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M&A(買収)

売り手経営者を口説き落とすM&Aの「意向表明書」の記載内容とコツ

意向表明書の書き方

意向表明書とは、M&Aの入札において、入札者である買い手候補が価格を含む買収条件や対象会社に対する考え方などを、売り手に伝える書面です。

この意向表明書は、単なる通知書面ではありません。売り手は意向表明書とトップ面談を通じて、買い手が自分の後継者として相応しい相手かどうかをシビアに見極めます。したがって買い手としては、対象会社をぜひとも譲り受けたいと思っている気持ちを売り手オーナーに表現する一種のラブレターと考えるべきでしょう。

この記事では、意向表明書に記載すべき内容と、私の経験を踏まえたそれぞれの項目の記載方法をご紹介します。意向表明書を記載する際に読みながら進めていただければ、売り手経営者を口説き落とす素晴らしいラブレターに仕上がるでしょう。

意向表明書作成時の6つの留意点

意向表明書を作成する際には、全体として以下の点に気を付けながら作成しましょう。

  1. 物腰は柔らかに
  2. 売り手の価値観に合わせる
  3. 他の入札者との差別化を図る
  4. 専門用語や刺激的な言葉は避ける
  5. 将来の経営方針は具体的に書く
  6. 交渉事は曖昧に書く

以下、簡潔に説明していきましょう。

留意点1.物腰は柔らかに

M&Aの入札において、入札者である買い手は選んでいただく立場です。仮に一番の価格を提示しても、売り手経営者のプライドを傷つけるようなことを書いてしまえば絶対に選んでもらえません。

M&Aの仕事をしていると、つい言葉遣いがドライになってしまうことがあります。買い手企業社内でもチェックし合いながら、物腰は柔らかく、それでいて堂々とした文面を心がけましょう。

留意点2.売り手の価値観に合わせる

従業員の雇用維持を重視している売り手に対して、シナジー効果をアピールしてもあまり意味がありません。それよりも、M&A後に人員削減は絶対にしない方針であること、人員削減をしなくても利益を上げていく力があること、万が一予定通りの利益を出せなくても親会社の収益で支えられることなどをアピールしましょう。

このように、売り手がM&Aで何を実現したいかによって、意向表明書上のアピールの力点は変わってきます。意向表明前に売り手やM&Aアドバイザーに質問し、何をアピールすれば響くかをリサーチしましょう。

留意点3.他の入札者との差別化を図る

意向表明書は、他の入札者と常に比較されます。他社に比べて如何に後継者として相応しいかをアピールすることが重要ですので、他社がアピールするであろう内容を意識して書きましょう。

たとえば上場企業の買い手の場合、他の有力な入札者が非上場企業であれば、上場による信用力は1つのアピールポイントになります。しかし、他の入札者が自社より大きな上場企業ばかりであれば、他のポイントをアピールしたほうがいいでしょう。

留意点4.専門用語や刺激的な言葉は避ける

中小企業M&Aの場合、売り手はM&Aは初めてであることが大半です。専門用語やM&A業界特有の表現(特にカタカナ語)は最低限にとどめ、極力イメージしやすい平易な言葉を選びましょう。

また、「買収」「子会社」「支配権」などの表現は刺激が強いので、極力避けたほうが良いでしょう。たとえば以下のような言い換えが考えられます。

刺激のある表現 穏当な表現
買収 譲受け、引継ぎ、経営統合
売却 譲渡、お譲りいただく
引退、解任、辞任 ご勇退
子会社 グループ会社、グループの一員
吸収合併 組織融合、合流
支配権 経営権
命じる、指示する お願いする、相談させていただく
働いてもらう ご活躍いただく

留意点5.将来の経営方針は具体的に書く

売り手は買い手に会社・組織・事業の将来を託します。そのため、買い手がどのような将来を描いているかは非常に知りたいところであり、曖昧に書くと無用な不安を呼び起こしかねません。

リストラをしないならしないと明記する。狙っているシナジー効果は明確に記載するなど、売り手が自分たちを後継者に指名することで、どんなに素晴らしい未来が待っているかをイメージしてもらいましょう。

留意点6.交渉事は曖昧に書く

一方で、交渉事(Ex.価格交渉に関する事項)は曖昧に記載しましょう。

意向表明書の提出段階ではデューデリジェンスすら終わっていませんので、デューデリジェンスによってどんな問題が発見されるかわかりません。大幅な減額交渉が必要な場合もあり、過度に詳細な明記をすることで自分の首を絞める結果になりかねません。

この点は基本合意書と同じ考え方です。詳しくは「細かい記述はむしろNG!M&Aの基本合意書の目的・内容・注意点」をご覧ください。

意向表明書の記載内容とコツ

では、意向表明書の主な記載内容を確認し、それぞれの書き方のコツを紹介していきましょう。

基本は意向表明依頼書に従うこと

まず大前提として、売り手のFAや仲介アドバイザーから「意向表明依頼書」(または「提案依頼書」)という意向表明のガイドラインが示されることがあります。この場合、意向表明書にどのような項目を書くべきかが明記されていますので、これに従って書いていきましょう。

ただし、大概の場合は「自由記載欄」が設けられていますので、アピールが足りない場合はそちらに記載します。

記載内容1.買い手企業の自己紹介

買い手企業からの自己紹介です。これは買い手企業の自己アピールでもありますので、単なる事実を羅列するのではなく、売り手の関心を引き出すような自己PRに仕上げましょう

具体的な記述内容

具体的には、以下のような内容を織り込んでいきます。

  • 経営理念
  • 事業内容
  • 経営方針
  • 経営者の経歴
  • 業界内でのポジション
  • 対象事業領域における過去の事業実績
  • 沿革
  • 財務状況
  • 近年の業績推移(売上、利益)
  • 株主・経営陣の構成
  • 自社の強みと弱み(後述のM&A目的と連動しているとよい)

記述のコツ

売り手が買い手企業を選ぶ際の大前提となる「安心感」を引き出すことが大前提です。

事業をきちんと引き継ぐ最低限のノウハウがあること、多少の計算違いも吸収できるだけの財務基盤を持っていることなどをアピールしましょう。

記載内容2.提示価格とその前提条件

希望するM&A価格を数字で記載します。また、その価格の前提条件も記載しましょう。

記載時の留意点

M&Aでは「会社が持っている価値」を示す際に、様々な価値概念が登場します。つまり、

  • 企業価値
  • 事業価値
  • 株式価値(株主価値)

です。意向表明書で掲示しているのがどの部分に対応する価格なのかを明記しなければ意味がありません。

これらの価値概念の違いについては「企業価値、事業価値、株式価値…M&Aを巡る様々な価値の違い」にて図を交えながら詳しく解説しています。

記述例

以下は株式価値で明記する際の書き方です。

●●社の発行済株式のすべてを、1株●●円、総額●●円で譲受けたく希望します。

一方、非事業用資産の時価や有利子負債額が不透明などの理由で、事業価値で価格を記載する場合は、以下のように記述します。

●●社の事業価値を●●円と見積もっており、ここから事業と直接関係しない資産及び負債(保険積立金のみを想定しておりますが、それに限りません)の時価を加減算し、有利子負債(●●銀行借入金)を減額した額を株式対価とさせていただきたく希望します。(たとえば、時価が令和●年●月末決算の帳簿価額通りである場合、株式価値は●円となります)

レンジでの価格提示について

価格を●億円~●億円というレンジ(幅のある数字)で見せる方法もあります。

比較されるときは下限額で比較されるというのがお決まりではありますが、売り手は上限額や中央値を完全に忘れることはできませんので、上振れた数字も見せておくのは一種の交渉テクニックかもしれません。

ただし、最終の価格交渉で下限額を前提にスタートすると、ハメられた気分になる売り手もいますので、あまり無責任なレンジ提示は控えたほうが良いでしょう。

価格の前提条件

意向表明依頼書で価格の前提条件の記載を求められることがありますが、意向表明書では、価格の前提条件は細かく書かないほうがいいです

価格はあくまで経営判断ですので、本来は根拠なんて必要ありません。細かい計算式を明記してしまうと、デューデリジェンスで減額要因が発生したときに、思うような減額交渉ができないことがあります。

あくまでボンヤリと書いておいたほうがいいでしょう。

記述例

インフォメーションメモランダム等、事前開示いただきました資料を分析したうえで、貴社の成長性や当社の連携によるシナジー効果を検討いたしました。これに貴社の財務状況を加味し、事業の将来性に見合う価格を設定しております。

提示価格が変更される要因

これも意向表明依頼書で求められることのある条項です。「デューデリジェンスでどんな事項が発見されたら、価格が修正されるのか?」という意味ですが、細かく書くと自縄自縛に陥ります。

記述例

上記提示価格は、貴社からご提示いただきました限定された情報に基づき算定しております。今後デューデリジェンスを実施し、貴社の事業、法務、財務等の理解を進めた結果、収益性に関する想定外のリスク要因や資産価値の毀損等が発見された場合、合理的な価格修正をさせていただく場合がございます。

記載内容3.譲受主体、対価種類、想定M&Aスキーム

M&Aの形式に関する内容です。

項目 内容 基本的考え方
譲受主体 買い手となる主体(どの会社が親会社になるか) シナジーの生みやすさの他、売り手のプライドも考慮して検討
対価種類 金銭100%か、一部株式を交えるか 売り手が望んでいない限り、株式対価は避けたほうが良い
想定M&Aスキーム どのM&Aスキームを利用するか 基本的には売り手が希望しているスキームとすること

売り手の希望を事前に確認すること

これらの項目は、買い手から売り手に提案するものではなく、売り手の希望に対して同意することを明示するために記載します。

そのため、事前に売り手の希望を確認しておきましょう。売り手の希望に沿えない場合、競争入札上極めて不利な立場となります。少なくとも根回しがなければ、門前払いされることになります。

記載内容4.本件M&Aの経営戦略上の位置づけ、M&Aの目的

入札者の「本気度」を図る項目です。

自社がどれだけ対象会社を渇望しているか、対象会社を譲り受けることが如何に戦略的意義があるか、ときに情熱的な表現も踏まえて訴えましょう。

要するに、「三顧の礼で迎え入れる理由」です。これをきちんと説明できなければ、どこか白々しい意向表明書になってしまいます。

記述例

以下は汎用性を高めるために記述を薄くしています。実際にはもっと個別具体的な内容にしましょう。

弊社グループが今後さらなる事業発展を遂げるためには、●●の領域へ進出することが不可欠であると考えております。貴社はその分野で●年以上活躍されており、我々には到底及ばないノウハウを確立されています。さらに弊社の強みである●●を貴社にご活用いただければ、貴社・弊社の連合グループとして大きなビジネスチャンスを生み出せる確信しております。

また、貴社が創業来大切にされてきた●●という企業理念は、弊社が掲げている●●という事業ビジョンと極めて高い親和性を持っていると考えており、貴社の社員様・従業員様を弊社グループに迎え入れた際も、大きな問題なく伸び伸びとご活躍いただけると考えております。弊社社員との人材交流は、両組織を大きく活性化させる素晴らしいきっかけになると大いに期待しております。

記載内容5.M&A後の経営方針・事業計画

「M&A後に会社がどうなるのか?」を気にしない売り手はなかなかいません。その不安に答えるのがこの項目です。以下のような内容を記載していきます。

  • 役員の処遇
  • 従業員の雇用維持や雇用条件、福利厚生
  • 事業戦略
  • 屋号やブランドの継続可否
  • 社名の存続可否、組織再編の予定
  • 本部機能など共通部門の存続可否
  • 取引先との関係性の見込
  • 想定しているシナジーとその効果
  • M&A後の追加投資・資本注入の計画
  • M&A後の損益計画

ヒトの問題は特に重要

多くの売り手が特に注目するのが、役員や従業員といった「残される人たち」の処遇です。とにかく彼らに迷惑を掛けたくないという売り手は少なくありません。

「未定」は厳禁です。どうしても人員整理や不利益変更を求めざるを得ない場合を除き、基本的には安心してもらう内容を目指しましょう。

記載内容6.資金調達方法

M&A対価を自己資金(手元資金)で用意するのか、銀行借入を予定しているのか、それとも増資するのかなど、どのように調達する予定なのかを記載する項目です。自己資金と回答できれば、

  • 独断でM&Aが実現できるので、予想外の案件中止リスクが少ない
  • 財務基盤の強さをアピールできる

という点で、プラスの印象を与えることができるでしょう。

なお、M&A後に資本を注入して対象会社が元々持っていた借入金を返済する予定であれば、その旨も記載しましょう。

記載内容7.デュー・ディリジェンスの希望

デュー・ディリジェンスに関する項目です。以下のように記載しましょう。

現地調査を●日程度とし、別途将来の事業発展の展望、売り手オーナー様の役割、企業グループとしての組織体制等について意見交換させていただければ幸いです。現地調査においては、ビジネス、法務、財務の観点から調査させていただきたいと考えております。

記載内容8.買い手企業内部での意思決定プロセス

買い手企業がM&Aを正式に決定するために必要なプロセスを明確にするものです。今後のM&Aプロセスを組み立てる際に必要となる、事務的な情報です。

法的に最低限必要とされる内容を記載しましょう。「株主総会決議」などの大仰なプロセスを入れてしまうと、売り手から敬遠されるリスクがあります。

記載内容9.案件公表の計画

売り手からすれば、M&A案件を公表するのは可能な限り遅くしてほしいと考えています。なぜなら、案件公表後にM&Aが破談になってしまうと、その後の経営に大きな支障が生じるからです。

買い手が上場企業の場合、上場基準や社内規定によっては、基本合意書の締結時に適時開示しなければならないケースがあります。この要否によって買い手の選び方が変わることも少なくありません。

上場企業の入札者は、重要性判断などで基本合意時の適時開示が不要であれば、その旨を明記しておきましょう。

記載内容10.法的拘束力がない旨

デューデリジェンス前に出される意向表明書というものは、売り手から事前の指定がない限り、法的拘束力はないものとして考えるべきです。とはいえ、念のため明記しておいたほうが安全でしょう。

記述例

【免責事項】
本意向表明書は、デュー・ディリジェンス前に差し入れる性格上、一切の法的拘束力を持たないものとさせていただきます。本意向表明書提出日現在、デュー・ディリジェンス後の条件修正を想定してはおりませんが、デュー・ディリジェンス等により不測の事実が発見された場合には、再交渉をお願いせざるを得ない点につき、予めご承知いただきますようお願い申し上げます。

記載内容11.その他

その他、アピールできていないことがあれば記載しておきましょう。

意向表明を提出するチャンスはたったの1回で、買い手候補として扱われなければもう買収のチャンスはなくなります。決して後悔のないラブレターを作りこみましょう。

おわりに

今回は、買い手が売り手経営者を口説き落とすための意向表明書の書き方についてご紹介しました。

売り手は意向表明とトップ面談で後継者としての買い手を選びます。決して事務的な書面にならないようにしましょう。

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