M&A(譲渡)

M&A仲介会社は言わない売り手の9つのデメリット

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
M&Aの売り手のデメリット

M&Aの仲介会社の話を聞いたり、売り手向けのM&Aセミナーに行ったりすると、M&Aが実に素晴らしい事業承継策であることを情熱的に語ってくれます。

M&Aにおける売り手のメリットについては、「鵜呑みは厳禁!M&A業者が言う「売り手のメリット」7選とその真相」にてその内容と留意点を記載していますので、併せてご覧ください。

M&Aが事業承継における有力な選択肢の1つであることは間違いありません。売れれば大金を手にできるのも事実です。多くの中小企業オーナーさんがハッピーなリタイアメントを実現していることは、厳然たる事実です。

ただ、M&Aの仲介会社は、M&Aの悪い部分は言いません。理由は後述しますが、それが彼らのビジネスモデルだからです。

そこで、今回は不安になっているオーナーさんのために、M&Aのデメリットについてご紹介します。このデメリットを忌避してM&Aを選択肢から外すか、覚悟してM&Aに挑戦するか、その判断のご参考になればと思います。

M&A仲介会社がデメリットをあまり説明しないワケ

その前に、まず、なぜM&A仲介会社はM&Aのデメリットを教えてくれないのか、その理由を彼らのビジネスモデルから紐解いてみましょう。

M&A仲介会社のビジネスモデルについては、「巧みな話術に要注意?株式譲渡M&Aの初期の相談相手とその裏側」でも紹介していますので、併せてご覧ください。

M&A仲介会社は成功報酬型ビジネス

M&A仲介会社は、M&A成立額の4~5%程度(株価に対しての場合と時価総資産に対しての場合あり)を、売り手と買い手の両方からもらう成功報酬型ビジネスです。

たとえば、あなたの会社の株式が5億円で売れたとします(5億円は中小企業としてはまったく珍しくない額です)。契約が株価に対して5%だった場合、あなたは5億円の5%である2,500万円を仲介会社に払い、また買い手も2,500万円を仲介会社に払います。仲介会社は10%である5,000万円を成功報酬として手に入れるわけです。

仲介会社などのM&Aアドバイザーの報酬体系については、「レーマン方式って何?M&Aアドバイザー・仲介会社の報酬の仕組み」をご覧ください。

M&Aを成立させないと食べていけない

着手金や中間時金、月額報酬を請求するM&A仲介会社もありますが、収益の柱は成功報酬です。

信用ビジネスなのでオフィスは都会のど真ん中に構えますし、全国の銀行や会計事務所を廻って案件紹介を依頼する経費も馬鹿になりません。何よりオーナーをその気にさせる優秀な営業マンが必須で、人件費も相当かかるので、その固定費たるや半端なものではありません。

M&A仲介会社の収益は成功報酬が命です。大手某社は、新卒社員でも一定期間成果を上げられなければ1年程度で退職だそうです。

M&Aが「成功」しているかどうかは関係ない

ちなみに、成功報酬はM&Aがクロージングされたときに成立します。名前が紛らわしいですが、M&Aが「成功」しているかどうかは彼らには関係ありません。

本来、M&Aの「成功」とは、売買された事業が円滑に買い手の参加に入り、シナジー効果を受けて伸びていくこと、そして売り手にとっては高い値段で売れることです。

ですが、彼らは仲介会社なので、その辺のケアはしません。M&A後のことはそれぞれ自己責任です。仲介会社である以上これは当たり前の話ですが、彼らもトークがうまいので、つい面倒を見てくれそうな気がしてしまうそうです。

M&Aは仕入が第一

M&A仲介会社の方とお話しすると、「この商売は仕入が第一」とよく言われています。仕入れる商品は、もちろんM&Aの対象となる会社(事業)です。

良い会社の売り手を探すのは、そう難しいことではない

中小企業M&Aの世界では、良い会社であれば必ず買い手が付きます。難度は業種にもよりますが、お金を出してくれる買い手はいくらでもいるということです。買い手候補の数をセールスポイントにする仲介会社も多いですが、全然遠方の全然知らない会社に売りたい場合を除き、そんなに意味はありません。

良い会社であれば、買い手は是が非でも欲しいので、買い手のわがままにも相当付き合ってくれます。デューデリジェンスで看過できない問題が発覚して破談になることはもちろんありますが、そのような事態はレアケースです。

そのため、M&A仲介会社は日夜優良企業を血眼になって探し、オーナーと接点ができたときは何とかM&Aに興味を持ってもらおうと、M&Aのすばらしさを語っているのです。

M&A仲介会社が本当にやっている案件探しの例

特定業種の売却主を探す場合、電話帳の上から順番に電話をかけていく・・・なんてことは序の口です。

ある会社では、M&Aの素晴らしさを語る手書きのお手紙を社長さん宛に送っています。電話大作戦よりは返答率が良いそうです。

こういうのは正々堂々しているのでいい会社さんだと思います。

中には、A社のオーナーさんに「業界大手のB社から、A社を調査してほしいと依頼されてきました」と言って接触します(この時点で作り話)。A社オーナーが満更でもなさそうだと、今度はB社に行って「A社がB社になら値段次第で売ってもいいって言ってしたけど、いくら出せます?」と聞きます。金額感がイメージできると、A社に行って「B社が貴社なら〇億円出せるみたいなこと言ってましたけど、どうです?」という風に、作り話から徐々に具体化していくという輩もいるようです。

私自身、他にもすごい「反則的な釣り方」にいくつか遭遇しているのですが、さすがにここに書くのは控えたいと思います。こんなことをしているのはさすがにごく一部(ただし大手・準大手も含む)ですが、気を付けていただければと思います。

紹介者には数割の紹介手数料が入る

なお、このような血もにじむ努力で売り手を探しますので、銀行や税理士から売り手を紹介してもらうというのは、彼らにとっては非常にありがたいことです。当然、紹介手数料が支払われます

最近は銀行も手数料ビジネスで食べていますので、大手から中小まで何かとM&Aさせたがります。M&Aしてもらうと、今度はキャッシュの相続税対策で分譲不動産なんかを紹介し、そこでも紹介手数料をもらえますので、銀行としては美味しい商売です。

なお、弊社も売り手さんのご依頼により、最適と思われるM&A仲介会社をご紹介することがあります。もちろん紹介手数料はいただいています。何%もらうのかは聞いていただければご回答します。

オーナーを売る気にさせるのが商売の王道

話が横道にそれましたが、とにかく良い会社の売り手オーナーを捕まえて、M&Aする気にさせるのが、M&A仲介会社の最大の勝ちパターンです。

よって、「嘘は言わないけど都合悪いことも言わない」という、セールスの基本を守れば、デメリットはなるべく教えないほうがよいということになります。

繰り返しになりますが、彼らはあくまで仲介会社なので、それでいいと思っています。自分の利益は、売り手オーナーさんが自己責任で守るしかありません

検討前に売り手が知っておくべきM&Aの9つのデメリット

それでは、本題であるM&Aのデメリットについて解説します。以下の9つのデメリットを認識したうえで、自己責任でM&Aを検討しましょう。

M&Aのデメリット1.売り手が不利な戦いである

まず、中小企業のM&Aというのは、売り手が圧倒的に不利な立場にあります。

ほぼすべての売り手オーナーさんにとって、M&Aは最初で最後の経験です。これに対して、買い手は何度もM&Aを経験してきた熟練者なのです。

まずはこの事実をきちんと頭に入れておいてください。以下の記事では、M&Aの売り手の注意点について記載していますので、熟読されることをお勧めします。

中小企業のM&Aで売り手が注意すべき10個の重要ポイント

M&Aのデメリット2.大半の会社には値が付かない

前章で、良い会社には必ず買い手がつくと説明しました。しかしその一方で、良くない会社には、ほとんど買い手が付きません。格差が大きいのが中小企業M&Aというものです。

買い手のつかない会社の典型例は以下のとおりです。

  • 赤字や債務超過が続いている
  • 斜陽産業である
  • 業界的に組織が小規模すぎる

この場合でも、独特の技術を持っていたり、組織規模があれば生き残れるビジネスである場合には、買い手がつくことがあります。

ただ、M&Aにチャレンジしても買い手がつかなかった場合、数カ月から半年、場合によっては数年を空転させることになります。この期間に業績が悪化してしまったり、事業承継のタイミングを逃してしまうということもあります。

M&Aのデメリット3.買い手は儲けるために買う

買い手は何のためにM&Aするのでしょうか?それは「儲けるため」以外ありません。

仲介会社の中には、「オーナーさんの思いを未来につなぐ」的な謳い文句でM&Aを勧誘する者もいますが、買い手にとってM&Aはあくまで「買収」です。会社を買い、伸ばすことで、投資を上回るリターンを期待しているのです。

このような当たり前のことをちゃんと認識しておかないと、M&A後に会社にやってくる親会社社員と険悪なムードになります。

M&Aのデメリット4.価格面の「売り時」は誰にもわからない

M&A仲介会社は、セールストークとして「今こそ売り時!」と言います。でも、本当にそうかは神様にしかわかりません。

1年後の日経平均株価がどうなっているかわからないように、1年後のM&A市況がどうなっているかもわかりません。M&A仲介会社は今がピークである材料を教えてくれますが、これから上がる材料は教えてくれません。あのときもっと待っておけば・・・と思うケースも、後になれば出てきます。

このような外部市場の動きは、どうやっても予想できないのです。

M&A価格の相場変動が予想できない理由と、売り時の考え方については「M&A・会社売却の【相場変動】と【売り時】の考え方」にまとめていますので、併せてご覧ください。

M&Aのデメリット5.完全な秘密保持は不可能である

秘密厳守はM&Aの鉄則です。秘密は厳に守りましょう。

ただ、実際には、多少漏れます。ノンネームシートが出回れば業界人ならどの会社か予想したくなるものですし、勘のいい社員ならデューデリジェンスを受けるとピンときます。

完全な秘密保持は不可能であるというデメリットを理解した上で、最善を尽くしましょう。

M&Aのデメリット6.デューデリジェンスの労苦は大きい

デューデリジェンスとは、買い手が対象会社を円滑に引継ぎ、予定どおり業績を伸ばしていくことができるかを確認するために、会社の重要なすべてのポイントを短期間で調査することです。

逆の立場で、他人の会社を引き継ぐことを想像してみてください。どんな事業環境なのか、どんな商売をしているのか、どうやってキャッシュを回しているのか、財務や法務で大きなトラブルを抱えていないか、どんな人がいてどんな組織があるのかなど、知りたいことは山ほどあるでしょう。これを買い手に理解してもらうために、数日のうちにインタビューや資料提供に対応する必要があります。

デューデリジェンスを受けると、売り手の社長さん、事業責任者、財務責任者などは、ヘトヘトになります。そのタイミングで買い手は「やっぱ買いません」とか「大幅な減額をしてくれないと買えません」とか言ってきますので、大変つらい交渉になります。

ただ、買い手としてはデューデリジェンスなくして買収はできませんし、デューデリジェンスをせずに買収後事業を円滑に引き継ぐことはできません。M&Aでは売り手の宿命ともいうべきデメリットです。

M&Aのデメリット7.M&A後に一切の権限を失う

当たり前の話ですが、M&Aをすると、会社に対する一切の権限がなくなります。稀に役員に残る場合もありますが、雇われの身であることには変わりありません。

M&Aのクロージング、すなわち株式譲渡日に口座に株式代金が着金した瞬間、あなたとあなたが何十年と育ててきた会社との関係は、法的には一切なくなります。もはやあなたの会社ではありませんし、あなたの部下は全員そうではなくなります。

寂しさは感じて当然だと思いますが、それがM&Aというものです。

M&Aのデメリット8.看板の消滅、会社の消滅

会社に対して権限がなくなるということは、買い手が会社の社名や屋号を変更したり、グループ会社に吸収合併させることに対して、一切口出しできないということです。

まじめな買い手であれば、買収後に社名変更や吸収合併の計画を教えてくれますが、彼らも忙しいので、うっかり連絡していなかったということもあります。いつの間にか会社名が変わって、法人も消滅していたということになっても、元オーナーに文句を言う権限は一切ありません。

M&Aのデメリット9.M&A後の重い責任が契約書に明記される

M&Aの最終契約では、M&A後の責任について極めて厳重な記載がされます。仲介会社がざっと読んでるからと軽い気持ちで契約書にサインしてしまうと、とんでもない責任を負わされることがあります。

たとえば、M&A後にオフィスの賃貸会社から「借主が大きな会社になるのだから、家賃は1.3倍ね」という要求がされたとします。もしも最終契約書に、「売り手は事業が円滑に引き継がれるよう取引先との交渉を行う」と書かれていたら、交渉の矢面に立たなければなりません。「取引条件が3年継続することを保証する」と書かれていた場合、最悪増額分を補填することになります。

また、最終契約には競業避止義務が付されることが一般的ですが、これはM&A後のオーナーの再就職先を縛るものです。別の会社の顧問に就任しようとしたら、競業避止義務違反でできなかったという話もあります。

このように、M&Aの最終契約には、M&A後の重い責任が明記されることがあります。軽い気持ちでサインすると大変なことになりますので、必ずM&A法務に強い専門家に見てもらいましょう。

M&Aの最終契約において特に注意すべき条項について、「甘く見ると大火傷!M&A株式譲渡契約で絶対注意すべき5条項」にまとめていますので、併せてご覧ください。

おわりに

M&Aは売り手にとってメリットの大きい手段ですが、同時に大きなデメリットも存在します。メリットデメリットを整理し、自分にとって最適な選択をするようにしてください。

M&A仲介会社は、良くも悪くもあくまで仲介ですので、判断は自分で情報を集めて自分で行う、という覚悟が重要です。その覚悟がなければ、M&Aは必ず失敗すると考えるべきでしょう。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

M&A検討中しか選べない売主の3つの節税策

M&Aで個人の売り手が実施できる節税策は3つあります。

そして、このうち特に効果の大きい2つは、M&Aプロセスの最初期段階でなければ間に合いません。

当サイトでは、その仕組みや効果について詳しくご説明しています。

今すぐ確認し、悔いのない事業承継M&Aを実現しましょう。

株式会社STRコンサルティング 代表取締役
税理士・公認会計士 古旗 淳一

3つの節税策を確認する