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M&A(譲渡)

会社を安値売りしない【M&A譲渡価格の目線】設定の3つの視点

M&Aの価格目線設定

M&Aでは、価格に関する情報はすべて売り手と買い手の駆け引きです。売り手が価格に言及するときは、常に戦略性をもって話をしていく必要があります。

その中でも、M&Aの入札前に売り手が各買い手候補に提示していく「価格目線」(希望譲渡価格)は非常に重要です。後述するように、買い手はこの価格目線を1つの基準として入札額を決める傾向があるためです。

したがって、本音をあからさまに伝えるべきではありませんし、間違っても「公認会計士が算定した会社の適正価値」とか「純資産+営業利益3年分」のような、よくわからない数字を軽々に言うべきではありません。仮にその金額に満足できたとしても、駆け引きとしては少し高めに投げていくべきです。

今回は、そのようなM&A初期段階の「価格目線」について、適切な考え方をご紹介していきましょう。

価格目線の重要性

まず、M&Aの価格目線の意味と、その重要性について確認しておきましょう。

価格目線とは?

価格目線とは、売り手オーナーが「だいたいこのぐらいの金額で売りたい」という希望譲渡価格です。

これは、M&Aアドバイザーが買い手候補に案件を説明に回る際に、「売り手オーナーさんは、だいたい〇億円ぐらいで売りたいと考えています」と情報共有されていきます。インフォメーションメモランダムに記載されることもあります。

インフォメーションメモランダムの意味と記載内容については「会社の値段に3倍差が付くインフォメーションメモランダムの記載内容」をご覧ください。

価格目線が入札の基準になっていく

価格目線はM&Aにおいて非常に重要なものです。

当サイトでは再三お伝えしているとおり、M&A価格に適正価格というものは存在しません。買い手は少しでも安く買いたいと思いつつ、売り手オーナーの顔色や他社の入札動向を見据えながら、門前払いされない範囲でなるべく安い入札をしようと考えます。

その際、他社の動向は、必ずしもよくわかりません。一方で売り手の顔色は、この「価格目線」からある程度予想できます。そのため、価格目線を1つの有力な基準に入札額を考えていくことになるのです。

安く設定すると全体の入札水準も安くなる

この際、価格目線が低いとどのようなことが起こるでしょうか。

価格目線が低いと、各買い手候補は「このオーナーは割と簡単に納得してくれそうだ」と感じます。その結果、以下の2つのことが起こります。

  • 全体的に低い価格提示が増える
  • 高い価格提示で他の入札者を出し抜き、後で買い叩きを狙われる

後者の「高い価格提示で出し抜き、後で買い叩きを狙う」とは、全体的に低い入札をしている中で高額入札を行うことで、一旦他の買い手候補を脱落させます。そして売り手と買い手の1対1になった途端、一気に価格減額を要求することです。

このような買い手候補は、売り手が低い金額でも妥協すると読んでおり、多少不誠実な減額要求でも破談させないと考えるため、かなり厳しい交渉を仕掛けてくることになります。

いずれせよ、低い価格目線を出すことは、売り手にとって何もメリットがありません。

高く設定しすぎると入札数が少なくなる

そのため、ある程度は高い価格目線を見せておくことも重要です。

ただし、価格目線があまりに高すぎると、今度は「乖離する低価格を入札するのは失礼」「どうせ買えないなら検討するだけ無駄」という印象を買い手候補に与えてしまい、入札の数を集めることができません。

したがって、価格目線は現実的な水準を見据えながら、「割と高値」ぐらいで提示するのが一番効果的でしょう。

「適正価値」は価格目線として安すぎる

価格目線を検討する際、多くの売り手オーナーさんが「公認会計士がDCF法とやらで算定した適正な株式価値」や「時価純資産+営業利益の3年分」といった、「適正価値」を志向した金額を検討しがちです。M&Aアドバイザーの中にも、このような適正価値を「御社の適正価格」と称して目線化させようとする会社も少なくありません。

しかし、このような価格目線の決め方は、M&Aというものをまったく理解していない発想によるものです。実際には、「適正価値」を価格目線に置くのは、M&Aの実態を考慮すれば低すぎます。

適正価値にはシナジー効果は織り込まれていない

まず、適正価値は「会社の未来は、過去の活動の延長線上にある」という前提で算定されるものです。誰もが納得できる適正価値を算定するには、これはまったく正しい発想です。

しかし、実際のM&Aは過去の活動の延長線上にあるとは限りません。株主と経営者の同時交代という一大事が起こるとともに、買い手企業とのシナジー効果によって事業が大きく伸びるチャンスもはらんでいます。

とはいえ、適正価値の算定では、シナジー効果は織り込みません。なぜなら、それでは「買い手が誰になるか」によって大きく結果が変わってしまい、客観的な価値計算ができないからです。

そのため、適正価値の計算では、シナジー効果は敢えて考慮外とします。

このようなシナジーを排除した考え方を「スタンドアロンバリュー」と言います。詳しくは「セラーズバリューとバイヤーズバリュー/価格が決まる唯一の仕組み」をご覧ください。

適正価値よりずっと高くても、買い手は買えるし問題ない

買い手はM&Aで多額の買収資金を支出し、M&A後の利益によって投資回収していきます。この際の利益とは、対象会社が今生み出している利益ではなく、将来において生み出される利益です。M&Aによって買い手企業とのシナジー効果が生まれるなら、そのシナジー効果を含めた利益によって回収されるものです。

上述のとおり、会社の「適正価値」はシナジー効果を織り込まない金額なのですが、現実の投資回収はシナジー効果によって業績が伸びた状態で行います。したがって、買い手が業績アップに自信があれば、仮に「適正価値」でなくても、高値を出して買いたいと思います

つまり、M&Aにおいて「適正価値」はほとんど意味を持ちませんし、「適正価格」という概念は存在しません。実際のM&A価格とは、適正価値よりずっと高値で取引されることが非常に多いのです。

買い手企業がどのようにシナジー効果をM&A価格に織り込むかについては、「M&Aの【シナジー効果】のすべて|意味、種類、重要性、価格反映」にて詳しく解説しています。

M&Aアドバイザーは価格目線を下げさせがち

ただし、M&Aアドバイザーとしては、売り手オーナーが低い価格目線を持っていてくれたほうがありがたいのは事実です。

なぜなら、彼らの収益の柱は成功報酬であって、M&A案件が成立しなければ十分な収入になりません。売り手が低価格でも満足してくれた方が、M&Aの成立確率が上がるのです。

そのため、どうしても売り手オーナーの価格目線を下げようとするバイアスが働きます。「適正価値」をそのまま価格目線にすべきと主張するアドバイザーの多くは、このバイアスによるものです。

このような業者にありがちな誘導策については「M&Aでの『適正価格』は情弱誘導の虚構ってことがスッキリわかる話」という記事で詳しく解説しています。

価格目線設定に必要な3つの視点

では、価格目線はどのように決めていけばいいでしょうか。

具体的には、以下の3つの視点を考慮して、もっとも高値を引き出せる価格水準を考えていきましょう。

  1. いくら以上欲しいか
  2. どの程度で売買されているのか
  3. 買い手はどの程度欲しがるか

以下ではそれぞれの内容をご紹介しましょう。

視点1.いくら以上欲しいか

M&Aは、人生を懸けてきた事業を売り、M&A後は収入が大きく減るという、その後の自分と家族の人生を大きく左右するイベントです。最低限、いくら以上もらえないと話にならないというラインは持っておきましょう。

考え方としては、「今の生活水準を30年間維持するにはいくら必要か?」とか「役員報酬の20年分プラス退職金」といった計算を行います。

いくら以上欲しいかは、あくまでM&A価格の最低ラインですので、実際の価格目線はこれよりも高く設定する必要があります。

なお、この「いくら以上欲しいか」は、仲介アドバイザーには伝えないほうがいいでしょう。上述のとおり彼らはM&Aの成立を目指していますので、買い手に漏らす可能性が非常に高いです。下限値が買い手に知られた場合、ほとんどその水準まで値下げ交渉を仕掛けられるのは間違いありません。

重要なのはM&A価格の額面ではなく手取りですので、税金やアドバイザー報酬を差し引いた手取りから逆算しましょう。M&Aの税金については「初心者でもすぐわかる!中小企業M&Aの税金をパターン別に徹底解説」を、アドバイザー報酬については「レーマン方式って何?M&A仲介アドバイザーの報酬手数料を徹底解説」を参考にしてください。

視点2.どの程度で売買されているのか

類似業種や同等規模の会社がどの程度の価格で売買されているのかは、自社にどの程度の価格が期待できるかを探る重要な情報です。

これらの情報は、その業種のM&A市場に貼り付いているM&Aアドバイザーなら結構持っています。情報収集を行い、目安を把握していきましょう。

M&Aアドバイザーからの情報収集方法など、価格目安の考え方については、「何の利益の何年分?会社売却M&Aの【価格目安】の見積り方」をご覧ください。

視点3.買い手はどの程度欲しがるか

第3の視点は、買い手がどれだけ自社を欲しいと思うかということです。

稀少性の高い会社であれば、オークションで争奪戦が起こり、適正価値や相場観の何倍で売買されることも珍しくありません。そのような特殊な魅力が自社にあるかは分析しておきましょう。

もし強力な魅力を持っているのであれば、M&Aアドバイザーに複数の買い手候補とコンタクトしてもらい、各社の熱量を測りながら価格目線を固めていくのも有効な手段と言えます。

おわりに

今回は、M&A初期の価格目線の決め方についてご説明しました。

M&A価格は最初の価格目線に少なからず影響を受けます。

  1. いくら以上欲しいか
  2. どの程度で売買されているのか
  3. 買い手はどの程度欲しがるか

の3つの視点で、適切な目線設定を行いましょう。

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