中小企業経営者がM&Aについて相談する相手として、一番多いルートが「銀行」と「顧問税理士」です。多くの経営者にとって一番身近な経営コンサルタントだからでしょう。

ただ、残念ながら彼らの大半はM&Aなんてサッパリわかりません。最近は銀行でもM&Aの研修をしているようですが、ナマのM&Aを体験しなければ本当のところはわからないものです。

最近は名刺に「ナントカエキスパート」などと書いている銀行マンもいますが、あまり期待しないほうがいいでしょう。詳しくは「なぜ優秀なM&Aアドバイザーほど【資格】を名乗らないのか?」をご覧ください。

そのため、彼らが実際にM&Aの相談を受けたら、大半の案件はM&A仲介会社にご紹介されることになります。そのとき、当然ながらM&A仲介会社から紹介者に「紹介手数料」というバックマージンが還元されます

不動産でも紹介すると裏でお金が動きますので、この取引自体は何の問題もないのですが、気を付けるべきは相談している中小企業オーナーです。銀行や顧問税理士を信用して相談したのに、バックマージンが高いだけの質の悪いM&A仲介会社を紹介され、かなりの安値でM&Aさせられたという事例は枚挙に暇がありません。

そこで、そのような失敗をしないよう、M&Aの裏で動く紹介手数料の仕組みを知っておきましょう。

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M&Aの仲介業は「仕入の商売」

中小企業M&Aの業界人と話をすると、よく「仕入の商売」という表現がされます。仕入れる「商品」は、もちろん売買の対象会社です。

実は、仲介アドバイザーにとって、良い会社を「仕入れる」ことができれば、金額はともかく売買を成立させることは、そう難しくはありません。その業界の大手数社に持ち込むだけです。特別なルートも必要なく、電話帳に載っている代表番号に掛ければ十分です。

大手企業にとって、利益をちゃんと上げてくれる良い会社は喉から手が出るほどほしいものです。そのためM&A案件の話が来れば必ず担当者に回しますし、仲介会社が多少実力不足でも、買い手が仲介会社の代わりに頑張って売買成立までは持っていきます。(もちろん、買い手ペースで進む案件で売り手が得をすることはないですが)

M&Aを「仕入の商売」と表現する裏には、営業(売り手に最適な買い手を探すこと)や加工(売り手と買い手のために尽力すること)はそんなに重要なことではないという意味が込められているのかもしれません。

M&A仲介アドバイザーのビジネスモデルについて、より詳しくは「業者に騙される前に知っておきたいM&A仲介のビジネスモデル」をご覧ください。

紹介を集めるのが「仕入」の近道

そのため、M&A仲介会社は一生懸命売り案件を探しています。片っ端から電話をしたり、オフィス街を飛び込みで回ったり、手書きのお手紙を出したりしています。中には「嘘も方便」と思っているとしか考えられない手法を平気で使うM&A仲介会社もあります。

ただ、一番確率の高い「仕入」の手段が、銀行や顧問税理士からの紹介です。やはり最初にこれらの機関に相談する中小企業経営者は多いのです。

そのような状況ですから、仕入活動に熱心なM&A仲介会社が、紹介の獲得にお金を掛けないはずがありません。

M&Aの裏に熾烈な紹介獲得競争がある

では、初回を集めるためにM&A仲介会社はどのような努力をしているでしょうか。端的に言えば、紹介獲得でのツールが「紹介手数料」と「人脈」です。

紹介手数料の仕組み

紹介手数料は、売り手を仲介会社に紹介した人に、仲介会社から支払われます。原資は売り手と買い手が支払う仲介アドバイザー報酬です(下図)。

紹介手数料の仕組み

紹介手数料の水準

紹介手数料の水準は仲介会社ごと、紹介者ごとにバラバラです。

M&A仲介会社が売り手側から受け取る報酬の〇%という設定が多いのですが、このパーセンテージもバラバラですし、そもそも成功報酬自体がM&A仲介会社ごとに設定がバラバラですので、一概には言えません。

M&Aアドバイザーの報酬については、「レーマン方式って何?M&Aアドバイザー・仲介会社の報酬の仕組み」にて詳しく記載しています。

紹介手数料という経営努力

なぜ各社バラバラかというと、「いくら紹介者にバックできるか」が経営上の差別化要素になっているためです。

M&A仲介ビジネスは非常に儲かることが有名になってしまい、新興業者が山ほど生まれています。その結果、「仕入」ルートである「紹介」の奪い合い競争になっています。

そのため、一番簡単な案件獲得手段である、「紹介者にたくさんお金を配る」ことが重要になってくるのです。

お金を配ることが生き残り策

銀行も顧問税理士も商売ですから、紹介手数料は高いほうがいいに決まっています。

銀行マンや顧問税理士の大半は、M&Aなんてほとんど経験がなく、M&A仲介会社の良し悪しなんてわかりません。「専門家を紹介してほしい」と言われたら、紹介手数料なり、知り合いなりで紹介先を決めるのは当然です。そのM&A仲介会社が、相談者である売り手オーナーに最適かなんてわかりませんし、そんなに興味もないでしょう。

結局、銀行の偉い人や税理士とどう知り合いになり、どうお金を配っていくかが、業界の生き残り要素になっている実態があります。

紹介手数料の功罪

銀行や顧問税理士に相談に行っても「M&Aのことなんて知らん」と言われたら困りますので、知り合いの専門家を紹介する誘因になる紹介手数料は、売り手オーナーにとって完全に悪いものではないでしょう。

ただ、残念ながら過度な紹介料競争の結果、紹介者の利益や人間関係に判断基準が傾き、まったく適していないM&A仲介会社を紹介されてしまうという弊害ももたらします。

現実問題として、昨今の事業承継ブームや仲介アドバイザー報酬水準の高さ、上述のような「いい会社を仕入れられれば、条件はともかく売買成立までは持っていける」という現実から、M&A仲介会社は雨後の筍のように増えていますし、大手でも採用を増やしています。その結果、インフォメーションメモランダムも満足に作れない低レベルなM&Aアドバイザーも増えてしまいました。

これは本当に残念なことなのですが、M&Aアドバイザーとしての専門能力や知識といった品質向上より、紹介手数料に予算を投下することが、M&A仲介会社の経営ノウハウになってしまっている現状があるのです。

M&Aアドバイザーを選ぶときに注意すること

結局、M&A仲介会社を選ぶときは、絶対に「紹介されたから」だけで選ばないことです。紹介者は何もわかっておらず、単に紹介手数料が高いアドバイザーを選んだだけかもしれません。

中小企業M&Aでは、M&A仲介会社が果たす役割は非常に大きなものがあります。仲介会社の良し悪しがM&Aの成功を左右しますが、残念ながら適正品質に見合わない仲介アドバイザーは山ほどいます。

中小企業M&Aの実態を知っていると、大事な大事な会社を売るときに、仲介会社を紹介“だけ”で選んでしまうことはまったく推奨できません。もちろん紹介自体は悪いものではないですが、最終的には自分の意志で判断していただきたいと思います。

M&Aアドバイザーの選び方については「初心者にオススメなM&A仲介の選び方!大手ランキングや手数料比較」をご覧ください。