M&Aの仲介会社の話を聞いたり、売り手向けのM&Aセミナーに行ったりすると、M&Aが実に素晴らしい事業承継策であることを情熱的に語ってくれます。

このような彼らが言う甘言蜜語を真に受けてはいけないことは、「鵜呑みは厳禁!M&A業者が言う『売り手のメリット』7選とその真相」でご説明していますが、では、彼らが「言わない」ことはなんでしょうか?

すなわち、M&Aのデメリットです。メリットがある以上、デメリットもあるのは当然です。そして、これを知っておかなければM&A後に取り返しのつかない後悔をしてしまったり、最終合意の直前で急に悩みだして破談になるのは必然です。

今回は、専属アドバイザー契約が欲しくてたまらないM&A仲介アドバイザーに流されないよう、M&Aを選択することの売り手のデメリットをご紹介します。

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売り手に求められるデメリットとの向き合い方

M&Aには様々なデメリットがあります。これに対し、売り手はどのようにデメリットと向き合っていけばよいのでしょうか。

今回ご紹介するようなデメリットは、以下のように2つの種類に分類できます。

  • 工夫次第で問題を軽減できるデメリット
  • 頑張っても問題を軽減できないデメリット

工夫次第で軽減できるデメリットについては、その工夫を学び、実践していくことが成功への近道です。当サイトでは「事業承継でM&Aを大成功させるための知識と知恵のすべて」にて、必要なすべての情報を公開しています。しっかり学び、M&Aプロセス全般で活かしていただければ、M&Aの成功がぐっと近くなることは間違いありません。

一方の軽減できないデメリットについては、その内容を詳細に知り、覚悟して受け入れるべきか、それともM&Aという選択肢を回避するかを考える必要があります。容易に選択できるものではなく、じっくりと考えて判断していただく必要があるでしょう。

いずれにせよ、M&Aプロセスが始まる前に理解しておくべき重要なデメリットです。1つも軽視することなく、しっかりと向き合ってください。

M&Aプロセス前に売り手が知るべきM&Aの9つのデメリット

それでは、本題であるM&Aのデメリットについて解説します。以下の9つのデメリットを認識したうえで、アドバイザーに流されることなく、自己責任でM&Aを検討しましょう。

M&Aのデメリット1.経営者退任が「突然」やってくる

中小企業M&Aでは、案件成立後に経営者を退任することが大半です。もし仮に社長の椅子に残れたとしても、株式を他社に100%親会社に持たれてしまっている以上、あなたはもう本当の意味での経営者ではありません。

株主が自分の子どもであったり、ずっと上下関係であった部下であったなら、引き続き経営者と呼んでいいでしょう。この場合はむしろ社長を退任しても、しばらくは「実質的な経営者」です。ところが、M&Aで会社を他社に売り、新しい親会社の意向を受けて会社の管理を任されている人を、誰も経営者として扱ってはくれません。ご自分でも、経営者であるという意識はすぐになくなるでしょう。

このように、経営者退任が突然やってくるのがM&Aというものです。これは親族内承継や親族外承継にはないM&Aの特徴ですので、M&Aを選択する際には絶対に覚悟しなければならないポイントです。

M&Aを「成立」させた多くの方が感じる寂しさ

M&Aに挑戦することを決断したときや、M&Aプロセスの最中にある売り手さんには、「早く決めて退任したい」とおっしゃる方が多いです。しかし、実際に突然退任することになると、何とも言えない寂しさを口にする方がほとんどです。

より具体的には「会社を売ると、あなたに何が起こるのか?~覚悟はできていますか~」という記事でご紹介しています。多くの方から「まさにその気持ちだ」と共感いただいた記事ですので、ぜひご一読ください。

M&Aのデメリット2.社内に激震と不安が走る

M&Aが発表されると、社員・従業員さんの間には激震と不安が走ります。M&A直後の多くの売り手オーナーが、「ここまで不安にさせるものとは・・・」と驚くほどです。

激震と不安によって社員・従業員さんたちは極めてナーバスになります。買い手企業がM&A後に対象会社にうまく入りこんでいけなければ、社内外に大きな混乱が巻き起こり、最悪大量退職を招きます。

このデメリットを軽減する方法

M&Aの公表は慎重に進めていきましょう。特に全体に公表するときはなるべく全員同時に行い、噂話で伝わることは絶対に避けるべきです。また、その際に買い手企業のしかるべき方に同席してもらい、しっかりした挨拶をしゃべってもらいましょう。これらの方法については以下の記事をご覧ください。

事例で学ぶ円満なM&Aのための従業員への説明のタイミングと方法

M&Aのデメリット3.M&A後の経営はすべて買い手の意向次第

M&Aで会社を売ってしまうと、もはやその会社のすべてに対して決定権限を失います。仮に社長の椅子に残ったとしても親会社の意向を実現するだけですし、顧問になった場合は外部アドバイザーとしての提案以上のことはできません。

これは、ブランド名の変更や会社の合併による消滅、従業員のリストラといった根本的な経営判断に関しても同じことです。親会社がすべきと思ったことは、あなたがどんなに反対しても実行されます。それをするために、あなたに大金を払って買収するのですから。

このデメリットを軽減する方法

もし買い手のM&A後の事業運営に「これはしてほしくない」という注文があるのなら、それを考えていない相手に売るしか方法はありません。

そのためには、複数の買い手候補にM&A後の事業計画を作ってもらい、一番自分の意に沿った相手を選ぶべきです。これは現在のM&Aにおいて非常に重要なポイントです。

M&A相手を選択するために確認したい事業計画の9つの重要ポイント

M&Aのデメリット4.M&A後の業績も買い手次第

M&A後の経営判断をすべて買い手企業が行うということは、M&A後の業績もまた、買い手の運営次第で大きく変わります。伸びることもあれば致命的に落ち込むこともあり、何十年も会社を経営してきたあなたから見てトンチンカンな判断をしていても、やはり、意見を提案する以上のことはできません。

これはM&A後のトラブルで非常によくあるトラブルの原因でもあります。買い手は買い手の理屈で一生懸命やっている一方、元売り手オーナーが会社を愛するあまり口を出し、喧嘩になるというパターンです。これはどちらか一方が正しいという話ではないため、下手をすると非常にこじれるトラブルです。

このデメリットを軽減する方法

M&A後には買い手に利益を上げてもらう以外ないですが、売り手がM&A前に買い手候補の事業計画をしっかりとチェックし、地に足の着いた着実な事業計画を立てている相手を選ぶことが一番の得策です。

どこか楽観的な販売見込みや過大評価されたシナジー効果、中小企業の現場の実態をまるで無視した経営施策など、その事業を長年やってきた経営者であれば「なんか変だな」と思う事業計画はたくさん出てくるでしょう。トップ面談の場で買い手とM&A後の経営を語り合い、本当に実現できる相手かどうかを見極めましょう。トップ面談の臨み方については以下をご覧ください。

最良の後継者を選ぶM&Aでのトップ面談の7つの意義と6つの準備

M&Aのデメリット5.売り手が圧倒的に不利な闘いである

中小企業M&Aは、初心者である売り手と熟練者である買い手の戦いという構図になることが多いです。

また、中小企業案件を取り仕切る仲介業者は、M&Aの「成功」ではなく「成立」を目指す立場ですので、やはり「情報弱者」である売り手に妥協させてでも「成立」を目指します。

このような、そもそも売り手にとって構造的に不利な状況であることは、事前に理解しておきましょう。

このデメリットを軽減する方法

ご自身で知識を身に付けて「情報弱者」から脱却するか、または仲介以外でご自身の味方となるアドバイザーを確保しましょう。

コマーシャルになりますが、弊社では「短期M&A顧問」として、M&A進行中の売り手経営者さんにアドバイスする業務を承っております。我々のような業者も活用しつつ、熟練者に負けない体制を整えましょう。

短期M&A顧問で一緒に成功を目指しましょう!

M&Aのデメリット6.情報開示・デューデリジェンスの労苦

M&Aを成功させるためには、適切な情報開示が絶対に必要です。インフォメーションメモランダムやデューデリジェンスの場面で適切に情報を伝え、買い手に確かな未来図を約束させましょう。

特にデューデリジェンスは大変です。逆の立場で、他人の会社を引き継ぐことを想像してみてください。どんな事業環境なのか、どんな商売をしているのか、どうやってキャッシュを回しているのか、財務や法務で大きなトラブルを抱えていないか、どんな人がいてどんな組織があるのかなど、知りたいことは山ほどあるでしょう。これを買い手に理解してもらうために、数日のうちにインタビューや資料提供に対応する必要があります。

デューデリジェンスを受けると、売り手の社長さん、事業責任者、財務責任者などは、ヘトヘトになります。そのタイミングで買い手は「やっぱり買いません」とか「大幅な減額をしてくれないと買えません」とか言ってきますので、大変つらい交渉になります。

このデメリットはどうやっても軽減できません。むしろ、苦労して情報開示を行うことがM&A成功の最大のカギになります。

途中でM&Aが嫌になり、感情に任せて投げ出さないために、この覚悟は最初にしておきましょう。

M&Aのデメリット7.暗いトンネルが延々と続く

上記の情報開示の労苦のさらにキツいところは、それだけ苦労をしても、M&Aがいつ終わるのか、本当に売れるのか、いくらぐらいで売れるのかなどが、最後までまったくわからないことです。

M&A仲介会社が最初にスケジュールを組んでくれますが、スケジュールどおりに話が進むことはほとんどありません。M&Aは暗いトンネルをもがきながら進むところがあり、精神的な辛さが一番の難関です。

こちらも、なかなか軽減のしようのないデメリットです。これは本当に覚悟しておかなければ、途中で投げ出したくなることは間違いありません。

M&Aのデメリット8.完全な秘密保持は不可能である

秘密厳守はM&Aの鉄則です。秘密は厳に守りましょう。

ただ、実際には、多少漏れます。ノンネームシートが出回れば業界人ならどの会社か予想したくなるものですし、勘のいい社員ならデューデリジェンスを受けるとピンときます。

完全な秘密保持は不可能であるというデメリットを理解した上で、最善を尽くしましょう。

このデメリットを軽減する方法

秘密を保持するための一番の方法は、秘密を知る人間を最小限にとどめること、そして誰が秘密を知っているかを全員が理解することです。

実際には担当役員抜きにインフォメーションメモランダムの分析資料を作れなかったり、デューデリジェンスのインタビューを受けさせなければならないこともあります。M&Aアドバイザーとも相談しながら、M&Aプロセスの進展とともに秘密共有者の範囲を慎重に広げていくことが大切です。

また、M&Aアドバイザーやデューデリジェンス担当者など、社内に出入りして他の社員の目に触れる人々は、どのような立場で来社したかの「ストーリー」を用意し、口裏を合わせます。経営コンサルタントの事前調査や税務調査が定番で、架空の名刺を用意することもあります。

M&Aのデメリット9.結構費用がかかる

最後に、M&Aは多額のM&A対価が入ってくると同時に、M&Aアドバイザーへの報酬がそれなりに発生します。結構これで二の足を踏む売り手オーナーさんは少なくありません。

確かに、費用はM&Aアドバイザー選びの重要な1要素です。安いほうが良いに決まっています。しかし、それを意識しすぎて単に安いアドバイザーを雇うようなら、M&Aの成功は夢のまた夢です。

M&Aで得られる金銭的対価や後継者問題の解決という結果とM&Aアドバイザー報酬を天秤にかけて高いと思うなら、そもそもM&Aには手を出さないほうが賢明でしょう。これはM&Aスキーム選択や節税、契約書チェックといったコンサルテーションにおいても同じことです。

M&Aは初心者が丸腰で手を出して成功を掴めるような甘い世界ではありません。本当に能力を高い人を集めて、運頼みではなく必勝の覚悟で挑むべき戦いです。

おわりに

M&Aは売り手にとってメリットの大きい手段ですが、同時に大きなデメリットも存在します。メリットデメリットを整理し、自分にとって最適な選択をするようにしてください。

M&A仲介会社は、良くも悪くもあくまで仲介ですので、判断は自分で情報を集めて自分で行う、という覚悟が重要です。その覚悟がなければ、M&Aは必ず失敗すると考えるべきでしょう。