M&Aについて、体系的な基本知識を大掴みに学びたいと思われていますか?
最近は書店で、M&Aや事業承継の本がたくさん置いてあります。片っ端から読むにはとても時間がかかりますし、そもそも自分に合った本なのか、ちょっと立ち読みしただけではよくわかりませんよね。
そこで、これまで初心者向けから玄人向けまで数十冊と読み、売り手側、買い手側それぞれの立場でM&Aを実践してきた私が、初心者の方に本当に役立つオススメの本を、わかりやすさ最優先で厳選紹介します!
- 売り手が大満足のM&Aを実現するために最初に読むべき3冊
- 買い手がM&Aで企業の成長を実現する基盤となる4冊
今回、本当に役に立つ本を最短距離で選んでいただくために、以下の基準で厳選に厳選を重ねました。
- 初心者にも読みやすく、わかりやすい
- 教科書的な解説に終わらず、現場経験に根差した「M&Aの本質」を抑えている
- 具体的な記述で、実践的な行動に落とし込める内容である
- 弊社の無料相談にいらした方にも評判が良かった
- 初心者だったころの自分が読んで感激した、人生が変わるほど影響を受けた
それぞれ、私がその本をチョイスした理由も詳しく説明していますので、本を選ばれる際には大いに参考になるでしょう。
また、今回は「初心者向け」として可能な限り絞り込んでいるため、惜しくも選外となった名著もたくさんあります。最後にそれらも補足の形で紹介していきましょう。オススメの小説作品もご紹介します。
この記事をしっかりご覧いただければ、あなたの人生を変える素晴らしい本に出会うことができます。ぜひ最後までお読みください。
なお、本記事でご紹介する書籍の中には、部分的に私と異なる見解を述べられているものもあります。弊社として、ご紹介する著書の主張を全面的に肯定するものではない点にご留意ください。
本記事でオススメするM&Aの本の一覧
まずは、本記事でご紹介する本を一覧にします。書名をクリックで記事の該当箇所にジャンプできますので、もう1つの目次として使ってください。
売り手にオススメのM&A本3選
中小企業M&Aをご検討中のすべての売り手にまず読んでほしい『売主がM&Aを成功させるポイントがすべてわかる本』と、重要な各論をより深く論じている書籍2冊をご紹介します。
書名 | 短評 |
売主がM&Aを成功させるポイントがすべてわかる本 | M&Aの基礎知識全般を広く深く解説。 M&Aを「成功」に導く入門書の決定版!とにかくまず最初に読んでほしい! |
損をしない会社売却の教科書 | M&Aプロセスごとの「業者の使い方」に特化して解説したわかりやすい実践書。 |
あなたの会社は高く売れます | 売り手が高く売るために必要な方法論を事例も交えながら解説した本。自社の強みを分析して高値を引き出す具体的ノウハウが役に立つ。 |
買い手にオススメのM&A本4選
M&Aプロセス全体を広く浅く学べる本を1冊、読みやすさ・わかりやすさ優先で厳選しました(絞り込みには苦労しました)。
加えて、M&Aを成功させるために不可欠な、値決め、PMI、デューデリジェンスという3分野の名著を1冊ずつご紹介します。
書名 | 短評 |
この1冊でわかる!M&A実務のプロセスとポイント | M&Aプロセスの流れや各プロセスの内容を広く浅く紹介した本。買収プロセスの基礎を体系的に学べる1番読みやすい入門書。 |
高値づかみをしないM&A-成功するプライシングの秘訣 | M&Aの「プライシング」の仕組みや企業価値評価の正しい使い方を紹介。値決めの本質がとてもわかりやすく論理的に解説されている。 |
ポストM&A成功戦略 | PMI(買収後の統合作業)の方法論を述べた本。現場感にあふれた考え方や具体的な作業を詳しく解説。 |
M&Aを成功に導くビジネスデューデリジェンスの実務 | デューデリジェンスを実施する際の基本的考え方から具体的作業、そしてM&Aの成功に役立てるフィードバックまで網羅して解説。デューデリジェンスという切り口でM&Aの必勝法を提案する名著。私の人生を変えた1冊。 |
泣く泣く選外となった9冊は記事の最後に紹介!
今回は初心者の方が迷わないよう、可能な限り絞り込んでご紹介しています。そのため、断腸の思いで選外にした本がたくさんあります。
- 買い手担当者に次に読んでほしい踏み込んだ2冊
- 企業価値、会計、税務、法務の4つの専門分野を学べる各1冊
- コーヒーブレイクに最適なM&Aの小説3作品
そんな惜しくも漏れてしまった本を9冊、この記事の最後にまとめて消化しています。該当箇所には以下のリンクからジャンプできますので、こちらもご覧ください。
では、次の章からオススメ本を詳しく紹介していきましょう。
売り手向け① M&Aを「成功」させるコツが一番わかりやすく学べる本
まず、売り手向けの3冊をご紹介しましょう。
最初にご紹介するのは、初心者がM&Aを「成功」させるために必要なコツが一番わかりやすく学べる「売主がM&Aを成功させるポイントがすべてわかる本」です。
タイトル | 売主がM&Aを成功させるポイントがすべてわかる本 |
著者 | 株式会社STRコンサルティング |
定価 | Webサイトにて無料ダウンロード |
ページ数 | 104頁 |
短評 | M&Aを「成功」に導く入門書の決定版! |
最初に断っておきますが、私が書いた本です。
手前味噌ではありますが、「初心者の売り手向け」という括りにおいては、世の中のどの本よりも良書だと確信しています。実際、非常に高評価をいただいています。
- 色々読んできたが、一番わかりやすかった
- 重要なポイントが具体的に書かれていてすごく実践しやすいと感じた
- 無料とはとても思えない文章量で驚いた
- 簡潔な文章ながら、すごく本質的な解説だと感じた
といった感想を実際にお寄せいただいています。
あなただけのM&Aの「成功」を目指すための本
本書の大きな特徴は、M&Aの「成立」ではなく「成功」のために何をすべきか、その具体的な行動について、理由を明確にしながら詳しく実践的に解説していることです。
多くのM&A入門書は、M&Aで実施されるプロセスや専門用語の意味、中小企業M&Aの業界動向などを、一般論ベースで「紹介」しているに過ぎません。そういった本を何冊読んでも、「M&A事情に詳しい人」にはなれますが、「M&Aに成功した人」にはなれないのです。
本書は、
- 自分だけのM&Aのゴールを明確に定める具体的な方法
- 各M&Aプロセスで自分が目指すゴールを見失わないためのコツ
- 初心者が失敗を防ぐために、中小企業M&A業界に気を付けるべきこと
といった、大満足のM&Aを実現するための実践的なコツにフォーカスを当てています。本書をお手元に置いて定期的に読み返すだけで、必ずM&Aの成功率は跳ね上がると断言できます。
本書を読むと実現できる5つのこと
本書を最後まで読んでいただければ、誰でも以下の5つの知識と知恵が身に付きます。
- 情報弱者として悪質なM&A業者に騙されない基礎知識
- 自社にとって最良の後継者を選び出すノウハウ
- M&A価格を最大化するためのテクニック
- 自分に最適なM&Aスキームを選び出す考え方
- M&Aの失敗を徹底的に予防する知恵
いずれも、M&Aの成功のためには必要不可欠なものです。これをわずか104頁で一気に習得していくことが可能です。
「M&A初心者にもわかりやすく、実行しやすく」を意識して制作
本書を書くにあたっては、「わかりやすく、実行しやすく」を意識しています。
具体的には以下の点を特に追求しました。
- 記述については理由や根拠を必ず示し、読者の「本質的理解」を高める
- 簡単に実行に移せるよう具体的な行動を提案する
- 専門用語は本当に重要なものに限定し、用語で惑わせることのないようにする
- すっきりしたデザインと大きな文字で読みやすくする
これらの点も、他のM&A本にはない大きな強みだと自負しています。
売り手のM&A入門書はこれで決まり!
売り手がM&Aのイロハから知りたい場合は、ぜひ本書をお試しください。M&Aの基本をすべて詰め込んだ本が、以下から無料でダウンロードできます。
必ずお役に立つことをお約束しますので、ぜひ印刷してお手元に携帯していただきたいと思います。
売り手向け② M&A業者の適切な使い方が具体的に学べる本
次にご紹介するのは、中小企業M&Aを仕切るM&A業者にフォーカスした売り手向け入門書です。
タイトル | 損をしない会社売却の教科書 |
著者 | 江野澤哲也 |
出版社 | ビジネス社 |
定価 | 1,400円+税 |
ページ数 | 223頁 |
短評 | M&A業者の使い方にフォーカスしたわかりやすい実践書 |
中小企業M&A業界の実情や問題点、M&Aプロセスの進め方等を説明しながら、「中小企業M&Aは仲介ではなくFA(ファイナンシャルアドバイザー/売り手の代理人)を使うべきで、相対交渉ではなく入札で進めるべき」という明確な主張を展開している本です(著者はFAの方です)。
論拠が明確で文章もわかりやすい!
FAの方がFAの有用性を詳述している本ですので、もちろん宣伝の要素は大いにあります。
しかし、本書が凡百な宣伝本と一線を画しているのが、文章構成が非常にわかりやすく、論拠も明確で説得力があること。M&Aという取引に不慣れな方であっても、割とスイスイ読み進められると思います。
この本は私が上述の『売主がM&Aを成功させるポイントがすべてわかる本』を書く際にも大いに参考にさせていただきました。
M&A業者をうまく利用するために一読の価値あり
M&A業者としてFAを選ぶか仲介を選ぶかはともかく、M&A業者をうまく利用したいなら、ぜひ本書に目を通していただきたいと思います。
中小企業M&Aは、ほとんどの場合で売り手は初心者・情報弱者です。そのため、適切な知識を身に付けて、業者に利用されるのではなく、彼らをうまく利用する立場にならなければいけません。
本書は、「M&A業界の裏事情」と「業者を正しく選び、活用するテクニック」が具体的に記載されています。「賢い顧客」になりたいなら、大いに役に立つ本でしょう。
売り手向け③ 高く売りたいならぜひ読んでほしいアイデア本
売り手にオススメしたい本の3つめは、『あなたの会社は高く売れます』です。「少しでも高く売りたい」とお考えなら、ぜひご一読ください。
タイトル | あなたの会社は高く売れます 小さな会社のM&A戦略 |
著者 | 岡本行生 |
出版社 | ダイヤモンド社 |
定価 | 1,800円+税 |
ページ数 | 408頁 |
短評 | 自社の強み/弱みを分析して高値を引き出す具体的テクニックを解説 |
私が書店でこの扇動的なタイトルを見たときは「如何にもM&A業者が付けたタイトルだなぁ」と感じたのですが、その内容はすごく本質的かつ実用的で驚きました。
高値を生み出す考え方が身に付く
この本のすごいところは、高値に結び付く自社分析やアイデア出しのノウハウがかなり具体的に紹介されていることです。
M&Aで高値を引き出すには、何よりも「高く評価してもらえるポイントを探し、高く評価してくれる買い手に売り込む」ことが大切です。しかし、意外と多くの中小企業経営者が、自社の強みや弱みを適切に分析できていません。
実際に、弊社にご相談にいらっしゃる売り手さんも、すごくわかりやすい経営資源を持っているのに過小評価していたり、誤った方向性で魅力を押し出そうとしていることが少なくありません。
この本を読んでいただければ、ご自身ではなかなか気付かなかった自社の魅力を洗い出し、高く売る戦略が立てやすくなるでしょう。
時間がないなら第3章だけでも読んでほしい
この本は400頁を超えますので、少々読むのに時間がかかります。お忙しくて途中で投げ出したくなってしまっても、ぜひ第3章「あなたの会社の『強み』をあぶり出す小さくても高く売れる重要ポイント」だけは読んでほしいと思っています。
この章では、会社の強みやセールスポイントを抽出する際の6つの着眼点を紹介しています。
- 取引先
- 顧客
- ヒト
- シェア
- 特許・技術・情報
- とんがり
上記はアイデア出しのフレームワークとして非常に有効で、私もコンサル時には(若干改良して)使用させていただいています。ぜひこの章だけでもしっかり読んでいただき、自社の強み・セールスポイントをご検討いただければと思います。
買い手向け① 1番読みやすい買い手向けM&A入門書
では次に、買い手向けのオススメ本を紹介していきましょう。買い手向けの入門書はどれを選ぶか悩みましたが、『この1冊でわかる!M&A実務のプロセスとポイント』をおすすめしたいと思います。
大前研一氏の帯が目を引きますね(大前氏は関係ないので悪しからず)。
タイトル | この1冊でわかる!M&A実務のプロセスとポイント |
著者 | 大原達朗、松原良太、早嶋聡史 |
出版社 | 中央経済社 |
定価 | 2,400円+税 |
ページ数 | 216頁 |
短評 | 買収プロセスの基礎を体系的に学べる1番読みやすい入門書 |
1番スイスイ読めて基礎が学べる本
この本を選んだ最大の理由は「読みやすさ」です。
M&Aプロセスの全体像や各プロセスの内容を、短時間で一気に読み切ることができるという点では最良の入門書だと思います。
買い手向けの入門書を1冊に厳選するに際して、後述する次点の章で紹介する『最新M&A実務のすべて』とどちらがよいか悩んだのですが、「初心者向けでわかりやすさ最優先」ということで本書を選びました。
サクッと一読して全体像を把握しよう
よくできた本ですが、上記の『最新M&A実務のすべて』や、後述する専門分野に特化した本に比べると、論点の掘り下げがされているわけではありません。
そのため、まず一読し、M&Aの全体像を大枠で掴むための本としてご活用ください。
次章以降で紹介する買い手向け本②~④は、企業買収を成功させる上での重要論点を深く掘り下げた本であり、本当に熟読してほしいのはそちらになります。本書でM&Aの基礎を学び、そこから各論の本に進んでいきましょう。
その目的意識を持って読む上では、スイスイ読める本書は非常に有用です。
買い手向け② M&A価格の本質がスッキリわかる本
買い手にとって、M&Aが成功か失敗かを左右する非常に大きな意思決定が値決め(プライシング)です。値決めに関与するのであれば、まずは『高値づかみをしないM&A-成功するプライシングの秘訣』を熟読することを強く強く推奨します!
タイトル | 高値づかみをしないM&A-成功するプライシングの秘訣 |
編者 | アビームM&Aコンサルティング |
出版社 | 中央経済社 |
定価 | 1,800円+税 |
ページ数 | 141頁 |
短評 | M&Aの値決めの本質がとてもわかりやすく論理的に解説されている |
本書はAmazonでは新品の取り扱いがなく、もしかしたら絶版かもしれません。しかし本当に良い本ですので、買い手企業のM&A担当者なら、中古や図書館などを活用して絶対に読んでいただきたいと思います。
M&A価格が決まる仕組みと高値づかみを防ぐノウハウを紹介
本書は「M&A価格はどのように決まるか?」という疑問に対し、非常に理解しやすい説明によって初心者でもわかりやすく解説してくれます。
そして、買収M&Aの典型的失敗である「高値づかみ」を防ぐためにはどうすればいいか、1つのスタンダードを提案しています。
そのスタンダードをすべての買い手企業が真似できるわけではないのですが、その説明はとても本質的なので、重要な部分をできる範囲で取り入れるだけで、高値づかみのリスクは大幅に減っていくでしょう。
「M&A価格は買い手の主観で決まる」は本書の要約
当サイトでは、「M&A価格は買い手の主観で決まる」という言葉を多用しています(たとえば「M&A価格はどう決まる?価格相場の調べ方と高く売る3つのコツ」という記事)。この言葉の基盤にあるのは、他でもない本書で丁寧に解説されているプライシングの基礎理論です。
私の解説が下手なため、「M&A価格が主観で決まる?そんなはずはないだろう」と思われた方がいらっしゃったら、是が非でも本書をご一読ください。M&Aのプライシングの真実が、非常にわかりやすい文章で論理的に解説されています。
M&A初心者だった私が大きな衝撃を受けた本
私は買い手企業の担当者としてM&Aのキャリアを積みましたが、まだ初心者のころには、
どの専門書にも「M&A価格は企業価値評価の結果から決まる」と書いてあるのに、実際にはそれでは入札負けしてしまうではないか!
という疑問を抱えていました。今考えたら赤面ものの勘違いですが、真面目に企業価値を計算した自分たちが良い会社を買えず、それよりもなぜか高い価格を提示した競合他社が買収に成功していることに、大きな不満があったのです。
そんな私の不満や疑問に対して、とても平易な文章で、しかもロジカルに答えを提示してくれたのが本書でした。本当に大きな衝撃を受けたことを覚えています。
企業価値評価の専門書10冊に勝るM&A入門書!
本書はとてもわかりやすく、M&A初心者でも読みやすい入門書の1つです。しかし、買い手にとって本書の価値は、専門家向けの企業価値評価の専門書10冊にも勝ると言えます。
もしあなたがバリュエーションの専門家ではなく、M&Aで企業を成長させる優秀な買い手担当者になりたいのであれば、価格に関しては本書さえ読めば9割マスターと言ってもいいでしょう(残りの1割は後述する『図解でわかる企業価値評価のすべて』で補ってください)。
数々のM&A本を読んできましたが、ここまでM&A価格の本質を平易な文章でロジカルに解説した作品を私は知りません。もはや芸術の域ですので、なんとしても読んでいただきたいと強く思います。
買い手向け③ PMIのノウハウを体系的に解説した実用書
「M&Aは買った後が本番」という言葉は、すべての買い手に肝に銘じていただきたいM&Aの本質の1つです。その「買った後」の成功ノウハウが詰まっているのが、『ポストM&A成功戦略』です。
タイトル | ポストM&A成功戦略 |
著者 | 松江英夫 |
出版社 | ダイヤモンド社 |
定価 | 2,800円+税 |
ページ数 | 322頁 |
短評 | PMI(買収後の統合作業)の考え方や具体的な作業を詳しく解説 |
事業会社内部のウェットな部分も含めて徹底解説
筆者はトーマツのコンサルタントなのですが、本書はPMI(ポストM&A/買収後に買い手が行う組織統合の取組み)という事業会社の内部的な問題に向き合っている本です。
この本では、
- 買い手企業内部にありがちな人間関係の調整
- 対象会社のプロパー社員の感情面の配慮
といったウェットな部分もしっかり抑えながら、
- PMIに取り組むプロジェクトチーム設計
- ロケットスタートのためにM&Aの成立日までに行う準備
- シナジー効果を追求する取組みのポイント
- 人材流出を防ぐリテンションの方法
などの、PMI設計に不可欠な論点を具体的に提案しています。
PMIに不可欠な着眼点を、余すところなく体系的にまとめあげた本ですので、実務において重要な指針を示してくれるでしょう。
組織内部の担当者にこそ読んでほしい一冊
本書はM&Aの外部プロフェッショナルよりも、買い手企業内部で組織調整も含めてPMIの旗振り役を務める経営企画や社長室といった方に読んでほしい一冊です。
コンサルタントが書いた本ならではの読みづらさは多少あるかもしれませんが、それを補って余りある収穫がお約束できます。
実は、次にご紹介する『M&Aを成功に導くビジネスデューデリジェンスの実務』の前提知識づくりとしても非常に役立つ本ですので、できれば早い段階で読んでいただきたいと思います。
買い手向け④ 企業買収成功ノウハウがすべて詰まった傑作本
買い手向けとして最後にご紹介するのが、『M&Aを成功に導くビジネスデューデリジェンスの実務』です。
文字通りデューデリジェンスをテーマとした専門書ですが、入門書並みに読みやすいですし、何よりも買い手企業が知るべき買収成功ノウハウがぎっしりと詰まっています。
タイトル | M&Aを成功に導くビジネスデューデリジェンスの実務 |
編者 | PwCアドバイザリー合同会社 |
出版社 | 中央経済社 |
定価 | 4,800円+税 |
ページ数 | 600頁 |
短評 | デューデリジェンスという切り口でM&Aの必勝法を提案する名著。私の人生を変えた1冊 |
600頁と長い本ではありますが、ぜひ「はじめに」から全部読んでいただきたいと思います。
買収を成功させるためのデューデリジェンスの方法が全部書いてある
本書は「M&Aを成功に導く」とタイトルに冠しているとおり、「どのようなデューデリジェンスをすれば買収の成功に直結するか」という観点から記載されています。
買収M&Aの成否は「価格」と「PMI」の2点によるところが非常に多いのですが、本書ではデューデリジェンスを
- 価格設定の妥当性・回収可能性をチェックする調査
- PMIの目標やアクションプランを策定するための調査
として捉えています。
つまり、「デューデリジェンス」という切り口ではありますが、本書は「価格」や「PMI」といった重要課題に対して、M&Aを成功させる具体的なノウハウやテクニックを丁寧に解説した本なのです。
デューデリジェンスの具体的な作業から活用方法まで丸わかり
本書の内容を大きく3つに分類すると、
- デューデリジェンスによって明らかにすべきこと
- そのために実際に行うべきデューデリジェンスの作業内容
- デューデリジェンスで明らかになったことをM&Aにどう活かせばよいか
という3つのポイントが挙げられます。これらを、わかりやすい順番で再構成しながら丁寧に解説していきます。
デューデリジェンスの本質的な目的・役割をしっかり身に付け、書かれている内容を真似するように実践でき、そしてその結果を遺憾なく「M&Aの成功」に結び付けるノウハウが理解できます。
まさに「買収前に行うべき事業調査のすべてが丸わかり」という内容になっています。
現実を理想に近づける「M&Aの必勝法」が身に付く
私が買い手向け4冊のうち、この本を最後にご紹介する理由は、他の3冊で買収M&Aにおける本質的な課題を学習していただいた後で読んでいただくことが最良と思うからです。
上記3冊を読んでいただければ、
- M&Aプロセスの全体像
- その中で特に注力すべきポイント
- 特に重要な「価格」と「PMI」における1つの理想形
まではよくわかるでしょう。
あとは、現実を理想形に近づけていくノウハウが必要ですが、その答えを提供してくれるのが本書です。
デューデリジェンスによって、仮説を検証し、理想と現実の差を埋めていく方法が、具体的な作業内容を踏まえて事細かに記述されています。まさにM&Aの必勝法が書かれた虎の巻と言ってもいいと思います。
このサイトの「買収M&A成功のカナメ!デューデリジェンスのタスク5選とコツ7選」という記事は、本書を強く意識して書いているのですが、せいぜいエッセンスを紹介するに留まっています。より具体的テクニックを知りたい方は、ぜひ本書をご覧ください。
私の人生を変えた1冊
最後に、ちょっと大げさかもしれませんが、本書は私の人生を変えた本の1つです。
私が独立会計士として今の仕事をしているのは、買い手企業のM&A担当者時代に、買収M&Aで成功体験を積んできたおかげです。
多少は自分での試行錯誤もありましたが、成功体験の礎になったのは紛れもなく本書です。本書を真似しながらM&Aの成功ポイントを自分自身でも考えることで、ノウハウを習得していくことができました。
そのため、過去の私のような買い手企業のM&A担当者の方には、ぜひとも本書を読んでスキルアップしていただきたいと思っています。
(おまけ)できれば一緒に読んでほしい良書9選
今回は、なるべく少ない冊数を厳選しておすすめしようと思ったため、相当絞り込んでしまいました。本当はもっと紹介したい本も山ほどあるのですが、初心者向けではない本やマニアックな本は選外にしています。
以下では、そんな断腸の思いで選外にした9冊を、簡単にご紹介します。いずれも本当に良書ですので、特に買い手企業のM&A担当の方は、興味が湧いたものを手に取っていただければと思います。
より踏み込んだ買い手向けの概論2冊
M&Aに関する専門分野の入門書4冊
コーヒーブレイクに最適なM&Aを題材にした小説3作品
では、それぞれ簡単に紹介していきましょう。
ちょっと難しいけど読んでほしい買い手向けのM&A概論2冊
まずはM&Aを全般的に解説した2冊をご紹介しましょう。基本的には買い手企業のM&A担当者向けの本になります。
3歩踏み込んだM&A入門書
まず、買い手向け入門書を1冊に絞り込む際、上述の『この1冊でわかる!M&A実務のプロセスとポイント』と最後まで争ったのが、『最新M&A実務のすべて』です。
タイトル | 最新M&A実務のすべて |
著者 | 北地達明、北爪雅彦、松下欣親 |
出版社 | 日本実業出版社 |
定価 | 3,000円+税 |
ページ数 | 432頁 |
短評 | 初心者を脱却する3歩踏み込んだ入門書 |
M&Aの全体像を体系的に記した本ですが、『この1冊でわかる~』よりも1つひとつのプロセスや論点が細かく解説されています。また、法務、会計、税務とった専門分野の踏み込みも深く、その分野の基礎知識がしっかり身に付く本です。
ただ、『この1冊でわかる~』のほうが、遥かに文章も平易ですし、字も大きくて読みやすく、内容も広く浅くをコンパクトにまとめています。そのため、泣く泣く初心者向けとしては次点にしました。
しかし、内容の濃厚さを考慮すれば比較的読みやすい(少なくとも次に紹介する本よりは)ので、『この1冊でわかる~』が物足りない方はぜひとも読んでみてください。
テクニックの中から企業買収のコツと心構えが読み取れる必読書
もう1冊ご紹介したいのが、「正直読みづらいけど、買い手企業のM&A担当者には必読」とも言える『企業内プロフェッショナルのためのM&Aの技術』です。ぜひ襟を正して読んでみてください。
タイトル | 企業内プロフェッショナルのためのM&Aの技術 |
著者 | 四方藤治 |
出版社 | 中央経済社 |
定価 | 2,800円+税 |
ページ数 | 279頁 |
短評 | M&Aという手段で「企業全体を成長させるため」のノウハウが書かれた買い手必読の書 |
ほとんどM&A本は、FAなどの外部コンサルタントが著述しており、「本来こうあるべき」という理論理屈に偏っているものが少なくありません。これに比べて、本書は日産自動車でM&Aを担当した「M&Aの当事者本人」が書いた本です。
そのため、「外部コンサルタントが言っている言葉をどう捉えるか」にまで踏み込んでM&Aを解説しています。多くの本が「サービスを提供する側の論理」で解説しているのに対し、本書は「サービスを受けながらM&Aを成功に着地させ、企業の成長につなげる技術や考え方」を述べているのです。
ただ、惜しむらくは言葉遣いや文章構成が独特で、読みづらい本でもあります。上記の初心者向けの本を消化した後、より企業買収の実務に踏み込みたいという方におすすめです。
M&Aに関する専門分野の入門書4選
買い手企業でM&Aの担当者として成長するためには、まずはプロセス全体、値決め、PMI、デューデリジェンスといった重要ポイントを抑えることが必要です。そのための基礎知識は買い手向けのオススメ4冊でしっかり身に付くでしょう。
しかし、M&A担当者として一人前になるためには、
- 企業価値評価(バリュエーション)
- 会計(結合分離会計)
- 税務(組織再編税制)
- 法務(契約書作成・チェック)
といった、より専門的な4分野についても、「専門家の言葉が理解できて、必要な質問ができる程度」には知識を身に付けていただきたいと思います。
そこで、中級者一歩手前の方向けに、上記4分野の良書を1冊ずつご紹介しましょう。
日本一わかりやすい企業価値評価(バリュエーション)の入門書
初心者の方に企業価値評価の本をご紹介する際、私は必ず『図解でわかる企業価値評価のすべて』を第一候補に挙げています。
タイトル | 図解でわかる企業価値評価のすべて |
著者 | KPMG FAS |
出版社 | 日本実業出版社 |
定価 | 2,000円+税 |
ページ数 | 206頁 |
短評 | 日本一わかりやすい企業価値評価の入門書 |
恐らくこの国には、本書以上にわかりやすい企業価値評価の本はありません。
どんなに「自分は数字に弱い」と思っている方でも、この本の第2章を読むだけで、必ず企業価値評価の基本が感覚的にイメージできると断言できます。
企業価値評価という分野のため、どうしても専門用語は出てきますが、それでもかなり丁寧に説明されています。
企業価値評価で飯を食うプロを目指すなら別ですが、彼らを雇って活用する側にいるならば、本書と『高値づかみをしないM&A-成功するプライシングの秘訣』の2冊を読めばもう十分です。
130の設例で解説するM&A・組織再編会計の事典
M&Aや組織再編を頻繁に行う上場企業の担当者であれば、ぜひ『図解+ケースでわかるM&A・組織再編の会計と税務』を手元に置いておきましょう。
タイトル | 図解+ケースでわかるM&A・組織再編の会計と税務 |
著者 | 小林正和 |
出版社 | 中央経済社 |
定価 | 6,400円+税 |
ページ数 | 624頁 |
短評 | 設例が130例!M&A・組織再編会計の事典となる624頁の大著 |
この本のすごいところは、設例がなんと130例もあることです。他の会計本とは別次元の設例数ですので、検討中のM&Aや組織再編を辞書的に探せば、簡単に会計処理の大枠が掴めます。
M&Aや組織再編の会計分野は「企業結合・事業分離会計」と呼ばれ、非常に難解なので、慣れないうちはこの本で会計処理を確認しながら会計・税務のインパクトを検討することをおすすめします。
税務面からM&A・組織再編スキームの組み方が学べる本
M&A・組織再編スキームを決める際には「税務」も非常に重要になります。税務面を踏まえたスキーム作りの参考になるのが、『M&A・組織再編スキーム 発想の着眼点50』です。
タイトル | M&A・組織再編スキーム 発想の着眼点50 |
著者 | 宮口徹 |
出版社 | 中央経済社 |
定価 | 3,000円+税 |
ページ数 | 276頁 |
短評 | M&Aや組織再編のスキーム選びを「税務」の観点からわかりやすく解説 |
本書は、まずM&Aや組織再編、グループ経営に関係する税制をざっと説明した後、実際に行われているスキームの税制面のメリット・デメリットを解説していきます。
設例は具体的で、たとえば「連結納税を適用している際の繰越欠損金の活用方法」や「SPCでの買収後に合併するメリット・デメリット比較」など、M&Aや組織再編の現場で実際に議論されるような内容になっています。
M&Aの本と言うよりも、グループ経営におけるテクニック集といった趣ですが、組織再編税制に関心のある方には非常に面白い本となっています。
中小企業M&Aにありがちな問題点と対応策を解説した本
中小企業のM&Aでは、大企業にはないルーズな法務問題が頻出します。これらの頻出課題に真正面から向き合った本が『中小企業買収の法務』です。
タイトル | 中小企業買収の法務 |
著者 | 柴田堅太郎 |
出版社 | 中央経済社 |
定価 | 3,400円+税 |
ページ数 | 300頁 |
短評 | 中小企業M&Aでありがちな法務上の論点やトラブルポイントを解説し、対策も提案 |
契約書の条項など、法務面での注意点を解説した本は少なくありませんが、「中小企業M&A」に特化しているのが本書の特長です。
たとえば、
- 株券発行会社なのに株券を発行したことがない場合はどうするか?
- 名義株主と連絡が取れない場合に懸念されるトラブルと対応策
- 不合理な融通を利かせている社長親族の会社との取引を解消する実務的な方法
など、かなり生々しいトラブル要因と対応ノウハウが満載です。
本書を一読しておくだけで、M&Aのトラブル対応力が格段にアップします。ぜひ読んでみてください。
M&A好きなら楽しめる小説作品3選
最後に余談として、M&Aを題材にした非常に面白い小説3作品をご紹介します。コーヒーブレイクには、これまでご紹介した知的好奇心をくすぐる本とは別に、スリルや感動を与えてくれる小説はいかがでしょうか。
「史上最大の敵対買収」の裏側を描くスリリングなノンフィクション!
最初にご紹介するのは、実際に行われた敵対買収の関係者を丹念に取材したルポタージュの傑作『野蛮な来訪者-RJRナビスコの陥落』です。
タイトル | 野蛮な来訪者-RJRナビスコの陥落 |
著者 | ブライアン・バロー、ジョン・ヘルヤー |
訳者 | 鈴木敦之 |
出版社 | 日本放送出版協会 |
定価 | 上巻2,800円+税、下巻2,800円+税 |
ページ数 | 上巻507頁、下巻500頁 |
短評 | 史上最大の敵対買収の舞台裏!実際に起こった超大型M&Aの当事者を丹念に取材したスリリングなノンフィクション |
本書は「史上最大のM&A」として有名な、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)によるRJRナビスコの買収劇を徹底的に取材したノンフィクションのルポタージュです。
空前の好景気に沸く1989年、当時全米有数のメガ企業だったRJRナビスコの自社TOBに乗じて、一獲千金を狙う金融プレーヤーたちが一斉に敵対買収へと動き出します。このしのぎあいの結果、実に250億ドルのLBOが成立し、この記録は未だに破られていません。
本書はRJRナビスコの内部にいた経営陣や、買収劇の勝者であるKKRメンバーだけでなく、彼らと死闘を演じた競争買収者も含め、幅広い関係者に取材し、世紀の敵対買収劇の裏側を多面的に描きあげた渾身の作品です(資金調達に失敗して全然戦えなかった人まで取材しています)。
今はわかりませんが、かつては「PEファンドに入社した新人が最初に渡される本」というぐらいの必読書でした。このスリリングな攻防は、金融の世界にいない方でも十分に楽しめると思いますので、ぜひ手に取ってみてください。
強欲がぶつかり合うド派手な買収劇!
M&Aに携わる人間のご多分に漏れず、私もハゲタカシリーズは好きなのですが、中でも一番のオススメがシリーズ4作目に当たる「グリード」です。
タイトル | グリード |
著者 | 真山仁 |
出版社 | 講談社 |
定価 | 上巻1,700円+税、下巻1,700円+税 |
ページ数 | 上巻378頁、下巻402頁 |
短評 | 欲望にまみれた資本市場で、米国の象徴企業を鷲津が奪い取る!ハゲタカシリーズでも特に派手な買収劇 |
ハゲタカシリーズは、初期の作品は主人公・鷲津政彦のキャラクターを楽しむ部分が強かったのですが、本作はシリーズでもっとも派手な敵対買収劇そのものの面白さが溢れた作品です。
日本人の鷲津が、時に敵対していた日本人キャラクターたちと(部分的に)協力しながら、米国の象徴的企業「アメリカン・ドリーム社」(エジソンが作ったという設定の架空の会社)を買収してしまうという、非常に痛快な舞台設定となっています。
途中で紹介されるトーマス・エジソンの逸話や、最終盤にはちょっとしたどんでん返しなど、胸のすくような感覚にもあふれた作品です。
なお、上述の「野蛮な来訪者」を先に読んでいると、多くの元ネタに気付いてニヤリとできるでしょう。
企業再生をテーマにした胸が熱くなるノンフィクション
最後にご紹介したいのが、潰れかけた会社を救済買収しては再生させ、「再建王」と呼ばれた実在の人物、坪内寿夫をモデルにした落合信彦の作品『戦い いまだ終らず』です。
タイトル | 戦い いまだ終らず |
著者 | 落合信彦 |
出版社 | 集英社 |
ページ数 | 488頁 |
短評 | 企業再生に懸ける経営者の信念と執念に胸が熱くなる「再建王」の一代記 |
シベリア抑留から生還した主人公・大宝米蔵は、抜群の商才で一大企業を作り上げます。そんな実績から、不況にあえいでいた造船所の救済買収を依頼され、次々に経営再建を果たしていきます。しかし、財界の重鎮から肝いりで押し付けられた佐賀野重工(モデルは佐世保重工業)の再建では、社内勢力から強烈な抵抗を受けてしまい・・・。
稀代のワンマン経営者が自信の信念を貫き、経営再建に奮闘する生き様を、落合信彦らしいハードボイルドな描写で描いていきます。一度でもPMIで苦労したことがあれば、米蔵の信念・執念には胸が熱くなること間違いなしの作品です。
なお、残念ながら絶版になっているようですので、中古または図書館で探してみてください。
おわりに
今回は、M&Aの初心者にぜひ読んでほしい売り手向け3冊、買い手向け4冊と、できれば一緒に読んでほしい9冊をご紹介しました。
おさらいとして、売り手向けのオススメ本は以下の3冊です。
次に、買い手向けのオススメ本は以下の4冊です。
いずれもM&Aの成功率を跳ね上げてくれる良書ですので、ぜひお手に取って読んでみてください!
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