M&Aで広く買い手を探したいと思っていても、自分が事業を売ることを知人に悟られることは絶対に避けたいですよね。
そこで、M&Aでは一般的に、「ノンネームシート」という書面で買い手の興味を打診することから始めます。ノンネームシートを適切に管理することができれば、買い手候補にはならない相手に社名や情報が渡ることはなくなりますので、情報漏洩リスクは大きく下がります。
ただし、ノンネームシートがその役割を果たすのは、適切に作成し、管理した場合だけです。
このノンネームシートはM&Aアドバイザー(仲介会社など)が作ることになりますが、その完成度はピンキリです。私は様々なアドバイザーが作った様々なノンネームシートを見てきましたが、
- 内容が具体的すぎて業界人だと簡単に対象会社が特定できてしまう
- 情報がアバウトすぎて全然魅力を感じない
と言った大きな問題を抱えるノンネームシートも数多く出回っているのが現状です。
結局のところ、アドバイザーもそのビジネスには素人なので、売り手経営者自身がしっかり監督しなければ、良いノンネームシートなんて作れません。
この記事では、不適切なノンネームシートを作らないために、
- ノンネームシートで身バレを防ぐ仕組みと、もう1つの役割
- 不適切なノンネームシートで身バレしてしまうケース
- ノンネームシートで身バレしない2つのポイント
- 相手に応じて情報を使い分けるコツとメリット
- ノンネームシートの記載項目と良い例・悪い例
- 重要項目である「強み・特徴」の書き方6ステップ
をご紹介していきます。
最後まで読んでいただければ、具体的な事例や作り方を踏まえつつ、アドバイザーをうまく指揮して最適なノンネームシートを作るコツが、しっかりと身に付くでしょう。
ノンネームシートの意味と身バレを防ぐ仕組み
ノンネームシート(ティーザーとも言います)とは、仲介会社などのM&Aアドバイザーが、M&Aの売り込み先に最初に持っていく匿名の会社情報です。
M&Aは、最初に匿名情報を見せることで、買い手に「こんな会社の買収に興味はありますか?」と尋ね、もし「興味アリ」ならば守秘義務契約を結んで話を進めましょう、というところから始まります。
こうすることで、興味もない買い手に社名や決算情報が渡ることを防ぐのです(下図)。
ノンネームシートは買い手の興味を引き付けるツールでもある
なお、ノンネームシートの役割は、身バレを防ぐだけではありません。チラシ広告のように、「買い手の興味を引き付ける最初の情報提供」でもあります。
そのため、本来であれば会社の魅力を訴える情報(会社の強み、立地、特許、優秀な従業員数など)をふんだんに盛り込んで、興味関心を引き付ける内容にしたいところです。事実、アバウトすぎるノンネームシートでは、売り込み先の反応率は大幅に落ちます。
しかし、現実には上記のとおり「具体的に書きすぎると身バレする」ということもあり、どこまで具体的な内容を書くかは難しい問題なのです。
そのバランスをうまくクリアする方法として「複数のノンネームシートを使い分ける」という方法があります。具体的な使い分け方については後述します。
実際には身バレは起こっている
上述のとおり、ノンネームシートは身バレを防ぐ仕組みを持っています。
とはいえ、ノンネームシートを使えば完全に身バレを防げるかというと、まったくそんなことはありません。具体的には、以下の2つのパターンで身バレが起こることが多いです。
- ノンネームシートの内容が具体的すぎて、どの会社か簡単に特定できてしまう
- 実際は買う気もないのに、情報を得るために「買収意欲アリ」と回答する売り込み先もいる
このような身バレを防ぐためには、ノンネームシートの内容や開示先には十分気を付けていく必要があります。次章では、その具体的な方法を解説していきます。
ノンネームシートで身バレを防ぐ2つの対策
では、ノンネームシートで身バレを防ぐ具体的な対策をご紹介しましょう。
具体的には、以下の2つのポイントが重要になります。
- ノンネームシートづくりをアドバイザー任せにしないこと
- ノンネームシートを見せる相手を限定すること
以下、それぞれ解説していきましょう。
対策1.ノンネームシートはアドバイザー任せは厳禁
上述のとおり、身バレの1つの要因は、「事業の特徴を具体的に書きすぎてしまって、簡単に特定されてしまう」ということです。
このような身バレを防ぐための基本中の基本として、「ノンネームシート作りはアドバイザーには丸投げしないこと」をしっかり意識しましょう。
下書きは業者に作ってもらってもいいですが、肝心な部分や全体のチェックは必ず売り手経営者自身が行いましょう。
その理由は、以下の2つです。
- そのビジネスの素人には、身バレのリスクは判断できない
- アドバイザーは、なるべく具体的に記述したいと思いがち
以下、それぞれ内容を確認していきましょう。
そのビジネスの素人には、身バレのリスクは判断できない
身バレは、事業の特徴や強みなどを具体的に書きすぎることで、簡単に絞り込まれてしまうために起こります。
「どこまでなら具体的に書いてもバレないか?」という匙加減は、その業界を熟知したプロだけが知ることです。素人には情報がなくても、業界人には常識ということは往々にあるのです。
中小企業M&Aは、特定地域における「知る人ぞ知る会社」が対象になります。M&Aアドバイザーは、M&Aのプロであってそのビジネスのプロではないですから、身バレするラインなんて検討も付きません。
アドバイザーは、なるべく具体的に記述したいと思いがち
加えて、アドバイザーの立場からすれば、身バレリスクを高めてでも具体的に記述したいと考えがちです。
アドバイザーの仕事は成功報酬で成り立っていますので、買い手が見つからなければ報酬も受け取れません。ノンネームシートは具体的に書くほど反応率が上がりますので、なるべく具体的に書いたほうが彼らにとって得なのです。
極端な落ち度がない限り、クライアントが身バレしても彼らには大した問題ではないので、きちんとコントロールしないと本気でバレバレなノンネームシートを配り始めます。
対策2.ノンネームシートを見せる相手は限定しよう
身バレのもう1つの原因である「買う気もないのに、買収意欲があるフリをして情報だけ持っていく買い手」については、扱いはかなり難しいところがあります。
このような不届き者が入り込むリスクは、ある程度は覚悟しなければならないことではあります。
対策としては、そもそも余計な相手にはノンネームシートを持ち込まないということが重要になります。
期待できる相手から売り込んでいこう
余計な相手に売り込まないためには、売り込み先のリストを作って、期待できそうな相手から順番に売り込んでいくことが重要になります。この売り込み先リストのことを「ショートリスト」と言います。
ショートリストは、以下の手順で作っていきましょう。これにより、余計な相手への売り込みを大幅に減らすことができます。
- まずは自社の「強み」と「弱み」を分析する
- 自社の強み弱みを踏まえて「買収ニーズ」を想像する
- 考えられる売り込み候補先をニーズ別に分類する
- 候補先が「理想の後継者像」にどれだけ近いかで優先度をランク付けする
- 最後に、接触してはまずい相手がないかを確認する
詳しくは「ショートリストとは?M&Aで重要な4つの役割と作り方5ステップ」という記事で解説していますので、ぜひご一読ください。
ノンネームシートは複数を使い分けるのがコツ
身バレを防ぎつつ、必要に応じて具体的な情報を提供し、売り込み先からの反応率を高めていくため、ノンネームシートは複数を使い分けることをおすすめします。
複数のノンネームシートによって、相手の業界知識に応じて情報を薄めることができますし、会社のアピールポイントも書き分けることができるのです。
「業界人」にはアバウトなノンネームシートを見せよう
同業他社など、自社のことを詳しく知っていて当然の相手には、なるべくアバウトに薄めたノンネームシートを見せましょう。特定されそうな情報は一切カットして出していきます。
そのビジネスに精通した業界人であれば、アバウトな情報でも十分に興味関心を回答できます。
なお、上述した「買う気もないのに情報収集のためだけに買収意欲を見せる相手」が一番多いのも、やはり同じ業界で生きている同業他社です。同業者に売り込む際にはこの点にも注意しましょう。
「異業種」には少し踏み込んだノンネームシートを見せよう
「異業種」は「業界人」よりも少し踏み込んだノンネームシートを見せましょう。
油断は禁物ですが、少しは踏み込んだ内容でも特定されづらいですし、何よりアバウトすぎると完全に無視されてしまいます。
業界人から遠い相手ほど、少し具体性を高めたノンネームシートにしなければ反応を得られません。
アピールポイントも書き分けていこう
複数のノンネームシートを作るメリットは、買い手の買収ニーズごとに異なるアピールポイントを提示できることです。
同じ会社でも、買い手はそれぞれ違う部分に魅力を感じることがあります。たとえば、「調剤薬局のM&A」の場合、買い手のニーズは一様ではありません。
- 病院前などの立地が欲しくて買収する買い手
- 人手不足である薬剤師の人数確保がしたい買い手
- 著名なドクターとの人間関係を引き継ぎたい買い手
- 薬局ビジネスに参入したい異業種の買い手
など、同じ「薬局が買いたい」という買い手でも、「どんな薬局をなぜ買いたいのか」まで考えると、案外目的が違うものです。
ノンネームシートで具体的に書ける内容には限度があります。それぞれの買収ニーズに合わせたアピールポイントを、狙いを定めて書き分けていきましょう。
ノンネームシートの記載項目と良い例・悪い例チェックポイント
では、ノンネームシートには具体的にどのような項目が記載されるかを紹介していきましょう。
同時に、売り手経営者としてアドバイザーを監督しやすいよう、良い例・悪い例とチェックのポイントをご紹介していきます。
ノンネームシートの記載内容としては、以下のような項目が挙げられます。
- 事業内容・地域
- 売上規模・従業員規模
- M&Aスキーム
- 希望価格の水準
- 事業の強み・特徴
- 特記事項
それぞれ見ていきましょう。
記載項目1.事業内容・地域
どこで、どのようなビジネスをしているかを記載します。
事業内容と地域は、別々に考えると組合せで特定されやすくなります。必ずセットで特定されないかを検討しましょう。
事業内容・地域を記載する際の悪い例
悪い例1:群馬県内に5店舗、埼玉県内に1店舗のディスカウントストア運営
悪い例2:虎ノ門病院から徒歩1分以内にある調剤薬局
悪い例3:横浜市でシステム開発事業と弁当の宅配事業を営む会社
これらはいずれも架空の会社ですが、対象が少なすぎて簡単に特定されるリスクが非常に高いダメな例です。
事業内容・地域を記載する際の良い例
良い例1:東日本で5店舗程度のディスカウントストアを運営
良い例2:都内の大病院から1分以内にある調剤薬局
良い例3:首都圏で主にシステム開発事業を営む会社(その他、小規模事業あり)
このぐらいであれば特定されるリスクは大幅に減少するでしょう。
事業内容は中分類がベスト
上記の例1では「ディスカウントストア」という業種は残しています。これを「小売業」としてしまうと、範囲が広すぎてほとんど誰も興味を示さなくなるからです。
事業内容は常に「中分類」ぐらいを目指しましょう。上記の良い例でもまだ特定されるリスクが高い場合は、他の部分を薄めてください。
事業内容・地域の記載のチェックポイント
事業内容と地域の記載は、以下のポイントをチェックしましょう。
- 事業内容は「中分類」ぐらいか(ビジネスモデルが大枠で想像できるか)
- (業界人向けの場合)業界人の直感で5社以内に絞られていないか
- (異業種向けの場合)ネットで調べたときに3社以内に絞られていないか
記載項目2.売上規模・従業員規模
どのぐらいの規模のビジネスを営んでいるかを記載します。
これを記載する意図は、買い手にはある程度「このぐらいの事業規模の会社が欲しい」というイメージがあるからです。あまり大きすぎても手を出せませんし、小さすぎても興味が湧きません。規模的に興味の判断できる材料を与えましょう。
逆に言えば、規模感さえざっくりわかれば十分なので、細かい数字は必要ありません。
売上規模・従業員規模を記載する際の悪い例
悪い例1:直近の年商は324,526千円、従業員は正社員6名、アルバイト2名
悪い例2:過去3期の売上高は概算で430百万円、520百万円、440百万円で推移
例1は細かすぎます。帝国データバンクで検索を掛けたら出てくるかもしれません。ここまで細かい情報を見せても、買い手の興味関心の判断には影響を与えません。
例2は推移を見せていますが、余程激しく変動していない限り、ノンネームシートの段階では推移まで表示する必要はありません。
売上規模・従業員規模を記載する際の良い例
良い例1:年商3億円台、従業員は5~10名(アルバイト含む)
良い例2:売上高は4~5億円程度
ノンネームシートが特定されないように書かれていることは、買い手も重々承知ですので、上記のように露骨にぼかしても問題ありません。
売上規模・従業員規模の記載のチェックポイント
売上規模・従業員規模の項目は、以下の点をチェックしましょう。
- 数字が細かすぎないか
- 意味もなく推移が表示されていないか
- ざっくり規模がわかる程度に収まっているか
利益水準は書かないほうが良い
よく「営業利益」や「EBITDA」といった利益水準にまで触れているノンネームシートも見かけますが、この項目は必要ありません。
なぜなら、買い手としては利益数値だけ見せられても、何も判断できないからです。
M&Aの買い手は、詳細に決算書を分析し、シナジー効果の計画もじっくり検討してから、「我々が買収したら、将来においてどれだけ利益が挙げられるだろうか?」を考えて値決めをします。そのため、匿名段階で過去の利益の結果だけ見せられても、何も検討できません。
利益情報を見せてしまうことで、むしろ特定されたときのデメリットが心配になりますので、ノンネームシートには利益情報はむしろ無用だと考えています。
記載項目3.M&Aスキーム(売買手法)
売り手が希望するM&Aスキームを記載します。
M&Aスキームとは、会社の何を、どうやって売るかという売買手法のことで、「株式譲渡」や「事業譲渡」などが代表的です。
実際の中小企業M&Aでは、以下の4つのスキームが主流として使われています。
- 単純な株式売買スキーム(単なる株式100%の譲渡)
- ヨコの会社分割スキーム(会社から余計な事業・資産を除外してから株式譲渡)
- 事業譲渡スキーム(事業譲渡という手法で事業だけを売る)
- タテの会社分割スキーム(事業だけを子会社化し、その子会社株式を売る)
それぞれのM&Aスキームは、「M&Aの種類・手法一覧!売買向きな4スキームのメリットデメリット」という記事でアニメーション付きで解説しています。ぜひご覧ください。
正式な名称で書こう
「単純な株式売買」や「ヨコの会社分割」などは俗称です。フォーマルな文書では正式名称を使って書きましょう。
- 単純な株式売買 → 株式100%の譲渡
- ヨコの会社分割 → 分割型分割で譲渡対象外事業を除外後、株式100%の譲渡
- タテの会社分割 → 対象事業を分社型分割で子会社化後、当該株式100%の譲渡
※分割型分割は「人的分割」、分社型分割は「物的分割」も可
M&Aスキームを記載する際の悪い例
M&Aスキームを記載するときは「決め切る」ことが大切です。
悪い例1:応相談
悪い例2:株式100%の譲渡または事業譲渡
悪い例3:事業譲渡(ただし、具体的な引継財産については要交渉)
このようなノンネームシートを見ると、買い手は「あー、これは煮え切らないタイプの売り手だな」と思います。
M&Aスキームを記載する際の良い例
良い例1:株式100%の譲渡
良い例2:事業譲渡(ただし事業用地は引継財産から除外)
あまり細かいことを書く必要はありません。買い手が「売り手さんは何がしたいのか?」がわかるようにしましょう。
M&Aスキームの記載のチェックリスト
M&Aスキームの記載については以下の点をチェックしましょう。
- ハッキリと記載されているか
- 売り手の希望が明確になっているか
- 俗称を使っていないか
記載項目4.希望価格の水準
売り手の希望価格は、常に買い手の重大な関心事です。ノンネームシートの段階では、買い手が「自社が出せる水準の価格感だろうか?」と考えてくれれば十分です。
なお、対象会社が持っている負債は買い手にとって買収予算の一部となりますので、「債務と株式で合計いくら」という書き方をしましょう。
価格目線の考え方を理解しておこう
M&Aは決して「理論上適正な価格」で売買されるわけではなく、あくまでも買い手の主観と交渉の駆け引きで価格が決まります。価格目線は交渉における重要要素ですので、安易に出すことは控えましょう。
詳しくは「会社を安値売りしない【M&A譲渡価格の目線】設定の3つの視点」という記事で、目線設定の方法も含めてご紹介しています。
希望価格を記載する際の悪い例
たとえば「目標は5億円だけど、4億円までなら売ってもいいかな」という状況であれば、悪い例としては以下のような書き方です。
悪い例1:5億円
悪い例2:4億円以上
例1は、5億円の予算に届かない買い手を拒絶する印象を与えます。価格を引き出すためには複数の買い手候補を競争させる必要があるので、もう少し間口を広げたほうがいいでしょう。
例2は、正直に手の内を見せすぎです。価格交渉での買い手の強気を引き出してしまうので、多少盛っておきましょう。
希望価格を記載する際の良い例
M&Aスキームとは逆に、言い切らないのがポイントです。
良い例1:債務+株式で5億円程度(ただし他条件次第で相談可)
良い例2:債務+株式で4億5千万円以上を希望
例1は5億円という目標を意識させつつ、「気に入った相手なら多少安くしてもいいよ」という希望を与える書き方です。
例2は、中満足ぐらいの価格水準を見せつつ、「希望」という言葉にすることで、多少届かない買い手の参戦も促しています。
希望価格の記載のチェックリスト
希望価格はM&A成立までの交渉に影響を与えますので、価格設定は慎重に行いましょう。
- 言い切りすぎていないか
- のちの価格交渉に悪影響を与えないか
- この記載で諦める買い手がいても、別に惜しくないか
記載項目5.事業の強み・特徴
自社が持つ事業の強み・特徴を簡潔に記載します。
M&Aは強み・特徴といった経営資源の売買ですので、買い手にとってはもっとも興味があるポイントです。一方で、他社との差別化ポイントであるため、身バレしやすいポイントとも言えます。
事業の強み・特徴を記載する際の悪い例
悪い例1:ユーザーから高い評価を得ている
悪い例2:地域における強固な事業基盤
悪い例3:高い成長率
同業他社に見せるには上記のような記載でも仕方がないですが、ちょっとアバウトすぎて具体的にイメージできません。このぐらいであれば書かなくてもいいレベルでしょう。
事業の強み・特徴を記載する際の良い例
良い例1:ECモールでの高評価のクチコミの蓄積
良い例2:特定地域で支配的な店舗網を確立
良い例3:2桁の売上成長を3年間継続中
具体的な数字は避けつつ、「この事業を買収すれば何が手に入るのか?」がある程度イメージできるようになっています。
なお、このような少し踏み込んだ強み・特徴は、複数書きすぎると、組み合わせたら特定されてしまうという点に気を付けましょう。強み・特徴は、売り込み先がどのような買収ニーズを持っているかを踏まえて、1~2個に絞り込んで書くのが重要です。
その方法は、次章で解説します。
強み・特徴の記載のチェックリスト
強み・特徴の記載は、以下の点に注意しましょう。
- アバウトに書きすぎて具体的イメージに欠けていないか
- 具体的に書きすぎて身バレする内容になっていないか
- 複数の項目を組み合わせたら特定される内容になっていないか
- 売り込み先の買収ニーズに合わせた強み・特徴に絞り込んでいるか
- 用語や言い回しを相手の業界知識に合わせているか
記載項目6.特記事項
特記事項には、主にM&Aの買い手選びで非常に重視しているポイントを記載します。
「この条件が確保されなかったら絶対に売らない」という内容だけを簡潔に明記しましょう。
力を入れたい「強み・特徴」の書き方6ステップ
最後に、ノンネームシートの中で特に注目される「強み・特徴」の書き方をご紹介しましょう。
強み・特徴は売り込み先の買収ニーズを意識し、それにマッチする内容に絞り込む必要があります。具体的には、以下の6つのステップで記述を考えていきましょう。
- まずは「誰に見せるか」を明確にする
- 相手の「買収ニーズ」を想像・仮定する
- 相手が食いつきそうな事実を整理する
- 相手と業界の距離を考えて情報の具体性を決める
- 相手の知識レベルに合わせてわかりやすく伝える
- 特定されるような情報がないかをチェックする
以下、それぞれのステップを解説していきます。
具体的な売り込み先リストがあれば考えやすい
なお、ノンネームシートの前にショートリスト(具体的な売り込み先リスト)を作成することをおすすめします。
ショートリストは、自社の強みの分析や買い手候補の買収ニーズの想定などを行いながら作るため、ノンネームシートづくりとの整合性も非常に良いものがあります。売り込み先と売り文句は常にリンクしていますので、ショートリストとノンネームシートもリンクさせていきましょう。
ショートリストの適切な作り方は、前述の「ショートリストとは?M&Aで重要な4つの役割と作り方5ステップ」の記事でご確認ください。
Step.1 まずは「誰に見せるか」を明確にする
まずはノンネームシートを見せる想定ターゲットを定めます。これを行わなければ、個性のない器用貧乏なノンネームシートしか作れず、個性のない会社と思われかねません。
ポイントは、具体的な会社名を挙げることです。「〇〇社に売り込むとしたらどんな売り文句が必要になるだろう?」と具体的に考えやすくなるからです。
ショートリストがうまく出来上がっていれば、優先度の高い企業グループの中から、特に興味を示してほしい買い手候補をターゲットにしましょう。
Step.2 相手の「買収ニーズ」を想像・仮定する
ターゲットが決まったら、
- この会社がウチの買収に興味を示してくれるとすれば、どの点を気に入ってくれるだろう?
- どの点をアピールすることが、ウチを一番高く評価してくれるだろう?
と考えます。
これはすなわち、「買い手はどのような買収ニーズを持っているか?」ということです。
ここで出てくる買収ニーズは想像でしかありませんので、ターゲットの会社が本当にそのような買収ニーズを持っているかは、ノンネームシートを見せるまではわかりません。
ただ、同じような会社は他にもありますので、同じノンネームシートを類似会社に持っていけば、反応がある確率は高いのです。
Step.3 相手が食いつきそうな事実を整理する
ステップ2で想定した買収ニーズを踏まえて、「どんな事実を教えてあげれば、自社の買収に前向きになってくれるだろうか?」を考えます。
たとえば、「薬剤師不足の中堅薬局チェーン」がターゲットであれば、「薬剤師が十分に在籍している薬局」という点が買収ニーズとして考えられます。その場合は、
- 薬剤師は総勢〇名で、うち〇名は正社員
- 薬剤師の平均年齢は〇歳
といった情報が重要になります。
具体的に書くか、アバウトに書くかは後で考えますので、まずは具体的事実を列挙してみてください。
Step.4 相手と業界の距離を考えて情報の具体性を決める
ステップ3で整理した「事実」について、その「どのような内容を」「どのような具体性で」ノンネームシートに記載するかを考えます。この際、売り込み先が自社の業界にどれだけ精通しているかを考慮しましょう。
業界に詳しい相手に見せる場合は、特定されないようにアバウトに書く必要があります。
異業種の相手に見せる場合は、少し踏み込んで書いてもいいでしょう。
この判断は身バレリスクと反応率のバランスを考える必要があります。アドバイザー任せにするとガンガン踏み込んだ内容にしてしまいますので、売り手としてしっかりと監督しましょう。
Step.5 相手の知識レベルに合わせてわかりやすく伝える
ノンネームシートは相手に内容が伝わらなければ何の意味もありません。業界の素人であるM&Aアドバイザーが持っていくことを想定し、わかりやすく書きましょう。
業界人しか使わない専門用語や、業界の常識である基礎知識は、異業種から見れば何のことかわからないこともあります。ターゲットの知識レベルに合っているかに注意しながら書きましょう。
この点、M&Aアドバイザーは業界の素人ですから、「何が書いてあるかわかる?」と訊いてみれば、参考になるでしょう。
Step.6 特定される情報がないかチェックする
最後に、もう一度踏み込んで書きすぎていないかをチェックしましょう。
1つ1つのステップでは十分注意しているつもりでも、いつの間にかバレバレな内容になってしまうこともあります。
初めてノンネームシートを受け取った気持ちで最初から読み返し、問題ないかをご自身でチェックしてください。
おわりに
今回は、ノンネームシートの意味や仕組みから、適切な作成方法・チェック方法までご説明していきました。
繰り返しますが、ノンネームシートの作成は業者任せにせず、必ずご自身で監督するようにしてください。
バレバレなノンネームシートは本当に多く出回っていますので、身バレリスクには十分に気を付けましょう。
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