M&A(譲渡)

【図解】株式売却M&Aで個人売主が使える3つの税金対策

株式売却での売主の節税方法

株式を売買するM&Aでは、売主であるオーナーさんに多額の収入がもたらされます。

高く売れれば売れるほど、オーナーさんにとってはハッピーな話なのですが、そのとき気になるのが「税金」の問題です。多くても数千万円で作った会社が、何億、何十億、時には何百億という価格で売られますので、譲渡益は巨額になり、納税額も大変高額になります。
大儲けできたのだから、税金を納めるのは当然の義務なのですが、譲渡後引退となることの多いオーナーさんとしては、少しでも税金が少ないほうがよいに決まっています。

そこで今回は、個人オーナーが株式譲渡所得課税を節税する方法について、安全で汎用的なスキームを3つご紹介します。

実は、安全かつ汎用的に使える株式譲渡所得課税の方法は、たったの3つしかありません。それは以下の手法です。

  • 株式売買対価の一部を役員退職金にする節税手法
  • ヨコの会社分割(分割型分割)を使った節税手法
  • タテの会社分割(分社型分割)または事業譲渡による節税手法

個人株主のとって安全な節税手法は、上記の3手法を単独または組み合わせて使ったものに限られます。もし上記以外の節税手法を税理士やコンサルタントに提案された場合、税務リスクが非常に高い可能性がありますので、慎重に検討ください。
消費税免税事業者の立場を利用した節税手法(活用場面はかなり限定されるため割愛)など、比較的安全な方法もあるにはあるのですが、資産時価と同額の負債をくっつけて売却する方法など、税務調査でひっくり返されるリスクが極めて高い手法が横行しているのも事実です。

今回は、株式譲渡所得課税の仕組みをご紹介したうえで、上記3つの安全な節税手法について、図解を交えながら解説します。文章としては結構長いですが、売り手オーナーさんとご家族のM&A後の人生を左右する問題ですので、しっかり読んでいただくことを強くお勧めします。

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図解!株式譲渡所得課税の仕組み

まずは、そもそも株式を売却したときに発生する「非上場株式の譲渡所得課税」について、計算の概要を確認しておきましょう。

株式の売却で発生する個人の税金(譲渡所得課税)の税率

株式の売却では、個人の税金として、譲渡益に対して以下の税金が課されます。

合計 20.315%
税目 税率
所得税 15%
住民税 5%
復興特別所得税 0.315%

累進課税ではありませんので、譲渡益の金額にかかわらず一律で20.315%の課税です。

株式譲渡所得課税の計算式

株式譲渡所得課税は、譲渡益、すなわち株式売却の「儲け」に対して課されるものです。儲けは、収入からその収入を得るために支出した額(原価と経費)を差し引いて計算します。

株式譲渡所得課税の計算構造の図解

譲渡所得課税の原価と経費

では、譲渡所得課税の計算における「原価」と「経費」とは何でしょうか。簡単に言うと、原価は売却したモノの仕入価額、経費は売却に直接要した費用です。

原価=会社への個人からの投資額

原価は、売却対象である株式を作った際や、買い取った際に投資した金額です。設立時から株主であれば、設立時に自分が出資した額(資本金)ですし、買い取っている場合はその買取金額(+買取時の経費)が原価になります。

なお、相続や贈与により無償で引き継いだ場合は、その前の持ち主の投資額を原価の額として引き継ぎます。

取得の状況 売却原価の原則
本人が創業時から所有 創業時の本人の出資額
他人から買収 買収額+買収経費
相続・贈与により取得 先代株主のときの取得原価

売却収入の5%を売却原価と見做してもOK

株式の買収が大昔のことだったりすると、当初の投資額がいくらだったのかわからなくなってしまっていることも少なくありません。

そこで、売却収入の5%を原価と見做すことも可能です。売却収入が100百万円なら、5百万円を原価と見做すことになります。

さらに、当初投資額が明確である場合も、納税者の選択で5%を選ぶこともできます。M&Aの場面では当初投資額の数十倍、数百倍といった売却額になることも多く、5%を選択適用したほうが有利になるケースのほうが主流と言えます。

売却原価の額の決定のフローチャート

経費=売却のために本人が直接要した費用

経費になるのは、売却のために本人が直接要した費用です。M&Aアドバイザーの報酬は、仲介でもファイナンシャルアドバイザー(売り手の代理人)でも通常は経費として認められます。

株式譲渡所得課税は、他の所得とは別に計算する

株式の譲渡所得課税は、給与など他の所得や損失がいくらあろうとも、税率が変わることはありません。

非上場株式の売却益は、同じ年のうちに別の非上場株式の売却損が発生した場合のみ、これを相殺することができます。

株式譲渡所得課税だけで考えれば、節税余地はほとんどない

上記をまとめると、非上場株式の譲渡所得課税の計算で、売却益を圧縮できる要素は以下の3つに限られます。

  • 売却原価
  • 売却に直接要した経費
  • 同一年内に発生した非上場株式の売却損

節税という観点からいうと、売却原価は実額か売却収入の5%かを選択できるだけで、工夫の余地は特にありません。売却経費はキャッシュがアドバイザーに流出する話なので、増えることに実益はありません。

よって、節税余地としては、たまたま他に含み損を抱えた非上場会社の株式を持っており、いずれ売却しなければならないという状況で、売却のタイミングをM&Aに合わせる程度しか考えられません。非常にレアなケースしかないと言えるでしょう。

株式売買対価の一部を役員退職金にする節税手法

以上のように、個人の株式譲渡所得課税の節税余地は非常に限られます。そこで、株式譲渡所得以外の所得に組み替えるという節税方法が有名です。それが、株式対価を役員退職金に振り替える方法です。

このスキームは以下の記事で詳細に解説していますので、本稿では特に重要なポイントに絞って解説します。

【図解】M&A株式売却で役員退職金を使った節税方法を徹底解説!

株式売買対価の一部を役員退職金にする節税方法の仕組み

この手法のエッセンスを一言で表現すると、株式譲渡所得課税になる所得を、それよりも低い税率の所得に振り替えるということです。

所得税は個人の収入を以下の10種類の課税に区分し、それぞれ異なる税金計算を適用するという仕組みになっています。

所得区分 取り扱われる収入
利子所得 公社債や預貯金の利子等として受け取った収入
配当所得 株式の配当等として受け取った収入(みなし配当含む)
不動産所得 不動産の貸付け等により受け取った収入
事業所得 個人事業主の事業で稼得した収入
給与所得 会社等から受け取った給与や賞与の収入
退職所得 会社等から退職金として受け取った給与や収入
山林所得 山林の売却により受け取った収入
譲渡所得 株式や不動産の売買によって受け取った収入
一時所得 クイズの賞金、保険の満期解約などにより受け取った一時的な収入
雑所得 上記の9種類以外の収入(Ex.年金、印税など)

このうち退職所得は、他の所得に比べて税率が低く設定されており、一定額までは株式譲渡所得課税の20.315%を下回ります。そこで、株式の対価として受け取る収入の一部を、役員退職金として退職所得化することで、より低い税率の適用を受けるというのが、この節税スキームの内容になります。

株式売買対価の一部を役員退職金にする節税手法の図解

たとえば、会社の売買総額が3億円ということで合意された場合、そのうちの4,000万円を売り手オーナーの役員退職金として支給します。

退職金を使った節税スキームの図解

仮に売り手オーナーの勤続年数を25年とすると、退職金4,000万円に対する退職所得課税は12%程度と、株式譲渡益課税の20.315%よりも低くなります。株式譲渡益課税に回る利益を退職所得課税に回すことによって、下図のような節税が生まれます。

売り手にとっての節税額

退職所得課税の課税方法は、前掲の「【図解】M&A株式売却で役員退職金を使った節税方法を徹底解説!」にて詳述しています。本スキームをご自分で計算・検討される際は必ずご確認ください。

株式売買対価の一部を役員退職金にする節税手法の効果

退職所得課税は累進課税であり、退職金額が少額であれば低税率ですが、金額が上がるにつれて税率が上昇していきます。株式対価の一部を退職金にする節税手法は、ある程度まで退職金額が上がると株式譲渡所得課税よりも税率が上がってしまいますので、退職金にするのは一定の水準までで止めておく必要があります

下図は【図解】M&A株式売却で役員退職金を使った節税方法を徹底解説!」で紹介している、あるケースでの退職金額の推移に対する節税効果(全額株式売買対価にした場合と比較した際の税額の差)のグラフです。

役員退職金額と節税効果の推移のグラフ

このケースの場合は、売り手の節税効果を最大化するための役員退職金は29,500千円であり、節税額は3,329千円です。

節税効果がピークとなる退職金額と節税効果そのものの額は、案件によって変わりますので一概には言えません。Excelに計算式を入力して感応度分析を行うことになります。

ただ、60~70歳で売却・引退する創業者の場合、会社の大きさには関係なく、だいたい300~400万円ぐらいの節税効果がピークになります。

買い手の節税効果で手取り額はさらに上がる!

なお、この役員退職金を活用した節税方法は、買い手にも大きな節税効果を生み出します。これを利用し、節税額のピークとなる退職金額(上記例では29,500千円)よりも多額の退職金を出す代わりに、売買総額を引き上げてもらう交渉戦略があります。

株式売買額の一部を役員退職金にする方法の買い手の節税効果については「【図解】M&A株式売却で役員退職金を使った節税方法を徹底解説!」を、買い手の節税効果を売買価格に織り込む価格交渉については「M&aの価格交渉で知らなきゃ大損する繰延税金資産の基礎知識」および「【売主向け】DD後の最終条件交渉で勝つM&A価格交渉術」を、それぞれご覧ください。

この方法は買い手にメリットを理解させる必要があるものの、うまくいけばさらに300~400万円程度手取り額を増やすことができる場合があります。

結論として、この株式売買対価の一部を役員退職金にするスキームでは、最大で800万円程度財産を増やすことができる場合があります。

ヨコの会社分割(分割型分割)で株式譲渡益を圧縮する節税手法

会社分割とは、1つの会社を2つに分けたり、一部の資産負債・事業を他社に移転させたりする会社法上の手続きです。会社分割にはタテとヨコの2種類あり、それぞれ分社型分割と分割型分割と呼ばれます。

会社分割の基本的な知識については、「【図解】ゼロからわかる会社分割の基礎知識と4つの種類」に詳細でわかりやすい解説を載せていますので、本稿では関連する最低限の紹介に留めます。

このうちヨコの会社分割(分割型分割)は、いわゆる「兄弟会社」を作るというスキームです。これによるM&Aの節税スキームを簡単に言うと、「会社内の売却とは関係ない資産や事業を兄弟会社に分割移転する」ということになります。

ヨコの会社分割(分割型分割)を使ったM&A売却の節税スキームの詳細については、提携サイトである「組織再編税制とらの巻」で以下の記事を書いています。

売主必見!ヨコの会社分割を用いた株式売却M&Aの超節税術

そのため詳細は上記記事に譲りますが、本稿ではその概要と節税ができる仕組みにフォーカスして解説いたします。

ヨコの会社分割(分割型分割)を使ったM&Aの節税手法の図解

ヨコの会社分割(分割型分割)を使ってM&Aを行う方法は、非常にシンプルです。M&Aの直前に、譲渡対象となる会社内にある売り手が欲しがらない、興味が薄い資産や事業を、ヨコの会社分割の方法で兄弟会社(新設でも既存でも可)に移転させるだけです(下図)。たったこれだけで、大幅な節税が実現することがあるのです。

ヨコの会社分割を使ったM&Aの節税スキームの図解

大半の場合、この会社分割は「税制適格分割」と呼ばれ、不要資産の移転に法人税等の税金は発生しません。たとえば移転される資産に保険積立金があっても、含み益(解約返戻金と保険積立金額の差額)に課税されることはありません。

ヨコの会社分割(分割型分割)を使ったM&A節税スキームは、この会社分割が税制適格分割型分割であることが絶対条件となります。大半は適格分割の要件を満たしますが、まれに満たさないことがあり、その際は破産するほどの課税が発生しかねません。具体的な計算は「非適格分割型分割のM&Aがどれだけヤバいか実際に税金計算してみた」という記事で試算していますが、純資産2億円の事業を10億円で売却したところ、約9億円の税が発生し、手取りは1億円になりました。適格分社型分割の要件は提携サイトの「適格分割型分割の要件」をご覧ください。いずれにせよ、必ず組織再編に精通した税理士に確認することを強くお勧めします。

ヨコの会社分割(分割型分割)のM&Aで節税ができる理由

なぜ、不要資産を別会社に分割移転するだけで、大幅な節税が可能になるのでしょうか。その理由もまた至ってシンプルです。

単純化のため売却原価は売却額の5%、売却経費は度外視とすると、3億円で会社を売却した場合、税金は約58百万円になります(下図)。

横の会社分割前の株式譲渡所得課税の計算式

ここで、仮に会社に定期預金が1億円あり、別会社に移すると、理論上は会社の売却額は2億円に下がるはずです(下図)。

分割型分割前後の株式価値の変化

M&Aにおける株式価値算定(バリュエーション)や買収額決定(プライシング)の手法には様々なものがあります。財務理論上適正とされる方法として、「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」「コストアプローチ」の3種があり、理論上不完全ではあるもののプライシング基準として広く使われている手法として「年買法」や「EV/EBITDA法」と呼ばれるものがあります。

いずれの手法であっても、事業に直接関係しない余剰資金を売却対象から外すと、単純にその金額分だけ株式価格が減少します。M&Aのプライシングについて、詳しくは「DCFなんて嘘?M&Aの入札で買主が本当に使う3つの株式値決め法」をご覧ください。

分割型分割により株価が下がった結果、株式譲渡所得課税は、以下のとおり約39百万円にまで減少します(下図)。

横の会社分割後の株式譲渡所得課税の計算式

分割型分割によって変化する株式譲渡所得課税の計算式を比較すると、以下のとおりです(下図)。

分割型分割前後の株式譲渡所得課税の比較

上記のように、売却収入の減少に比べて売却原価の減少が少ないため、売却益が大幅に下がっていくという計算構造が、ヨコの会社分割で節税が可能になる理由です。

実際にはM&Aアドバイザー報酬などの売却経費も減少するため、手取り額の差はより大きくなります。前掲の「売主必見!ヨコの会社分割を用いた株式売却M&Aの超節税術」の記事では、さらに複雑な例で節税効果を解説しています。

ヨコの会社分割(分割型分割)を用いたM&Aの節税効果の概算方法

M&Aでヨコの会社分割を使ったときの節税効果は、退職金スキームとは桁違いとなることも少なくありません。

自社がヨコの会社分割(分割型分割)でどの程度税金が減少するかについて、ざっくりとした概算であれば、比較的簡単に行えます。その手順については「超簡単!M&A前のヨコの会社分割(分割型分割)での節税効果計算法」をご覧ください。

急速に広がっている分割型分割M&A

ヨコの会社分割を用いた節税手法の大きなポイントは、この会社分割が「税制適格分割型分割」に該当することです。適格要件を満たさない限り、単に税金を増やすことになりかねません。

実は、平成29年の税制改正までは、このスキームでM&Aを行った場合は非適格分割として、多額の税が発生する課税ルールでした。平成29年にルール変更があり、この節税スキームが可能になっています。それ以降、中小企業M&Aの場では急速に広がっている節税スキームです。

なお、土地など特定資産だけを旧会社に残して売却し、土地含み益の法人税課税を繰り延べるスキームを推奨しているコンサルタントもいるようですが、税務調査で受贈益が認定されるリスクが高いです。あくまで会社から余分な資産を外すという発想で行うことを推奨します。

タテの会社分割(分社型分割)で計算方法を転換する節税方法

第3に、タテの会社分割(分社型分割)を用いたM&Aの節税スキームをご紹介します。この手法は逆に税額を増やしてしまうこともあれば、他の2つとは比べ物にならない節税になることもあるうえ、さらに売却額自体も跳ね上がることがある手法です。

ここでいうタテの会社分割(分社型分割)とは、いわゆる「100%子会社」を作るスキームです。売却対象となる事業を一旦子会社してから、その子会社の株式を売却します。これを使うと、税額計算の方法自体が変化しますので、大幅な節税になることがあります

なお、タテの会社分割(分社型分割)を使ったM&A売却の節税スキームの詳細については、提携サイトである「組織再編税制とらの巻」で以下の記事を書いています。

効果絶大!タテの会社分割による株式売却M&Aの高度な節税術

そのため、ヨコの会社分割と同様に、詳細は上記記事に譲るものとし、本稿ではその概要と節税ができる仕組みにフォーカスして解説します。

タテの会社分割(分社型分割)を使った節税手法の図解

上記のとおり、M&A直前に売却対象となる事業を一旦100%子会社してから、その子会社の株式を売却するスキームです(下図)。

タテの会社分割(分社型分割)を使った節税手法の図解

この手法は「スピンアウト取引」とも呼ばれ、昔から様々な場面で活用されてきた手法なのですが、大きな節税効果があることは、なぜかあまり知られていません。

タテの会社分割(分社型分割)を使った場合の課税関係

通常の株式譲渡やヨコの会社分割を使った手法では、売り手オーナー個人に20.315%の株式譲渡所得課税が課されました。

これに対し、タテの会社分割を使うと、法人(親会社)での事業譲渡益課税になります。両者の主な違いは以下のとおりです。

項目 通常の株式譲渡 タテの会社分割
売却原価 個人の当初投資額 B/S上の資産負債簿価(税務調整後)
適用税率 一律20.315% 地域や法人規模等により異なるが、
33.59%等、通常の法人実効税率

上記のとおり、税率だけ見るとタテの会社分割のほうが損となります
しかし、もう一方の売却原価次第で、タテの会社分割(分社型分割)のほうが大幅に節税になることがあります

通常の株式譲渡とタテの会社分割(分社型分割)の売却原価の違い

通常の株式譲渡の場合、株式に対する個人の当初投資額が売却原価のベースとなります。
これに対し、タテの会社分割(分社型分割)では、会社のB/Sに計上されている資産負債簿価を元に売却原価が計算されます。つまり、会社の純資産が売却原価のベースです(下図)。

株式譲渡と分社型分割の売却原価の比較

このように、売却原価の考え方がまったく変わるので、税率の差を上回る節税効果が出ることも珍しくないのです。

タテの会社分割(分社型分割)を使った場合の節税効果

上記の事業に4億円の値が付いた場合の、通常どおり株式譲渡した場合とタテの会社分割後に譲渡した場合の課税を比較してみましょう(下図)。

株式譲渡と分社型分割の売却益課税の比較

なんと、税額が半分以下になってしまいました

タテの会社分割(分社型分割)は、上記のとおり税率がアップしますので、常に税額が下がるわけではありません。株式や対象事業の簿価、売却額、M&Aアドバイザー報酬の料率などの要素によっては、通常の株式譲渡のほうが税額が低いこともあります。

ただし、節税効果が出るときは、他の2手法とは比べ物にならないほど出るという爆発力を秘めた節税スキームと言えます。

買い手の節税効果を見逃さなければ、財産額はさらに跳ね上がる

上記のような本スキームですが、もう1点他の手法にない税メリットとして、買い手側にも相当な節税効果が生じるという利点があります。

この効果を最大限使うと、M&A価格が1.3~1.5倍程度になることも珍しくありません。もちろん役員退職金と同様、これは交渉の話なので、交渉の腕が試されるところではありますが、買い手としてより高い金額を出しやすくなることは間違いありません。

タテの会社分割(分社型分割)による買い手の節税効果については、「M&A価格を跳ね上げる最強の【のれんの節税効果】徹底解説」をご覧ください。

3つの節税手法を組み合わせて最適な節税を図ろう

これら3つの節税スキームは、単独で実行しても効果が高いですが、複数組み合わせて実行することも可能です。Excelでシミュレーション計算を繰り返し、最適な組み合わせを作ることができれば、数億円規模の売買案件でも、最終的な手取り財産は数千万円単位で変わることになります

ただし、ヨコの会社分割とタテの会社分割を組み合わせることはできません(組み合わせても追加の節税効果はありません)。

タテの会社分割(分社型分割)なら、役員退職金の節税効果は1.6倍!

なお、タテの会社分割(分社型分割)を行った場合、役員退職金を支給すると、節税効果が大幅に上がります。

このスキームは通常の役員退職金支給とは異なり、親会社で発生した事業譲渡益を、役員退職金の損金(税務上の費用)で相殺するというスキームになります。

通常の株式譲渡であれば、退職金分だけ20.315%課税となる利益が減少します。これに対し、タテの会社分割であれば、法人の33.59%課税となる利益が減少します。つまり、同じ額の退職金を出しても、節税効果は1.65倍(33.59÷20.315)になります

ハイリスクなトンデモ節税手法にご用心!

さて、繰り返しになりますが、M&Aで汎用的に使える安全な節税スキームは以上の3つだけです。

売り手と買い手のケースによっては他の節税スキームも考えられることがありますが、税務調査で否認されるリスクには十分気を付けてください。複雑なスキームであればあるほど税務リスクは高くなります。

筆者も奇をてらったような「節税提案」を見かけることがありますが、その多くが「租税回避行為(不当な税逃れ)」と判定されるリスクが高いものです。中には節税になるどころか、重加算税だけで破産しかねない超ハイリスクスキームも見かけます。

上記3つのスキームは、普通にやれば課税ルールの立法趣旨に乗っ取った手法ですので、適切な範囲内で行っていれば、税務否認のリスクは低いでしょう。ただし、以下の場合に気を付けてください。

過大役員退職金と認定されうるケース

会社法上、役員退職金はいくら出してもいいのですが、業種、業績、地域等を勘案して過大であると税務署に認定された場合、過大部分は会社の損金(税務上の費用)とは認められません。

一般に、「役員報酬の相場を決める計算式」なるものも出回っていますが、それに則って支出した役員退職金が否認された事例も少なくありません。計算式を過信して無尽蔵に出すようなことのないようにしましょう。

明らかに小さなサイドビジネスをヨコの会社分割で売るケース

会社の本業をヨコの会社分割で売却するのであれば、それは「会社の磨き上げ」の一環で不要な財産を売却対象外にするだけですので、税務リスクは小さいでしょう。

一方で、売却対象事業に比べて売却対象外となる事業があまりに大きく、通常であればタテの会社分割や事業譲渡で売却対象事業だけを切り出すところ、節税のために大半の事業を別会社に移していると認定されかねない場合、合理性のない組織再編として税務否認を受ける可能性があります。

この税務リスクについては、前掲の提携サイトにて「適格分割型分割後に会社を売却する「節税」は安全か?」という記事を書いていますので、気になる方はご一読ください。基本的にはあまりないケースだとは思います。

M&Aの節税スキームは最初が肝心!

今回は、M&Aの節税スキームを3つご紹介しました。では、これらのスキームはいつ決定すればよいのでしょうか。

一応、M&Aの最終交渉段階で買い手と交渉して決めることも可能です。今回挙げた3つのスキームは、M&Aの直前に計画・実行しても問題はありません。

ただ、組織再編が絡む場合、M&Aスキームの選択が双方の検討に大きな影響を与えます。特に、当初は単純な株式譲渡予定だったものが、デューデリジェンス後に売り手都合で会社分割スキームになった場合、デューデリジェンスがやり直しになることもあります。

したがって、M&Aの節税スキームの検討は、M&Aのなるべく初期に行いましょう

中小企業M&Aでは、主に4つのM&Aスキームが選ばれています。それぞれのスキームの図解やメリットデメリット比較については「【図解】4つのM&Aスキーム(売買手法)のメリットデメリット比較と検討要素」を、弊社がコンサルティングで実際に使っているM&Aスキーム決定手順については「売り手にベストなM&Aスキームを決めるための7つの手順」を、それぞれご覧ください。

税務に精通したM&Aアドバイザーを選ぼう

M&Aアドバイザーを使う場合、ぜひ上記の節税スキームについて質問してみてください。ちゃんと話についてこれるか確認しましょう。税務をしっかり勉強しているアドバイザーは少なくはないですが、残念ながら、見るからによくわかっていない方も(大手中小問わず)いらっしゃいます。

ヨコの会社分割(分割型分割)のスキームはM&A業界ではトレンドですので、知らないアドバイザーは勉強不足だと思います。役員退職金の節税スキームを知らないのであれば、論外だと思います。(数十億円~百億円規模ばかり経験した人も、中小企業を経験していないと知らなかったりしますが)

M&Aでの節税は、交渉のプロセスに合わせて適切にシミュレーション計算を実施し直す必要があり、仮に社内に税理士がいたとしても、担当アドバイザー本人が理解していなければ、なかなか成功しません。担当者が税務に疎いと感じたら、別のアドバイザーに変えたほうがいいでしょう。

M&Aアドバイザーの選び方については「死んでも後悔しないM&Aのためのアドバイザー・仲介会社の選び方」に意見を記載させていただいていますので、ご参考にしてください。

M&A後の財産活用も考えよう

ヨコの会社分割やタテの会社分割では、M&A成立後に会社が残り、そこにキャッシュがたまるという結果になります。このたまったキャッシュをどう活用していくかも考えなければ、本当の意味での節税になりません。

投資や新規事業など、何らかの事業を行うことで、役員報酬という形で親族に財産を配分していくことができます。望むらくは、これらの事業が利益を上げ、より財産を大きくしてくれることでしょう。

M&A後のことは、基本的にはM&Aアドバイザーは考えてくれません。節税により増えた財産をどうするかは、また別に考えていく必要があります。

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