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デューデリジェンスと企業価値評価(バリュエーション)の違い

デューデリジェンスと企業価値評価の違い

経営者や財務担当の方とお話していると、「デューデリジェンス」と「企業価値評価(バリュエーション)」の意味を混同されていることがあります。

これらはセットで実施されることも多く、特にデューデリジェンスは見慣れない単語であるということもあって、株式などの価値評価=デューデリジェンスと捉えている方が多いようです。

しかし、デューデリジェンスと企業価値評価(バリュエーション)は、まったくの別物です。混同して、専門家に企業価値評価を依頼したつもりが、財務諸表の監査しかしてくれなかったという話もあります。これは頼み方が悪かったとしか言いようがありません(後述のとおり、専門家にも大きな問題がありますが)。

今回は、デューデリジェンスと企業価値評価の違いについて解説します。
ただし、両者ともにその目的によって内容が大きく変わります。今回は“M&Aにおける”デューデリジェンスと企業価値評価について説明しましょう。

この場合のM&Aは経営権の売買のことであり、グループ組織内の合併や会社分割等の組織再編は含まれません。組織再編の場合には、また違った内容のデューデリジェンスや企業価値評価があります。M&Aと組織再編の違いについては、「まるで別モノ!図解で「合併」と「買収」の違いをわかりやすく解説」をご覧ください。

 

M&Aにおけるデューデリジェンスとは

M&A以外も含めたデューデリジェンス全般を一言で表すと、「重要な経営施策を行う前に、その実行判断の前提を確認し、実行の障害となる問題を抽出すること」です。

それを踏まえてM&Aのデューデリジェンスの意味を表現すると、以下のような定義になります。

M&Aにおけるデューデリジェンスとは、M&Aを成功させるため、買い手が買収前に、M&A対象会社の経営に関する重要なすべての情報を理解・確認・分析するための調査である。

デューデリジェンスの役割

デューデリジェンスは、買い手が売り手の経営上の重要事項を理解し、投資判断(買うか買わないか、いくらで買うか、どんな条件なら買うかといった判断)を的確に行うための情報収集です。

買い手はデューデリジェンスまでの間は、インフォメーションメモランダムや決算書、あるいは外側からの見学といった限られた情報から、会社の事業上の強みや弱み、組織、財務内容、経営課題などを入手し、それを積み上げた「きっとこうであろう会社の実態」を基に対象会社を値決めし、入札を行っています。

よって、その「きっとこうであろう会社の実態」が虚像であった場合や、重要な情報漏れがあった場合には、入札の前提が崩れるということであり、条件変更をしなければ買えない、あるいはそもそも買うことができない状況にある可能性があります。

したがって、M&A前には必ず「きっとこうであろう会社の実態」が適正なものであり、入札の前提が崩れていないかどうかを徹底的に調査・確認しなければなりません。これがデューデリジェンスです。なお、Due Diligenceを直訳すると「当然の注意義務の履行」という意味です。

デューデリジェンスは監査ではなく調査である

デューデリジェンスには「買収監査」という訳が付されることがありますが、上記のとおり「監査」ではなく「調査」ですので、誤訳であると考えています。

この誤訳のせいか、専門家の中にも「財務デューデリジェンスは会計監査の簡易版である」と本気で思っている方がいます(特に監査法人)。このような、そもそも目的を履き違えた人々が行うデューデリジェンスは、当然のごとくM&Aでの利用価値は極めて低いので、依頼人としては早々に別の機関に乗り換えたほうがいいでしょう。

より詳しくは「混同厳禁!『財務デューデリジェンス』と『会計監査』の根本的違い」にまとめています。

M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは

一方の企業価値評価(バリュエーション)とは、読んで字のごとく「企業の価値(バリュー)を数値評価すること」です。

株価算定」という言葉との混同も見られますが、厳密には株価算定は相続税計算上の株式評価額を算出することですので、M&Aの話とはちょっと違います。

「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」「コストアプローチ(ネットアセットアプローチ)」という3つの「理論上正しいとされる企業価値評価方法」を用いて、「理論上適正な企業価値・株式価値」を算定していきます。

簡易的に、上記3つのアプローチのうち1つか2つを用いる場合も多くあります。

「理論上適正な企業価値」とは

企業価値評価の算出目標である「理論上適正な企業価値」とは、「売り手・買い手を不特定とし、彼らが経済人として合理的な純投資判断をした場合、理論上いくらが妥当な水準であるか」を示したものです。

「あり得ないほどシンプルな状況」が計算の前提

上記のように、「売り手・買い手が不特定」とか「経済人として合理的な純投資判断」といった難しい概念が前提となっています。この意味は詳細な説明が難しいので省かせていただきますが、「理論上の妥当性を確保するために、あり得ないほどシンプルな状況を仮定している」という点だけご理解ください。

たとえば、現実のM&Aでは、売り手は事業に対する思い入れの分だけ高い価格を求め(売り手が不特定ではない)、仮に経営実態より好条件が提示されても、売らないという判断をすることがあります(経済人として不合理な判断)。
買い手は買い手で、自身の経営資源とのシナジー効果も期待しながら(買い手が不特定ではない)、「ブランド」や「稀少性」といった数値評価不可能な価値も考慮し(純投資判断ではない)、値決めを行います。

現実世界のM&Aは、このように実際の状況に応じた柔軟な主観的判断がなされますが、そのような特殊状況まで企業価値に含めるのは不可能です(そもそもそれは「企業価値」とは言えません)。よって、それらの要素をすべて捨象した「純然たる企業価値」を算定するのが企業価値評価です。

実際のM&Aで発生する「のれん」は、数値評価可能な収益力だけでなく、上記のような「企業価値とは言えない値上がり要素」が多く含まれます。詳しくは「のれんとは何か?M&Aでしか得られないプレミアムの正体」をご覧ください。

企業価値評価の目的・意味

M&Aを行う上場会社は、M&Aの際に企業価値評価を外部専門家に依頼し、算定してもらうことが結構あります(M&A案件のサイズにもよります)。

ただ、この企業価値評価の目的や意味については、結構いい加減なところがあります。

ファンドや大手商社を除き、企業価値評価を真に受けて入札額を決めている会社はほとんどありません(M&Aが下手な会社はそうしてますが)。なぜなら、上述のように「その会社の理論上の適正価格」と「M&Aで入札すべき価格」はまるで別物ということはよくわかっているからです。

では、買い手企業が何のために大金を払って企業価値評価を取得するかと言うと、主に以下の3つの理由からです。

  • 取締役会を円満に通過するため
  • 取締役の善管注意義務充足の形づくり
  • M&Aの最終交渉で「御社の適正価値このぐらいだからもっと値引きしてよ」と言うため

M&Aは買い手企業が自己の主観的判断に基づいて「この会社を買えばいくら儲かるか」を予想し、リスクを背負って投資するものですので、「不特定の人物から見て適正な価格」には意味がないのです。

詳しくは「セラーズバリューとバイヤーズバリュー/価格が決まる唯一の仕組み」も併せてご覧ください。

デューデリジェンスと企業価値評価の関係性

なお、財務デューデリジェンスと企業価値評価を両方実施する場合、同じ会社に依頼することが一般的です。

なぜなら、企業価値評価には会社の事業に対する深い理解が必要であり、提出された損益計画をそのまま計算シートに当てはめるようなものではないからです。

ただし、現実問題としてそのような「与えられた計画そのまま当てはめ法」で計算する公認会計士も少なくないので、要注意です。もっとも、社内資料や善管注意義務対策で取得する場合はそちらのほうが好都合ではありますが。

責任を持って企業価値を算定する際は、企業の損益分析や財務内容のチェックを行い、ベースとなる損益計画が本当に妥当なものかどうかを確認する必要があります。この作業だけで相当な労力と時間を費やすので、デューデリジェンスとセットで行ったほうが得策です。

M&Aでのデューデリジェンスと企業価値評価の必要性

では、M&Aではデューデリジェンスと企業価値評価、どちらのほうが重要でしょうか?
ここまでちゃんと読んでいる方ならお分かりと思いますが、デューデリジェンスのほうが遥かに重要です。

デューデリジェンスは必要不可欠

デューデリジェンスはM&Aを(買い手目線で)成功させるためには必要不可欠なものです。デューデリジェンス抜きにM&Aが成功するとしたら、それは単なる運でしかありません。M&Aの3分の2は失敗などと言われますが、デューデリジェンスをちゃんとやっていれば、その確率は劇的に下がると断言できます。

買い手にとってのM&Aの失敗要因とその対策については、「基本が大事!買い手が陥る買収M&Aの【2大失敗要因】と防止策5選」にまとめています。また、M&Aを成功させるためのデューデリジェンスの方法について、「買収M&A成功のカナメ!デューデリジェンスのタスク5選とコツ7選」にて解説しています。買収側でM&Aに携わっている方はぜひご一読ください。

企業価値評価は形づくり

一方の企業価値評価については、正直、あんまり意味がありません。
上述のとおり、M&Aが成立する価格というものは、「ファイナンス理論上適正と考えられる企業価値」とはほとんど関連性がないからです。

現実問題として、「御社の適正価格はこのぐらいだから値引きしてよ」という交渉方法を受け入れてくれる売り手はほとんどいないので、主たる目的は「形づくり」に過ぎません。失敗したとき株主代表訴訟になる大型案件ならいざ知らず、少額の投資案件であれば、高いコストを使って取得するほどのものでもないでしょう。

デューデリジェンスと企業価値評価の違い

M&Aにおけるデューデリジェンスと企業価値評価の違いについてまとめると、

  • デューデリジェンスは買収前の企業調査であり、M&Aでは必須手続
  • 企業価値評価は企業の理論上の適正価格を算出するもので、必須ではない

ということになります。

M&Aは厄介な用語が飛び交います。専門用語を他人に尋ねるというのは勇気のいる行為ですが、食い違いのないように確認しながら進めていきましょう。

事業承継M&Aが失敗に終わるシンプルな理由とは?

事業承継を目的とした中小企業のM&Aは、多くが「失敗」と言わざるを得ない結果に終わります。


現実に、仲介会社のペースでM&Aを成立させてしまい、取り返しのつかない後悔を人知れず抱いている元経営者は少なくありません。


実は、事業承継M&Aが失敗しやすいということは、少し考えればすぐにわかるシンプルな理由からです。


あなたがM&Aを成功させたい、後悔したくないと強く考えているなら、事業承継M&Aの構造をきちんと理解しておきましょう。


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