事業承継に対する大きな不安や、M&A業者の話から、M&Aという手段に対してメリットを感じている中小企業経営者は少なくありません。でも、M&Aという「劇薬」に対し、業者の甘言蜜語をどこまで信用していいのか不安に思っている方も多いでしょう。

実際、M&Aには一般的に大きなメリットがあるのは事実です(デメリットもありますが)。でも、大事なことはそのメリットを自分や自分の会社が享受できるかどうかです。人生でたった1回のM&Aですから、「一般的にどうか?」よりも「自分たちにとってどうか?」を考えましょう。

M&A業者がよく使う「M&Aの売り手のメリット」は、以下の7つです。

  • 大きなお金が手に入る
  • 創業者の理念を次世代につなげることができる
  • 個人保証から解放される
  • 従業員の雇用維持ができる
  • 従業員に大企業の一員になる安心感を与える
  • 財務基盤が安定化できる
  • シナジー効果による事業発展ができる

これらM&A業者が誇らしげに語るメリットは、別に完全な嘘ということではありません。でも、中には、

  • 単にM&Aをすれば実現できるものではなく、工夫や運が必要なメリット
  • 他人にはメリットだが、自分や社員にとってはむしろデメリット
  • ちょっとした不注意で一切手に入らないリスクのあるメリット

といった、ミソが付くようなメリットも少なくありません。当然、あなたと業務委託契約を巻きたいM&A業者は、ほとんど教えてくれないM&Aの落し穴です。

この記事では、

  • 上記7つのメリットの解説
  • 実際のM&Aの現場で本当に享受できるメリットなのか
  • メリットを享受するためには何が必要なのか

について詳しく解説していきます。

最後までお読みいただければ、業者のセールストークを鵜呑みにしてはいけないことが理解でき、M&Aという選択肢に対してより深く客観的な判断ができるようになるでしょう。

売り手にとってのM&Aのデメリットは「M&A仲介会社は言わない売り手の9つのデメリット」で、M&Aの注意点は「中小企業のM&Aで売り手が注意すべき10個の重要ポイント」で、それぞれ解説しています。併せてご覧いただければ、M&Aのより慎重な検討が可能になるでしょう。

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他人が宣伝する「メリット」に注意すべき理由

まず大前提として、M&Aのメリットをことさらに強調する人は、必ずしも中立的な立場とは限らないという点に注意しましょう。

これはM&A仲介会社などの営業トークはもちろんですが、銀行や税理士でも、M&A仲介会社に「売り案件」を提供することによる紹介料(バックマージン)の授受は当然行っています。もしかしたら、身近なM&A経験者も受け取っているかもしれません。

営業トーク自体が悪いわけではありませんし、紹介した際には紹介料をもらうことも悪いことではありません。ただ、一定のバイアスがかかりやすい立場にいる人間であることには注意して耳を傾けましょう。

当たり前にあるバックマージンのやりとり

M&Aは大きなお金が動く取引ですから、M&A業者は紹介者に対してバックマージンを配って紹介を集めています。

これも結構な額になりますので、相談した相手が真摯にM&Aを奨めているのか、それとも紹介料目当てで奨めているのかは慎重に判断する必要があります。

バックマージンの仕組みについては「オススメなんてカネ次第?M&Aのウラで動く【紹介手数料】の話」で詳しく解説しています。

メリットを自分に当てはめて考える

上述したような「M&Aで実現できる売り手のメリット」は、あくまで教科書的な一般論であり、こういう事例もありましたよ程度の話です。大事なことは、自分がそのメリットを享受できるか否かです。

教科書レベル、一般論レベルの売り手のメリットが自分も享受できるか否かは、営業のために初めて会社を訪れたM&A業者にわかるはずがありません。私も相談を受けることがありますし、その際は判断のヒントはご提供できますが、実際に享受できるか否かは第三者には判断できません。

判断できるのはあなただけです。ぜひ自らが、ご自分の会社を改めて見つめ直して、じっくり考えていただきたいと思います。

M&Aの売り手の7つのメリットとその真相

「売り手のメリット」としてM&A業者がよく言うのは以下の7つです。(売り手本人というより、対象会社のメリットも混じっていますが、対象会社の将来も売り手の関心事なので、入って当然ではあります)

  1. 大きなお金が手に入る
  2. 創業者の理念を次世代につなげることができる
  3. 個人保証から解放される
  4. 従業員の雇用維持ができる
  5. 従業員に大企業の一員になる安心感を与える
  6. 財務基盤が安定化できる
  7. シナジー効果による事業発展ができる

これらについて、それぞれの内容とその真相をご説明しましょう。

売り手のメリット1.大きなお金が手に入る

M&Aで会社を売却することで、会社設立時に出資した金額(資本金)をはるかに上回るキャッシュが手にできます。これは長年経営者として頑張った自分へのご褒美と言えるでしょう。

このメリットの真相1 買い手が見つかることが大前提

中小企業のM&Aでは、大きな創業者が得られることが多いのは事実です。ただし、それは売れればの話。

日本の中小企業の過半数は買い手がつかないと言われています。私も企業内でM&A担当者をしていたことがありますが、仲介会社さんが一生懸命準備をして持ってくる案件のうち、検討するに値するものは3分の1もありませんでした。仲介会社でも相当なスクリーニングをしているはずですので、可能性はもっと低いはずです。

もっとも、買い手側の需要とそれへのアピールがうまくマッチすれば、たとえ赤字・債務超過の会社でも難なく売れることもあります。市場と自社を分析し、適切な情報開示を行うことが、買い手を見つける王道と言えるでしょう。

このメリットの真相2 価格交渉で負けてしまう可能性がある。

M&A価格はあくまで交渉で決まるため、価格交渉や駆け引きに負けると価格は落ちていきます。

中小企業M&Aの世界では、初心者である売り手は熟練者である買い手に対して圧倒的に不利です。うまく立ち回って価格を引き出す努力をしなければ、良い値段では売れません。

初心者である売り手がしてしまう典型的な失敗例としては、以下のようなものがあります。

  • 仲介業者が連れてきた、たった1社と交渉し、足元を見られた。
  • 自社の魅力をうまく伝えられず、買い手の購買意欲を刺激できなかった。
  • 仲介業者の人脈が狭くて買い手候補を集められず、競争が起きなかった。
  • デューデリジェンス後に買い手が専門用語を連発して減額交渉を仕掛けてきて、なんだかよくわからないまま呑んでしまった。
  • 破談にして仕切り直そうと思ったが、仲介業者が「他に買ってくれる先なんてない」と脅してくるので、怖くなって妥協してしまった。

このような失敗を如何に防ぐかが、大きな財産を残せるかどうかに直結します。丸腰で挑むと身ぐるみはがされるぐらいの危機感を持って臨みましょう。

高値を引き出すために必要な3つのポイント

M&Aで価格が決まる仕組みを理解し、うまく高値を引き出しましょう。

高く売るためには、次の3つのポイントを愚直に追求しましょう。

  • 自社を高く評価してくれる買い手企業に売り込んでいく
  • 買い手が「ぜひ欲しい」と思う情報をしっかりと提供する
  • 「競争入札」で複数の買い手を競わせる

このコツは「初めてのM&Aを入札で成功させるために売主本人が学ぶべき基礎知識」という記事で基礎からしっかりとご紹介していますので、ぜひご一読ください。

売り手のメリット2.創業者の理念を次世代につなげることができる

創業者は事業に対して並々ならぬ思いを持っています。このような事業への思いを次世代にバトンタッチできますよ、という営業トークが、意外と多いようです。

このメリットの真相 買い手にとってM&Aはあくまで「買収」

残念ながら、このメリットを実現させるのはかなり難しいことです。

M&A仲介会社は言わない売り手の9つのデメリット」でも記述していますが、買い手にとってM&Aはあくまでも「買収」であり、儲けたいから買っています。

逆の立場で考えてください。仲介会社から紹介された見ず知らずの社長さんの理念を引き継ぎたいと思いますか?

今回取り上げる7つのメリットの中では、おそらくもっとも実現可能性が低いものでしょう。

買い手が「創業者の理念を引き継ぎたい!」と思えば引き継がれる

ただし、創業者の理念を次世代にバトンタッチできる可能性はあります。それは、「この経営理念は引き継いだほうがトクだな」と買い手に思ってもらえた場合です。

買い手は儲けるために買収しますので、M&A後に事業が伸びてほしいですし、停滞するようなことがあっては投資回収ができません。そのため、「安易に理念を押し付けたら事業がおかしくなるぞ」と思わせれば、経営理念を尊重してくれます。

数は多くはないですが、中小企業M&Aでも、買い手経営者が売り手の経営理念に感銘を受け、親会社で取り入れるということもあります。

ショートリストとトップ面談で理念に共感してくれる買い手を選ぼう

自分の創業者としての思いを引き継いでもらうためには、自分の理念を高く評価してくれる会社を選びましょう。そのチャンスは「ショートリスト作り」と「トップ面談」です。

ショートリストでは理念を高く評価してくれる買い手を優遇しよう

ショートリストとは最初に「当社を買ってくれませんか?」と買い手候補を集める際の売り込み先リストのことです。

このリストを作る際に、買い手の「買収ニーズ」を良く分析して、自分の理念を尊重してくれそうな相手に優先的に売り込みましょう。少なくとも、日ごろから「あの会社とは考え方が違うな」と思っている相手には話を持っていかないことです。

ショートリストの作成のコツについては、「適当に作ると大失敗!ショートリストの意味と正しい作り方5ステップ」で詳述していますので、ぜひ参考にしてください。

トップ面談で相手の誠実性をしっかり確認しよう

トップ面談とは、買い手候補の経営者と売り手が直接面談し、それぞれの事業に対する思いや大切にしている価値観などを語り合う信頼醸成とお互いの「品定め」の場です。

ここでしっかりと相手の人間性を理解し、M&A後も自分の思いを尊重してくれるかを判断しましょう。こればっかりは顔と顔を合わせて話し合わないとわかりません。

中小企業のM&Aにおいて、トップ面談は断じてセレモニー的なものではなく、採用試験の面接のように非常に重要なものです。トップ面談の意義と準備については「最良の後継者を選ぶM&Aでのトップ面談の7つの意義と6つの準備」に記載していますので、必ず事前に目を通されることをお勧めします。

売り手のメリット3.個人保証から解放される

中小企業では、借り入れをするときに社長個人が連帯保証人になるのが一般的です。個人として重い責任を負い、最悪家族にまで迷惑をかけるというプレッシャーがありましたが、M&Aが実現すれば保証が外れるはずです。

このメリットの真相 売れれば実現できるだろうが・・・

さすがに、M&Aで全株売却した元オーナーの連帯保証を頑として外さなかったという例を見たことはありません(話には聞いたことがありますが、借入保証も負う度胸のない買い手が買収に成功できるとは思えません)。

M&Aの最終契約書で余程のミスをしなければ、連帯保証は外せると考えていいでしょう。

ただし、売れればの話です。巨額の債務のある会社の場合、そもそも売れるかどうかのほうが論点になります。

M&Aの契約書は慎重に!

なお、売り手がM&A後に連帯保証を外すよう確実に要求できるのは、M&Aの最終契約書にその旨を記載していたときだけです。うっかり記載漏れしていた場合、M&A後に買い手に頼んでも外してくれるかはわかりません。

このような問題もありますので、M&Aの最終契約書は、絶対に素人考えでは扱わないようしましょう。企業法務に長けた弁護士さんであっても気付くかどうかの問題ですので、M&A(できれば大手・準大手ではなく中小企業M&A)の実務経験が豊富な弁護士さんにチェックを依頼しましょう。

M&Aの最終契約において特に注意すべき条項について、「甘く見ると大火傷!M&A株式譲渡契約で絶対注意すべき5条項」にまとめていますので、併せてご覧ください。

私が見たケースでは外してくれたが・・・

一応補足をしておくと、私も「M&Aの最終契約書に個人保証を外すことを書き忘れた!」という事例を見たことがあります。これ、有名な法律事務所出身の弁護士さんによるミスです。

このケースでは、幸いにして事後交渉したところ、気前よく個人保証を外してくれました。ただしこれは買い手さんの温情措置ですので、常に外してもらえると思うのは甘えです。

M&Aでは「契約書に書かれている内容がすべて(完全合意)」ですので、絶対に失敗できないポイントです。

売り手のメリット4.従業員の雇用維持ができる

後継者問題が解決せず、廃業という選択肢になった場合、そこで働く従業員さんたちの再就職先を探さなければいけません。若い人なら問題ないでしょうが、高齢の方だと探すのもなかなか大変です。

仲介業者が言うのは、「M&Aなら、全従業員の雇用が維持できてハッピーですよ」という営業トークです。

このメリットの真相1 買い手によっては簡単にクビを切る

まず、雇用を維持するかどうかを決めるのは買い手です。買い手が「投資を回収する出すためにはリストラが不可欠だ」と判断すれば、当然人員整理は行われます。

M&A後のリストラは買い手にとっても評判を落とすリスクがあるので、実際に行われることはそこまで多くないですが、中には平気で首切りする買い手も存在はしています。

雇用維持を契約書で約束する方法もありますが、どんなに誠実な買い手でも永遠の雇用維持は約束できませんので、通常は「1年間の解雇・不利益変更なし」と記載されます。よって不誠実な買い手の場合、1年後に解雇したり、それ以前にも遠方への転勤を命じて自己都合退社を促します。

このメリットの真相2 赤字になりそうならなりふり構ってはいられない

普段は上記のような手荒な真似をしない買い手であっても、経営上窮地に追い込まれているならリストラを敢行せざるをえません。背に腹は替えられないものです。

いわゆる再生案件では、従業員の雇用維持などと悠長なことを言っている場合ではありません。

このメリットを享受するために

窮地に追い込まれた会社であれば割り切っていただくしかないですが、買い手の特性は売り手が責任をもって見抜きましょう。私は、これが売り手経営者の最後のリーダーシップだと思っています。

買い手候補を1社に絞り込む際には、単に会社規模や相性だけで考えてはいけません。各社からM&A後の事業計画を教えてもらい、人員整理や配置転換をせずに利益を上げる未来図を描いているかを確認しましょう。

従業員を幸せにしてくれる買い手かどうかを見極める方法は、「8つの失敗と成功の事例で学ぶ社員を不幸にしない会社売却のコツ」という記事で解説していますので、ぜひ参考にしてください。

売り手のメリット5.従業員に大企業の一員になる安心感を与えられる

例外はありますが、「大きな会社が小さな会社を買収する」というのがM&Aの基本構造です。

仲介業者がよく言うのは、「M&Aで買い手になるのは、少なくともそれだけの余裕がある会社であることが多いので、従業員さんにとってハッピーなことだ」という営業トークです。

このメリットの真相1 不満を感じる人はいる

確かに、喜ぶ人はいるでしょう。

難しいのが、大企業の一員になることがすべての人にとって幸せなこととは限らないことです。不安定でも小さな会社で伸び伸び活躍したいと考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実際、ある程度従業員数が多くなると、必ず何人かは「前の経営体制のほうがよかった」と言い出します。ないものねだりのようなもので付き合っていても仕方ないのかもしれませんが、手塩にかけた部下がこのような感想を持つ辛さは覚悟した方がいいかもしれません。

このメリットの真相2 M&A中毒の会社も存在する

もう一点気を付けるべきが、事業拡大意欲が強すぎるあまり、M&Aをすること自体が自己目的化してしまい、まったく買収後のことに手が回っていない会社も実際に存在することです。

具体例としては、かつて「ライザップ」が月1~2回のペースで買収を連発し、結果的に業績がおかしくなってしまいました。本業のフィットネスは引き続き好調でしたが、無茶なM&Aが会社全体を狂わせた事例です。

このようなM&Aを繰り返す会社は、優良企業どころか危険企業です。M&Aは組織という繊細な生き物を扱うものですので、M&A後にきちんとフォローアップしない買い手が成功することありません。M&Aの投資額を回収できずに破綻した会社は枚挙に暇がありません。

しっかり買い手を見定めて、「後継者」として適切かを考えよう

買い手を選ぶのは売り手の重要な役目です。規模や知名度だけで買い手を選ぶのではなく、本当に後継者として相応しいかを考えましょう。

自社の従業員さんたちにとって、どんな会社に譲渡されるのが幸せなのか考えてみましょう。大企業志向が強くない人ばかりであれば、無理に大企業に売る必要はありません。

一方、M&A中毒には要注意です。こういう会社は業界で有名なのでM&Aアドバイザーさんが知っていることもありますし、転職サイトなどを調べるだけでも何となくわかってきます。

何より、売り手自身が、相手はM&A中毒ではないかを見抜かなければいけません。M&A中毒の会社は、事業計画をろくに考えずに入札をしたり、非現実的なシナジー効果を夢見ていたり、デューデリジェンスが表面的だったりと、それなりに特徴があります。

M&Aの初心者でも、普通の感覚の経営者であれば「なんか変だな」と思いますので、そういうときは要注意です。

売り手のメリット6.財務基盤が安定化する

このメリットは、「M&Aをすると大企業の資本下に入るから、思い切り投資ができますよ」ということです。

これもセールストークでよく使われますが、必ずしもそうでないケースがあるので要注意です。

このメリットの真相1 それは買い手が決めること

まず、どの子会社にどれだけ投資資金を持たせるかは、買い手が決めることです。追加投資を真剣に考えてくれる買い手であればメリットがあるでしょうし、堅実に細々収益を上げてほしいと思う買い手であれば特にメリットもないでしょう。

また、何に投資するかも買い手が決めることですので、対象会社の方々と親会社で投資方針が異なった場合、確実に親会社の方針が採用されます。

このメリットの真相2 とんでもない借金を背負わされることも

ファンドがよく使う買収手法に、LBO(レバレッジドバイアウト)という手法があります。

これはなかなか面白いもので、「買収資金をM&A対象会社に背負わせる」という芸当が可能です。

これを実施すると、M&A後に売り手オーナーが受け取る株式売買額とほぼ同額、M&A対象会社に借入金が発生します。この借入金はM&A対象会社が返済していかなければいけません。

残された人にとっては、突然社長が退任するわ超高額の借金が出現するわで非常に大変な負担を背負うことになります。実際にLBOをきっかけに業績が悪化し、破綻した会社も少なくありません。

LBOの詳しい仕組みについては、「【図解】LBO(レバレッジドバイアウト)とは?仕組みと危険性を解説」をご覧ください。

買い手の買収資金の出どころは確認しよう

M&A後のお金の問題は、なんといっても買い手の方針次第です。

残される部下たちを想うなら、買い手の買収資金の出どころ(手元資金か借入か)、M&A後の投資方針、資金繰り方針は確認しながら買い手を選びましょう。

売り手のメリット7.シナジー効果による事業発展ができる

シナジー効果とは、複数の事業が連携することによって相乗効果を生み出すことです。

たとえば、新日本プロレスは2012年にカードゲームの会社であるブシロードに買収されましたが、ブシロードのCM露出やレスラーのトレーディングカード展開、エンタメ事業のノウハウを生かしたショーアップの改革などにより、今やプロレス業界唯一の勝ち組となっています。

このような事例は多々ありますので、「M&Aをするとシナジー効果が発生して事業が発展でき、従業員さんたちも大歓迎ですよ」というメリットが強調されることがあります。

このメリットの真相 シナジー実現には血がにじむ努力が必要!

ただ、シナジー効果には比較的出しやすいシナジーと出しにくいシナジーがあります。売上が伸びる、事業が拡大するという話は、たいてい出しにくいほうのシナジーです。

出しにくいほうのシナジーは、机の上で議論しても実現しません。M&A後、対象会社と買い手が一丸となり血がにじむような努力をして実現するものです。もちろん、失敗事例など山ほどあります。

出しやすいシナジー、出しにくいシナジーについては、「実務ですぐに使えるシナジー効果の種類とM&A価格に織り込む方法」でまとめていますので、ご参考にしてください。

M&A前に買い手と事業やシナジーを語り合おう

トップ面談やデューデリジェンスの場で、買い手企業とM&A後の事業展開についてじっくり話し合ってみましょう。

どんな事業計画を描いているかを披露させてみるのが得策です。売り手オーナーから見てツッコミどころ満載の青写真しか描けないなら、シナジー創出にはあまり期待しないほうがいいでしょう。

おわりに

今回は、M&A業者の営業トークによくあるM&Aの売り手にとってのメリットについて、その実態とメリット享受のための方法を説明しました。

M&Aは、条件がそろえば非常に有用な事業承継手段であることは間違いありません。ただし、教科書的な一般論で語られるメリットの裏には例外が潜んでいることに注意しましょう。