売り手が少しでも多くのM&A価格を獲得しようと思ったら、何に力を入れるべきでしょうか?

磨き上げ」、「のれんの節税効果」、「価格交渉」なども大事ですが、最大の正念場は「インフォメーションメモランダム(IM)」です(企業概要書案件概要書とも言います)。

私はM&Aの買い手側に属したこともあり、多数のM&Aアドバイザーが持ち込む何百という案件を見てきました。その中で発見したことは、良くできたインフォメーションメモランダムによって自然と高値の入札が集まり、争奪戦が始まってM&A価格は跳ね上がっていくという事実です。そして、どんなに磨き上げやスキームの工夫をしても、インフォメーションメモランダムでアピールできなければ意味がないということも学びました。

事実、デューデリジェンスを実施した結果、むしろ買い手に好都合な事実が発見され、「この事実を最初から開示していれば、入札額は1.5倍になっていたな」と感じたことがあります(もちろん買い手側だったので、売り手さんには黙っています)。
一方で、表示されている売上高や営業利益額は申し分ないものの、インフォメーションメモランダムの記載内容があまりにも貧弱かつ曖昧だったため買収意欲が盛り上がらず、社内規定上限額の半分で入札したこともあります。

つまり、インフォメーションメモランダムの記載内容次第で入札価格は1.5倍にもなれば0.5倍にもなります。インフォメーションメモランダムの巧拙だけが要因で、実に3倍の価格差が付くということです

では、どのようなインフォメーションメモランダムが買い手の買収意欲をそそり、高い価格を引き出す要因になるのでしょうか? 今回は、自社の争奪戦を誘発し、最高の入札価格を集めるインフォメーションメモランダムの書き方についてご説明します。

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インフォメーションメモランダムが重要になる理由

M&Aを成功させる上で、インフォメーションメモランダムは非常に重要な意味を持っています。まずはその重要性について確認しておきましょう。

買い手は対象会社の情報を元に価格を検討する

M&Aの価格はどのように決まるのでしょうか?

もしあなたが「直近の年度で儲かっている会社は、必ず高く売れるはずだ」と思っているなら、その考えは今すぐ捨ててください。実際には儲かっているだけでは高く売れません。

買い手は、「M&A後の将来儲かるかどうか?」を見ています。そして、将来の儲けで回収できる額までしか、買収予算にできません。

では、将来儲かるかどうかはどうやって検討しているのでしょうか? それは、買い手が値決めまでに得た情報を元に、買い手の主観的判断で(=買い手の自己責任で)予想しています

つまり、全然情報がなければ、買い手は買収価格を決めることすらできません。そのため、どんな良い会社であっても売れませんし、売れても二束三文にしかなりません。

情報不足のオークションに意味はない

M&Aのオークションは、複数の買い手候補の中でもっとも自社の価値を評価してくれる相手を探すために行うものです。当然、高い入札額をたくさん集める必要があります。

高い入札を引き出すのは、M&A対象会社のポジティブな情報です。買収後に事業が伸びると感じさせる好材料があればあるほど、買い手の購買意欲は高まり、入札額は上がっていきます。

しかし、入札額がそのまま売買額になるわけではありません。入札後、デューデリジェンスが行われ、そこでの発見事項を踏まえて、改めて価格交渉となります。

もし入札前に十分なネガティブ情報が提供されなかった場合、デューデリジェンス後に大幅な減額交渉がされるでしょう。この段階では買い手候補が1社に絞られているため、買い手候補同士の相互牽制というオークションのメリットは活かされず、買い手の思うままに強気の減額要求がされます。

このように、買い手候補が会社の状況を勘違いして高い価格を入札してしまっては、オークションの意味がありません。十分な情報が提供され、買い手側で十分に検討されて初めて、オークションに意味が出てくるのです。

このように、M&A価格を引き上げるためには適切な情報開示が最重要です。詳しくは「最高の後継者が争奪戦を起こしてくれるM&Aの【情報開示の5原則】」をご覧ください。

デューデリジェンス前に情報提供しすぎてはいけない

一方で、デューデリジェンス前に会社の何もかもをさらけ出すわけにもいきません。

なぜなら、M&Aは最後の最後までどうなるかわからず、情報だけ取られて売買が成立しなかったという結果になるリスクは常にあります。入札前にどんなに情報を提供しても、結局入札しないプレーヤーも必ず出てきます。

会社の営業上の秘密を無制限に提供してしまうと、売買が成立しなかったときに市場競争上苦しくなりますし、それだけ会社の価値が落ちてしまいます。

インフォメーションメモランダムで一律に情報提供

そこで、開示できない一線をあらかじめ定めておき、それ以外の情報を体系的に整理しておくことが有用です。その整理された情報提供資料こそ、インフォメーションメモランダムなのです。

インフォメーションメモランダムの目的は誠実な入札を集めること

インフォメーションメモランダムの目的は、「誠実な入札」を集めることです。目的がしっかり認識されていなければ、インフォメーションメモランダムの軸もブレてしまいますので、ここでインフォメーションメモランダムの目的についてしっかり確認しておきましょう。

入札型M&Aで「誠実な入札」が重要なワケ

上述のとおり、インフォメーションメモランダムは入札を集めるため、必要な情報を提供するのものです。ただ、単に札だけたくさん集まっても意味はありません。

必要なのは、「誠実な入札」です。M&Aでは、不誠実な入札は百害あって一利なしです。

不誠実な入札とは

不誠実な入札とは、対象会社の問題点に薄々気付いていながら、敢えてそれを無視した高値の入札のことです。

たとえば、慣れたM&A担当者は売上高の水増しなどは決算書を見ただけで見抜きますが、敢えて騙されたふりをして、高値の入札を行います。そして落札した後、デューデリジェンスで初めて「発見」し、それを理由に大幅な減額を迫ります

買い手が不誠実な入札をする理由

なぜ、買い手が不誠実な入札をするかというと、デューデリジェンスまで漕ぎつければ、1対1の交渉が可能だからです。

M&A仲介会社は言わない売り手の9つのデメリット」に記載しているとおり、M&A交渉は圧倒的に“素人”である売り手が不利です。この不利を補うために、オークションという形で買い手候補を集め、買い手候補相互の牽制によって力関係を保っていきます。

しかし、入札が終わり買い手候補が1社に絞られた後だと、相互牽制が利かないため、圧倒的な買い手有利の交渉に持っていくことができるのです。

買い手の不誠実な入札を防ぐ方法

買い手の不誠実な入札を防ぐためには、都合の悪い情報も含めて、すべて誠実に開示するということに尽きます。

都合の悪い情報を隠したり、都合の良い情報を強調しすぎたりすると、後でデューデリジェンスをした後に「話が違う」と言われて厳しい減額交渉にさらされます。

一方、インフォメーションメモランダムの段階から正しい情報を載せておけば、デューデリジェンス後に減額交渉されても、「そんなことは最初から言っていたのだから、入札額に織り込んでいたはずでしょう?」という反論ができるのです。

結果的に不誠実な買い手は高値で買わざるを得なくなるため、そもそも不誠実な入札自体を控えるようになります。

買い手が注目するインフォメーションメモランダム項目

上記のとおり、インフォメーションメモランダムは、誠実に、必要な情報を、開示できる範囲でしっかりと記載しておくことが重要です。特に買い手の立場をイメージしてみて、「この事業を正しく評価し、安心して入札するために必要な情報がすべて盛り込まれているか?」という観点から見直してみましょう。

特に以下の項目については、入札を判断する上で買い手が注目するポイントであるため、特に気合を入れて書く(M&Aアドバイザーの記述を管理監督する)ことをお勧めします。

なお、もしもインフォメーションメモランダム作成段階で、M&Aアドバイザーの能力や意欲に疑問を感じた場合、真剣に契約解除を検討されることをおすすめします。この時点がアドバイザー変更の最初のデッドラインになります。詳しくは「マトモなIMが作れないM&A仲介会社は即契約解除すべき5つの理由」をご覧ください。

IMの項目1.事業領域

業種、事業エリア、顧客ターゲット層など、事業領域はなるべく詳細・多角的に記載しましょう。

事業領域を明確にしておくことで、その事業領域に進出したい会社が戦略的に買収を考えたり、シナジー効果を描いたりしやすくなります。このような場合、会社の希少価値が上がり、高値が付きやすくなるでしょう。

買い手がシナジー効果をどのように入札価格に織り込んでくれるかについては、「実務ですぐに使えるシナジー効果の分類とM&A価格に織り込む技術」をご覧ください。

IMの項目2.社歴と最近の事業状況、業績、将来見込み

社歴は結構気にされます。実は長いほうがいいというわけではなく、長いと独特の企業文化ができているカタい組織ではないかと邪推されます。

直近数年の事業状況や業績については、社長自身の分析を文章で記載しましょう。成長産業なのか、斜陽産業なのか。売上は右肩上がりなのか、下落傾向なのか。今後良くなりそうなのか、悪くなりそうなのかなどです。主観的ではなく、客観的な事実を指摘してください。

IMの項目3.会社の強みとその源泉となる独自資産

会社の強みについて、社長の自己分析を記載します。また、その強みがどこからやってくるのか、会社が持っている経営資源から分析し、説明します。

売れる会社には必ず強みと独自資産があります。たとえば店舗ビジネスであれば「立地」も立派な資産です。強みと独自資産をアピールできれば、圧倒的に高い値段で売ることが可能になります。

IMの項目4.業界特有の評価ポイント

世の中には様々な事業があり、その業界特有の評価ポイントがあります。たとえば、運送会社であれば拠点エリアを広く浅く持っていることが評価ポイントになりますが、小売業では逆に一定エリアに狭く深く出店しているほうが評価されます。

売り手の社長が日ごろ他社を見て「いい会社だなぁ」と感じたり、「この会社には負けてないぞ」と感じるモノサシがあるのではないでしょうか。そのモノサシで自社を客観的に測ってあげてください。買い手はその情報を欲しがっています。

IMの項目5.取引先情報・顧客分析

得意先(顧客)と仕入先の情報は非常に重要です。特定の取引先の取引を模索している会社にとってはM&Aがきっかけになりますし、同じ仕入先であれば仕入値を突き合わせて価格交渉ができるからです。

このような、損益計算書の数値の裏側を見せると、思わぬ価値評価が入ることがあります。

IMの項目6.M&Aスキーム(M&A手法)

M&Aスキームは必ず記載しましょう。株式100%の譲渡なのか、会社分割を行ったうえで株式を譲渡するのか、あるいは事業譲渡かなど、M&Aスキームはさまざまあります。

M&Aスキームによって、買い手の収益性がまるで変わったり、法務リスクを切り離せたりします。これは入札額にそのまま跳ね返る項目です。逆に言えば、M&Aスキームが曖昧では、買い手はまともな入札ができません。

中小企業M&Aで主に選択されるM&Aスキームは4つあります。その内容やメリットデメリット比較については「4大スキームを図解!中小企業のM&A手法のメリットデメリット比較」を、弊社がコンサルティングで実際に使っているM&Aスキームの決定手順については「後悔しないM&Aスキーム決定のためにプロが実践する手法検討7手順」を、それぞれご覧ください。

また、M&Aスキーム次第では強力な節税効果が発生することがあり、それだけでM&A価格は1.3~1.5倍程度になることがあります。

M&Aスキームはそれほど重要ですので、スキームが不透明なまま入札することはできません。必ず明確にしましょう。

IMの項目7.M&A後の事業運営への希望

M&A後の事業運営にリクエストがあれば記載しましょう。特にない場合もその旨(特に希望がないので買い手に任せる旨)を書いたほうが、入札額は高くなりやすいでしょう。

従業員さんの継続雇用や自身の顧問期間、短期での屋号変更や合併に対する思いなど、何らかの希望があるオーナーさんは多いです。一方、売却後は他社なのだから何も希望はないという方もいます。どちらが良いかという話ではなく、どちらであるかを知っておいたほうが、買い手としては買収後の事業像を描きやすいということです。

IMの項目8.役員の顔ぶれと従業員数、平均年齢、平均給与

会社を取り仕切っている役員の顔ぶれ(簡単な経歴と社長との続柄など)や、従業員さんの情報は記載しましょう。

従業員さんの平均年齢や平均給与が高いと、それなりにマイナス要素として見られます。ただ、若返ることはできないので致し方ないところです。

従業員に関しては、逆の立場になって、彼らを引き継ぐか否かを判断する際にどんな情報が必要だろうか?という観点から開示する情報を考えましょう。

IMの項目9.貸借対照表とその解説

貸借対照表を3~5期分並べ、各科目の解説を加えましょう。特に以下のポイントについては明確である必要があります。

  • オーナーや親族に対する貸付、借入の有無
  • 売掛金、買掛金、在庫のサイクル期間
  • 土地や大きな設備の内容、住所
  • ゴルフ会員権や生命保険などの事業に関係ない資産の金額と内容
  • 車両や社宅など、社長が個人的に使用している資産の金額と内容
  • 借入金の内容・借入先と増減、資金繰り方法
  • 従業員退職金の要支給額
  • その他、大きな変動の要因
  • (タテの会社分割・事業譲渡の場合は特に)想定される繰延税金資産

なお、保険積立金のように時価(解約返戻金)がわかる場合は記載します。土地も固定資産税評価額ぐらいはすぐわかりますので、記載しておきましょう。

タテの会社分割や事業譲渡以外のスキームでも、繰延税金資産の存在は見落とさないように気を付けましょう。繰延税金資産については「M&Aの価格交渉で知らなきゃ大損する繰延税金資産の基礎知識」にまとめています。

特にタテの会社分割での繰延税金資産については、これをインフォメーションメモランダムで表示しておくだけで、M&A価格が1.3~1.5倍程度になることも珍しくありません。具体的には前掲の「M&A価格が1.5倍にも!驚きの【のれんの節税効果】徹底解説」をご覧ください。

IMの項目10.損益計算書とその解説

同じように損益計算書を3~5期分並べます。損益計算書は買い手候補が入札額を決めるうえで中核となる情報ですので、より詳細に解説しましょう。

  • 部門別損益計算書(営業秘密上問題がなければ)
  • 主要得意先別売上高(同上)
  • 商品部門別売上高(同上)
  • 商品部門別粗利率(同上)
  • 本部費の内容
  • 接待交際費の内訳
  • 支払手数料・支払報酬料の内訳
  • 各役員が担当している業務

上記のとおり、それなりに営業上の秘密に触れる部分がありますが、それこそが買い手がシナジー効果を計算する情報になります。

買い手はインフォメーションメモランダムの記載内容を元に、社内基準に則って入札価格を検討していきます。買い手が実際に使っている株式価格の決定方法については「DCFなんて嘘?M&Aの入札で買主が本当に使う3つの株式値決め法」にまとめていますので、ぜひご参考にしてください。

IMの項目11.実態損益計算書

上記の損益分析に加え、実態損益計算書が記載されていると、買い手は価格を出しやすくなります。

実態損益計算書とは、節税のための費用や過大な交際費などを除いた、純然たる事業の損益実態を表すもので、買い手候補が将来の損益を見込むうえでの発射台となるものです。

実態損益計算書の意義と作り方、インフォメーションメモランダム上での見せ方については、「会社を高く売るために必須となる【実態損益計算書】の作り方」で詳述していますので、ぜひご覧ください。

IMの項目12.節税効果がピークになる役員退職金の額と買い手の節税効果

中小企業のM&Aでは、役員退職金の額次第で売買価格が増えることがあります。これは役員退職金を出すことにより、買い手に節税効果が生まれるためです。

M&Aで役員退職金を活用する節税手法については、「【図解】M&Aで役員退職金を使った節税方法を徹底解説!」をご覧ください。

どのぐらいまで役員退職金が出せそうで、どのぐらいの節税効果が買い手に享受されるかは、M&Aの入札価格を決めるうえで意外と大きな影響があります。事前にアナウンスしておくことで、節税効果を適切に上乗せした入札額を引き出しましょう。

買い手に響くインフォメーションメモランダムの内容とは

買い手が注目するインフォメーションメモランダムの項目は上記のとおりですが、どのような内容だと買い手の心に響くのでしょうか。以下ポイントを解説します。

IMの内容1.M&Aの対象範囲は明確にする

これは大原則なのですが、M&Aの対象範囲は明確にしましょう。買い手やデューデリジェンス担当会計士の立場で数多くのインフォメーションメモランダムを見てきましたが、これが明確でない案件は非常にげんなりします。

会社が1つしかなく、株式の100%を売買するのであれば、会社が有するすべての資産負債が譲渡対象なのですが、会社分割によりその一部を売買対象にする場合は、明確に記載する必要があります。

会社分割で注意すること

特に、最近は節税効果を期待したヨコの会社分割が増えていますが、どの資産を売買除外とするかは網羅的に記載しましょう。
1億円の資産が譲渡対象から除外となれば、単純に株式の売買額も1億円減額となりますが、曖昧にしておくとその資産も含めた価格提示をする買い手と、除外した価格提示の買い手が混在しかねません。これでは入札の意味がありません。

また、分割で一部資産を除外した場合、損益も変わることが一般的です。インフォメーションメモランダム上で損益を修正し、計算過程とともに売却対象事業のみの理論損益計算書を載せましょう。

もっとも、会社分割スキーム自体が近年急激に広がっているものであるため、まともな決算数値修正ができていない仲介会社も少なくなく、意図せず不誠実なインフォメーションメモランダムになっているケースを散見します。(残念ながら、大手仲介会社でもかなり多いです)

仲介会社の手に負えないと感じたら、我々のような会計や組織再編の専門家を使うようにしてください。もちろん報酬はいただきますが、それに見合う価値はお約束できます。

IMの内容2.会社の直近業績を正直に自己分析する

直近の業績について、客観的に自己分析し、その内容を記載しましょう。なぜ売上が伸びたのかの原因がわかると、それを自分の事業でも応用できるではないかと考える買い手が現れます(もちろん、誰でもカンタンに真似できるノウハウは書くべきではありません)。

ネガティブな情報も、客観的事実であれば隠さず書くべきです。事業停滞の原因が明確であれば、それを克服する手段を持っている会社から高めの入札が期待できるからです。こういう企業は、デューデリジェンス後に不誠実な値引き交渉をせず、「期待される業績改善の成果をどう売り手に分けるか」という姿勢で交渉してくれます。

買い手が将来期待される改善効果(シナジー効果)をどれだけM&A価格に織り込んで還元するかについては、「実務ですぐに使えるシナジー効果の種類とM&A価格に織り込む技術」をご覧ください。

IMの内容3.その会社にしかない独自の財産をアピールする

M&Aは単に資産を買うよりも、高額かつハイリスクです。にもかかわらずなぜ売買が成立するかというと、簡単に真似できない無形の財産がその会社に存在するからです。

自社にしかない独自の財産は何かと考え、アピールしましょう。どんな会社でも、厳しい競争を生き残ってきたのならば必ずその理由が存在します。その内容が洗練されたものであれば、インフォメーションメモランダムはすぐに買い手の上層部に回り、相当な買収予算が決済されます。

IMの内容4.買収後の事業運営をイメージしやすいようにする

インフォメーションメモランダムでは、買い手が買収後の事業運営をイメージしやすいようにしましょう。

買い手候補は、インフォメーションメモランダムを見て将来を想像します。従業員は何人で、仕入値はどの程度下がって、本業との連携はどのように行われるかといったイメージ像を作り、さらにそのときの損益計算書を計算してから、それならいくらまで出せるかという入札額の値決めを行います。

たとえば、役員が全員退任する予定の場合、代わりに本部から送りこまなければいけない人数は何人でしょうか。所有している工場用地を会社分割で譲渡対象から除外する場合、その後の地代はいくらでしょうか。

このような、買い手がM&A後の損益計算書を皮算用するために必要な情報は、客観性の高いものでなるべく提供しましょう。

IMの内容5.曖昧な部分は徹底的に排除する

なお、インフォメーションメモランダムに曖昧さは厳禁です。

売り手オーナーとしてはどちらでもよいと考えている項目もあるかもしれません。買い手が土地ごと買いたければ売るし、欲しくなければ賃貸しますよという案件は何度も見てきました。

しかし、入札前にこのような選択肢をもらっても、買い手は何もうれしくありません。買い手が欲しいのは事業の本質的な情報であって、付帯的な話で入札に負けるのは不本意です。売り手としても、本当に事業を一番評価してくれる相手に売ることができなくなります。

買い手に選択を委ねたい場合でも、基本路線は売り手が決めてあげましょう。そのうえで、「〇〇については別途交渉可」として、別の次元で取引すべきと考えます。

情報開示時の注意/検証可能な情報にすること

なお、インフォメーションメモランダムで開示する情報は、可能な限り客観的で検証可能なものにすることが重要です。

たとえば実態損益計算書や経営者による事業の現状分析は、その根拠が明示されていなければ、買い手候補は鵜呑みにせざるを得ません。この場合、デューデリジェンスで検証した結果別の分析結果が出た場合には、厳しい減額要求がなされます。一方で、予め買い手候補が検証可能な情報開示をしておくことで、「鵜呑みにしたのは買い手さんの責任でしょ」という防衛ができます。

具体的には、以下のような情報を提供しておくことで、検証可能性の高い情報開示が可能になります。

  • 実態損益の計算過程・数値前提の付記
  • 新聞や雑誌など外部情報の引用
  • どの内容が客観的事実で、どの内容が誰の主観判断かの明記
  • 税金や税効果会計の前提となる適用税率
  • M&Aスキームの税務上の扱いの参照条文

おわりに

今回は、M&Aの成功の重大ポイントであるインフォメーションメモランダムについて、特に重要な項目と内容にフォーカスしてご説明しました。

インフォメーションメモランダムは、M&Aアドバイザーによって良し悪しがはっきり分かれるところであり、下手な担当者に会ってしまうとそれだけで何億円も損をします。決してアドバイザー任せにせず、本記事を参考にしながら、売り手オーナー自身が積極的に監修しましょう。