M&Aに興味を持たれている方であれば、「シナジー効果」という言葉は常識のようにご存知だと思います。

後述しますが、M&Aでは売り手・買い手双方にとって、シナジー効果こそ成功のカギを握る最重要要素です。シナジー効果の活用なくしてM&Aの成功はないと言ってもいいでしょう。

ただ、実際のM&Aでシナジー効果を実現することは簡単なことではありません。もう少し補足すると、シナジー効果には比較的実現しやすいもの、努力すれば実現できるもの、努力と運が重ならなければ実現できないものがあります。

そのため、単純に「シナジー効果が期待できるからこのM&Aは順風満帆だ」というものでもなければ、「シナジー効果でM&A価格を高くできる」というものでもありません。

そこで今回は、シナジー効果というものがどういったものかをもう少し詳しく理解していただくとともに、M&A価格にどのように織り込まれていくかについてご説明します。

本記事を読んでいただければ、M&Aを行う上で知らなければいけないシナジー効果の知識が身につき、価格交渉への利用方法も理解できるでしょう。

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本記事は大変ご好評いただいているため、「シナジー効果の6つの種類」を紹介する動画も作りました。ぜひこちらも併せてご覧ください(17分36秒)。

事例多数!シナジー効果とは何か?6つの種類をわかりやすく紹介【動画で学ぶM&A】

 

 

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シナジー効果の意味

シナジー(Synergy)を直訳すると、「相乗効果」という意味があります。M&Aは2つの会社を融合することですので、「買い手企業とM&A対象会社の相乗効果」を意味します。

たとえば、

カー用品の販売会社が、中古車販売会社を買収した

というケースを考えてみましょう。

この場合、単純にカー用品の売上と中古車の売上が足し算されるだけではありません。

  • 中古車の購入客にカー用品の販売を提案する
  • カー用品の来店客に中古車販売店の広告を見せ、認知度を高める

といった施策が考えられ、単純な足し算ではない、プラスアルファの相乗効果が期待できます。

このようなプラスアルファ分のことをシナジー効果といい、「1足す1が2にも3にもなる効果」と表現されます。

相乗効果が生まれる仕組み

M&Aの相乗効果は、以下のような仕組みで生まれます。

  1. 買い手企業の経営資源を対象会社に適用することで、対象会社にメリットが生まれる
  2. 対象会社の経営資源を買い手企業に適用することで、買い手企業にメリットが生まれる
  3. 双方の経営資源を融合することで、まったく新しい経営資源が生まれる

中小企業M&Aで意識されやすいのは1のシナジーですが、2,3のシナジーを求めてM&Aが行われることも、決して少なくはありません。

一方的なシナジー効果

なお、中小企業のM&Aは「大きな会社が小さな会社を買う」という構図になりやすく、対象会社にばかりメリットが集中して、大きな会社側でほとんどメリットがない場合があります。

一方的なものを相乗効果と呼ぶべきかは難しいところですが、中小企業M&Aの現場ではこれもシナジー効果に含めることが一般的です。よって、当サイトでは特別な断りがない限り、一方的なシナジー効果も含めて解説します。

シナジー活用こそM&A成功のカギ!

このようなシナジー効果は、M&Aを成功させるうえでの最重要ポイントと言われています。それは売り手・買い手双方にとっての成功のカギですので、それぞれの面から考えていきましょう。

売り手にとってのシナジー活用の重要性2選

売り手にとってのシナジー効果の活用は、「後継者選び」と「譲渡価格」という2つの面から重要な成功ポイントになります。

売り手のシナジー活用1.後継者選びの着眼点

まず「事業を任せる後継者選び」という点から言うと、シナジー効果が強く期待できる相手のほうが、M&A後に事業を力強く維持・発展させてくれる可能性が高まります。逆にシナジー効果の薄い相手に売ってしまった場合、事業が思うようにいかないことで、買い手がリストラのような最終手段に出ざるを得なくなることもあり得ます。

事業を託す相手が、より大きなビジョンを夢見ているとともに、それを実現できる能力を兼ね備えているためには、対象会社とのシナジー効果は不可欠なのです。

売り手のシナジー活用2.譲渡価格の引き上げ

次に価格面でのシナジー活用についてですが、買い手は将来の利益でM&A投資を回収していくため、当然将来の利益をM&A価格に反映させていきます。

よって当然、シナジー効果が期待できる方が、買い手が出せるM&A価格も高くなっていきます。

買い手にとってのシナジー活用の重要性2選

次に、買い手側の立場ではどのようなシナジー活用が重要になってくるのでしょうか。それは「競争入札」と「利益計上」の2点で考えていく必要があります。

買い手のシナジー活用1.競争入札に勝つ価格提示

まず、買い手はM&A対象会社を買えなければ意味がありませんから、競争入札で負けない高いM&A価格を提示する必要があります。その一方で、投資回収できない金額を出してしまっては意味がありません。

そのため、競争入札で競合他社に負けないM&A価格の原資として、強いシナジー効果を活用していかなければならないのです。

買い手のシナジー活用2.M&Aによる利益計上

さらに言えば、買い手は単に投資を回収できればよいわけではありません。投資額を上回る利益を出し続けなければならないのです。

競合他社に負けない高値で買っても、さらにそこから利益を出していこうと考えるなら、シナジー効果抜きでは到底不可能です。買い手はM&Aで投資額以上の価値を生み出すために、シナジー効果を追求しなければいけません。

買い手がM&Aで手に入れる、シナジー効果を加味した対象会社の価値のことを「バイヤーズバリュー」といいます。このバイヤーズバリューとM&A価格の差額が、買い手にとってのM&Aの利益ということになります。詳しくは「セラーズバリューとバイヤーズバリュー/価格が決まる唯一の仕組み」をご覧ください。

シナジー効果の5つの種類

シナジー効果には様々な種類がありますので、ここで主要なものを整理しておきましょう。分類を整理しておくことで、後述のシナジーの実現可能性や価格織り込みの仕組みが理解できるようになります。

1.収益シナジー

買い手と対象会社の事業が連携することによるシナジー効果を「収益シナジー(レベニューシナジー)」と呼びます。要するに「売上が増える」というシナジー効果です。

トレーディングカードの企画・制作を行っている「ブシロード」という会社は、2012年に新日本プロレスを買収しました。格闘技人気に押され観客動員が低迷していた新日本プロレスに、ブシロードのエンターテイメント・販促ノウハウなどを注入し、以後急速な観客増加を実現しています。

収益シナジーはM&Aの華ともいえる派手さがありますので、大変注目されやすいものです。ただし後述のとおり、実現は簡単ではなく、絵に描いた餅に終わることも少なくありません。

販路の共通化(クロスセリング、アップセリング)

顧客をお互いに紹介し合うことです。

たとえば、買い手企業の顧客にM&A対象会社の商品を紹介したり、対象会社の店舗に買い手企業の商品を陳列するなどが考えられます。

ヤマダ電機は2011年に注文住宅のエスバイエルを買収し、電器屋の店頭で住宅販売を行っています。家を求める顧客が家電も併せて購入することを読んだシナジー期待のようです。

実現が容易でない収益シナジーの中では、比較的実現可能性が高いと言えますが、本当にお客様がその商品を求めているかの見極めが重要です。

営業資源の融通

営業人員が不足している会社を買収し、営業人員を送り込んだり、広告費を融通したり、ノウハウを共有することで、営業力を強化して売上拡大を狙うシナジーです。

たとえば楽天はM&Aで傘下に収めた会社で、楽天ポイントを付与します。ポイントプログラムという強力な販促ツールを横展開し、対象会社の競争力を引き上げるのです。

さらにこのポイントプログラムを横展開することは、様々なサービスで楽天ポイントが使えるようになるため、楽天ポイントの価値自体も挙がります。双方にメリットのあるシナジー効果と言えるでしょう。

ただ、M&A対象会社が自力で成長できなかった理由を明らかにしないと、無謀な投資により更なる資金流出を呼びかねないリスクがある点に要注意です。

新規事業の開始

買い手企業とM&A対象会社の経営資源を組み合わせることで、まったく新しい事業を生み出すシナジーです。

上述のブシロードによる新日本プロレスの買収では、ブシロード側でレスラーのトレーニングカードなどを企画しています。

ある程度の土台とノウハウこそあれど、新規事業である以上失敗のリスクは常に付きまといます。色々皮算用することは楽しいものの、非常にチャレンジングな投資になるでしょう。

2.コストシナジー

買い手企業と対象会社が連携することで、トータルコストを下げていくというシナジー効果です。

共通化コストシナジー(範囲の経済)

中小企業M&Aで非常に多いシナジー効果が、M&A対象会社の本部機能を大幅に縮小し、必要な分は買い手企業が請け負うというものです。対象会社の本部費を大幅削減でき、これだけで利益を上げることが可能になります。

税理士・社会保険労務士の変更が典型例で、非常に生み出しやすいシナジー効果です。また、本部を買い手企業の社内に移転することで、家賃の削減を狙います。

なお、本部人員の解雇による人件費の削減がもっとも効果的なのですが、リストラはそう簡単にできるものではない点に注意しましょう。

事業コストシナジー

事業を連携させることによって売上対比のコストを削減していく効果です。

M&Aをすると売上規模が足し算になりますので、規模の経済を利かせやすくなります。

また、買い手と対象会社で仕入・購買の単価を突き合わせ、低いほうの単価に下げるよう価格交渉する方法もあります。

オペレーションの共有シナジー

一方の会社のコスト削減ノウハウをもう一方の会社に伝授することで、コスト削減を実現する一方的シナジー効果です。

2020年に外食大手のコロワイドが、同じく外食の大戸屋を買収しましたが、これはコロワイドが得意とするセントラルキッチンの仕組みを大戸屋にも適用することで、大戸屋の利益率向上を狙ったものです。

また買収巧者で有名な日本電産は、赤字に陥った会社を買収し、徹底したコスト意識を叩き込んで利益改善することで成果を上げてきました。

コスト削減につながることは多いのですが、一方でサービス品質の低下による売上減少や、社員のストレスによる退職を招くリスクには要注意です。

垂直統合コストシナジー

仕入先や販売先など、ビジネスの上流・下流を買収することで、コストを下げるシナジー効果です。

横浜DeNAベイスターズは、2016年に本拠地の横浜スタジアムを買収しました。横浜スタジアムは使用料が非常に高くて、ベイスターズの利益を圧迫していたので、買収することでコストを下げるという経営戦略に出たわけです。

買収側からすれば、将来のコストをM&A対価として一括で払うわけですから、買収後に親子一体となってコスト削減や価値向上が伴わなければ、あまり意味のないシナジーではあります。

税金シナジー(タックスシナジー)

のれんの節税効果や繰越欠損金の活用、合併による均等割の削減など、M&Aにより発生する節税効果に注目したシナジーです。

のれんの節税効果については、「M&A価格が1.5倍にも!驚きの【のれんの節税効果】徹底解説」をご覧ください。

3.財務シナジー

財務基盤が不安定な対象会社が、資金余力が潤沢な買い手企業の傘下に入ることで、増資などにより資金余力が改善し、無用な借入金利息などを発生させないことができるという効果です。

典型例が2016年の台湾ホンハイによるシャープの救済買収です。リストラなど経営の立て直しにも大きなお金がかかりますので、資本注入によってその資金を手当てし、事業の立て直しを支援します。

また、救済買収とは真逆のケースですが、急激な成長期の会社が投資のチャンスを逃さないために、資本力のある買い手企業の傘下に入って資金を調達するケースもあります。

一方的シナジー効果の代表例ですが、中小企業M&Aでは結構意識されることの多いシナジー効果です。

4.信用力シナジー

こちらも一方的シナジーの代表例ですが、M&A対象会社が著名な大企業の傘下に入ることで、高いブランド力を手に入れ、営業のみならずリクルートや仕入先開拓などでメリットを生むシナジーです。

M&Aを公表するだけで、ある程度効果が出るのですが、その効果の規模を事前に予想しておくのが難しいシナジー効果でもあります。

大手企業の信用力

大手企業の傘下に入ることで、取引開始や人材採用がしやすくなるシナジー効果です。

同じ製品を作っていても、従業員数人の町工場では販路開拓が容易ではありませんが、ソニーの100%子会社であれば新規取引の引き合いが急増するでしょう。

ブランドの活用

有名なブランドを活用することで生まれるシナジー効果です。

楽天は、「楽天〇〇」という子会社をたくさん持っていますが、買収後に社名変更で楽天の名前を付けたものが多いです(例:楽天証券、楽天トラベル、楽天カード)。

なお、これは買い手企業のブランドを対象会社に付与するケースだけでなく、対象会社のブランドが買い手企業で使われることもあります。

5.無形資産の融合シナジー

ブランドや研究開発成果などを融合し、新しい価値を生み出すシナジーです。

ブランドの融合

2つの事業のブランドや屋号・商号を融合し、両社のイメージを引き継ぎつつ、新しいブランドを生み出すシナジー効果です。

ソフトバンクは2012年にイー・アクセスを買収し、ブランドを「イー・モバイル」から「ワイモバイル」に変更しました。旧ブランドの雰囲気を残しつつ、Yahoo!のブランド力も付加する試みであったと思われます。

日本電産は、買収後に赤字を脱却した際には、会社名を「日本電産+旧社名」に変更します(例:コパル→日本電産コパル)。旧社名を活かしつつ、世界で通用する「日本電産」ブランドを付与しています。

研究開発の成果の融合

往々にして巨額買収になりやすい製薬会社のM&Aで登場するシナジー効果です。

投資額が大きい一方で、成果が生まれるかどうか不透明な製薬事業では、研究開発の失敗が命取りになりかねません。M&Aによって他社の研究開発成果を取り込むことで成功率を上げたり、複数の研究開発を並行させてリスク分散を図ります。

市場シェアの融合による寡占の強化

近年普及している「QR決済」は、市場の占有が不可欠な産業であり、各社大きな赤字を生み出しながらユーザー拡大を図っています。現在「100億円あげちゃうキャンペーン」を打ち出したソフトバンクのPayPayが一歩リードしています。

ソフトバンクはさらに2021年にLINEを傘下に入れました。これにより、LINE Payも取込み、更なる市場シェアの拡大を図っています。

これは単にPayPayとLINE Payのシェアが足し算されるだけではなく、1位の座を不動のものにして覇権を確実なものにするという「掛け算的価値の向上」が期待できるシナジーです。

6.負のシナジー(ディスシナジー、アナジー)

負のシナジー(ディスシナジー、アナジー)とは、2つの会社が合わさることでマイナスの効果を生んでしまうことです。

大手A社の傘下に入ってしまうことで、そのライバル会社であるB社との取引がなくなってしまったり、大手傘下というだけで家賃の値上げ交渉を受けたり、行政支援が制限されたりすることがあります。

シナジーを考えるときは、その反作用としての負のシナジーも考えておくべきでしょう。

シナジー効果の実現可能性

シナジー効果の実現性には濃淡があります。シナジーを考えるうえでは、その実現可能性についてもよく考えておくべきでしょう。

比較的実現しやすいシナジー効果

自社内の判断・努力だけで実現できるシナジー効果は、比較的実現しやすい部類に入ります。

共通化コストシナジーと財務シナジーは比較的実現しやすいシナジー効果に該当します。これらは会社内部のことであり、経営者の決断と現場の努力でほとんど効果を生むことができてしまうからです。

タックスシナジーも基本的には、ルールを充足していれば実現できるシナジー効果ですが、「節税策」の内容によっては税務否認を受けてしまうリスクがあります。

やや実現しやすいシナジー効果

事業コストシナジーは、仕入先など外部との交渉が入るため確実ではありませんが、やや実現しやすいシナジー効果になります。

相当な努力が必要なシナジー効果

かなり難しいのが、収益シナジーを実現させることです。

収益シナジーを確実に取りにいきたいなら、M&A公表直後に「事業統合本部」を発足し、経営トップがM&Aで実現すべき収益シナジーとその目的を語り、全社一丸となって組織的にシナジー実現に邁進する必要があります。

それでも、商売とは思い通りにいかないもので、想定外のことが連発します。柔軟に軌道修正しながら、何年かけてでも実現させていくという覚悟が必要です。

コントロール困難なシナジー効果

信用力シナジーや無形資産の融合は、不特定多数の人がぼんやり持っている観念に訴えるものですので、この効果や実現時期をコントロールすることは困難です。

しかし、中小企業M&Aでは特に大きな効果が出ることのあるシナジー効果ですので、決して軽視できない悩ましさもあります。

ディスシナジーに注意しながら、少しでもプラスに働く組織体制を作っていくことが重要です。

シナジー効果とM&A価格

このようなシナジー効果は、買い手にとってM&Aの価値を引き上げる効果を持っています。では、この価値上昇効果はどのようにM&A価格(対象会社の株価)に織り込まれていくのでしょうか。これは売り手オーナーにとって他人事ではない問題ですので、その仕組みを確認しておきましょう。

シナジー効果はM&A価格に反映されない???

シナジー効果は、M&A後に買い手企業と対象会社の努力で実現するものです。売り手オーナーはせいぜい部分的に手伝うぐらいですので、本来シナジーの成果を価格に織り込んで売り手に還元する必然性はありません。

そのため、公認会計士など第三者機関に「理論上適正な企業価値評価」を依頼すると、シナジー効果抜きの評価値が出てきます。

しかし、だからといって買い手がシナジー抜きの株式価値(理論上適正な評価額)で入札してしまうと、シナジーを織り込んできた他の買い手候補に案件を奪われることは目に見えています。

したがって、本来誰がシナジー効果を享受すべきか?なんて机上の空論であって、実際にはその一部がM&A価格に上乗せされ、売り手に還元されることになります。

M&A価格は公認会計士の企業価値評価によって決まるものではありません。詳しくは前掲の「セラーズバリューとバイヤーズバリュー/価格が決まる唯一の仕組み」をご覧ください。

M&A価格は買い手の主観で決まる

もちろん、だからといってシナジー効果のすべてがM&A価格に反映されるわけではありません。それでは買い手が一方的に損をするだけです。売り手に還元されるのはそのうちの一部だけです。

では、その一部とはどの程度でしょうか。どの程度が売り手に還元され、どの程度が買い手が確保するシナジー効果でしょうか。

結局、そんな基準は存在しません。M&A価格は買い手の主観で決まるため、どの程度シナジー効果を分け与えるかも、同じく主観で決まります。

ただ、競争入札である以上、買い手も「最低限このぐらいは出さなければ勝てない」という意識はあります。その線引きは、シナジー効果の実現可能性で判断されることが多いです。

シナジーの受け取り手の線引き=シナジーの実現可能性

これはどういうことかというと、確実性の高いシナジー効果はM&A価格に反映させ、難易度の高いシナジー効果は全面的に買い手が享受するという線引きの方法です。

比較的実現が簡単なシナジー(共通化コストシナジー、財務シナジー、税金シナジー)は、特に大きな努力なくある程度の成果が見込めますので、これは売り手に還元、つまり価格に織り込みます。これにより、入札でライバルに負けない金額水準を確保します。

一方、実現が大変で不確実な収益シナジーや信用力シナジーはM&Aのボーナスのようなものと考え、価格には織り込みません。買い手は実現ができればしっかり利益を確保できますし、残念ながら失敗しても大きな損失にはならないようにしておきます。

その中間である事業コストシナジーは、確実性が高いものなら織り込み、低いものなら織り込まないという対応がなされます。

シナジー効果と入札戦略

以上のように、シナジー効果は実現可能性の高いものからM&A価格に織り込まれていきますが、どの程度の実現可能性まで盛り込むかといった確率の見積りや、個々のシナジーがどの程度の経済効果を与えるかといった金額の見積りは、結局のところ買い手が主観的に判断します。

シナジー効果は入札額を決める重要な要素であることは間違いありませんが、シナジーをどう評価するかは、買い手経営者の胆力で決まるということです。

シナジー効果を入札額に織り込ませるための売り手の戦略

以上のことから、売り手がシナジー効果を入札額に織り込ませ、M&A価格を引き上げるための価格引き上げ戦略が見えてきます。

すなわち、多くの買い手候補にシナジー効果の実現可能性が高いと理解させ、またその金額を確度高く見積らせることができれば、買い手はシナジー効果を入札価格に織り込んでくれます。そのようなシナジー効果は織り込んでおかないと、入札でライバルに差を付けられてしまうからです。

そこで、インフォメーションメモランダムには、買い手候補がシナジー効果を自信を持って見積れる情報を載せておきましょう。詳細で確度の高い情報を出せば出すほど、買い手は高値を出しやすくなります。

インフォメーションメモランダムについては、「M&A売価に3倍差が付くインフォメーションメモランダムの記載内容」をご覧ください。

ただし、インフォメーションメモランダムの記載を無理によく見せようとしても無駄です。入札後にデューデリジェンスが待っていますので、そこで買い手主導で価格が修正されてしまいます。正しい情報を出さなければ、競争入札に意味はありません。

おわりに

今回は、シナジー効果についての詳細な解説と、これがM&A価格にどのように反映されるのか、うまく反映させるための売り手のテクニックについてご紹介しました。

シナジー効果はM&Aの華ですが、口で言うほど簡単なものではありません。買い手は過度に期待して高値づかみすることは避けなければならない一方、過小評価して入札を逃さないようにしましょう。

一方の売り手は、上記で紹介したように、インフォメーションメモランダムを利用して買い手候補に正しく情報を伝え、彼らがうまく入札価格に反映してくれるよう立ち回りましょう。