2021年7月6日更新:㈱ストライクに報酬体系変更あり
2021年7月11日より、ストライクの着手金が廃止され、中間報酬に移行するとのことです(参照:日経新聞7月5日付)。詳細が判明次第更新します。
将来的な選択肢としてM&Aを考え始めた方が、最初期に必ず疑問に思うことがあります。
- M&Aって、どのぐらい業者に手数料を払うんだろう・・・?
- 手数料は高額だと聞くけど、それっていくらぐらいだろう・・・?
M&Aのことは他人に相談しづらいので、人知れず不安を感じていらっしゃる方も多いでしょう。
M&Aの手数料が高額なのは事実ですので、少しでも安いほうがいいに決まっています。しかし、安くても使う価値のない(使わないほうがいい)低質・悪質な仲介会社も少なくないので、費用対効果を考慮しながら選択しなければなりません。
実は、大手仲介会社や優秀な仲介業者の中であっても、手数料の設計は驚くほどバラバラです。そのため、正しい手順で仲介会社を比較していくことで、優秀な業者の中から自社にとって最も安い業者を選ぶ必要があります。
一方で、適切な比較なく仲介会社と契約をしてしまうと、過度に高額な手数料を払ってしまうことも少なくありません。手数料計算は複雑に設計されていますので、他者にとっては安くても、自分にとっては非常に高額というケースもよくあるのです。
この記事では、
- M&Aで売り手が支払う手数料の一覧と、総額を把握する際のポイント
- 3つのモデルケースで見る上場系5社の手数料の比較
- 自社のケースで仲介5社の手数料を計算・比較するエクセルシートの配布
- 優秀な仲介会社から少しでも安い会社を選び出す実践テクニック
- 高い手数料を払ってでも仲介業者を使うことのメリット
を、基礎からわかりやすく解説していきます。なお、エクセルシートで手数料をご紹介する上場系仲介会社は以下の5社です。
- 株式会社日本M&Aセンター
- M&Aキャピタルパートナーズ株式会社
- 株式会社ストライク
- 株式会社FPG
- フィンテックM&Aソリューション株式会社
最後まで読んでいただければ、自社のケースで発生するM&A手数料の概要がスッキリと理解できるとともに、悪質ではなく、かつ、過度に高額でもない仲介会社を賢く選ぶテクニックが身に付くでしょう。
YouTube動画でも解説
後述するとおり、M&A仲介の手数料の大半は成功報酬で構成されていますが、その計算式は「レーマン方式」と呼ばれる複雑な方法であり、しかも各社バラバラの設計をしているので、慣れていないと間違えてしまいやすいところです。
この記事では仲介手数料の全体像を広く紹介していますが、別途成功報酬にフォーカスした動画を作成しました。併せてご覧いただくことで、より深い理解が可能になると思います。ぜひご覧ください(13分50秒)。
M&A仲介手数料はこんなバラバラ!知らなきゃ大損のレーマン方式を解説
売り手が支払うM&Aの手数料一覧
まずは、M&Aで発生する手数料を一覧表で確認しましょう。
ほとんどのM&A仲介会社は、以下の4種類の手数料のうち、いくつかを組み合わせて手数料体系を設定しています。
手数料の種類 | 概要 |
着手金 | M&Aプロセスを開始する際の着手金。 100万円+税の設定が多いが、200万円以上になることも。 |
月額報酬(リテーナーフィー) | 一定の契約期間中、毎月支払う手数料。 月額20~50万円+税の設定が多い。 |
中間報酬(中間時金) | M&Aプロセスがある程度進行(基本合意のことが多い)した際に支払う手数料。 成功報酬の内金として10%か20%が多い。 |
成功報酬 | M&A案件が「成立」した際に支払う成功報酬。 後述のとおり仲介業者・案件ごとにバラバラ。 多くの場合この費用が全体の9割以上を占める。 |
たとえば、業界最大手の日本M&Aセンターと、第2位のM&Aキャピタルパートナーズの手数料体系は、それぞれ以下のように設計されています。
なお、それぞれの手数料の発生タイミングを図示すると、以下のとおりです。
仲介に払う手数料は90%以上が成功報酬
「うちをM&Aで譲渡すると、トータルでどの程度の手数料が発生するんだろう?」と思ったときは、上記のうち「成功報酬」に注目しましょう。
手数料の設計は仲介会社で様々ですが、私が知る限りすべてのケースで、成功報酬が圧倒的多額を占めるからです。具体的には、多くのケースで9割以上になります。
たとえば、実際にあったある案件では、以下の手数料が支払われました。
ご覧のとおり、仲介手数料の大半は成功報酬で構成されていますので、ざっくりとしたトータル額を知るには成功報酬の水準を意識しましょう。
売り手が負担するその他の費用
仲介会社とだけ契約すればM&Aがうまく行くというわけではなく、仲介とは別に以下の費用を使って専門家を雇うことが多いです。
- 契約書チェックの弁護士費用(弁護士以外が行うと違法)
- 税金面のアドバイザー費用(税理士以外が行うと違法)
- その他、M&A全般に関する顧問報酬
これらの費用感は、依頼する相手がM&Aに詳しいかどうか(なぜか自信がない専門家ほど安くなります)、企業顧問など日ごろから取引があるかどうかによっても変わってきますが、中小企業M&Aでは多くても100万円程度ですので、いずれにせよ仲介手数料に比べて圧倒的に安価です。
仲介会社はM&Aを「成立」させるだけの仕事であり、「売り手の味方」でも「公正な仲裁者」でもありません(そんなことしたら買い手が怒ります)。そのため、売り手が自身の利益のために「成功」を目指すために、このようなコストを使うのです。
M&Aの手数料は案件ごとに各社バラバラ!
「では、成功報酬の相場観って何%ぐらいなの?」とよく訊かれるのですが、その答えは「貴社の状況と、どの仲介会社を選ぶかによって、驚くほどバラバラです」ということになります。
論より証拠。成功報酬の計算式が公表されている上場系仲介会社4社と業界3位の㈱ストライク(計算式非公表)の成功報酬を、3つのモデルケースに当てはめてみると、下表のように、パーセンテージはバラバラです。
手数料は「自社に当てはめて」比較することが大事!
さらに言えば、「どの会社が一番安いのか?」ではなく、「自社に当てはめたとき、どの会社が一番安くなるのか?」という発想で考える必要があります。
なぜなら、M&A手数料は、「どの仲介会社を使うか?」だけでなく、「自社がどのような状況にあるか?」によっても大きく変わるからです。もう一度手数料率の一覧表をご覧ください。今度は枠線の2社に注目しましょう。
同じM&Aキャピタルパートナーズでも、A社の場合は他の会社に比べ大幅に手数料率が上がります。また、フィンテックM&Aソリューションでは、B社の場合のみ手数料率が高騰します。
このように、M&A対象会社の以下のような状況次第で、同じ仲介会社でも手数料率は大幅に変動します。
- 会社の規模
- 借入金の規模・内容
- 負債総額の規模
そのため、M&Aの手数料を考えるときは、個別具体的に「自社のケースではどうか?」と考える必要があるのです。
M&A仲介手数料を簡単に計算・比較するエクセルシートと使い方
M&Aの手数料は「自社の場合どうなるか?」を考えることが重要ですが、成功報酬計算は非常に複雑です。初心者の方が自力で計算すると、間違えてしまうこともあるでしょう。
そこで、たった4つの数字を入力するだけで、上場系仲介5社の手数料が簡単に比較できるエクセルシートを用意しました。
M&A仲介会社各社の手数料を計算するエクセルシートは、以下のアイコンをクリックしてダウンロードできます。
M&A仲介5社の手数料を計算・比較するエクセルシート
※クリックでダウンロード開始
なお、雨後の筍のように急増しているM&Aアドバイザーのすべては収録できませんので、以下の基準をすべて満たす仲介会社のみ収録しています。
- M&Aの「仲介」であること(単なるプラットフォームやFAは除外)
- 手数料計算について、Webサイトによる公表情報があること(㈱ストライクは特別に追加)
- 上場会社またはその子会社であること
その結果、以下の5社に絞って収録しました。
会社名 | 手数料公表ページ |
株式会社日本M&Aセンター | https://www.nihon-ma.co.jp/service/fee/ |
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 | https://www.ma-cp.com/about/fee.html |
株式会社ストライク | 計算式はWeb上では非公表 |
株式会社FPG | https://www.fpg.jp/service/service03.html |
フィンテックM&Aソリューション株式会社 | https://www.fintechma.co.jp/price.php |
㈱ストライクは手数料計算がWebで公表されていませんが、業界第3位ということで非常に要望が多かったため、利用者や関係者の取材で得た情報で追加しました。あくまで非公表であり、案件によって変更される可能性がある点にご留意ください(窓口で尋ねればすぐに教えてくれます)。
最低報酬額についての補足
M&A仲介は原則的には取引規模に応じて成功報酬が決まりますが、各社「どんなに小さな取引でも最低これだけはもらいます」という下限値を設けています。これが「最低報酬額(最低保証料)」です。
つまり、どんなに小さな会社でも、最低限これだけの手数料は発生します。
今回取り上げる5社のうち、日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライクの3社については、Webサイト上で最低報酬額を掲載されていませんでした。
中小企業M&Aでは、最低報酬額は手数料計算に大きな影響を与えます。この3社については、複数の情報源から「標準的な最低報酬額」を取材できましたので、手数料率はそれぞれ以下のとおりとしています。
- 日本M&Aセンター 2,200万円(2,000万円+税)
- M&Aキャピタル 2,750万円(2,500万円+税)
- ストライク 1,100万円 (1,000万円+税/売り手の場合)
ただし公表情報ではありませんので、値下げ/値増しが入る可能性はご留意ください。こちらも、訊けばすぐに教えてもらえる情報です。
M&A手数料計算エクセルシートの使い方
以下ではエクセルシートの使い方をご説明しますので、「直近決算日の貸借対照表」を用意して計算してみてください。
手順1.「負債」「借入金」「株主からの借入金」を入力する
ファイルを開くと出てくる最初のシートに、M&A対象会社(あなたの会社)の以下の数値を入力します。
- 「負債の部」の合計額
- 「借入金」に該当する科目の合計額
- 上記借入金のうち、債権者(貸主)が株主のものの合計額
いずれも貸借対照表から数値を拾えます。よくわからない場合は、以下の箇所を探してみてください。
「負債の部」の合計額
負債の部とは、借金のことではなく、貸借対照表の「資産」「負債」「純資産」のうちの「負債」の総額のことです。
表形式の貸借対照表では、右側の真ん中あたりにあるはずです(下図)。
なお、千円単位で入力します。端数は切り捨てで大丈夫です。
「借入金」に該当する科目の合計額
この欄には、専門用語で「有利子負債」と呼ばれる金額を入力します。
上記の「負債の部」の中に、「短期借入金」や「長期借入金」があれば、足し算して入力します(下図)。
以下の科目も、専門的には有利子負債として扱われることが多いので、足し合わせてください(他にも似たような科目名があれば合算しましょう)。
- 短期借入金
- 1年内に返済予定の長期借入金
- 1年内に償還予定の社債
- 短期リース債務
- 長期借入金
- 社債
- 長期リース債務(または単に「リース債務」)
- 役員借入金
- 社長勘定
該当する科目がなさそうであれば、数字はゼロで構いません。
借入金のうち、債権者(貸主)が株主であるものの合計額
上記の有利子負債のうち、債権者(貸主)が株主である金額(つまり、株主から会社への貸付金)を入力します。
この場合の株主とは、本人だけでなく、その親族や関係会社も含まれます。
この例では、「短期借入金」の全額が株主からの貸付けだったと仮定し、5,000万円を入力します(下図)。
実際には、ご自身の会社の実態に合わせて計算してください(決算書に添付されている勘定科目明細書を見るとわかりやすいです)。
手順2.「株式の売却額」を入力する
次に、株式の売却額を入力します(下図)。
いくらで売れるかは、買い手を探し始めないと実際のところはわかりません。事前に予測することは困難です。
なので、とりあえずは「このぐらいの値が付けば売ってもいいかな」という数字を入れておきましょう。これにプラスマイナス20%程度の幅をつけて、何度か計算し直してみてください。手数料水準についてざっくり把握するだけならそれで十分です。
手順3.計算結果を確認する
手順1、2の数値を入力すると、シートの下部に仲介会社4社の成功報酬と、その株式売却額に対する割合が表示されます(下図)。
このシートの使い方は以上です。手順2の数値を変化させて、どのぐらいの影響が生まれるか確認してみましょう。
手数料は税込で考えよう
個人株主による株式の売買では、消費税の仕入税額控除はできませんので、売主が全額負担することになります。よって、税込で考えましょう。
手数料率が各社でバラバラな理由
ところで、どうしてM&A仲介の手数料率がここまで各社バラバラなのでしょうか? その理由を端的に言えば「中小企業のM&A業界がまだまだ未成熟だから」ということに尽きます。以下でその意味を説明していきましょう。
まだまだ未成熟な中小企業M&A業界
M&A自体は昔からありますが、「中小企業を対象としたM&A仲介」というビジネスが流行したのは、せいぜいここ10年か20年の話です。特に近年の事業承継ニーズが盛り上がるまでは、なかなかニッチな業界だったと言えます。
近年のマーケットの伸びを受けて、雨後の筍のように新規参入する業者が増えました。新規参入組の数が示すとおり、中小企業M&Aはまったくの未成熟産業です。
M&A仲介業には資格も許認可もガイドラインも存在しない
そのせいか、M&A仲介には業界のルールや慣習というものが固まっていません。
驚かれる方も多いのですが、M&A仲介業は、不動産や金融商品と異なり、特に資格や許認可は必要ありません(民間資格はありますが、単なる趣味検定のレベルです)。また、業界人が守るべきガイドラインのようなものもありません。
つまり、各社が独自のノウハウでサービスを提供し、思い思いの手数料で商売している「無法地帯」です(別に違法行為をしているわけではなく、法が存在しないのです)。
独自ルートで高額報酬を設定することもできれば、激安価格を設定して低品質サービスを売ることも自由です。そのため、各社が思い思いの手数料設定をすることが可能になっています。
多くの売り手は比較をしていない
しかも、多くの売り手が、仲介会社を選ぶときに、他社との比較をしていないようです。
すでに仲介会社を確定させた売り手さんの話を聞くと、半数以上が「1社としか話をしていない」ということでした。そのうちのほとんどの方が、仲介手数料が各社本当にバラバラであることを知らず、なんとなくどこも同じ程度の率だろうと勝手に思っていたそうです。
これではあまりにも「飛んで火にいる夏の虫」です。手数料は上述のとおりバラバラなので、きちんと比較して決めるべきです。
紹介されたら断りづらい
売り手さんが仲介会社を比較しない大きな理由の1つは、「お世話になっていた人に紹介してもらった仲介会社なので、他と比較しづらい」というものです。たとえば顧問税理士の紹介だと、断るのは税理士に悪いと感じる方は多いです。
思うに、断りづらいなら最初から紹介を頼まないほうが賢明です。もしくは、事前に「友人にも別の仲介会社を紹介してもらい、比較するつもりだ」と予防線を張っておきましょう。
高い手数料のほうが紹介者は儲かる
ちなみに、紹介する側としては、安い業者を紹介するよりも高い業者を紹介したほうがメリットがあります。
これだけのお金が動くビジネスでは定番ですが、「ご紹介」には紹介者に対して「ご紹介手数料」というバックマージンが支払われます。計算式は「業者が受け取る手数料の〇%」ですので、あなたが払う手数料が高いほうが、紹介者が受け取るバックマージンも大きくなります。
さすがにこんなものに目がくらんで売り手に損をさせるような相手に紹介は頼まないでしょうが、この構造は業界の矛盾点として知っておきましょう。
優良な仲介会社をなるべく低コストで雇う実践テクニック
仲介手数料はなるべく安いほうがいいに決まっていますが、悪質な業者ならどんなに安くても関わるべきではありません。優良な仲介会社を比較して、安い業者を選びましょう。
本気の仕上げとして、サービス品質を保ちつつ、少しでも安い仲介会社を選ぶ実践的な手順をご紹介します。
ステップ1.手数料以外の要素で候補を2~3社に絞り込む
まずは手数料を度外視して、玉石混交のM&A仲介会社を選別していきましょう。
たとえ100万円であっても払う価値のない仲介会社は少なくありません。「業界最安値!」を謳っていたとしても、M&A仲介に求められるサービスが提供できないなら関わってもらわないほうが賢明です。
広告文も嘘だらけな業界ですが、ネットや書籍などでどのような情報を発信しているかをきちんと読んでいけば、ある程度の「品格」は見えてきます。少なくとも誠実性を感じない広告や情報発信をしている仲介会社は除外しましょう。
業界に詳しい人に評判を訊いたり、紹介してもらうのも有効な手段です。ただし、紹介の場合は上述したバックマージンには留意してください。紹介されたという理由だけで契約するのではなく、2~3社に絞り込む際の候補として考えましょう。
弊社ではM&Aプロセス進行中の方からのご相談も受け付けておりますので、様々な仲介会社の評判や利用者の生の声を伺っています。「この仲介会社の評判を訊きたい!」というご要望がございましたら、弊社の無料相談からご連絡ください。
ステップ2.各社に具体的な手数料の見積りを訊く
「この仲介会社なら、少なくとも最低限のレベルは持っているはずだ!」という会社が絞り込めたら、いよいよそれぞれの手数料を比較していきましょう。計算の方法は、「直接訊いてみる」ことです。
手数料計算は複雑なので、不慣れな方が自力で計算するより、業者に「うちの株式が〇億円で売れたら、手数料は税込でいくらなの?」と訊いたほうが確実なのです。
匿名で訊くことも可
もし絞り込んだ仲介会社候補の選択に自信が持てず、直接連絡するのが怖い場合は、匿名で問合せをしましょう。メールアドレスはGmailなど無料の捨てアドレスを使いましょう。
仲介会社も契約が欲しいですから、全部「匿名希望」でも、丁寧に教えてくれます。
それでも不安な場合は弊社にご連絡ください。我々が代わりに電話して訊いてみます。
案件中止のシナリオも想定しよう
M&Aは、後継者に相応しい買い手が見つかり、満足できる価格条件で折り合って初めて成立ですので、いつ案件が中止になるかわかりません。そのため、中止の場合の手数料も想定しましょう。
以下の3つの場合に発生する手数料を確認すれば、ほぼすべてのケースを網羅できるはずです。
- 契約後4カ月で基本合意し、その後3カ月で、〇億円でM&Aが成立
- 契約後4カ月で〇億円を目安に基本合意したが、3カ月後に破談
- 買い手探しを6カ月間してもらったが、基本合意に至らず
※価格はプラスマイナス20%ぐらいで3種類試算してもらいましょう。
ステップ3.一覧表にして比較する
各社に手数料を試算してもらったら、これを一覧表にしてそれぞれ比較しましょう(下図)。
上記の比較表を見ながら、それぞれの会社の特徴や相談時の印象などを踏まえて、最適なM&A仲介会社を選択しましょう。
上記の結果、絞り込んだ仲介会社の手数料率がすべて10%を超えるようであれば、もう2社だけ絞り込みを広くしましょう。「悪質な業者の4%よりも良質な業者の10%のほうが安い」と考えるべきではあるものの、もう少し安くやってくれる良質な業者はあると思います。
手数料を払ってでも買うべき仲介会社の活用メリット
最後に、「M&Aの仲介手数料は非常に高額だが、いったい何に対する対価なのか?」をご紹介しましょう。
各社の手数料を比較して、なるべく安い仲介会社を選んでいただきたいとは思っていますが、あくまでも「マトモなレベルの仲介会社の中から」選んでください。現実的に、ビタ一文払う価値のない仲介会社は掃いて捨てるほど存在しています。
仲介会社への手数料が、どのようなサービスに対する対価なのかを理解していないと、安いというだけの悪質な業者を選んでしまいかねません。
M&A仲介会社を選ぶ際は、以下のサービス水準を考え、手数料を払う価値のある業者かどうかを考えましょう。
M&A仲介の活用メリット1.プロとしての経験値
M&A仲介やファイナンシャルアドバイザーの最大の価値は、「プロとしての経験値やノウハウを持っている」という点にあります。
会社や事業は、土地や建物のようなわかりやすい資産ではなく、日々変化する複雑な生き物です。このような複雑なものの取引を、売り手・買い手双方が納得する条件で成立させるためには、うまく交渉を進行させるノウハウが不可欠なのです。
たとえば、ご自身が自力で会社を売ることをイメージしてみてください。知り合いのうち一番大きな同業他社の社長に話を持ち掛けるとして、どう交渉していけば、双方が満足する条件を見つけ出すことができると思いますか? 買い手は少しでも安く買いたいと思っていますが、双方が希望する金額に乖離がある場合、どうすれば妥協点を探していけると思いますか?
おそらくほとんどの方がノーアイデアで、M&Aを「成立」させることすら困難だろうと思います。このような初心者では難しい交渉の交通整理ができるのであれば、それだけで一定の手数料を払う価値があると断言できます。
ただし、昨今M&Aアドバイザーを名乗る業者の中には、プロと呼ぶには遠く及ばない素人も少なくありません。このような業者は、たとえ安くても使わないほうがまだマシです。
M&A仲介の活用メリット2.情報を集めて買い手の選択肢を広げる
複数の買い手候補を集めて「選ぶ立場」に立てることも、M&A仲介を使う非常に大きなメリットです。
売り手であるあなたは初めてのM&Aになると思いますが、買い手はあなたのような売り手から何度も買収をしてきたM&Aの熟練者です。つまり、中小企業M&Aは「初心者vs熟練者」の構図になることがほとんどです。
このような交渉で負けないためには、売り手は複数の選択肢を持つ必要があります。つまり、「貴社がこの条件を呑んでくれなければ、他の買い手に売りますサヨウナラ」と言える状況を作っておくべきなのです。
しかし、売り手が自力で複数の買い手候補を探すことは簡単ではありません。そのため、仲介会社のネットワークを使って幅広く情報を集め、買い手の選択肢を広げることには大きなメリットがあるのです。
なお、このように複数の買い手候補の相互牽制を引き出し、売り手に有利な条件を引き出す進め方を「入札方式」と言います。入札のメリットについては「価格だけじゃない!M&Aを『入札』で進める3つのメリット」でより詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
M&A仲介の活用メリット3.買い手候補データベースが利用できる
M&A仲介の手数料が高い理由の1つとして、「データベースの利用料」という意味合いもあります。
M&A仲介業者は、日ごろから企業買収に強い興味を持っている大量の買い手候補企業と日常的に情報交換を行っています。このような「買い手候補データベース」は一朝一夕に作られるものでなく、これを活用できることには大きなメリットがあるのです。
このメリットは、一般にファイナンシャルアドバイザー(仲介ではなく、いずれか一方の代理人)よりも仲介会社のほうが強みがあると言われています。実際には会社次第ではありますが、大手仲介会社のネットワークの広さと強さには実に感心するものがあります。
ただし、あくまで仲介会社次第であり、ネットワークが狭く脆弱な仲介業者のほうが多いのが現実ですので、要注意です。
どこも「ネットワークは広いですよ!」と宣伝しますが、名刺を持っているだけでは人脈ではありません。買い手候補の名前や買収ニーズを即答できるかなど、日常的に情報交換しているか否かは1つのチェック項目です。
M&A仲介の価値4.買い手が欲しい情報を適切に伝える
買い手がどんな情報を欲しがるかを事前に予測し、分析・整理して正確に伝えるというノウハウも、M&A仲介が持っている大きなメリットです。
買い手は自身が納得しない条件では、絶対に買ってくれません。
仮に有名な公認会計士の先生から「客観的に評価して、この会社の価値は5億円です!」とお墨付きがあったところで、買い手自身が「確かに5億円を出してでも買う価値がある!」と主観的に感じてくれない限り、5億円という値段で売れることは絶対にありません。
では、どんな情報を出せば、買い手は対象会社の価値を感じてくれるか、見当は付きますでしょうか?
M&A初心者である売り手さんの多くが、見当もつかなかったり、関係ない情報を見せようとしたり、重要な情報を伝え漏らしたりしてしまいます。そのような案件を見るにつけ、「やっぱり仲介って重要なんだな・・・」としみじみと感じます。
買い手が買収条件を決めるために必要な資料は、「インフォメーションメモランダム」という冊子にまとめて買い手に提供されますが、適切なインフォメーションメモランダムの作成を委託できるだけでも、高額の手数料を支払う価値はあります。
ただし、意外とマトモなインフォメーションメモランダムが作れない仲介業者も結構多い点には要注意です。インフォメーションメモランダムの重要性については「会社の値段に3倍差が付くインフォメーションメモランダムの記載内容」をご覧ください。
M&A仲介の価値5.厳しい交渉には「緩衝材」が必要
直接交渉ではなく、間にワンクッション挟むことで、交渉の当事者がヒートアップしすぎることを防ぐ、という効果もあります。
仲介を挟まないM&Aの難しさは、「当事者が感情的になってしまい、不用意な破談が発生する」ということです。
特に売り手は事業に対して強い思い入れがあるので、「なんでこの会社の価格がこんなに低いんだ!」などの不満を感じることが少なくありません。特に買い手から直接値下げ要求を告げられると、非常に失礼な態度だと感じて感情的に反発してしまいがちです。
本当に納得できない条件であれば、M&A交渉は迷わず破談にすべきものですが、一時の感情に流されて不用意に破談にしてしまうと、冷静になったときに大きな後悔をすることになります。仲介を緩衝材としておくことで、過度なヒートアップを防ぐことができるのです。
ただし、極度に頼りない仲介アドバイザーでは、交渉中に却ってイライラすることになります。一方、自我を押し通すゴリゴリ系のアドバイザーでは、思う存分の主張ができずに後悔の種を残しやすいでしょう。担当者が緩衝材として適任かどうかは、仲介業者選びの意外な注目ポイントです。
M&A仲介の価値6.「会ってはいけない相手」の最低限のフィルター
広く買い手を募ろうとすると、とんでもない相手が手を挙げてくる可能性があります。要するに、反社会的勢力です。現実問題としてこの業界には、反社と呼ばれる人も出入りしているのも事実です。
しっかりした基盤を持つ仲介会社を通すことで、会ってはいけない相手を事前に排除することが可能です。間違ってもそのようなスジに買収されたくないなら、この点はメリットとして把握しておきましょう。
なお、「そもそも仲介業者自体が怪しい連中だった」という笑えない事例も存在します。非上場の仲介業者を選ぶ際は、ネット検索や調査会社資料、登記簿謄本の取得など、最低限の身辺調査はしておきましょう。
おわりに
今回は、「M&Aの手数料ってどのぐらいかかるの?」という疑問にお答えすべく、手数料の種類一覧や成功報酬を計算するエクセルシートを公開しました。
手数料は仲介会社ごとにバラバラですし、同じ仲介会社でもM&A対象会社の状況によってもバラバラです。そして、仲介会社のレベルもまたバラバラで、安くても論ずるに値しない業者も少なくありません。
今回ご紹介した比較のテクニックや視点を踏まえて、サービス水準を確保しながらも安い仲介会社を選んでいきましょう。
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