M&Aの仲介会社は、M&Aが如何に素晴らしく、みんなをハッピーにする事業承継手段かを、非常に情熱的に語ります。
わかると思いますが、それらは単なるセールストークです。確かにみんながハッピーになる大成功のM&Aもありますが、それはあくまで一部。事業承継M&Aの成功率は決して高くありません。
実際に、多くの経営者さんが、本来成立させるべきでないM&Aを成立させてしまい、取り返しのつかない後悔をしているところを見てきました。
典型的な事例としては、
- 買い手との企業文化が合わず、M&A直後に退職者が続出した。
- 約束に反して、M&A後に事実上のリストラが実行され、従業員の雇用を守れなかった。
- 上記のような懸念から破談を真剣に考えていたが、仲介業者の説得があり、口車に乗って売ってしまった。
- デューデリジェンス後に(後で詳しい人に訊けば)理不尽な値下げ要求を受けたが、よくわからないまま呑んでしまった。
といった後悔です。これらは中小企業M&Aでは決して珍しくありません。
実は、事業承継M&Aが失敗しやすいなんて、M&Aの構造を少し考えればわかる話なんです。M&Aを成立させることで報酬を得ている仲介業者は絶対に言いませんが、構造的に売り手が圧倒的に不利な立場からスタートするからです。
失敗した方の多くは、自分の恥を誰にも言えず、「これでよかったんだ」と自分に言い聞かせながら人生を過ごしています。あなたもそうなりたいでしょうか?
もし、自分は失敗したくない!と強くお考えでしたら、本記事を読み進めてください。失敗しないための対策もご紹介しています。
初心者vs熟練者!M&Aでは無知はカモ!
多くの事業承継M&Aが失敗に終わる理由はごくシンプル、事業承継M&Aは「初心者vs熟練者」の交渉だからです。
買い手も仲介業者も、M&Aを何度も経験した熟練者です。売り手であるあなただけが、ただ1人のシロウト(情報弱者)なのです(下図)。
この構図による売り手の不利益は至る所で発生しますが、代表例として価格面での不利益をご紹介しましょう。
買い手は1円でも安く買いたい
買い手にとってのM&Aはあくまでビジネスですから、M&A価格が1円でも安くなってほしいと考えるのは当たり前です。
これは、M&Aが友好的かどうかという話ではありません。1人残らず、すべての買い手が望んでいることであり、そのため、あらゆる駆け引きを駆使して少しでも安く買おうとします。
どんなに誠実で、理想を共感できる買い手であっても、この意識は絶対に変わりません。
よくある買い手の駆け引き
百戦錬磨の買い手は様々な駆け引きを用いてきます。
- 専門家にわざと低めに算定してもらった「適正価格」を見せて譲歩を迫る。
- 仲介業者のリピーターとなって優先的に案件を紹介してもらう。
- 資産除去債務や減損損失などの難解な会計基準の都合のいい部分だけを適用し、理不尽な値引きを妥当なもののように見せかける。
- 表明保証の条件など、契約条項で非常識な要求を当然のことのように突き付け、その譲歩と引き換えに値下げを要求する。
実際のところ、M&Aの熟練者が丸裸の初心者を相手にすれば、損をしたことに気付かせないまま大損をさせることも、そう難しくはありません。
仲介業者はとにかく案件を「成立」させたい
買い手との間を取り持つ仲介業者は、「中立」ですから、当然あなたの味方ではありません。
彼らの商売は成功報酬で成り立っていますので、あの手この手でM&Aの「成立」を目指します。
しかし、売り手にとってのM&Aの「成功」とは、「成立」とはまったく別の概念です。満足のいく相手に満足のいく価格で売れて初めて「成功」であり、不本意な形で「成立」してしまったら、それは取り返しのつかない「失敗」なのです。
ところが、仲介業者はそんなことお構いなしで、M&Aの「成立」だけを目指すお仕事です。
仲介業者は交渉が進むほど味方をしてくれない
M&Aプロセスの序盤では、仲介業者は売り手と契約をするために、売り手の味方のような動きをしてくれます。しかし、交渉が過熱すると売り手の味方はまずしてくれません。
上述のとおり建前上は「中立の立場」であり、売り手に肩入れすると買い手の不興を買います。リピーター候補である買い手に対し、売り手はまずリピーターにならないこともあり、買い手を敵に回すことは極力避けるのが彼らにとっての得策と言えます。
初心者である売り手だけが割を食う
上述のように、買い手も仲介業者も、売り手オーナーが本来目指すべき「成功」とは別の方向を向いています。
このような三つ巴の綱引きで、カモにされるのはいつも初心者です。
買い手が厳しい値下げ要求を仕掛け、仲介業者が要求を呑んだほうがいいと説得し、売り手は「M&Aってこういうものなのかな」と信じて要求を呑んでしまう。こんなやりとりが日常茶飯事なのが、中小企業M&Aの現場なのです。
価格以外の主な対立点
上記ではわかりやすく「価格」を例に対立点をご紹介しましたが、価格以外でも様々な論点で対立するものです。
論点 | 売り手の希望 | 買い手の希望 | 仲介の希望 |
買い手探し | 幅広く候補を比較して選びたい | 1対1の交渉で済ませたい | 時間を掛けずに固めてしまいたい |
M&A後の経営 | 希望に沿うことを約束してほしい | あまり約束せずに自由度を確保したい | 興味なし |
競業避止義務 | 範囲を狭く、期間を短くしたい | 範囲を広く、期間を長くしたい | 決まればどちらに有利でもよい |
表明保証 | 範囲を狭く、期間を短く、上限を低くしたい | 範囲を広く、期間を長く、上限を高くしたい | 決まればどちらに有利でもよい |
これらはどんなに円満なM&Aでも必ず利益が相反する場面ですので、良縁であっても常に気を付ける必要があります。
カモになりたくないなら実行すべき2つのこと!
では、あなたがこのようなカモになりたくないなら、何をすべきでしょうか?
方法はシンプルで、初心者でなくなることです。
でも、そんなこと簡単にできるの?とお考えでしょう。
具体的には以下の2つの方法があります。
- M&Aについて自分で勉強する
- 短期でM&A顧問を雇う
それぞれ内容を見ていきましょう。
カモにならない方法1.M&Aについて自分で勉強する
方法その1が、M&Aというものをきちんと理解しておくことです。M&Aプロセス全体に対する広くて深い知識を身に着けましょう。
当サイトでは、「事業承継でM&Aを大成功させるための知識と知恵のすべて」というまとめ記事にて、初心者がM&Aで失敗しないための基礎知識から詳細なノウハウまで、必要知識をすべてご紹介しています。
これを隅々まで頭に入れていただければ、M&Aの現場でプロ並みに立ち回ることができます。長いですが、無料で公開していますので、ぜひ読んでみてください。
カモにならない方法2.短期でM&A顧問を雇う
方法その1である「自分で勉強する」というのは、安く済む反面、相当な時間が必要になります。
そこで、もう1つの方法が「M&Aについて詳しい人を雇う」ことです。つまり、「短期M&A顧問」です。
その名のとおり、短期間だけM&Aに関する顧問として相談に乗ってもらい、必要な知識や助言を必要なタイミングで必要な分だけ教えてもらうということです。期限は「M&Aが完了するまで」です。
たとえば弊社の場合、以下の条件でM&Aをアドバイスさせていただております。
- 定期面談でM&Aプロセスの進捗状況を伺い、プロの立場から必要な知識を解説。
- さらに売り手の成功のために、どのような主張、交渉、情報発信をすべきかを助言。
- 期間は1カ月単位とし、いつでも始められ、いつでも終了できる。
このような短期M&A顧問で必要な知識を補いながら、最良のチームでM&Aの成功を目指しましょう。
まとめ
今回のお話をまとめると以下のとおりです。
- M&Aは「初心者vs熟練者」。初心者である売り手がカモにされる。
- カモにならない方法の1つが自分で勉強すること。
- もう1つの方法が、「短期M&A顧問」を利用すること。
まずは、一度ご自身で勉強してみてください。決してラクではありませんが、間違いなくM&Aの成功に近づきます。
そして、「読んでみたけど内容は膨大だし、全部理解して実践するのはさすがに難しい!」と感じるようであれば、コストは必要ですが、短期M&A顧問をご検討ください。必ずあなたのお役に立つ、真の成功のためのアドバイスをさせていただきます。
お前んとこの宣伝のために仲介業者を貶めるな笑
あん様
コメントいただきましてありがとうございます!
仲介業の方でしょうか?
貶めているということは決してありません。
仲介さんは最初からそういう契約で関与されていますので、
契約に則って自分たちの利益を追求するのは当然だと思います。
(株主や雇用主に対する責務でもありますね)
私がお伝えしたかったのは、
買い手も業者も全力で自己の利益を追求しているのだから、
売り手もそれに負けない準備はしましょうね、ということです。
まぁこんなのは当たり前の話ですよね。
ぜひ今後とも当サイトをご利用ください!
よろしくお願いいたします。
STRコンサルティング 古旗