事業承継や、その手段としてのM&Aにお悩みの方は、ぜひ同じように事業承継に悩まれ、M&Aを実際に行った方の体験談に耳を傾けていただきたいと思います。そこには当事者が現実に感じた生々しい事業承継M&Aの実態があり、多くの教訓や示唆に富むものでしょう。

ただ、M&A仲介会社が主催するセミナーに行っても、「M&Aの成功者」が語る「M&Aの素晴らしさ」しか聞くことができません。それよりも、M&Aを振り返って後悔していることや反省していること、M&Aを決断したり進めたりしていく中での心の葛藤を語ってもらったほうが、遥かにお悩みの方の役に立つはずです。

今回は、2018年に居酒屋10店舗のビジネスを譲渡された、株式会社湯佐和の元社長(現・ユサワフードシステム社長)である湯澤剛氏にインタビューし、ご自身が経験された「中小企業M&Aの生々しい現実」を、守秘義務の許す限り赤裸々に語っていただきました。

さらに「40億円の借金を返した中小企業経営者」として全国の講演会を飛び回る湯澤社長の口から、今、かつてのご自身と同じ悩み、苦しみを抱える中小企業経営者の方々に向けて、大変心強く、そして実用的なメッセージをいただいております。

湯澤氏インタビュー概要

最後までご覧いただければ、これまでよくわからなかったM&Aというものの現実が見えてくるとともに、先人の教訓を確実にご自身の糧にすることができるでしょう。

湯澤 剛(ゆざわ つよし)

湯澤剛氏1962年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後キリンビールに入社し、NY駐在の後、海外新規事業立ち上げに従事。

サラリーマンとしてのキャリアが順風満帆の36歳の時、飲食店チェーンの㈱湯佐和を経営していた父が急逝し、大きな未練を感じつつもキリンビールを退職。湯佐和の経営を承継する。

承継した当時、湯佐和は年商の2倍となる40億円もの莫大な借金を抱えて倒産寸前であった。心身ともにボロボロになりながらも、組織の意識改革や地道な業務改善、不採算資産の大胆な整理を行い必死で経営を立て直す。この間も、リニューアルの不振、社員の反乱、店舗の火災、食中毒による営業停止など様々な苦難に遭いながら、約16年かけて完済を実現した。

2015年、借金完済までの経験をまとめた書籍『ある日突然40億円の借金を背負う-それでも人生はなんとかなる。』を出版。また、日経トップリーダーにて『心が折れない経営者のつくり方』を連載中。

現在は株式会社ユサワフードシステムの代表取締役を務める傍ら、商工会議所等が主催する講演会を廻り、全国の中小企業経営者を勇気づけ続けている。

聞き手-古旗 淳一(ふるはた じゅんいち)

古旗淳一

株式会社STRコンサルティング代表取締役。公認会計士・税理士。

M&A仲介やFA(ファイナンシャルアドバイザー)ではない「M&A顧問」という立場で、中小企業M&Aの相談や支援をするサービスを展開している。

株式会社湯佐和のM&Aでは、元々は会社分割の相談に乗っている立場であったが、プロセスの途中から依頼を受けて、顧問として湯澤社長をサポートしていた。

インタビュー日:2020年1月16日

M&A成功のコツがわかる本 M&A成功のコツがわかる本

はじめに

インタビューをスムーズに読み進めていただくため、湯澤社長が実施したM&Aについて、事前にご紹介しておきましょう。

「ヨコの会社分割スキーム」で13店舗中10店舗を譲渡

湯澤社長がM&Aを実行したのは、2018年10月のこと。

当時、㈱湯佐和は居酒屋13店舗を経営していました。湯澤社長はこのうち10店舗をM&Aで譲渡し、3店舗は引き続きご自身で経営するという選択をされています。

このとき、このサイトで「ヨコの会社分割スキーム」と呼んでいるM&Aスキームを選択されました。その手順は以下のとおりです。

まず、手元に残したい3店舗を、「分割型分割(通称:ヨコの会社分割)」という組織再編手法で兄弟会社(新会社「㈱ユサワフードシステム」)として独立させます(下図)。

湯澤社長が選択したM&Aスキーム1

その後、10店舗のみとなった㈱湯佐和の株式を買い手に譲渡します。新会社ユサワフードシステムは、現在も引き続き湯澤社長が経営しています(下図)。

湯澤社長が選択したスキーム2

このM&Aスキームは、2017年の税制改正で圧倒的に使いやすくなり、2018年当時徐々に広がりを見せていたものです。

STRコンサルティングと本件M&Aとの関わり

我々㈱STRコンサルティングは、上記M&Aスキームの設計段階(湯澤社長が買い手探しを開始する直前)で、湯澤社長と数回面談させていただき、スキーム決定のお手伝いをさせていただきました。

その後しばらくして、M&Aプロセス進行中(買い手との基本合意後)の湯澤社長から再びご連絡いただき、

短期の顧問として、私のM&A全般の相談に乗ってほしい

とのご依頼をいただいております。

実は、弊社の現在の主力サービスである「短期M&A顧問」は、この湯澤社長からの逆提案が始まりです。ある意味、湯澤社長は弊社ビジネスの生みの親と言えるかもしれません。

1.湯澤社長がM&Aを決断した理由、決断までの悩みや行動

M&A決断までの経緯と悩み

それではいよいよ、湯澤社長へのインタビュー内容をご紹介していきましょう。

倒産寸前の会社を立て直し、40億円の借金を完済したことで「知る人ぞ知る名経営者」であった湯澤社長は、なぜM&Aという選択をしたのでしょうか?

そこには、周りからは窺い知れない経営者の孤独な悩みがあったようです。

  • M&Aという選択肢に至るまでの経緯
  • M&Aに踏み切った理由
  • M&Aを選択せざるを得なかったときの本音と不安
  • この時期に相談した人
  • 会社のすべてではなく、3店舗を手元に残した理由
  • 今、M&Aという判断を振り返って思うこと

M&Aは事業承継の中で最後の選択肢だった

決断について語る湯澤氏

古旗 湯澤さんは2018年の秋に、当時の13店舗中10店舗をM&Aで譲渡されたのですが、M&A自体はいつごろから考えられていたのでしょうか?

湯澤 「M&A」を選択肢として考え始めたのは、実際にM&Aをした1年前ぐらいでした。元々は、ずっと「M&A以外の事業承継」を考えていて、事業を他人に譲るなんて考えてもいなかったんです。2018年秋のM&A成立から考えると、本当に直前に決断したような感覚ですね。

古旗 「M&A以外の事業承継」というと、お子様への承継(親族内承継)ですか?

湯澤 はい。息子が2人いましたので、そのどちらかにという気持ちは長年ありました。でも、子どもたちの大学進学が決まった段階で、親族内の事業承継は諦めることにしたんです。

古旗 ご自分の道を決められてしまったわけですね。本人に継ぐ気がなければ強制することはできませんからね。

湯澤 実は、これまで多額の借金を背負ったときも私を支えてくれて、一言も文句を言わなかった家内から、子どもへの事業承継はやめてほしい、と言われたんです。私の就任が父からの重い事業承継でしたし、家内としては子どもには自分の道を歩ませたかったんだと思います。

古旗 なるほど、それは重いお言葉ですね。

湯澤 苦しい中において私を常に支えてくれて、私に反論することのない妻なんです。そんな妻からの言葉でしたからね。

古旗 その後、親族外の承継、つまり社内の方への承継をお考えになられましたか?

湯澤 はい、親族内の承継は諦めて、幹部社員を3人選んで事業承継の候補者として育成していました。ところが、そのうち2人が突然辞めてしまったんです。

古旗 それは・・・、大きな誤算ですね。

湯澤 事業承継の対象者となったことで、私からの期待値の裏返しの指導も厳しくなり、耐えられずに辞めてしまったんですね。これでこちらは大混乱に陥りました。ずっと「親族内がダメだったら彼らしかいないだろうな」と思っていたうちの2人が辞めてしまったわけですからね。

古旗 それで、第3の選択としてM&Aが浮上したわけですか?

湯澤 はい。それまでは考えもしなかったですけどね。むしろ買い手としてM&Aアドバイザーには接していましたが、自分が譲渡する側になることは考えてもいませんでした。

M&Aを決断した理由

「自分がトップでは、社員が夢を見ることができない」という葛藤があった

古旗 でも、そのころはまだ50代前半で、お若かったと思います。そのタイミングで事業承継を真剣に進められていたのはなぜでしょうか?

湯澤 それは2つの理由からです。1つは、社員のモチベーションを考えたとき、自分がトップでは、社員が夢を見ることができないと思ったんです

古旗 えっ、どういうことですか?

湯澤 私は急逝した父から事業を引き継いで以来、借金のこともあって「縮小均衡」で会社を改善してきました。父の代で過剰に作った店舗から、不採算の店を減らすことを重視して、ここまで立て直してきたんです。

古旗 なるほど、湯澤さんの著書にも、店舗を閉めたり不動産を売ったりして借入金を返済していったと書かれていますね。でも、それがなぜ社員が夢を見られないという気持ちに繋がったんですか?

湯澤 私は会社を小さくすることで立て直してきたので、縮小均衡が成功体験になっていて、どうしても会社を拡大する気にはなれなかったんですね。さらに言えば、今後の人口減少社会の中で、拡大という道は戦略的に正解とは思えなかったのです。今は収益も十分上がっているので、そこからまた新しく出店する気持ちにはどうしてもなれなかった。でも、それでは社員は人生に夢を見られないですよね

古旗 なるほど、働いている方は、会社が伸びてほしいと思いますからね。

湯澤 社員の待遇は少しずつ良くなっているとはいえ、やっぱり彼らは新しい店を出してほしいし、改装もしてほしいと望んでいる。自分が従事している事業が拡大してほしいんです。でも、僕は拡大に対して、どうしてもブレーキがかかってしまう。

古旗 それは確かに、やりがいという点で難しいかもしれませんね・・・。

湯澤 自分がトップでは社員が幸せにならないんじゃないか、果敢に成長を目指してくれる人や会社に任せたほうが、社員にチャンスや幸せをもたらしてくれるんじゃないか。そう思ったのが1つの大きな理由ですね。

古旗 なるほど、それがリーダーの責任感かもしれませんね。

事業承継を急いだ理由

「あと10年しか生きられなかったら、今のままの状態で仕事を続けたいか?」

古旗 事業承継を進めた理由は2つとおっしゃいましたが、もう1つの理由は何ですか?

湯澤 会社を引き継いでから20年近く、人生のすべてを費やし会社の再建に取り組んできました。その過程で、健康だった身体はずいぶんとガタがきていたのです。いくつもの持病を抱えて、このまま続けていると倒れるのではないかと思っていました。

古旗 著書に詳しく載っていましたが、壮絶なご経験をされていますからね・・・。その健康不安がM&Aに踏み切ったきっかけですか?

湯澤 それもあるんですが、仮にあと10年しか生きられなかったとしたら、自分は今のままの状態でこの仕事を続けたいか、自分自身に何度も何度も問いかけました。実は、本を書くというのが、自分の中でもう1つやりたいことだったんです。そんな自分の勝手なわがままも間違いなくM&Aに踏み切った理由の1つですね。

古旗 なるほど。社員さんとご自身、両方の人生を真剣に考えたときに、M&Aという選択肢が出てきたということですね。

本音では、M&Aはやっぱり嫌だったし、不安も大きかった

古旗 そのような事情があり、M&Aという選択をされたということですが、抵抗感や不安はありましたか?

湯澤 M&Aというものを理解はしていましたが、やはり父の代から40期続いた会社を見ず知らずの他人の手に渡すのはどうなのか?という思いはありました。また、なんと言っても社員がどうなるのかですね。

古旗 やはり社員さんのことは大きな不安でしたか。

湯澤 社員との距離が近い会社だったので、社員がどう思うのか、そしてどういう待遇になっていくのか、滅茶苦茶なことになっていくんじゃないかというのは考えました。それを彼らにどう説明すればいいのかも。

相談したのは妻と最古参の社員だけ。あとは誰にも相談できなかった

悩んだ時のことを語る湯澤氏

古旗 M&Aに進むことを決断するまでに、どのような方にどのようなことを相談されましたか?

湯澤 妻と、ずっと会社を支えてくれた70を過ぎた女性の社員がいて、その方もそろそろ引退したいとおっしゃっていたので、その2人には最初から洗いざらい相談しました。他には一切言っていないです。

古旗 その2人以外は誰にもですか?

湯澤 金融機関や税理士、友人にも一切相談しませんでしたね。

古旗 今振り返ってみて、それで良かったと思いますか?

湯澤 当時の自分としては、最初に相談できるところはありませんでした。まず金融機関に相談するのはリスクが高すぎますし、税理士もどこまで事業承継やM&Aについて知っているかという問題もあります。

古旗 確かに、この時期に相談できる相手というのは本当に少ないですね。

湯澤 親族内承継も親族外承継もM&Aも、全部合わせて相談できる人はいないですよね。顧問税理士ができればいいんですが、普通はM&Aも事業承継そのものに対しても、そんなに詳しくないですから。

古旗 税理士は税務のプロであって、事業承継やM&Aのプロではないですからね。

湯澤 今は、古旗さんにもっと早く出会っていれば良かったなと思います。客観的にどう思うか意見を訊いたり、どんな戦略で行ったらいいかなどを相談できれば、まるっきり違ったM&Aになっていただろうと、これは正直に思います。

古旗 ありがとうございます。

本当にM&Aを決断していいのか、客観的に整理できる人が欲しかった

古旗 この時期、M&A仲介やFA(売り手側の代理人となるアドバイザー)など、いわゆる「M&Aアドバイザー」には相談に行かなかったんですか?

湯澤 M&Aアドバイザーに最初から相談に行くっていうのはハードルが高すぎますよね。情報漏洩も怖かったですが、「その河を渡ってしまったら、頭がM&A一色になるんじゃないか」という心理的な壁もありました。

古旗 業者にゴリゴリ営業されるのが怖かったということでしょうか?

湯澤 というより、「自分がそこに逃げ込む感じになるんじゃないか」と思ったんです。M&Aのアドバイザーに相談に行ったら、当然M&Aすべきっていう方向で話をされると思っていたので。こちら側は事業承継したいと思っている中でそんな話をされたら、そちら側に流れてしまうだろうと。

古旗 なるほど、一旦立ち止まって、本当にM&Aでいいのかを冷静に考えられなくなりそうですね。

事業承継を相談する相手がいなかった

湯澤 M&Aの仲介に相談に行ったら、心はM&Aに流れますよね。それが自分でわかっていて、相談に行くのは怖かったです。M&Aが選択肢になった時期は心がオタオタしていましたし、今なら容易に説得されるだろうなと。だからなかなか行けなかったですね。

古旗 事業承継という意味では、M&Aって、本来は一番最後の選択肢なんだと思います。湯澤さんがそうだったように、親族内承継、親族外承継が頓挫して、それでも事業承継しなければ、という順番で。でも、業者は商売ですから、絶対にそんなこと言わないですよね。

湯澤 事業承継全般について、テーブルの上に客観的に判断材料を全部出して整理することをしたかったし、それを手伝ってくれる人が欲しかったんです。こういうのって感情で動く部分が大きくて、客観的に、ロジカルに理解することなく進んでしまうことが多いですからね。

古旗 他の方法との客観的な比較というのは、M&Aアドバイザーにはできませんよね。当然M&Aをさせるために相談に乗っているのですから。

湯澤 まあ、結論的にはM&Aになることが多いんだと思います。親族内承継や親族外承継も相手がいないとできないですから。でも、この時期に客観的・論理的な比較ができただけで納得感は大きく違うと思うんですよね。

3店舗を売らなかった理由

古旗 M&Aでは13店舗中3店舗は手元に残し、10店舗を譲渡するという決断をされたわけですが、この3店舗を残すことにはどのような意図があったのでしょうか?

湯澤 1つは、父の作った祖業を完全にはなくしたくなかったことです。3店舗ぐらいであれば自分にも負担がなく、1人ひとりの社員と向き合えると思いました。私の能力では正社員が70人以上の状態では難しいですが、今は15人程度ですから、全員とコミュニケーションできていると思います。

古旗 なるほど。

湯澤 もう1つは、もし買い手の元に行った社員が路頭に迷うようなことがあったときに、それを受け入れる場所は用意しておきたいと思ったんです。本当に苦労を共にした社員に万が一のことがあったときの受け皿として、ですね。

今でも「なんでM&Aなんかしちゃったんだろう」と思うことも

古旗 このM&Aをするかどうか悩まれている時期のご自身を振り返って、今どのように思われていますか?

湯澤 実は、「なんでM&Aなんかしちゃったんだろう」と思うことは今もあるんです

古旗 そうなんですか?

湯澤 事業承継はしたかったんです。経営者としてのエネルギーが切れていたんでしょうね。先代からの多額の借金を返して、会社も安定して、若干抜け殻のようになっていて。しかし、社員の人たちはやる気がある。でもリーダーとして会社を拡大していく気がないというか、その方向が正しいと思えなかったんですね。

古旗 それで、事業承継を強く意識された。

湯澤 ええ。でも、親族内承継もだめ、社内の親族外承継もだめ。そうなると、M&Aとなって。そのあとはババババッと話が進んで、あっという間に成立までいっちゃったという感じですね

古旗 M&A業者の俎上に乗ると、うまく行くときはどんどん進んでいきますからね。今も腹落ちしないまま終わってしまった感じですか?

湯澤 腹落ちするという意味では、M&Aを決断する前に古旗さんみたいな方にお会いして、選択肢やメリットデメリットをロジカルに考えられればだいぶ違ったと思います。仮に結果が同じだったとしても、納得感が全然違ったと思いますね。

2.M&A業者の選定までの行動や不安、悩み

M&A業者選定までの不安

「今振り返ると十分に腹落ちするまで検討しきれなかった」という湯澤社長ですが、M&Aに進むことを決断したことでM&Aアドバイザー(M&A業者)を選定する段階に入ります。

その際の行動や不安、当時のお悩みを、赤裸々に語っていただきました。

  • M&Aアドバイザーとの接触で不安だったこと
  • 複数のM&Aアドバイザーを比較して感じたこと
  • M&Aアドバイザーの選定で悩んだこと

M&Aアドバイザーへのコンタクトで一番恐れたのは情報漏洩

M&Aアドバイザーについて語る湯澤氏

古旗 M&Aに進むことにされて、いよいよM&Aアドバイザーに接触していくわけですが、不安や恐怖感はありましたか?

湯澤 一番怖かったのは情報漏洩ですね。買い手としてM&Aアドバイザーと何度も会っていましたので、「おたくにぜひ買ってほしいと言っている会社がありますよ」という話は頻繁にいただいていました。でも実際に会ってみると、具体的な話は全然ないということがよくあったので。

古旗 M&A仲介業界でよくある「でっち上げ」ですね。やっぱりそういうものを見ていると、M&A業者に対して「胡散臭い」という印象は当然持ちますよね。

でっち上げとは、実際にはM&A相手が存在しないのに、「弊社のクライアントが、御社とのM&Aを強く希望されています」という嘘をついて、M&Aの土俵に引き上げる業者の営業テクニックです。一部の大手仲介会社も含め、中小企業M&A業界では非常に横行しています。

湯澤 はい。そういう「売らんかな」的なところが見え隠れする中に、カモネギのようにそこに自分が入っていったら、バーッと情報が出回るんじゃないかと。

古旗 実際、守秘義務が全然守られていないことも多いですからね。

湯澤 それもありますし、社名が出ていなくても、同じ業界にいれば特定できちゃうことも多いんですよ。「これってあそこだよね」って。そういう扱いに、自分もなってしまうんじゃないかっていう不安はありました。

(解説)バレバレのノンネームシートはよくあること

湯澤社長がおっしゃっているのは、実際に社名を直接バラされるものではなく、M&Aアドバイザーが買い手候補に見せて廻る「こんな会社が売りに出てますが、興味ありますか?」という匿名の事業概要のことです。これを「ノンネームシート」と言います。

ノンネームシートは本来特定されないようにアバウトに書くものですが、アバウトすぎると買い手の反応が悪くなるため、M&Aアドバイザーとしてはギリギリに書きたいと思いがちです。その結果、業界人から見ればバレバレというノンネームシートは、現実に大量に出回っています。

ノンネームシートの注意点や記載のコツは「ノンネームシートとは?その2つの役割と業者任せでは身バレする理由」という記事で解説していますので、ノンネームシートを出す際はぜひご一読ください。

中小企業M&A業界は玉石混交!

古旗 最終的にM&Aアドバイザーを選定するまでに、何社ぐらいと話をしたんですか?

湯澤 仲介4社とFA1社ですね。

古旗 実際に比較してみた感想はいかがでした?

湯澤 中小企業のM&A業界は本当に成熟していないなと。玉石混交だなと(笑)

古旗 ですよね(笑)。

湯澤 一部の人を除いて、本に書いてあることしか言わないですね。現場の本当のことを知っているんだろうかと疑問を感じました。

古旗 実際には全然経験値のないアドバイザーも山ほどいますからね。

湯澤 譲渡金額についても各社に訊いてみたんですが、予想額のブレは大きかったです。高いところと安いところで倍ぐらい。

古旗 倍ですか。まぁ結局どんな買い手にどう売り込むかで大きく変わるので、そのぐらいの差は出ることも多いんですけど、売り手を誘導する意図がある場合もあるので要注意なんですよね。

(解説)「譲渡金額予想」による売り手誘導

M&Aの譲渡金額予想をしてくれる仲介会社は多いですが、結局のところ買い手あっての価格なので、実際のところはよくわかりません。それでも数字を出してくれるのは客寄せサービスであると同時に、売り手を誘導するツールでもあります。

つまり、

  • 高い値段を見せて売り手を興奮させ、仲介契約を結ぶ
  • 低い値段を見せて売り手の期待値を下げ、成立可能性を高める

といった手心が加えられている場合も少なくないのです。

詳しくは「M&Aでは無意味な『簡易企業価値算定』を仲介業者が行う3つの思惑」という記事で解説しています。

M&A仲介の選定を相談する相手がいない!

古旗 その中で仲介会社に決められたわけですが、選定の決め手はなんでしたか?

湯澤 結局、昔から知っていた方を、その安心感から選んだというところですね。

古旗 なるほど。

湯澤 私も最近はM&Aの経験者として、ときどきM&Aを検討中の方から相談を受けるんです。そのときは、「仲介業者の選定が非常に大事」と言っていますが、元々の知り合いだったので気心が知れているという点は良かったですね。実際には、当時でも仲介業者の選びが大事なのはわかっていましたが、それを相談できる相手が誰もいなかったんです

古旗 金融機関や税理士には相談しなかったんですね。

湯澤 彼らに相談しても、紐づきの仲介業者と結ばされるだけではないかと思っていました。「わかった。俺が今度業者を連れてくるから」と。

古旗 そうですね。その裏で、紹介者には業者からバックマージンがあることもご存知でしたか?

湯澤 もちろんです。金融機関や顧問税理士には、中立的に仲介者を選定できないだろうと思っていました。仲介会社の選定の直後ぐらいから古旗さんと初めてお会いするんですが、もう少しでも早く会って、仲介業者について訊いておけば良かったですね。

M&A業者選びを相談できる人がいなかった

このころ、STRコンサルティングに相談に行く

古旗 弊社に最初にご相談にいらっしゃったのはこのころでしたか。当時はまだ短期顧問ではなく、単発でM&Aスキームの税務のご相談にいらっしゃいましたね。

湯澤 古旗さんが書いた記事をネットで見つけまして。私も慎重な性格なので、ネットで見つけた業者に自分で連絡して出かけて行くってことはまずないんですけど、何度も何度も読み返して、この人だったら大丈夫だと思ったので。

古旗 一生懸命書いた甲斐がありました(笑)。どの辺が良かったですか?

湯澤 書いてあることがすごくロジカルだし、信頼性が高いと感じました。そうじゃないと、知らないところに「M&Aの相談があるんです」なんて行けないですよね。「決算書持ってきてくれ」なんて言われて、外に流されたら困りますし。昔そんなことをされたこともあるんですよ。

古旗 う~ん、ネットで信用を得るって難しいですね・・・。

湯澤 でも、古旗さんのWebサイトはすごく効果ありましたよ。本質的なことをわかりやすく書いていて、おかしな人は絶対こんなこと書けないだろうなと思いましたから。

3.M&A中に感じた不安とSTRコンサルティングを顧問にした理由

M&A中に感じた不安と相談先

M&A仲介業者の選定が終わると、湯澤社長のM&Aプロセスは一気に動き出します。

そこには、想像以上のスピードで物事が決まり、決断が迫られていくことへの戸惑いと、自分が流されていくような大きな不安があったようです。

  • M&Aプロセスで想像と違って驚いたこと
  • この時期に誰かに相談したかったこと
  • 相談相手としてSTRコンサルティングを選んだ理由
  • STRコンサルティングに相談して良かったこと

M&Aプロセスのスピードの速さに驚いた

M&Aプロセスについて語る湯澤氏

古旗 実際にM&Aを始めてみて、想像と違って驚かれたことは何かありますか?

湯澤 2点あって、1つは、買い手って本当にいるんだなと思いました。多くの中小企業経営者は「自分の会社なんて売れるの?」と思っているんです。私もそうでした。

古旗 本当ですか?我々からすると、湯佐和であれば必ず複数の買い手が手を挙げると思っていましたし、実際に複数集まってきたのは当然だと思いました。でも、その辺の感覚はM&Aに近くないと、なかなかわからないのかもしれませんね。

湯澤 もう1点は、スピード感には本当に驚きました。ノンネームシートで買い手を探し始めてから、バーッと一瞬で進んでいく感じで。あっという間で、これでいいのかということについて、ゆっくり考える余裕なんてなかったなと思います

(解説)湯澤社長のM&Aのスピードは標準的

湯澤社長の場合、M&Aで動き始めてから成立までが8カ月程度であり、中小企業M&Aとしては決して早い部類ではありません。標準的なスピードの案件でも感じられた当事者のこの感想は、M&Aを検討している方にはぜひ知っていただきたい生の声です。

意向表明をもらうと、つい楽な方向に流れてしまう

古旗 ゆっくり考える余裕がない中で、どんどん話が進んでいってしまう不安があったのでしょうか?

湯澤 複数の買い手候補から意向表明(買い手からの買収意欲の返答)をもらって、トップ面談を繰り返しているうちに、後戻りができない感じになってくるんですよね。「そもそもM&Aも事業承継の選択肢の1つとして考えてみよう」という気持ちもあったのに、トップ面談で買い手と会うようになっていって、若干の戸惑いはありましたね。

古旗 それは、断りづらくなっていったということでしょうか?

湯澤 私としては断ることに抵抗はなかったんです。ただ、気持ちが流れちゃうんですよ、楽な方に

古旗 楽な方に、ですか?

湯澤 自分は事業承継がしたい。事業を引き継ぎたいという人もいる。そうなると楽なので、つい気持ちよく流れちゃいますよね。自分の中で、自分都合の判断が入り込んできてしまって、「本当にこれでいいのか?」と客観的に考えられなくなっていく気がしたんです。

古旗 立ち止まってじっくり考えなきゃいけない場面になっている気がするけど、惰性で進んでしまうようなところがあるということですか?

湯澤 そうです。このときは、「ちょっと冷静に考えてみてくださいよ。本当にこれでいいんですか?」と言ってくれる人は、いなかったですね。やっぱり周囲にいるのは基本的に「M&Aを成約させるために動いている人」なので、冷静に振り返ってみることはできないですよね

中立的な立場の人に相談したかった

M&Aの不成立も厭わない、中立的なアドバイスが欲しかった

古旗 そうですね。誰かが冷静にさせないといけない場面であっても、成功報酬で動いているM&A業者には絶対にそんなこと言えないですからね。

湯澤 M&Aプロセスが進めば進むほど、「これで正しいのか?」で迷うんですよ。

  • そもそも、M&Aをして本当にいいのか?
  • 買い手はこの買い手で本当にいいのか?
  • 金額はこの金額で本当にいいのか?

と。疑問、不安が渦巻いていくんですよね。正解はないんでしょうけど、たとえば価格はきちんと入札で提示してもらうとか、やり方次第で全然違ったんじゃないかと。

古旗 そうなってくると、M&Aを何が何でも成立させたがっている業者に「これでいいんです」とか「これが妥当です」と言われても信用できないですよね。

湯澤 でも、実は古旗さんに初期の段階で譲渡金額の予想を聞いたとき、「このぐらいじゃないですかね」と言ってもらったのが頭に残っていたんですよね。それは利害関係のない中立的な方の正直な意見だと思ったので、ひとつの基準になっていました

古旗 う~ん、実はあのときに申し上げた金額って、かなり勘で言った部分がありますので、湯澤さんの判断を歪めたんじゃないかと気になっているんですよ。実際、最近はお客様に価格予測を依頼されても、基本的には「M&A価格は理屈じゃないので、買い手に訊いてみないとわかりません」って答えていますし。

湯澤 もちろん、アバウトな勘だとは当時もおっしゃっていましたし、それは重々理解していました。M&Aの譲渡金額なんてそんなもんでしょう。それでもM&Aをよく知っている利害関係のない人が、「だいたいこんなもんじゃないの」と言っていた。僕にとってその金額は、最後まで頭の中に残りました。

(解説)M&A価格目安の見積りは理屈より勘が重要

M&A価格は理屈で決まるものではありません。買い手は対象会社を主観的に値踏みし、欲しければ割高でも必ず買いますので、一律な相場観があるわけではないのです。

価格目安を見積るには、理屈よりも現場の勘が遥かに重要です。ただ、勘はあくまで勘であって、大ハズレすることもありますから、我々としても軽々に回答していいのかはいつも迷います。

詳しくは「M&A価格の単純な決まり方と価格目安を見積るたった1つの方法」という記事で解説していますので、興味のある方はぜひご覧ください。

セカンドオピニオンを求めて再度STRに相談する

古旗 この時期の「中立的な立場で正直に意見を言ってくれる人がいない」という状況において、その不安を解消するためにどんなことをされましたか?

湯澤 結果から言うと、古旗さんにもう一度連絡して相談したことですね。今度は税金のことではなく、M&A全般の進め方について。

古旗 ありがとうございます。ここから短期M&A顧問の始まりですね。

湯澤 自分の人生にとってこんなに大きなことを決めるには、中立的なセカンドオピニオンがどうしても必要と思ったんです。

古旗 当時は、弊社ではセカンドオピニオンというサービスは行っていなかったので、突然連絡をいただいて驚きました。

湯澤 最初はM&A全般ではなく、スキームの相談から入ったんですけど、お会いして人間性や人柄を見たときに、セカンドオピニオン的なことは相談できるかなと思っていたんです。セカンドオピニオンをどうしても欲しいと思ったとき、古旗さんのところ以外にはいかなかったですね。他にあるのかもあまり調べていません。

古旗 それは光栄です。当時、短期M&A顧問はうちのサービスにありませんでしたし、私もそんなこと思いつきもしませんでしたが、湯澤さんから逆提案いただいたのを覚えています。これは、私にどのような期待をされたのでしょうか?

湯澤 最初は古旗さんの知識、圧倒的な知識ですよ。特にM&Aの税務や組織再編に関する「圧倒的な」知識でした。もう1つは、古旗さんの人柄と、利害関係者ではないという中立さから、セカンドオピニオンを頼めそうだなと思ったことです。

古旗 ありがとうございます!

湯澤 私の一番の失敗は、最初にお会いしたときに顧問をお願いしなかったことです。最初から最後まで、古旗さんと短期的な顧問を組んで、古旗さんを仲介でも売り手アドバイザーでもなくて、本当のM&A・事業承継の顧問として寄り添ってもらえれば、まるっきり違った形になっただろうなと思っています。

古旗 そういっていただけると本当に嬉しいです。

湯澤 最初からはお願いできませんでしたが、それでも途中から入ってもらったので、助かりました。そうでなかったら最後までいかなかったかもしれないし、宙ぶらりんのまま成立させて、今よりずっと後悔していたかもしれません。

STRの良かった点は、圧倒的な知見と中立の立場

古旗 具体的に、弊社に相談してどういった点が良かったでしょうか?

湯澤 税務に限らず、M&A全般に対する圧倒的な知見です。知識と経験。それと、やはり中立的な立場、色の付いていない形での相談相手というのはありがたかったですね。「ここでM&Aを中止するのも選択肢ですよ」と言ってくれたのは古旗さんだけでした。

古旗 ありがとうございます。確かに利害関係はなかったですから、本当に湯澤さんが納得のいく答えを出していただければいいと思っていました。

湯澤 仲介会社の人も買い手の人も、「案件を固めたいわけではないんです」「社長が納得いくまでやってくれ」って言うけど、当然ですが、どうしても固めたいっていう方向での話になりますよね。客観性を持った方のアドバイスっていうのは、やっぱりありがたいですよ。

FAではなく短期M&A顧問を求めた理由

古旗 ちなみに、仲介会社と契約されていましたが、売り手アドバイザー(FA)への切り替えなどは考えなかったんですか?

湯澤 売り手アドバイザーもやっぱり成功報酬ですから、中立的な意見にはならないですよね。あと報酬が売買額と連動するので、高く売れる先に誘導されてしまうかなと。最も重要なのは社員が安心して勤務できることなので、高く売れる買い手がいいとは限らないんですが、FAだとどうしても高く売らせる方向になってしまうのではないかと考えました。

古旗 それはそうかもしれませんね。買い手が「敵」である以上、仲介よりなおさらその傾向が強いかもしれません。

湯澤 いずれにせよ、彼らが古旗さんのように「M&A自体をやめた方が良い」とアドバイスすることはないと思います。「もっと高く売れるから引き返せ」ということはあるかもしれませんが、「譲渡をやめてはどうか」「やっぱり親族内承継のほうがいいですよ」と言うことは、ないのではないでしょうか。

4.経験者にしか語れないM&Aプロセスの現実

各M&Aプロセスの正直な感想

大きな不安や戸惑いを抱えながらも、湯澤社長のM&Aプロセスは進んでいきます。

それぞれの具体的なM&Aプロセスで、湯澤社長はどのような印象を持ったのでしょうか? 経験者にしかわからない本音を語っていただきました。

  • 買い手が集まってきたときの率直な気持ち
  • 買い手選びの決め手
  • デューデリジェンスに向かう際の気持ち
  • 契約の直前で深く悩んだこと
  • 一番気が重かった「社員への公表」の方法と感想
  • 事業の引継ぎで感じた葛藤

買い手が集まるほど、「今譲渡するべきではないのでは?」と懐疑的になる

M&Aプロセスについて語る湯澤氏

古旗 では、少し時間が戻りますが、買い手から買収の希望をもらったときはどのようなお気持ちでしたか? 複数の買い手が集まったと伺っていますが、やっぱり嬉しかったでしょうか。

湯澤 ここは本当に複雑で、買い手が来るほど「譲渡するべきじゃないんじゃないか?」と思うわけですよ。こんなにみんなから「価値がある」と言われると、嬉しい反面、「そんなに価値があるものを今譲渡してもいいのか?」と考えてしまうんですね。

古旗 なるほど、そういうものなんですね。

湯澤 このころは、想像以上のスピード感に戸惑いもありましたし、「この進め方でいいんだろうか?」「もっと慎重にやるべきではないのか?」という気持ちもありました。なので、「こんなに買い手が集まるなら、最初から仕切り直してもいいのではないか?」と考えてしまいますよね。

古旗 買い手が集まるほどM&Aに懐疑的な気持ちになるというのは、なんとも皮肉なことですね。

湯澤 でも、同じことを言っている人にも会ったことありますし、こういうことを感じる人は多いと思いますよ。

買い手選びの決め手は「社員の活躍可能性」と「トップとの相性」

古旗 その後、買い手候補を1社に絞り込んで交渉していくわけですが、その買い手企業さんを選ばれた理由は何だったのでしょうか?

湯澤 2つあります。1つは社員が活躍できる場だと思ったことですね。その買い手企業が過去に買収した会社を一緒に視察に行ったんです。そうしたら、出てくる幹部社員がみんなプロパーの方でした。つまり、買収された会社の社員がみんな偉くなっていっているんですよね。

古旗 子会社の役職者が、親会社からの出向者で固められるタイプの会社ではなかったんですね。

湯澤 ガッチリした大企業の下についた場合、買収された子会社はヒエラルキーの下になってしまいますよね。その点この会社は、プロパー社員の自主性を尊重してくれると思ったし、何かを押し付けることはないなという安心感がありました。

古旗 なるほど。しっかりした同業大手の下に入ることにはメリットもありますが、デメリットも確かにありますからね。買い手側からすれば、どうしても「後から組織に合流した人たち」という意識になってしまいますし。

湯澤 買い手選びのもう1つの理由は、相手のトップの方との人間的な相性ですね。トップの方が最初に全店舗を廻って視察してくれたんです。初対面だったんですがフレンドリーで、トップ面談も、これはあんまりよくないんですが、その後2次会3次会まで一緒に行って。その時間で人間性に魅力を感じたことですね。

古旗 やはり大事な社員の新しいボスですから、人間性は重要ですよね。

湯澤 他の買い手候補のトップの中には1軒も店舗を見ていない人もいましたし、決算書だけ見て「何ならこの場で小切手切りますよ?」という感じの人もいましたからね。

古旗 そんな買い手には大事な事業を譲りたくないですね(笑)。

怖かったデューデリジェンスは意外と楽だったが、今でも不安は残る

古旗 私は買い手候補が1社に絞られた後で短期顧問になっていますが、その後のデューデリジェンス(買い手による本格的な企業調査)はいかがでしたか?

湯澤 家内が資料を準備してくれて、だいぶ辛い中で一生懸命やってくれましたね。私も非常に身構えていたし、怖かったですよ。でも、実際に対応してみたら全然楽でした。

古旗 そうですか?

湯澤 長年サラリーマンをやっていましたからね。大企業のサラリーマンだと、毎日がデューデリジェンス対応みたいなところがあります。あと、買い手も買収意欲が強かったので、そんなに厳しくなかったのかもしれませんね。

古旗 それでも、やっぱり始まるまでは不安でしたか?

湯澤 はい。実際には呼ばなかったですが、古旗さんに同席をお願いしようかとも思っていました。

古旗 そのお気持ちはよくわかります。他のお客様から「何もしなくてもいいから、とりあえず同席してほしい」と言われることはよくあります。今振り返ってみるとどうですか?

湯澤 そんなに厳しくないと感じていたので、今でも何かトラブルが出てくるんじゃないかと不安に思うことはあります。もっと厳しくしてもらったほうが良かったのかもしれません。

「そういうこともよくあるんですよ」と言われたこともありがたかった

湯澤 それでもデューデリジェンスですから指摘された点はあって、それに対して古旗さんが「中小企業M&Aでは、よくあることですよ」と言ってくれたのも助かりました。

古旗 ありましたね。詳しくは言えないですが、本当によくある不備だったので。

湯澤 今振り返ると大きな指摘はなかったんですが、当事者としてはこんな問題も出た!あんな問題も出た!という感じでした。初めてだったので深刻に捉えてしまって。そんな中で、中小企業M&Aに本当に詳しい方に「こんなのはよくある話なんですよ」と言われるだけで、本当に落ち着くことができました。

古旗 デューデリジェンスで出た問題は売り手と買い手の交渉材料になるかもしれませんから、どちらの味方にもならない仲介は「大した問題ではないですよ」とは言えないですしね。

契約前に迷いに迷った「マリッジブルー」

古旗 デューデリジェンスが終わって、契約内容が決まっていく中で、どのような迷いを感じられましたか?

湯澤 やっぱりこの段階になっても同じ迷いは感じました。

  • M&Aをして本当にいいのか?もう少し自分が続けるべきではないか?
  • この買い手に譲渡して本当に社員が皆幸せになるのか?
  • 金額はこの金額で本当にいいのか?

と。これはどこまで行っても悩むんでしょうね。

古旗 この時期、私も相談に乗っていて、止めるべきか背中を押すべきか悩ましかったんですよね。破談を進言できるのは私しかいないですし、かといってここでやめさせても、次にもっと良い事業承継ができるかなんてわからないですし。

湯澤 まぁマリッジブルーですよね。どうやっても後悔するし、他の買い手を選んでも一長一短だと思います。それがわかっていても悩んでいました。

古旗 悩んだ理由は、やはり社員さんたちのことですか?

湯澤 そうです。実は、この段階では金額はあんまり気にならなくなっていました。数十%なら下がってもあんまり関係なくて、それより社員の人たちがぐちゃぐちゃにならないかだけが不安でした。

古旗 それはご相談に乗っていても強く感じました。経営次第で社員が幸せになるかどうかが大きく左右されるのは事実ですし、他人にそれを委ねるのは非常に勇気のいることだと思います。

湯澤 M&Aを中止して、もう何年か自分で経営して、その後今度は1からじっくりとM&Aすればいいかなとも思ったんです。でも、今景気がいいのはわかっていたし、こんなに買い手が集まって社員を大事にしてくれるのは今だけかもしれないとも思いました。景気が悪くなったら、買い叩かれたり、リストラして店舗だけ奪われるようなM&Aが主流になるんじゃないかと。

古旗 先のことは誰にもわからないですが、M&A市場は景気によって大きく変わるのは間違いない、というお話はさせていただきましたね。

湯澤 でも、実際に最近は実際に少しずつ潮目が変わっていないですか?前ほどの売り手市場ではなくなってきているんじゃないかと思うんですが。

古旗 はい。それはあるでしょうね。景気の落ち込みが懸念されているのか、M&A全体が数年間より落ち着いてきたという感覚は私もあります。まだまだ売り手市場なほうだとは思いますが、ピークは過ぎているのかもしれません。

一度M&Aのサイクルに入ってしまったら、経営者はなかなか抜け出せない

古旗 さて、そんな将来の予想もあって、最終的にはM&A契約に押印するという決断をされたわけですね。

湯澤 先ほども言いましたが、やっぱり一度M&Aというサイクルの中に入ってしまったら、なかなか抜け出せないですよ、経営者というものは

古旗 やはり、つい流されてしまう?

湯澤 そうです。M&Aに向かうことで気持ちが楽になってしまうんです。M&Aプロセス中も、譲渡した後も、ずっと悩み続けているのにも関わらずですね。だから、その入り口のところでよくよく考えて決断することが大事なんだと思います。最初の段階から中立的な立場で相談に乗ってくれる古旗さんみたいな方は、本当に重要ですよ。

一番気持ちが重かった「社員へのM&Aの公表」

古旗 その後、M&A契約に調印して、ついに社員さんたちへの公表があるわけですが・・・。

湯澤 これがやっぱり一番重かったですね・・・。社員への公表が一番重かったです。そもそもM&Aスキームで分割型分割(ヨコの会社分割スキーム)を選んだのは、譲渡対象となる店舗の社員に「売られた感」を感じさせないためだったんです。「みんなが譲渡されるんじゃなくて、俺が抜けていくんだ」という流れにしたかったんです。

(解説)ヨコの会社分割スキームは、譲渡対象社員の移籍手続がない

13店舗中10店舗を譲渡する場合、以下の3つのスキームが考えられます。

  • 事業譲渡スキーム(事業譲渡の手法により10店舗だけを売る)
  • タテの会社分割スキーム(10店舗を子会社化してから売る)
  • ヨコの会社分割スキーム(対象外の3店舗を別会社にし、元の会社を売る)

事業譲渡とタテの会社分割では、10店舗の社員の所属する会社が代わり、移籍手続が必要です。しかし、ヨコの会社分割スキームであれば、10店舗の社員の会社は変わらないため、移籍手続は不要になります(下図)。

ヨコの会社分割スキームは移籍不要

ちょっとしたことですが、社員さんたちに「売られた」という印象を強く与えないという点で、大きな心遣いだったでしょう。

湯澤 実際に自分が抜けるという形に出来たので、これでもっともハードルが高かった社員への説明がしやすかったです。

古旗 なるほど。それだけでも気持ちが楽になったかもしれませんね。

湯澤 それでも、本当に辛かったですし、今思い返しても辛いです。2つの意味で辛いですよ。

古旗 2つの意味ですか?

湯澤 泣かれたりしても辛いじゃないですか。それとは別に、「あ、そうなんですね」と軽く言われても辛い(笑)。

古旗 なるほど(笑)。実際にみなさんのご反応はどうでした?

湯澤 実は、買い手さんにも許可を得て、幹部社員以外はみんなに選択肢を与えたんです。1人ひとり全員と面談して、「会社が2つにわかれることになった。引き続き俺がやる3店舗に来たければ来てもいい」と。

古旗 そうなんですか?それだと結構移って来てしまう方もいたのでは?

湯澤 数人は確かに移って来ました。それは買い手さんの許可を得て受け入れました。でも、私は大半の人は移らないとわかっていたんです。みんな今いる店に愛着がある。通勤も仲間も変わらない、今のままのほうがいいと思っている社員が多いとわかっていましたから。でも、嫌だったら来てもいいという選択肢は与えて、本人に選ばせることはできました。

M&A後の引継ぎでは、口を出したい自分との葛藤が辛かった

古旗 その後、M&Aが成立したわけですが、引継ぎで苦労されたことは何かありますか?

湯澤 自分の立ち位置はちょっと辛かったですね。数カ月間は買い手の要望で社長業を従来通りそのまま行っていました。4カ月目ぐらいでそろそろ抜けるということになってきたのですが、そのころの立ち位置が難しかったですね。

古旗 短期間とは言え、もう抜けることが確定しているのに、リーダーとして社長業をしなければならないということですか。

湯澤 やっぱり経営者として口を出したくなったりするのですが、そんな権限があるのかと。距離感の取り方がすごく難しかったですね。これはM&Aに限らず、子どもへの事業承継でも同じかもしれませんが。

古旗 親子の事業承継の場合、まだ人間関係でクリアできますけど、M&Aの場合は後継者が他人ですからね。

湯澤 買い手さんが社員を尊重して自由にさせてくれたんですが、それによって現場の緊張感が目に見えて緩くなってきたこともありました。「こんなに甘やかしてはいけない」という葛藤があって辛かったです。

古旗 「当面は現状維持」とか「対象会社の自主性を大事にする」というタイプの買い手の悩ましいところですね。

湯澤 「見ないようにすればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、それでは会社がおかしくなってしまうし、社員間の不満も出てきてしまう。距離間の難しさはありましたね。

5.今M&Aを振り返って思うこと

今M&Aを振り返って思うこと

様々な悩みや戸惑い、不安を抱えながらも、2018年10月に湯澤社長はM&Aを成立させました。

今M&Aを振り返って、どのような想いを抱いているのでしょうか?

  • M&Aをして良かったと思えること
  • M&A後に経験した嫌な思い
  • M&Aを振り返って「もっとこうすれば良かった」と思うこと
  • STRコンサルティングから言われて印象に残っている言葉
  • 中小企業M&Aの業界に対して思うこと

M&Aをして良かったのは、すぐに社員に活気が出たこと

M&Aを振り返る湯澤氏

古旗 M&Aをして良かったなと思うことは何でしょうか?

湯澤 M&Aの直後に買い手が出店をしてくれました。もちろん湯佐和の既存ブランドで大型店を2店舗。それで、一気に社員の人たちが活気づいたのが良かったですね

古旗 湯澤さんがM&Aを決断したときの目的を果たせたわけですね。

湯澤 みんなが活き活きしていましたね。こうしよう、ああしようと言って。「ああ、やっぱりみんな出店したかったんだな」と思えてきて、見るのが辛いぐらいでしたね。

古旗 ご自身のことでは何かありますか?

湯澤 自分の生活も安定し、健康状態もだいぶ回復してきました。それも良かったですね。

古旗 それは良かったです。やっぱりプレッシャーからの解放でしょうか?

湯澤 僕は自社の全社員を幸せにしなくちゃいけないと強く思っているんです。自分が40億円の借金を返すのに付き合ってくれた社員は全員幸せにしなくちゃいけない。でも、70人以上も正社員がいると私の能力では難しかった。どこかで必ず無理が出る。

古旗 なるほど。規模が大きい分責任も大きいですからね。

湯澤 今は15人ぐらいなんで、1人ひとり見てあげられるし、だいぶ楽になっています。また、苦楽を共にした社員については、自分の会社にいなくても今後も自分の責任で充実した人生を歩めるようにするという覚悟はあります。

M&Aの負のイメージは少なからず残っている

古旗 逆に、嫌な思いをしたことはありますか?

湯澤 M&Aを公表したら、ネットのニュースにバーンと出ちゃったんですね。それで、マネーゲームのように捉われたり、社長だけが幸せだったらいいのかと書き込まれたりしたのは辛かったですね。

古旗 湯澤さんが書籍や講演で有名人だから、というものあったかもしれませんね。

湯澤 そういう側面がまったくないわけじゃないから気になってしまうのかもしれません。でも、実際は社員に幸せになってほしいというのも大きな動機だったのに、そのような言われ方をしたのはちょっと嫌な感じでしたよね。

古旗 社員の方からは何か反発のようなものはありましたか?

湯澤 経営権が変わることで、ほんの一部ですが手のひらを返すように態度を変える社員がいたのも事実ですね。怒りを感じるというよりも悲しいことでした。私が原因ですから仕方がないことですが自分の経営者としての至らなさを思い知りました。

古旗 なるほど。M&Aの目的には社員さんたちのためもあったのに、残念なことですね。お知り合いからは何かありましたか?

湯澤 大丈夫か?どうしたんだ?という電話をもらったりはしましたね。なんだかM&A自体が良くないことで、倒産したかのようなトーンで言われて、それは辛かったですね。こちらは事業承継の選択肢の1つとして選んだだけなのに。

古旗 そういうM&Aに対する負のイメージは、いまだに少なからずありますからね。

湯澤 まあ、あと数年でなくなるんだとは思いますけどね。

今から始められるなら、絶対に最初からSTRに相談する

古旗 今M&Aを振り返って、「もっとこうすれば良かった」と思うことはありますか? 弊社の商売的に言ってほしいこともあるんですが(笑)。

湯澤 いや、これは本当にそう思うんですけど、仮に時間を戻して事業承継が出来るなら、絶対に最初の段階から古旗さんのところに相談しますよ。絶対に最初から二人三脚でお願いします

古旗 そのお言葉を待っていました(笑)。

湯澤 最初の段階から、事業承継としてM&Aの選択は正しいのかどうか、どういうM&Aアドバイザーを使うべきなのか、どういうM&Aスキームで行くべきなのか、どの買い手がいいのかどうか、価格の妥当性は何なのか、デューデリジェンスはどんな心構えで行けばいいのか全部相談しますね。

古旗 ありがとうございます。全部お役に立てると思います。

湯澤 それで結果がどうなるかはわからないですよ?もしかしたらまったく同じ相手に同じ金額で譲渡するかもしれない。でも、古旗さんがいてくれれば一連のプロセスがスムーズに行けたというのは、強く言えますね。古旗さんみたいにM&Aの圧倒的な経験と、公認会計士としての知識を持つ人と相談できれば、全然違ったと思います。

古旗 ありがとうございます!

湯澤 別に古旗さんにおべっか使う必要なんてまったくないんですけど、今なら間違いなくそうしますよ。

中小企業M&Aは「初心者vs熟練者」

古旗 ところで、私が短期M&A顧問の中で湯澤さんに申し上げたことの中で、印象に残っている言葉はありますか?

湯澤 中立的な立場で価格などについてコメントをもらえたのと、M&Aスキームについてロジカルに説明をいただけたことですね。具体的な言葉としては、「中小企業M&Aは初心者vs熟練者」という言葉も覚えています。

古旗 私もそれ、良いこと言ったなと思っています(笑)。

湯澤 こっちは1回こっきりですからね。買い手は何度もやっている。他に相談できる相手は、M&Aを成立させたいと思っているM&Aアドバイザーしかいないという状況において、古旗さんのサポートは心強かったですね。

古旗 ありがとうございます。

湯澤 振り返ってつくづく思いますけど、もし次があればもっとうまくやれます。でもみんな初めてなんですよね。プロ対素人がやるわけです。普通の経営者は太刀打ちできないですよね。

古旗 M&Aアドバイザーだけではサポートできないですよね。

湯澤 M&Aアドバイザーは、売り手アドバイザー(FA)も含めて基本的にM&Aを成立させたいと思っていますからね。そこは成功報酬でお金を得るわけではない、中立の立場のプロの意見は重要ですよ。

中小企業M&Aは初心者vs熟練者

M&Aプロセスではずっと不安を感じていた

古旗 総合的に考えて、M&Aは楽しいものでしたか?辛いものでしたか?

湯澤 端的に言って、楽しいことはまったくなかったですね。どうしようもなく辛いというものでもなかったですが。

古旗 そうですか?顧問として相談に乗っていて、辛そうだなと思っていたのですが。

湯澤 耐えられないほど辛いというほどではなかったですね。社員への説明だけは本当に辛かったですが。辛いというより不安でした。このまま進めて本当にいいんだろうかと、ずっと思っていました

古旗 なるほど。そのような不安の緩和に私が少しでもお役に立てていたならば嬉しいです。

今の中小企業M&Aには、経営者に寄り添える人が必要だと思う

古旗 今の中小企業M&A業界について、どのように思われていますか?

湯澤 中小企業はM&Aについてわかっていない人が多いですし、内部のシガラミや数値がしっかりしていないという問題を抱えていることも多いです。色んな不備のある中小企業というものの経営者に寄り添えるポジションの人が必須だと思いますね。

古旗 同感です。

湯澤 中小企業の決算書は信憑性が低いですし、役員借入金もあって当たり前です。そういうことが前提として当然に思える人が必要ですね。また、経営者の気持ちが社員と近いですし、自分と会社が一体化している人も多い。そのような方の心のケアもできる人が増えていかないといけないでしょうね。

古旗 心のケアですか。

湯澤 「この資料を出してください」とか「この紙に社員さんのサインをもらってきてください」とか、淡々と言われることもあるんですよ。でも、それってかなり辛いこともある。「これって辛いですよね」と言ってくれる人がもっと増えてほしいなと思っています。

古旗 淡々と言われるんですね。実際にそれをやる側にならないと、どういう気持ちになるかわからないのかもしれないですね。

湯澤 そうですね。そういう意味での中小企業ならではの杜撰さやウェットなところを把握している人が必要だと思いますね。

玉石混交の中小企業M&A業界

湯澤 もうひとつは、今の日本社会にとって、事業承継というのは待ったなしの課題ですよね。でも、中小企業のM&A業界はまったく成熟していなくて、玉石混交だなと思います

古旗 そうですね。それは一度M&Aを実施された方は異口同音におっしゃいます。

湯澤 あと、ただ売り手を業者に紹介だけしてバックマージンを得るだけの方もいますよね。中小企業経営者にとって、M&Aは人生を売るぐらいの気持ちなんですよ。そこから色んな人がお金を摘まんでいくみたいな構造については、若干なんか、、なんだろうなという気持ちはあります。

6.事業承継やM&Aで悩まれている方へのメッセージ

読者へのメッセージ

これまで湯澤社長には多くの反省と教訓を語っていただきました。読者の皆様にも多くの示唆に富む内容だったのではないでしょうか。

最後に湯澤社長に、かつてのご自身のように、事業承継でお悩みの方、実際にM&Aを決断し、行動している方に向けて、メッセージをいただきました。

  • 事業承継でお悩みの方へのメッセージ
  • M&Aを真剣にお考えの方、行動されている方へのアドバイス
  • 今、M&Aに悩み、苦しんでいらっしゃる方へのメッセージ

事業承継はとにかく早く動くべき

湯澤氏から読者へのメッセージ

古旗 それでは、今まさに事業承継で悩まれている方に、メッセージがあればお願いします。

湯澤 M&Aではなく事業承継全般に関して言えば、早く動いて早く相談することです。事業承継は前倒し前倒しで考えていくことが必須ですね

古旗 たしかに、直前になって計画が狂うことも多いですからね。

湯澤 みんな自分の息子に訊かないんです。怖いから。継がないって言われるのが怖くてね。従業員に訊くのも怖いです。継がないって言われたときに、気まずくもなりますし。

古旗 そうなんですね。

湯澤 なんとなく「誰かが継ぐだろう」という曖昧なまま事業承継って動いてしまうんです。ほぼみんな1歩2歩遅れて動いている。でも一刻も早く動き始めて、検討し始めるべきです。そのためには客観性を持った税理士なり、古旗さんのような方に相談することが大事ですね。

M&Aで動くなら、M&Aに精通した「自分の味方」に相談をすべき

古旗 では次に、M&Aで行こうと決められて、これから行動し始めようという方、あるいは今行動しているという方にアドバイスはありますか?

湯澤 やっぱりM&Aに精通している、自分の味方というか、自分の立場についてくれる人に相談するということに尽きると思います

古旗 M&A業者は必ずM&Aに引き込んで、成立に向かって押し進めていきますからね。「ちょっと立ち止まってよく考えましょう」と言わないという意味では、中立的ではないし、売り手の立場に立ってくれるわけでもないですね。

湯澤 踏み込んだ相談ができる人はほとんどいないですけどね。たとえばメガバンクであっても、支店レベルでは。古旗さんほどのレベルの回答は言うまでもないけど、僕が知りたいことに応えられる人は支店レベルではいないと思いますよ。いろんな悩みを本当に相談できるプロフェッショナルを見つけることが重要だと思いますね。

M&Aには辛いこともあるけれど、辛いことはいつまでも続かない

古旗 今まさにM&Aプロセスを進めていて、大きな不安や壁に心を痛めている方にメッセージはありますか?

湯澤 M&Aにはどうしても負荷の掛かるプロセスがあって、辛いことはありますが、いつまでも続くわけではないですよと。必ずいつか突き抜けますよと伝えたいですね

古旗 ありがとうございます。この記事をご覧の方には、その言葉で救われる方も多いと思います。

湯澤 M&Aはちょっと嫌な感じを受けることはあります。社員との関係とかですね。でも、それはM&Aという大きな意志決定をしたプロセスの一部ですからね。必ずいつかは過ぎ去っていくものなんだろうなと思います。

古旗 ありがとうございます。お時間が来てしまいました。本日は本当にありがとうございました。

湯澤 こちらこそありがとうございました。

おわりに

今回は、実際に事業承継M&Aを実行した湯澤剛社長に、経験者しかわからないM&Aの苦悩や不安、反省点を赤裸々に語っていただきました。いかがでしたでしょうか。

私が特に印象に残ったのは、

一度M&Aのサイクルに入ると、経営者はなかなか抜け出せなくなる

という言葉です。非常に重い言葉だと感じました。

中小企業経営者にとって、M&Aは人生を懸けて育ててきた事業を他人に譲る大きな決断であり、ご自身やご家族、そして社員の方々のその後に大きな影響を与えます。どうか安易に足を踏み入れる前に、じっくりと考えてから行動してください。

なお、弊社では無料相談を実施しております。M&Aアドバイザーよりも中立的なご意見を申し上げておりますので、ぜひ一度ご相談にいらしてください。あなたの検討ステージに応じて、真摯に対応させていただきます。

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