%)
ヨコの会社分割スキーム所得税等(20.315%)
事業譲渡法人税等(30~35%)
タテの会社分割スキーム法人税等(30~35%)

それぞれのスキームの内容については「初心者でもすぐわかる!中小企業M&Aの税金をパターン別に徹底解説」にて解説しています。なお、個人の場合の「譲渡益」の計算では、譲渡原価を「譲渡収入の5%」として計算することが可能です。

M&Aスキームによっては消費税や不動産取得税、登録免許税も発生するので留意しましょう。詳しくは「初心者でもすぐわかる!中小企業M&Aの税金をパターン別に徹底解説」をご覧ください。

Q.税金面では所得税のほうが有利なのか?

税率だけ見ると所得税のほうが低いため、所得税の発生する取引のほうが一見有利に見えます。そのため事業譲渡やタテの会社分割スキームよりも、単純な株式売買やヨコの会社分割スキームのほうが常に有利だと思っている方は少なくありません。税理士の中にも結構います。

A.常に有利とは限らず、ケースバイケースです

所得税と法人税では、税率以外にも、計算ロジックそのものに違いがあります。そのため、下表のようにそれぞれにメリット・デメリットがあり、どちらが有利かは案件ごとに大きく異なります。

税目有利な点不利な点
所得税
  • 法人税より税率が低い
  • 譲渡収入の5%を原価に使える
  • 他の損失と相殺できない
  • 法人税に比べ譲渡原価が少額であることが多い
法人税
  • 他の損失と相殺できる
  • 所得税に比べ譲渡原価が多額であることが多い
  • 所得税より税率が高い
  • 譲渡原価が少額の場合に有利選択できる計算方法がない

さらに、事業譲渡とタテの会社分割スキームでは、買い手側で大きな節税効果が生じる「のれんの節税効果」が生じますので、圧倒的に高値を引き出しやすく、税金は高くても手取りは大きいという現象も生じえます。

結論として、どちらが有利かは一概には判断できず、感応度分析などを通して検討していく必要があります。詳しくは「後悔しないM&Aスキーム決定のためにプロが実践する手法検討7手順」をご覧ください。

Q.M&Aの税金で間違えやすいポイントは?

ほとんどの税理士さんにとってM&Aは未体験の領域で、相談していても何だか頼りないと感じる売り手オーナーさんは少なくありません。実はM&A経験の浅い税理士さんが非常によく間違えるポイントがあり、誤って申告してしまうと取り返しがつかない大損を招きます。

A.株式原価の5%選択は絶対に抑えましょう

所得税が発生するスキーム(単純な株式売買、ヨコの会社分割)では、譲渡した株式の原価(取得費)として、「実際の原価(簿価)」と「譲渡収入の5%」のうち有利な方を選択できます

この有利選択を見落として、「実際の原価が明確な場合は実際の原価で申告しなければならない」と思い込んでいる税理士さんが異様に多いです。M&Aでは5%を選ばなければ大損するケースが大半なので、本当に注意してください(一度申告期限を迎えると還付請求できません)。

その他、会社分割では申告すれば不動産取得税が非課税になるケースがあることや、事業譲渡ではなく会社分割を選択すれば消費税が発生しないことなど、M&A・組織再編関連では多くの税理士さんが見落としている重大論点が結構あります。いつもの顧問税理士ではなく(またはそのセカンドオピニオンとして)、ぜひその分野のプロを起用なさってください。失敗すると本当に取り返しがつきません。

Q.良い節税の方法はないか?

多くの売り手経営者さんはM&Aを期に引退となりますので、財産の確保はご自身とご家族の重大な問題です。適切な範囲内で節税して、財産をしっかり守るべきでしょう。

A.M&Aの節税策は3つあります

単純な株式譲渡を基準にしますが、ほとんどのケースで安全に使える節税策は以下の3つです。

  • M&A対価の一部を役員退職金に振り替える方法
  • ヨコの会社分割で余計な税金を発生させない方法
  • タテの会社分割で法人税等の計算にする方法

このうち1つまたは2つを選択して活用すれば、節税になることが非常に多いので、ぜひ検討してみてください。それぞれの方法の詳細な説明は「【図解】株式売却M&Aで税額が半分にもなる個人売主の3つの節税策」にてご紹介しています。

Q.退職金は多ければ多いほど良いのか?

M&Aの節税策では役員退職金スキームが有名ですが、たくさん出せば出すほど良いわけではありません。節税の上限は意外と早い点にご注意ください。

A.人によりますが、3,000~4,000万円がピークです

役員退職金による節税スキームは、累進課税の退職金と一定税率の株式譲渡益の組み合わせを利用した節税策で、退職金の所得税率が低い範囲内でなければ意味がありません。人によりますが、多くの場合で3,000~4,000万円ぐらいで節税効果はピークになります。だいたい、節税効果としては300~400万円が限度です。

それ以上退職金を出すと、売り手は余計な税金を発生させることになり、1億円前後で「退職金はゼロにしたほうが税金が少ない」という状態になります。

ただし、少し多めの退職金を出しても買い手側では「退職金の損金算入」ができますので、交渉によってその節税効果を株式の価格に反映させてもらえれば、最終的な手取りは多くなることもあります。

役員退職金による節税策について、詳しくは「【図解】M&A株式売却で役員退職金を使った節税方法を徹底解説」で解説していますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

Q.税理士から「退職金は1度だけの創業者利益実現の機会で税率も低いので、たくさんもらったほうがよい」と言われたが、そうでもないのか?

M&Aをあまり経験していない税理士さんの感覚ですと、「退職金をたくさんもらわないなんてもったいない!」と感じることがあります。そのためこのようなアドバイスになるのですが、本当でしょうか?

A.退職金とM&A価格はトレードオフなので、意味はありません

中小企業オーナーが創業者利益を享受する方法は、主に次の2つです。

  • 退職金をもらう
  • 株式を売って対価をもらう

両者は相互にトレードオフの関係にあります。つまり、退職金を多くもらうほど会社にとっては現金流出が増えるため、会社の財産価値が減り、それに伴いM&Aでもらえる対価も下がるという関係です。

退職金を出すことによる節税効果を度外視すれば、意味はありません。ただし、節税効果をうまく価格に転嫁できれば、退職金をたくさん出したほうが良いという結論にはなるでしょう。

Q.顧問税理士にヨコの会社分割は前例がないのでやめたほうがいいと言われたが、その点についてどう考えているか?

顧問税理士にヨコの会社分割を相談すると、いろいろ調べた結果「法改正されたばかりで前例のない節税スキームなので、リスクが高い」と言われることがあります。私が別サイトで過去に書いた記事をその根拠に提示されたこともあります。会社分割は税務否認時のダメージが大きいので、いたずらにご不安にさせてしまうのは申し訳なく思っております。

A.「磨き上げ」の範囲内で実施する以上、ほぼ問題ないと考えています

ヨコの会社分割スキームは、形式的には税務ルールで定められた「適格分割」の要件を満たしています。形式的に要件を満たす取引を税務署が否認するためには、「税逃れを主目的とした不自然・不合理な会社分割である」という認定をしなければいけません。

会社分割などの「組織再編」において課税庁が税務否認を行う際のルールについては、関連サイトの「組織再編で『節税』が包括否認される4つの要件基準と対策」という記事で詳細に解説しております。

しかし、ヨコの会社分割スキームは「会社全体をそのまま売るのではなく、買い手が不要とする資産を排除し、買いやすい状態にしてから売る」というお話です。買い手が不要とする資産分を売買対象から外し、その部分だけは(売買してないので)税金を発生させないというだけのことですので、税法の趣旨に反するものではなく、何ら問題はないと考えています。

ただし、上記の趣旨に反する取引、特に「会社の土地を単純に売ると30%以上の法人課税だから、それ以外の資産負債をすべて新会社に移してから売って20%課税にする」という実態が色濃く読み取れる場合は、税務否認を受ける可能性が極めて高い(それ以外にも税効果会計に絡めた寄附贈与認定リスクも高い)点にご注意ください。

税務リスクに関する弊社(及び税理士・古旗淳一)の見解は、「【図解】2017年税制改正で激増した会社分割M&Aと税務リスク」にて詳しく解説しています。

Q.ヨコの会社分割スキームで新会社に移転すべき資産を教えて欲しい

ヨコの会社分割の節税効果は、どれだけの資産を新会社に移すかによって変わります。どのような資産を移すべきでしょうか?

A.買戻し対象になる資産はぜひ移しましょう

ヨコの会社分割スキームでは、M&A対象会社の純資産が減れば減るほど発生する税金が減ります。よって、「なくても事業が成立する資産」は基本的に移転していきましょう。

特に移転したいのが「買戻し対象になる資産」と「即解約すると損失の大きい資産」です。前者は売り手経営者の自宅や車、後者は生命保険積立金やオペレーティングリース契約などです。

なお、現預金も新会社に移すだけで驚くほど税金が発生しなくなります。ただし、個人ではなく会社のお金になる点には注意してください。

Q.ヨコの会社分割スキームで移さない資産はどう考えるべきか?

上記のような現預金などについて、新会社に移すか移さないかはどのように考えるべきでしょうか?

A.キャッシュを個人が受け取るか、会社に残すかで考えましょう

現預金を新会社に移すと、その分は税金が発生しない代わりに、個人ではなく新会社にキャッシュが溜まります。これを単純に配当してしまうと、20%どころではない税金が発生します。

もし株主個人としてキャッシュが欲しいなら、現預金はM&A対象会社に残し、20%課税で個人が受け取ったほうがいいでしょう。一方、会社財産として運用していきたいなら、税が発生しないように新会社に移転させてしまったほうが賢い選択です。

現預金は買戻し対象にはならず、含み損益もないので、柔軟に考える必要があります。

Q.債務は新会社に移さないほうがいいのか?

対象会社の純資産を小さくした方が節税できるなら、マイナスの資産である債務は対象会社に残したほうがいいという点に気付いたかもしれません。

A.手続きを考えても、なるべく残したほうが得策

税金面からすると、債務はなるべくM&A対象にしてしまったほうが節税になります。それ以上に、債務を新会社に移すのは手続きがかなり大変ですので、実務的にも新会社に移さないほうが賢明と言えます。

ただし、経営者やその親戚が債権者だったり、借入の経緯がよくわからない債務の場合、買い手はそのような債務の引継を嫌がることがあります。たかが税金のためにM&A自体が破談になっては意味がないので、そのような場合は素直に引き取りましょう。

Q.ヨコの会社分割スキームは広く行われているのか?

ヨコの会社分割スキームを解説している書籍はまだまだ少ないので、勉強している人ほど不安になることがあります。実は平成29年度税制改正によって使えるようになったものなので、時間のかかる書籍ではまだまだ取り上げが少ないようです。

A.税制改正以来、爆発的に増えています

税制改正が適用されたのが2017年10月であり、それ以来爆発的に増えています。なお、まだまだ少数ではありますが、言及している書籍もありますので、興味があれば読んでみてください。

※以下は税制改正が発表された直後に刊行された記述です

分割型分割後に株式を譲渡する場合、従来は新旧会社どちらの株式を50%超譲渡しても非適格分割により当事者に課税が生じたが、2017年改正後は(中略)旧会社株式を譲渡しても適格とできるように要件が緩和された。
オーナー系のM&Aで私的な資産をオーナーに残すケースなど本改正を活用したスキームの活用が予想される。

宮口徹『M&A・組織再編スキーム 発想の着眼点50』第2版より引用

Q.ヨコの会社分割スキームを税理士に相談したら、「スピンオフ税制の要件を満たしていない」と言われたが、大丈夫か?

筆者の税理士事務所のほうによく電話がかかってくるご質問です。普段組織再編に関心のない税理士さんだと、どうもこういった勘違いが多いようです。

A.スピンオフ税制は全然違う制度です

ヨコの会社分割スキームが使いやすくなった税制改正と同じ年に、同じく会社分割を使った「スピンオフ税制」がスタートし、新聞によく取り上げられていました。そのせいか、両者を混同している税理士さんが少なくありません。

スピンオフ税制は上場会社の分裂を想定したまったく別の制度で、ヨコの会社分割スキームとは「会社分割を使う」以外の共通点はありません。まったく的外れな意見ですので、ご安心ください。

Q.ヨコの会社分割を行った場合、「役員退職金の上限」はどのように計算すべきか?

ヨコの会社分割(分割型分割)関連で非常に多い質問が、「役員退職金の上限値計算で勤続年数は引き継がれるのですか?」というものです。経営者であれば、この辺はかなり気になるポイントでしょう。

A.妥当な水準と主張できるかどうかで考えてください

役員退職金については、「最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率 + 特別加算」という計算式が妥当とされていますが、これに則っても税務署が過大と判断すれば普通に否認されますので、まったくアテにならないものとお考え下さい。

つまり、税務調査で妥当な水準だと主張できるかどうかがすべてです。

その上での私(税理士・古旗淳一)個人の意見を申し上げますと、適格分割型分割は事業の連続性を保ったまま2つに分裂するという性格の強い組織再編であるため、形式的には新会社であっても、実態としては分割前からの連続性を意識すべきと考えます。退職金は役員報酬の後払いの性格があり、分割前からの連続性が考慮されるのは当然と考えますので、在任年数には分割前の期間を含めるべきだと考えています。

一方で、分割会社(新会社でないほうの会社)は、それまで積み上がってきた「後払い予定の役員報酬」の一部が新会社に移転されるべきであり、会社を2つに分裂させることで1人の役員が受け取る額が2倍にならないように減額されるべきだと考えます。

つまり、会社分割までに積み上げてきた「後払いの役員報酬」を、何らかの合理的な基準で2つに分割し、分割後はそれぞれの会社でまた積んでいくという考え方になるでしょう。この理念が合理的に反映された退職金であれば、妥当な水準として認められるべきだと考えています。

Q.単純な株式売買をタテの会社分割にスキーム変更して節税するのは税務リスクが高いと言われたが、その点についてどう考えているか?

単純な株式売買からタテの会社分割に変更すると、買い手にはほぼ確実に大きな節税効果が生まれますし、売り手の税金も引き下がることがあります。これについて、税務リスクが高いのではないかと言う税理士さんがたまにいるようです。

A.税務リスクはほぼないと考えています

税務リスクはほとんど同様の経済実態の行為を、敢えて不自然なスキームによって実施したときに議論になります。

しかし、買い手にとって、過去の活動の責任をすべて引き受けなければならない単純な株式売買スキームより、余計なリスクをほぼ完全にカットできるタテの会社分割スキームのほうがありがたいのは当然のことで、両者が「同じ経済実態の取引」というのは無理があると考えます。

Q.会社分割をすると繰越欠損金はどちらの会社の所属になるのか?

繰越欠損金を持っている会社が会社分割をすると、繰越欠損金はどちらの会社の所属になるのでしょうか? これはM&A価格に直結する重大なポイントですので、絶対に間違えないようにしなければなりません。

A.分割元会社(旧会社)の所属になります

会社分割では、税金関係のものはどうやっても新会社に移すことはできません。必ず分割元会社の所属になります。

これはヨコの会社分割でもタテの会社分割でも同様です。ヨコの会社分割では、税務上は純資産を2分割するという処理があるのですが、繰越欠損金自体は分割元会社に全額残ります。

Q.相続税はどのようになるのか?

M&Aを検討される売り手オーナーさんの多くが、近い将来の相続税について考えます。相続税は子どもにダイレクトに影響する税金ですので、迷惑を掛けたくないというのは当然の想いでしょう。

A.通常、相続税は増えますので、対策と納税資金確保を考えましょう

相続税は、亡くなった方の財産を一定の計算ルールで評価(相続税法評価額)し、その額に対して課税されます。相続税法評価額が増えれば相続税も増えます。

事業を行っている会社の株式は、相続税法評価額が本来の価値よりも低く設定されていると考えられています。一方でキャッシュはその金額がそのまま相続税法評価額になります。そのため、株式や事業をM&Aでキャッシュに変えることで、相続税法評価額は上がり、税金は増えます。M&Aは適正価値よりも高値で取引されることも多いため、通常は株で持っているより何倍も多額の税が発生します。

とはいえ、株式で持っている場合とは違って、現金があれば納税資金は確保できます。

「相続税対策用の不動産」も売っていますが、その分本来の価値よりも高額です。相続税対策はリスクを踏まえた上で行うとともに、納税資金は確実に確保しておきましょう。

なお、相続税対策用の不動産を買う際も、「普通の感覚で考えてズルくないか?」という視点はお持ちになってください。大手銀行が売り歩く相続税対策スキームが税務否認を受ける時代ですので、業者の言を真に受けるのは大変危険です。

Q.税務否認が心配なのだが、安心する方法はないか?

節税効果のある組織再編をされた方が口を揃えておっしゃるのが「早く税務調査が来て欲しい」ということです。適法な節税をご提案するのはやりがいを感じる一方、どんなに自信のあるスキームでも税理士の職責上「絶対大丈夫です」と言ってはいけない立場ですので、待機の期間は大変申し訳なく感じています。

A.高品質な税理士と万全の対策を準備しましょう

少なくともうっかりミスで税務否認されるリスクにおびえるのは論外ですので、M&A実務に精通した税理士や司法書士を選びましょう。同じ資格を持っていても経験の浅い人はクライアントを不安にさせますので、結果として出来る/出来ない以前の問題です。

次に、税務調査の対策をしっかり講じておくことで、否認リスクは大幅に下がります。これはまずい資料を隠すとかそういうことではなく、税務調査官が求める資料をすぐに出したり、納税者の主張を理路整然と一貫性をもって調査官に伝えるなど、正々堂々と対応するということです。これだけで確実に税務否認リスクは下がります。

詳しくは関連サイトの「『税務リスク』とは何か?微妙な税務用語をわかりやすく解説!」という記事で解説していますので、ぜひご覧ください。

M&A対象会社の財産に関する20の質問

長年会社を経営していると、会社にはいろいろなものが溜まっていきます。会社分割でM&A対象から切り離せればいいのですが、そうでない場合はどのように扱われ、どのように考えていけばいいのでしょうか。

Q.「磨き上げ」としてなにかやっておくべきことはないか?

売り手経営者として、買い手には気持ちよく買ってほしいですし、そのほうが価格も上がります。では、具体的に「磨き上げ」はどのように行うべきでしょうか。

A.100%後継者のためになることをすれば、それはすべて磨き上げ

磨き上げは特殊なことをする必要はありません。会社全体を見渡して、後を引き継ぐ後継者に伝えておくべきことをリストアップするだけで、立派な磨き上げです。

もちろん、会社の至らない部分が簡単に直せれば直したほうがいいのですが、そのために必要以上の費用を支出すれば、かえって会社の価値を落とします。それよりも、後を任せる人に、的確に問題点を伝えたほうがずっと価値のある磨き上げです。具体的な事例については「誰でもカンタン!M&A前に行うべき会社の【磨き上げ】の方法と事例」をご覧ください。

Q.会社の借金はどうなるのか?

経営者として借入金から解放されるのか否かは非常に重要な問題でしょう。特に事業を売ってしまいますので、借入金が残る場合は返す方法がなくなってしまいます。

A.スキーム次第ですので、必ず確認しましょう

まず、単純な株式売買スキームの場合は、会社が持っている債務ごと売られますので、すべて買い手が引き取ってくれます。

ヨコの会社分割スキームでは、M&A対象にするか否かを選べます。M&A対象にしない場合、その額だけM&A価格が上がります。ただし、M&A対象にした方が手続面も税務面もメリットがありますし、事業がなくなる会社に移転させようにも債権者が認めてくれませんので、普通は単純な株式売買スキームと同様に買い手が引き取ります。

事業譲渡またはタテの会社分割スキームもM&A対象にするか否かを選べますが、M&A対象にすると手続が大変な割に特にメリットありませんので、M&A対象には含めずにその分のお金をM&A対価としてもらうことが多いです。このスキームでは、特に税金面で優劣はありません。

事業譲渡またはタテの会社分割スキームの場合、売り手側でM&A対価から借金を返済するのですが、M&Aには税金が発生することを忘れないようにしましょう。もらったお金をすべて借金返済に回してしまい、納税資金がなくなることがないようにしてください。

Q.自分が会社に貸し付けている役員借入金はどうなるのか?

会社の資金繰りのために社長個人が貸し付けている「役員借入金」が、M&A後にちゃんと返してもらえるかは非常に気になるところです。貸し付けたのが事実であれば、ちゃんと返してもらえなければ割に合いません。

A.通常はきちんと返してもらえます

よほど悪質な買い手でない限りちゃんと返済してもらえます。会社にお金がない場合は、買い手が対象会社に貸し付けて返済してくれます。買い手はこのような役員借入金の返済を踏まえてM&A価格を設定していますので、その点はご安心ください。

なお、念のため、いつまでに返済するかの取り決めを株式譲渡契約書には明記しておきましょう。

Q.自分が会社から借りている役員貸付金はどうなるのか?

逆に、個人が会社から借りているお金がある場合、どのように評価されるのでしょうか?

A.必ず返済が求められるが、会社分割でM&A対象から外したほうがよい

通常はM&A前後に速やかに返済することが求められます。

なお、可能であれば、役員貸付金は会社分割によってM&A対象から外しましょう。そうすることによって急いで返済する必要もなくなりますし、無駄な税金の発生を回避できます。

Q.会社が親戚や友人に貸しているお金はどうなるのか?

会社が親戚や友人に個人的なお金を貸している場合があります。これらはM&Aにおいてどのように扱われるのでしょうか。

A.代位弁済を求められることが多く、分割でM&A対象外にしたほうがよい

対応はいくつかありますが、貸倒処理は税務リスクが大きいため、売り手オーナーがM&A成立までに責任をもって回収し、できなかった場合は代位弁済するという処理が多いです。

こちらも会社分割でM&A対象から外しておけば、余計な税金を発生させる必要はなくなります。

Q.会社が社員に貸しているお金はどうなるのか?

社員の福利厚生的な意味で、在職中は住宅ローンを低利率で会社から貸すという場合があります。このような貸付であれば、事業上のメリットがあってやっていることですし、代位弁済は割に合わないと思う方も多いでしょう。

A.事業上の意味が強ければ、買い手が引き取ってくれる

福利厚生としての事業上の意味合いが強いものは、買い手が引き続き引き取ってくれることが多いでしょう。この場合は、当然M&A対象の負債として扱われます。

Q.個人所有の不動産を会社に賃貸しているがどうなるのか?

事業用不動産をオーナーが個人で所有し、会社に貸し付けているケースも多く見られます。M&A後の売り手の継続収入になるものですので、その扱いは気になるところです。

A.引き続き賃貸できるが、条件の見直しは求められることも

店舗不動産など事業上必要なものであれば、引き続き賃貸されます。ただし、相場観と比べて賃料や敷金が高いとして、買い手から条件交渉が入ることがあります。

Q.一部不動産を手元に残して対象事業に貸したいがどうすればよいか?

会社が所有している不動産の一部を手元に残し、M&A後の対象事業に賃貸することで、M&A後の継続的な収入を確保することができます。この場合、どのような方法があるでしょうか。

A.会社分割でM&A対象事業から外すのがおすすめです

M&A直前に売買によってオーナーが買い取る方法もありますが、税が発生します。会社分割によってM&A対象から外してしまうのが、税金的にも手続的にも最適でしょう。

賃貸条件は事前に決めておき、入札までに全買い手候補に通知しましょう。入札後に決めると、必ずM&A価格の減額要求が飛んできます。

Q.中退共はどうなるのか?

中退共(中小企業退職金共済制度)に入っている会社さんは多いと思いますが、大会社に買収された場合、従業員さんの退職金はどうなるのでしょうか。

A.子会社であれば継続可能ですが、買い手次第です

中退共の加入条件は法人ごとに判定しますので、大会社の子会社であっても要件を満たしていれば継続的に加入できます。大会社に吸収合併される場合は解約となり、退職積立分が一時所得として本人に支払われます。50万円以上であれば確定申告が必要です。

ただし、合併しない場合でも、親会社の退職金制度に移行するなどして、中退共が解約になることも多いです。

なお、中退共は外部に積み立てているものであって、会社から追加で支払う必要はありませんので、対象会社の負債としては扱われません。

Q.経営セーフティ共済(倒産防止共済)はどう評価されるのか?

節税も兼ねて経営セーフティ共済に加入している会社は多いです。これは資産計上されていないのですが、M&Aではどのように評価されるのでしょうか。

A.返戻額に税金分を差し引いて評価されます

経営セーフティ共済も中退共と同様で、子会社であれば辞めなくてもいいのですが、M&A後すぐに解約されることが多いようです。

近い将来解約する場合もしない場合も、解約した場合の返戻金を調べてプラスの財産としてM&A価格に反映させます。ただし、解約時に返戻収入によって税金が発生しますので、その分はマイナスの財産(繰延税金負債)としてM&A価格から差し引きます。

税金も考慮されるものの、ちゃんと合理的に評価してもらえますので、ご安心ください。

Q.自分が住んでいる社宅はどうなるのか?

節税のため、自分が住んでいる自宅の土地建物を会社所有にし、毎月多少の賃料を払っているという方は少なくありません。追い出されてはたまったものではないため、きちんと確保しておきたいところです。

A.M&A後の買取りになりますが、会社分割がおすすめです

単純な株式売買スキームの場合、一旦会社の一部として買い手に買われた後、M&A資金を使って売り手個人が時価で買い戻します。

売買対象になるため、時価分だけM&A価格が上乗せされますが、その分株式譲渡にかかる税金も増えます。また、この買戻しによってM&A対象会社に法人税が発生する場合、その額がM&A価格から減額されます。

税金面で非常に非効率なので、会社分割スキームによってM&A対象から外してしまいましょう。そうすれば、よけいな税金の発生を抑えることができます。

ちなみに、会社が賃貸しているマンションを個人に転貸している場合は、M&A後速やかに個人契約に切り替えれば終わりです。個人から追加で敷金を入れる必要がある点には注意してください。

Q.自分が乗っている会社名義の自動車はどうなるのか?

こちらも節税のため、公私両用の車を会社名義にすることはよくあります。車がないと生活で困るので、その処遇ははっきりさせる必要があります。

A.社宅同様、買取りまたは会社分割で対象外に

これらも社宅と同様で後で買取りとなりますが、わざわざ売買すると無駄に税金が発生しますので、会社分割を使ってM&A対象から外してしまったほうがいいでしょう。

Q.役員生命保険はどうなるのか?

節税も兼ねて役員生命に入っている方は多いでしょう。会社を売ってしまったら必要ないという方もいれば、保障が引き続きほしいので継続したいという方もいらっしゃいます。

A.こちらも会社分割で対象外にするのがおすすめ

単純な株式売買スキームの場合、対象会社ごと買い手の手に渡ってしまいます。買い手は必要ないので解約するか、売り手が買い戻す必要があります。

買い戻す際の金額はその時点の返戻金額が一般的です。ただし、直後に返戻額が跳ね上がる保険の場合、その限りではありません。

買い戻しの金額はM&A価格に反映されるものの、同時に解約時の税金分はM&A価格から差し引かれます。返戻金のピークに合わせてM&Aを行うことは現実的に困難ですので、単純な株式売買スキームでは損が避けられません。

そこで、社宅等と同様に会社分割でM&A対象から外しましょう。詳しくは「M&Aでの役員生命保険積立金は会社分割で継続&節税しよう」をご覧ください。

Q.数年後のM&Aを予定しているが、生命保険を使って会社の価値を上げる方法はないか?

これは保険代理店の方にご相談いただいた質問です。将来的に会社の売却を検討しているクライアントさんに保険を売る際の売り文句になればとのことでした。

A.ちょっと思い浮かばないですね・・・

色々考えましたが、残念ながら有効な方法は思いつきませんでした。M&Aでは保険返戻金が膨らんでも、返戻時に発生する税金はキッチリ差し引きますので、単純返戻率が100%を超える法人保険でない限り難しいように思います。返戻率のピークに合わせてM&Aを成立させるというのもまず無理ですし。(これをご覧の保険代理店さんで、良い保険の使い方をご存じであればぜひ教えてください)

むしろ、M&A後の財産防衛策としての活用を考えたほうがいいでしょう。タテの会社分割スキームでは大きな売却益が法人に発生しますので、段階的に繰り延べることができれば最良です。

Q.オペレーティングリースはどうなるのか?

オペレーティングリースのようないわゆる節税商品を購入している中小企業も意外と少なくありません。これらの取扱はどうなるのでしょうか。

A.そのままでは大損になるため、会社分割がベスト

オペレーティングリースは純投資としては非常に魅力のないものですので、買い手企業としてはほとんど価値を付けてくれません。つまり、単純な株式売買スキームで売買対象にすると大損します。

そこで、会社分割でM&A対象から外してしまいましょう。期間満了時に税金が発生しますが、単純株式売買にするよりずっと利益が出ます。

Q.友人の会社の株式を会社名義で持っているが、どうすればよいか?

友人に出資を頼まれ、会社名義で株式を持っていることがあります。これを売買対象にしてしまうと買い手企業が友人の会社の株主になってしまい、迷惑がかかります。

A.買える額なら買戻し、買えないなら会社分割で

税務上の株式時価を調べてみて、買える額なら買い取ってしまいましょう。

持株比率が大きい場合は高額になっていることもあり、その場合は会社分割でM&A対象から外すことで、簿価のまま売り手側で持ち続けることができます。

Q.繰延税金資産/負債は中小企業の買い手も計算に入れているのか?

繰延税金資産/負債と言った「税効果会計」は、なかなか高度な会計技術なので中小企業は使っていないのではないかという疑問をいただいたことがあります。実際のところはどうなのでしょうか?

A.M&Aは専門家が関与するため、最終的には必ず気付く

M&Aという多額の投資を行う以上、よほどやる気のない買い手でないかぎり、相応の専門家を雇います。特にデューデリジェンス段階では大半のケースで公認会計士が呼ばれます。そのため、最後まで見落とされるということはまずありません。

なお、買い手は少しでも安く買いたいため、買い手が有利になる繰延税金負債は主張し、不利になる繰延税金資産は売り手に言われるまで気付かないフリをしています。M&Aで得をするのは常に知識を持つ側であるという点は肝に銘じておきましょう。

Q.M&Aが成立した期の損益は価格にどう反映されるのか?

会社の財産というものは常に変動しています。買い手は直前期末の貸借対照表を見て入札をしていますので、理論的にはそれは最大1年前の価格であり、その後積み上がっている価値(=当期の純利益)をどう考えるかは難しい問題です。

A.厳密に調整することもありますが、ざっくりやるほうが多いです

理論的には、前期末(またはデューデリジェンス基準日)からM&A成立日までの純利益は、M&A価格に上乗せされるべきものです。

しかし、当期純利益はM&A成立の当日に算出できるものではないため、厳密に反映させようと思えばM&A価格の決定がその成立の1カ月後になってしまいます。

そのため、月次試算表などの情報を元に大体の着地を予想し、ざっくりとM&A価格に反映させるほうが一般的です。このような価格への織り込み方を「ロックドボックス」と言います。

弊社でもロックドボックスでの価格確定を推奨しています。詳しくは「M&Aの【価格調整条項】は設けないほうがいいと思う3つの理由」をご覧ください。

Q.デューデリジェンスでは対象会社の問題点を積極的に言うべきか、訊かれるまで言わないべきか?

デューデリジェンスを受ける際、価格にネガティブな影響を訊かれる前から積極的に伝えていくべきか、それとも質問されるまで黙っているべきかというのは、少々難しい問題です。どうせバレるなら積極的に伝えたほうがいいのですが、世の中には表面的なデューデリジェンスしかしない買い手企業もまだまだ存在しますので、黙っていたほうが価格減額されないという考え方も一理あるからです。

A.あなたのM&Aの目的次第だと思います

あなたがどのようにM&Aの成功を定義しているかによって、正解は変わると思います。

とにかくお金優先で考えているなら、高いお金が手に入る確率が高まるため、訊かれるまで言わないほうがいいでしょう。一方で、円滑に事業を引き継いでほしい、会社の悪い部分を乗り越えて事業運営してほしいと考えるなら、積極的に言ったほうが間違いなくよいでしょう。

M&A後に想定外の問題が発生すると、買い手は事業計画を変更して損失を抑えようとします。もしかしたら従業員のリストラに着手するかもしれません。それでもよいという売り手さんもいれば、だったらM&A不成立のほうがマシという方もいますので、正解は1つではないのだと思います。

Q.価格交渉中、「未払残業代があったのでその5年分減額してほしい」と言われたが、何か良い反論はあるか?

中小企業M&Aでは、未払残業代は極めてホットな論点です。100%売り手側の責任で発生する計算違いなので、確実に価格減額要因になります。

A.相手が合理的な交渉かを探り、落としどころを探しましょう

ネゴシエーションのポイントとしては、なぜ5年分の修正なのかは訊きたいところです。何か合理的な理由があるなら呑まざるを得ませんが、適当に言っているなら年数を少なくする交渉ができそうです。

もう1つ、反論としてかなり有効なのが、税金の影響です。5年間利益が減るというなら、同じく5年間税金も減るのだから、その分はむしろ増額要因でしょ?という交渉により、減額幅を大幅に抑えるテクニックがあります。もっとも、これも相手が合理的な反論をしてくる可能性はあります。

とはいえ、買い手も別に合理的な適正価値計算でM&A価格を考えているわけではないので、M&Aの価格交渉はお互いに屁理屈をぶつけながら落としどころを探るようなところがあります。常に破談というカードをちらつかせながら、どこが妥協点かを洞察しましょう。価格交渉のネゴシエーションテクニックについては、「【売主向け】DD後の最終条件交渉で勝つM&A価格交渉術」も併せてご覧ください。

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なお、ご質問の中で同じお悩みを抱えている売り手オーナーさんが多いと思われるものは、絶対に特定されないように抽象化したうえで、当ページに追記させていただきます。あらかじめご了承ください。