「合併」や「買収」という言葉を新聞紙上で見かけない日はありません。それだけ浸透した言葉なのですが、両者の違いをきちんと説明できますか?
「合併」と「買収」は、共通点はありますが、全然分野の違う言葉です。M&Aの話をするときは、この点は意識的に区別しなければいけません。
結論を先に説明すると、合併と買収はそれぞれ以下のようなものです。
- 合併とは、2つの会社を融合させる「組織再編」のこと(目的は関係ない)
- 買収とは、他の会社・事業の「経営権」を買い取ること(手段は関係ない)
つまり、合併は数ある「買収の手段」の1つであり、買収は数ある「合併の目的」の1つです。
「合併を使った買収」は(理論上は)ありますが、「合併以外の手段を使った買収」もあれば、「合併を使った買収以外の行動」もあります。さらに言えば、組織再編の法整備が進んだ昨今、「合併を使った買収」が行われることは、ほとんど皆無と言ってもいいでしょう。
これだけではどういうことかよくわからないと思いますので、今回は図を交えながら、なるべくわかりやすく説明します。両者を混同している方は、しっかり読んで恥をかかないようにしましょう!
「合併」と「買収」の意味の違い
M&Aという言葉の語源は、Merger and Acquisition(マージャー・アンド・アクイシジョン)ですから、「合併と買収」と訳されることが多いです(実際には後述のとおり、「統合と買収」と訳すべきです)。広義には組織再編全般と、買収や企業提携全般を意味します。
しかし上述のとおり、この「合併」と「買収」は全然違う言葉です。まずは、それぞれどんな物を指している言葉なのか、その意味を確認しましょう。
「合併」の意味
まず、「合併」という言葉ですが、これは「複数の会社を融合し、1つの会社にする」という行為です(下図)。
このとき、A社やB社の経営権(会社財産や事業を支配し、利益を享受する権利)が移動したかどうかは関係ありません。一方の会社(上図ではB社)が消滅し、そのすべてがもう一方の会社(上図ではA社)に引き継がれれば、それはすべて「合併」です。
合併の定義にその目的は含みません。たとえば、下図のような「グループ内の合併」は、元々経営権が親会社(A社)に保有されているため経営権が移動していませんが、会社が融合して1つになっているため、「合併」です。
「買収」の意味
一方の「買収」は、「他人の持つ会社・事業の経営権を買い取ること」です。多くの場合、お金で株式を買い取ることにより経営権を取得します(下図)。
このとき、会社が融合したかどうかは関係なく、経営権を取得できれば「買収」です。
「合併」と「買収」の関係性
上述のとおり、「合併」と「買収」は、分野が全然違う言葉です。
そのため、「合併だが買収ではない」「買収だが合併ではない」「合併であり買収である」という3つのケースがありえます。
「合併だが買収ではない」ケース
複数の会社が融合して1つになれば合併であり、経営権が売買されなければ買収ではありません。つまり、前掲のグループ内合併は、「合併だが買収ではない」ケースに該当します(以下再掲)。
「買収だが合併ではない」ケース
前掲の「株式の買収による子会社化」は、経営権が売買されているため買収ですが、会社が1つに融合していないため合併ではありません。よって、「買収だが合併ではない」ケースに該当します(以下再掲)。
「合併であり買収である」ケース
合併であり買収であるケースとは、組織の融合と経営権の売買が同時に行われる場合です。
通常合併では、吸収される側の会社(消滅会社)の株主に対し、吸収する側の会社(存続会社)の株式が渡されます。しかし、株式の代わりにお金を渡すことで、存続会社(下図ではA社)は消滅会社(下図ではB社)の経営権を買い上げることができます。これが、「合併であり買収」の一例です。
ただし、このように「買収」の手段として「合併」が選ばれることは極めて、極めて、極めてレアケースです。なぜなら、このような「現金を交えた合併」という行為をすると、とんでもない額の税金が発生するからです。
具体的には、売り手(B氏)側で株式譲渡の収入に対する配当所得課税(最大49.44%!)が発生するほか、B社側でも含み損益の精算課税が行われます。
したがって、「合併であり買収である」という行為が選択されることは、極めて稀、というかほぼ皆無です。
M&Aスキームとして合併を選ぶ問題点は税金以外にもあり、ほとんど愚行と言っても過言ではありません。詳しくは「M&Aスキームで『合併』を絶対選んではいけない3つの理由」をご覧ください。
M&Aの意味するものとは?
「合併」と「買収」はまったく別の言葉であることはご理解いただけたかと思います。では、「M&A」という言葉はどういう意味なのでしょうか。
「M&A」という言葉には「合併」の意味はほとんどない
M&A(Merger and Acquisition)は「合併と買収」と訳され、広義には「組織再編と経営権売買、企業提携全般」とされています。
しかし、上述のとおり「合併」は手段であり、「買収」は目的です。目的と手段が混同した意味不明な言葉になっています。
実は、現在はほとんどの場合で、M&Aという言葉は「合併」を含みません。M&Aは、ほとんどの場合で、もっぱら「経営権の金銭による売買」を意味します。
なぜなら、そもそも「Merger」を「合併」と訳したこと自体が誤訳で、本来は「経営統合」という意味の言葉です。日本語の「合併」のように、法人格が1つに融合されるか否かは関係なく、経営能力が統合されることを指しています。
つまり、M&Aは「統合と買収」と訳されるべきであり、その手段の1つとして、日本語でいう「合併」が位置付けられるべきでした。
M&Aスキームに「合併」はほとんどない
上述のとおり、税金の問題から、「買収」と「合併」が同時に行われることは滅多にありません。つまり、M&Aスキーム(経営権の売買手法)として、「合併」が選択されることはまずありません。机上の空論です。
もしM&Aで買収した会社を新しい親会社と融合したい場合、一旦全株式を取得し(金銭買収、株式交換など、手段は様々)、そのあとに「グループ内の組織再編」として合併します。つまり、合併はM&Aの後に行われるものです。
M&Aの話をするときは、そもそも合併はM&Aとは直接関係なく、M&A後に買い手が買収事業をどう活かすかという話にすぎないことに注意しましょう。
M&Aスキームは、合併以外の4つの手法が典型的です。中小企業に使われる具体的なM&Aスキームは「M&Aの種類・手法一覧!売買向きな4スキームのメリットデメリット」をご覧ください。
おわりに
今回は、「合併」と「買収」がまるで異なる概念であること、そしてM&Aは主に経営権の売買を示す言葉であることを説明しました。
これはM&Aの基本のキですので、M&Aを進める際には誤解なく認識しておきましょう。
日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)