事業承継としてのM&Aで悩ましいのは、「相手探し」です。

良い会社であれば、ちょっと手間さえかければ「買いたい」と言ってくれる会社は見つかります。しかし、「ぜひ売りたい」と思えるような買い手を見つけるのは、そう簡単なことではありません。

さて、最近はインターネットを使ったM&Aマッチングサイトが増えてきました。ネットオークションのように、と言ってしまうと大げさですが、会社が売り物としてショーケースに並ぶ時代です。

このようなWebを使った買い手探しは、一般的な探し方であるM&Aアドバイザーと比べてどのような点が異なるのでしょうか?

今回は、M&Aマッチングのメリットとデメリットについて考えてみましょう。

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M&Aマッチングサイトの仕組み

まず、M&Aマッチングサイトの仕組みを理解しておきましょう。

M&Aマッチングサイトの仕組みは大きくわけて2種類あります。それが「買い手募集型」と「売り手募集型」です。

買い手募集型のマッチング方法

買い手募集型のM&Aマッチングサイトは、まず売り手がM&A対象会社の特徴(地域、業種、年商規模、従業員数、事業の特色等)を匿名で登録します(ノンネームシート)。この匿名の登録情報が、登録会員や非会員にオープンになります。

ノンネームシートについては「秘密を守り有望な買い手を集めるM&Aのノンネームシートの記載内容」にまとめています。

買い手はこれらの登録情報を見て、興味があればサイト運営会社に連絡します。サイト運営会社は売り手の許可を得て、買い手候補にM&Aの対象会社などの実名や資料(インフォメーションメモランダム)を開示し、M&Aプロセスをスタートさせます。

プロセススタート以降は、サイト運営会社が仲介アドバイザーとして案件を取り仕切ります。(アドバイザーが一切介入しないマッチングサイトもあります)

売り手募集型のマッチング方法

売り手募集型のM&Aマッチングサイトは、上記とは逆に買い手が「こんな会社を売ってほしい」という要望を登録します。

売り手は、登録されている買い手の企業概要や要望を踏まえて、「ウチならこの会社に買ってもらえるのではないか」と思う会社に逆オファーを出します。

そして、買い手が買収意向を示したら、サイト運営会社がアドバイザーとなってM&Aプロセスがスタートします。(こちらもアドバイザーが介入しない場合があるため、必ず確認しましょう)

M&Aマッチングサイトのメリット

M&Aの買い手探しをWebサイトに出すこのメリットとしては以下のポイントが挙げられます。

  1. 幅広い会社にアピールできる
  2. 直接ファーストコンタクトが可能
  3. 安価の場合が多い

以下でそれぞれの内容を確認していきましょう。

メリット1.幅広い会社にアピールできる

M&Aアドバイザーがマンツーマンで買い手を探す通常の中小企業M&Aでは、どうしても人員リソースに限界があるため、コンタクトする買い手候補をある程度絞らざるを得ません。

これに対し、マッチングサイトでは一瞬で買い手にアクセスできるため、マンツーマンとはまったく違う数の買い手候補に自社をアピールすることができます。

メリット2.直接ファーストコンタクトが可能

マンツーマンのM&Aでは、M&A対象会社が特定されないよう、M&Aアドバイザーが匿名で買い手候補企業にコンタクトしていきます。どうしても伝言ゲームにならざるを得ず、M&Aアドバイザーの能力次第でマトモな対話にならなくなってしまうこともあります。

M&A市場の大きな変化についていけず、十分なサービス提供ができないM&Aアドバイザーも少なくありません。詳しくは「初心者にオススメなM&A仲介の選び方!大手ランキングや手数料比較」をご覧ください。

この点、マッチングサイトであれば、匿名を維持したまま直接買い手候補にアピールできますし、買い手候補の言葉も直接受け取ることができます。

メリット3.安価の場合が多い

IT技術を活用したマッチングサイトでは、買い手探しの手間は大幅に削減できます。また、初期的なコンタクトは当事者同士が勝手にやってくれますので、M&Aアドバイザーとしては非常に効率的に案件を進めることができます。

その結果、M&A仲介アドバイザー報酬としては比較的安価であることが多いのも特徴です。「売り手側は成功報酬不要」など、思い切った価格体系も見られます。

一般的なM&Aアドバイザーの報酬については、「レーマン方式って何?M&Aアドバイザー・仲介会社の報酬の仕組み」をご覧ください。

M&Aマッチングサイトのデメリット

では、M&Aマッチングサイトのデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。具体的には、以下の点に注意する必要があります。

  1. 無秩序な情報拡散のリスク
  2. ほとんどの買い手は無関心
  3. 相当な時間の覚悟が必要
  4. 丸腰での交渉になるリスク
  5. M&Aアドバイザーが選べないことも

それぞれ内容を確認していきましょう。

デメリット1.無秩序な情報拡散のリスク

買い手募集型のマッチングサイトの場合、会社のノンネームシートが完全にオープンになったり、登録会員であればほとんど誰でも閲覧できる状態になります。

はっきり言って誰が見ているかわかりません。取引先がサイトを閲覧している場合もありますし、従業員やその家族・知人が趣味で見ている場合もあります。「M&Aの相手を募集している」という事実が知れ渡ることのリスクは常に意識しなければなりません。

すなわち、マッチングサイトではマンツーマンよりはるかに情報が無秩序に拡散するリスクがあります。情報の伝播を制限することはほとんど不可能です。

デメリット2.ほとんどの買い手は無関心

マッチングサイトは私も買い手として登録したことがありますが、最初は楽しくて毎日売り案件情報を見るものの、そのうちほとんど関心がなくなります。

売り手募集型のマッチングサービスならもう少し関心を覚えますが、まったく検討対象外の会社が下手な鉄砲数打ちゃ当たる作戦で逆オファーを出してきますので、いちいち丁寧に対応するのが面倒になった記憶もあります。

デメリット3.相当な時間の覚悟が必要

買い手募集型のマッチングサイトの場合、デメリット1で指摘したように、誰が見ているかわからない媒体に極秘情報を掲載する以上、その記載内容は当たり障りのないものになります。一方、ほとんどの買い手は無関心ですから、掲載内容が曖昧であればあるほどレスポンスは下がってしまうジレンマがあります。

売り手募集型のマッチングサイトであれば、気に入った買い手候補にメッセージを送るだけなのですが、元々相当低いレスポンス率をカバーするためにメッセージ文を工夫したり、サイトに張り付いてひたすら買い手候補を探す作業が必要です。

これらを売り手オーナー自らがこなさなければならず、その時間と労力は相当なものがあります。それも、存在するかどうかわからない自社に興味を示してくれる相手を夢見ながら、です。かなり長い間、掲載情報を更新したり、メッセージを工夫する努力を続けられる人でなければ務まりません。

デメリット4.丸腰での交渉になるリスク

事業承継M&Aは、M&Aの初心者である売り手と熟練者である買い手の交渉という構図になることが多く、圧倒的に売り手不利な状態でプロセスが進んでいきます。

マッチングサイト上のM&Aアドバイザーが介入するのは、売り手と買い手がM&Aプロセスの交渉スタートに合意してからですから、それまでの間は丸腰で買い手と予備交渉することになります。コンタクト直後はM&A取引の根幹を決める段階ですので、単独で矢面に立つのは大変危険です。

それでも、後からM&Aアドバイザーが介入するだけまだマシで、アドバイザーの関与が一切ないサイトの場合は最後まで危険な状態で進みます。

デメリット5.M&Aアドバイザーが選べないことも

これはある意味マッチングサイトの最大のデメリットですが、売り手と買い手が揃って初めて仲介アドバイザーが介入するため、その能力は「出たとこ勝負」になります。運よく優秀なアドバイザーに当たればいいのですが、ダメな人だった場合はM&Aを成立させることすら困難になります。

M&Aアドバイザーの能力の良し悪しは、M&Aの成功/失敗にダイレクトに響きますので、非常に重要な部分を運に任せることになるのです。

M&Aマッチングサイトは初心者には難しい

今回はM&Aマッチングサイトのメリットとデメリットについてご説明しました。

結論を申しますと、個人的にはM&Aマッチングサイトは「プロ向け」であり、M&A初心者が独りで事業承継を成功させるという点ではかなり難しいものがあるように思います。

このようなマッチングサイトの特徴を考慮しながら、ご自分に最適なM&Aチャネルを考えてみましょう。