本稿執筆時現在、新型コロナウィルス(COVID-19)の影響で、景気の急激な悪化が顕在化しています。
これまで、「いずれ会社を売ろう」とお考えだった方の多くが、
- 今後長期的な不況になったら買い手がつかなくなるのでは?
- 売れたとしても思い切り買い叩かれるのでは?
と大きな不安を感じているでしょう。今急いで売るべきか、じっと耐えて景気の好転を待つべきか、お悩みの方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、すべての読者の方に一律に「今売るべき」とも「まだ待つべき」とも言えません。重要なことは、市場の状況と自社の見通しを分析し、将来において決して後悔しないよう、冷静に判断することです。
たしかに、不景気の状況下では買い手が思うように集まらなかったり、価格が伸びないことも少なくありません。
一方で、リーマンショックのような大きな不況では、引き続き経営をしていても業績が悪化し、不況が明けるころには企業価値が大幅に減少していることもあり、早めに売ったほうがよいということもありえます。
この記事では、そんな場合における冷静な判断の大きな一助になるよう、リーマンショックや東日本大震災といった経済危機に、中小企業のM&A市場がどのような影響を受けてきたかを踏まえながら、
- 不景気になるとM&A市場はどうなるか?
- 不景気で会社を売るべきか?待つべきか?のパターン別のオススメ選択肢
- 不況でも会社を高く売る4つのコツ
- 景気好転まで待つ場合にやっておくべきこと
についてご紹介します。
最後までお読みいただければ、「今売るべきか否か?」というお悩みに、1つの判断基準をご提案できるでしょう。
なお、本記事執筆時点ではコロナウィルスの影響を完全には見通せておらず、あくまで筆者の経験則に基づく予測ですので、予めご承知おきください。
不景気では「売れる会社」と「売れない会社」の差が大きくなる
リーマンショック級の大きな不景気では、多くの会社が「売れない」という深刻な事態になる反面、一部の「売れる会社」に人気が集中し、それぞれの格差が大きくなると考えられます。
具体的には、以下のような影響が生まれると予測されます。
- 買収意欲の高い買い手が減る
- 会社を売りたい人の数は増える
- 買い手の案件選別は厳しくなる
- その結果、売れない会社が大幅に増える
- 一方、売れる会社に投資マネーが集中し、価格が上がる
以下、それぞれ内容をご紹介していきましょう。
1.買収意欲の高い買い手の数が減る
まず、確実に起こる変化として、積極的に買収を進める買い手企業が減るということが挙げられます。
実際のデータを見ながら解説しましょう。以下は、日本企業同士のM&Aの案件数推移をグラフ化したものです(レコフデータのM&A四半期レポート[外部]より作成しました)。
見ていただければ一目瞭然ですが、2008年のリーマンショックから2011年の東日本大震災にかけて成立したM&A案件数は急落し、最悪期の2011年は2006年の半分程度にまで落ち込んでいます。
その後、アベノミクスの開始とともに再び上昇基調に転じていることからも、M&A市場が如何に景気動向に左右されるかが読み取れるのではないでしょうか。
ご承知のとおり、不況下ではキャッシュこそ重要ですので、景気の先行きが見えない中で余剰資金をリスク投資に振り向けようという企業は減ってしまいます。これがM&Aの案件数が減少する最大の要因であり、不況が長引くほど、買い手の財布の紐は固くなるでしょう。
インパクトはちょっと遅れてやってくる?
なお、M&A市場は景気の良し悪しによって大きく変動しますが、すぐに景気の悪化/回復を反映するわけではなく、ジワジワと影響を受けると思われます。
下図は上記の国内案件数(棒グラフ)と、日経平均株価の終値(折れ線グラフ)を比較したものです。
2008年のリーマンショックにせよ、2013年のアベノミクス開始にせよ、株価の変動がすぐにM&A市場に大きなインパクトを与えたわけではなく、M&A市場はゆっくりと悪化/回復を反映している様子が見て取れます。
サンプルが少ないので明確なことは言えませんが、M&Aは買い手の気分によって進む側面が意外と大きいため、不況が長引くほど買収意欲は下がり、本当に景気回復が実感できるまで回復しないものと思われます。
2.不景気では会社を売りたい人の数は増える
次に、好景気と不景気では、明らかに不景気のほうが「会社を売りたい」と思う人が増えます。
確かに、「今は市況が悪くて買い手が渋いから、景気が好転するまで待とう」という方も一定数はいらっしゃるでしょう。しかし不況下ではそれ以上に、「先行きが不安だから、早く売りたい!」とか「早く売らなければそもそも資金繰りが立ち行かない!」という方が多くなります。
もし今赤字で、今後も赤字が続く見込みなら、待てば待つほど会社の財産が流出するということです。このような場合は、一刻も早く売ったほうがよいというのは事実でしょう。
3.買い手の案件選別はどんどん厳しくなる
買収意欲の買い手が減るということは、数少ない積極的な買い手にとっては、ライバルが減るということです。また、売り手が増えるということは、買い手としては選択肢が増えるということです。
そのため、不景気になると、買い手の案件選別は厳しくなり、本当に良い会社だけを厳選して買うようになります。
特に、不況下では「業績が悪化している会社」が大量に売りに出されます。このような会社に手を出すのは買い手としても非常にリスクですので、慎重になるのは当然のことです。
4.その結果、「売れない会社」が大幅に増える
上記のような状況になりますので、「売れない会社」はますます買い手探しが難しくなりますし、売れても足元を見られて安値になってしまうでしょう。売れない会社とは、たとえば以下のような会社です。
- 業績が大幅に悪化している
- 買い手が興味を示す特徴や稀少性がない
- M&A業者の売り込みが下手
このような会社を好条件で売るのはなかなか難しくなります。適切な判断基準は次の章でご紹介しますが、今急いで売らなくてもよいなら景気回復まで待つのが得策でしょう。
M&A仲介業者は一気に淘汰が進むのでは?
これは私の勝手な想像ですが、これからは、ここ数年の好景気で雨後の筍のように登場した新興のM&A仲介業者の倒産・廃業が一気に増えると予想しています。
これまでは、紹介手数料のバラマキや広告費の大量投下によって多数の売り手を見つければ、買い手への売り込みが下手でも、そのうち何%かは買い手が買い取ってくれました。
しかし、これからはM&Aの成立確率が大幅に減るため、会社の強みを適切な買い手に売り込める業者しか生き残れないでしょう。
実際、足元では進行中のM&Aの延期や中止が連発していると聞きます。特に「完全成功報酬制」を謳う業者には大きな逆風で、M&A進行中に突然倒産してしまうケースも出るのではないでしょうか?
5.一方、売れる会社に投資マネーが集中し、価格が上がる
これに対して、実は「売れる会社」の場合は、逆に好況時より高く売れる可能性があります。
なぜなら、不景気で買い手の数が減っても、ゼロにはなりません。彼らは「不況でもちゃんと儲かる投資先」を一生懸命探していますが、なかなかそんな会社にはめぐり会えず、非常に困っています(特に、投資することが仕事の「PEファンド」には死活問題です)。
もし、そんな「優良案件に飢えた投資家」の目の前に、
- 不況でも安定的に高い利益を生み出している会社
- 不況などお構いなしにガンガン成長している会社
- ちょっとした努力で簡単に大きなシナジーを生み出せる会社
が現れたら、どうなるでしょうか? 必ず、「高値を出しても買いたい!」と思ってくれるはずです。
あわよくば、そのような買い手を複数集めて競争させましょう。不景気を忘れるほどにしっかりした金額で売れるチャンスは十分に訪れます。
どん底の不景気でも高値で売れたプロミス
日本のM&A市場がどん底だった2011年でも、大型のM&Aがなかったわけではありません。
たとえば、三井住友フィナンシャルグループは、この年に消費者金融のプロミスに対する買収と増資を行い、約2,000億円を投下しています。これは、プロミスの過払い金処理やリストラが一段落しており、今後は増資で財務基盤を強化するだけで一気に業績回復するという見込みがあったためとされます。
このように、買い手が「今買えば割と簡単に利益を出せそうだ!」とか「こんな将来性のある会社が売りに出ているなんて千載一遇のチャンスだ!」と感じてくれれば、決して買い叩かれるわけではないのです。
不景気で会社を売るべきか?待つべきか?パターン別のオススメ選択肢
不況下におけるM&A市場の状況は上述のとおりですが、では、あなたが「今会社を売るべきか?景気が好転するまで待つか?」で迷ったときの判断基準をご提案しましょう。
具体的には、下図のパターン別に考えるのがよいと思います。
なお、ここで説明するのはあくまで「価格」にフォーカスした場合の判断基準です。実際の事業承継では価格以外の要素も非常に重要なので、ご自身のお気持ちをよく整理しながらご検討ください。
パターン1.赤字になりそうなら「安くても早く売る」のも仕方ない
もし今回の不況のあおりで、あなたの会社が赤字になってしまうようなら、安くても早く売ることを真剣に検討することをおすすめします。赤字とまで行かずとも、利益が大幅に減少する場合には、妥協案としての選択も考えるべきでしょう。
なぜなら、そのような状況下では、景気の好転を待っていることが致命的になりかねないからです。不況はいつ終わりを迎えるかはっきりとはわかりませんし、その深刻さや自社への影響も完全には測れません。
私自身、業績が悪化しているにも関わらず、「もう少し頑張ってみよう」と自分を励まして続けた結果、買い手が付かない状況に陥った方を何人も見て来ました。一過性であるという強い自信がなければ、真剣に急ぐ選択肢を考えるべきでしょう。
会社の価値は2つの要素でできている
会社を売るには買い手に高い価値を感じてもらう必要がありますが、会社の価値とは主に以下の2つの要素でできています。
- 現在会社が持っている換金性のある財産(Ex.現金預金)
- 今後の事業運営で生み出されるであろう利益
赤字の場合、この両方の価値が大きく減少していきます。特に現在持っている財産がどんどんなくなっていきますので、早く決断したほうがよいのです。
パターン2.売上が停滞し減益になりそうなら、「買い手のシナジー」で考えよう
伸びていた売上が横ばいまたは減少傾向となり、利益も同様の推移が見込まれる場合、判断が少々難しいです。こんなときは、手堅く強いシナジー効果を生み出せる買い手が思いつくかどうかで考えてみましょう。
もし、手堅く大きなシナジーを生み出せる買い手が3~4社思いつくなら、彼らにM&Aを売り込んでみる価値はあります。
逆に、特に手堅いシナジーが思いつかないなら、景気の好転を待つのが得策でしょう。
2-1.手堅く大きなシナジーを生める候補が3~4社あれば、売り込んでみよう
手堅いシナジー効果とは、買い手が大きなコストや投資をしなくても、利益を引き上げることができるシナジー要素です。たとえば以下のようなものがあります。
- 大手チェーン店との仕入統合によって、仕入単価が安くなる
- ITシステムを買い手企業と統合することで、システム会社へのコストをカットする
- 潤沢なキャッシュを持つ大企業から資金提供してもらうことで、借入コストが大幅に減る
- (許容できるなら)人員削減や買い手との配置転換によって、人件費を減らす
このようなシナジー効果による経営改善が容易にできる買い手に対し、シナジープランと一緒に売り込んでいけば、強い興味を示してくれる可能性があります。
なお、売上が伸びるシナジープランは絵に描いた餅に終わりやすい上、不況下ではリスキーですので、買い手はあまり魅力を感じません。なるべく買い手が計算しやすいコスト面のシナジーを選択しましょう。
収益シナジーやコストシナジーなど、シナジー効果の種類については「M&Aの【シナジー効果】のすべて|意味、種類、重要性、価格反映」という記事でご紹介していますので、ぜひヒントにしてみてください。
2-2.手堅いシナジーが思いつかないなら、景気回復まで待った方がいい
手堅くシナジー効果を生み出すアイディアが浮かばないのであれば、景気回復まで待つことをおすすめします。
なぜなら、不況下では買い手もリスクの大きなシナジーには及び腰なので、M&A後もせいぜい横ばいの業績見込しか織り込んでくれません。その状況では、会社に高い価値を見出してもらえず、価格が伸びないのです。
現状を維持できると見込まれるのであれば、ここはぐっとこらえて景気回復を待ちましょう。景気が回復すれば、買い手も強気になりますし、買い手の数も増えて競争環境が生まれてきます。
ただし、業績が悪化すると見込まれたらすぐにパターン1に切り替えましょう。上述のとおり不況が長引くほどM&A市場はワンテンポ遅れて悪くなり、景気が急回復してもすぐに回復するわけではありませんので、決断の遅れが致命傷になるリスクには要注意です。
なお、待つという選択をする場合は、なるべく次のパターン3に近づけるよう努力していきましょう(努力の方法は後述します)。
パターン3.売上が減少傾向でも利益率を改善できるなら、景気好転まで待とう
積極的に待つべきパターンが「利益率が改善している」という状況です(利益率とは、売上高に対する営業利益等の割合のことです)。
単純な話ですが、今利益が減っている理由が景気の悪化であることが明白であれば、不景気の出口が見えてきたころに買い手の興味が一気に高まります。このとき、不況下においてシビアにコスト削減し、筋肉質な利益体質を実現できていれば、景気回復によってその価値は何倍にもなるのです。
なお、あくまでも売上の減少が景気悪化による一時的なものであればの話です。単に事業の魅力がなくなっているのであれば、景気回復まで待つのはリスキーです。
パターン4.売上高が力強く伸びているなら今こそ売り時かも!
もしも不況もなんのその、という勢いで売上高がグイグイ伸びているなら、もしかしたら今こそ高値が付くチャンスかもしれません。
上述のとおり、ファンドや上場企業の買収担当者など、「優良案件に飢えた投資者」は間違いなく存在します。彼らは買収をすること自体が仕事ですから、本当に優良案件と思えば一生懸命に高値で買おうとしてくれます。
もし自社がそうである可能性があるのであれば、匿名ルートでファンドなどに興味関心を聞いてみましょう。強い反応が返ってきたら売り時と考えてもよいでしょう。
不況でも会社を高く売る4つのコツ
不況下では、上記のパターン4以外は、好景気に比べて価格が伸びにくいというのも事実です。そんな中でも、少しでも高く売るコツをご紹介します。
- 自社の強み・弱みを分析して、適切な買い手候補に売り込む
- 強み・弱みや将来性を丁寧に説明して、買い手の期待を引き付ける
- 複数の買い手候補を競わせ、競争を過熱させる
- 買い手には絶対に弱気を見せない
基本的には、上記1~3は好況時でも重要なことです。ただし、不況下では3は難しいことがあるので、そんなときは4を意識しましょう。
以下、それぞれ解説していきます。
コツ1.自社の強み・弱みを分析して、適切な買い手候補に売り込む
これは「当てずっぽうに買い手を探すのではなく、自社の価値を高く評価してくれる買い手候補に絞って売り込みましょう」ということです。
不況下では、特にリスク投資に消極的な買い手企業が多いため、強い興味を持ってくれる買い手に効率的に売り込んでいく必要があります。そのためには、自社をよく分析しましょう。
今回の不況に際して、業績が悪化しているなら、何が足りなくて悪化したのでしょうか? 逆に乗り切れているなら、何がよくて乗り切れているのでしょうか?
この理由を突き詰めていけば、必ず「自社が持っている/持っていない経営資源」が見えてきます。自社が持っている経営資源が重要ならばそれを欲しがる買い手に、持っていない経営資源が重要ならばそれを持っている(子会社に提供できる)買い手に売り込むのが得策です。
適切な売り込み先リスト(ショートリスト)を作ろう
売り込み先のリストのことをショートリストと言いますが、不況下ではこの重要性が増してきます。
なぜなら、上述のとおり不況が長引くほどジワジワとM&A市場が縮小していきますので、スピード勝負なのです。可能性の高い買い手候補に効率的にアクセスしていきましょう。
自社の強み・弱みの分析からショートリストを作り込むコツについては「ショートリストとは?M&Aで重要な4つの役割と作り方5ステップ」という記事で丁寧にご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
コツ2.強み・弱みや将来性を丁寧に説明して、買い手の興味を引き付ける
どんなに適切な買い手候補に売り込みに行っても、相手に自社の強みやシナジー可能性が伝わらなければ、何の意味もありません。情報開示は丁寧に行いましょう。
情報を開示する際は、「インフォメーションメモランダム(IM/企業概要書)」と呼ばれるパンフレットのような冊子を作成し、相手に見せることになります。このインフォメーションメモランダムこそM&Aの最重要資料になりますので、自社の魅力をしっかり盛り込みましょう。
インフォメーションメモランダムの作成方法や記載内容については「会社の値段に3倍差が付くインフォメーションメモランダムの記載内容」という記事で解説していますので、ぜひご覧ください。
コツ3.複数の買い手候補を競わせ、競争を過熱させる
高値を引き出す3つ目のコツは、複数の買い手候補を競わせるということです。
当たり前ですが、買い手は1円でも安く買いたいと思っています。不況下でリスク投資をする際は、なおさらその意識が強くなります。このような状況では、売り手の足元を見て様々な値引き交渉を仕掛けてくるのは当然と言えるでしょう。
可能な限り、複数の買い手候補を競わせることで、「あんまり渋いことを言ってると他に売るよ」と言える状況を作りましょう。これがなければ、良い価格はまず出てきません。
もっとも、不況下では買収意欲の高い複数の買い手候補を集めること自体が難しい場合があります。そんなときは、次のコツ4を意識しましょう。
コツ4.買い手には絶対に弱気を見せない
M&Aは交渉ですので、「早く成立させたい」と強く思ったほうが不利になるゲームです。「早く売って不安から解放されたい」という態度を読み取られてしまうと、足元を見られてどんどん売買条件が悪くなっていきます。
どんなに不安でも、ハッタリをかまして、「別に良い条件が出なければ売らなくてもいいよ」という態度で臨みましょう。そのままハッキリ発言すると相手が下りてしまう可能性があるため、あくまで態度で示すことが重要です。
これは簡単なことではないのですが、不況と言う逆境下で好条件を引き出すには、欠かせないテクニックと言えるでしょう。
仲介業者にも弱気は見せてはいけない!
なお、仲介業者に対しても、弱気や焦りは見せずに、買い手と同じく「良い条件が出れば売りたい」という態度で接しましょう。
仲介業者はM&Aを「成立」させて報酬を得る仕事ですので、なるべく成立のハードルを下げたいと考えています。そのため、弱気な態度は買い手に筒抜けになるとお考えください。
景気好転まで待つ際は利益率の改善を目指そう
最後に、もしあなたが「今は売らずに、景気が良くなるまで待とう!」と決断された場合に、今何をすべきかをご紹介しましょう。
基本的にはパターン3でご紹介した「利益率を改善する」ことです。以下ではその理由や具体的なポイントについてご紹介しましょう。
売上が下がっても利益率が改善していると、将来期待が大きくなる
不況下で利益率を改善することのメリットは、景気が回復した際の買い手の期待値が大きく上がることにあります。単純な例でご説明しましょう(わかりやすさ優先のため、かなり極端な例を用います)。
景気が良かった時期に、売上高が5億円で、利益率が5%のA社とB社があったとします(下図)。
不況が来て、A社は売上の減少を4%で食い止めたが利益率はそのまま。B社は売上を20%も落としてしまったものの、コストカットで利益率を0.5%pt改善したとします。現在の利益はA社のほうが大きいです。
さて、その後いよいよ景気回復が見えてきた場合、それぞれの将来業績はどのように予想されるでしょうか? すごく単純に考えた場合ですが、「売上が回復すればB社のほうが儲かる」という予測になるでしょう(下図)。
もちろん、実際には費用には固定費と変動費もありますので、売上減少に対して利益率を下げないこと自体が困難ですから、こんな単純に考えられるわけではありません。ただ、基本路線としては、
不況下では売上維持よりも利益率の改善が価値向上につながる
と考えていいでしょう。
固定費よりも変動費の削減が将来の価値を生む
なお、景気の回復局面のことを考えれば、固定費を削減するよりも、変動費を削減したほうが、利益改善効果が高くなります。
たとえば、現在利益ゼロで固定費・変動費が同額の会社があったとして、何らかの方法で20百万円のコスト削減ができたとしましょう。
固定費・変動費のいずれで削減したとしても、現在の利益は20百万円増えるだけですが、将来10%の売上回復が見込まれる場合には、変動費を削減していたほうが将来の利益が大きくなります(下図)。
このように、将来的に売上高が回復するという前提であれば、固定費の削減よりも変動費の削減(正確には、限界利益率の向上)のほうが、将来の価値を高めてくれます。
※ただし、売上が引き続き下がる局面では固定費削減がセオリーですので、バランスよくコストカットを検討しましょう。
実際のM&Aも意外とシンプル
上記は非常にシンプルな損益構造と将来予想で説明していますが、実は現実のM&Aにおいても、買い手はこのぐらいシンプルな将来予想で会社の価値を値踏みしています。
実際の会社買収では、買い手は対象会社の断片的な資料(インフォメーションメモランダムに記載されている内容)だけで将来の損益予測やシナジー効果を考えていきますので、会社の内情をよく知る売り手からすれば可笑しいぐらい単純に物事を捉えます。
逆に言えば、このぐらいシンプルに分析されても、正しく会社の将来性が伝わるように丁寧な説明が求められるのです。
変動費を削減する経営施策の例
最後に、変動費を削減するヒントとして、経営施策の例をご紹介しましょう。自社の実情に合わせて現実的なものを実施してみましょう。
- 仕入交渉を行い、仕入単価を引き下げる
- 店舗・工場のオペレーションを見直し、パート・アルバイトの時間を削減する
- 固定費である正社員の空き時間を把握し、パート・アルバイトと交代させる
- 売上連動やクリック連動の広告・販売手数料を抑える
- 発送業者を変更して運賃を引き下げる
なお、重要なことは「限界利益率を下げる」ことですので、少々劇薬になりますが、
- 商品を少し豪華にする代わりに、売り値を引き上げる(Ex.ランチセットにサラダを付ける代わりに100円値上げする)
という方法も有効です。仮に値上げで売上が下がっても、限界利益率が向上していれば、売上が回復した際の利益が増えるからです。
おわりに
今回は、到来が懸念されている不景気において、M&A市場がどうなるかの予想と、それに対応する方法について、筆者の意見をご紹介しました。
M&A市場は収縮することはあっても、なくなることはありません。基本に忠実にうまく立ち回ることは、好況・不況に関係なく満足できるM&Aにつながる唯一の道です。
ぜひ、ご自身のビジネス環境と業績状況を冷静に分析し、後悔しない最良の判断をしてください。
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