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会社の譲渡で「雇用維持」を実現するM&Aプロセスの7つのコツ

売り手として弊社にご相談に来られる方の多くが、「従業員の雇用は守りたい」とおっしゃいます。そもそも、「自分の引退後も雇用を維持したいからM&Aを選択した」という方も少なくありません。

昨今は多くの大手企業がM&Aを成長の選択肢としていますので、一定規模の会社であれば、買い手を見つけることはそこまで難しいことではありません。一方で、M&A後の事業運営は完全に買い手に掌握されるため、売り手としてM&Aの将来に希望がある場合、それを実現するには少々コツが必要です。

そこで、売り手がM&A後の雇用維持を強く望む場合、M&Aプロセスにおいてどのように立ち回るべきかを、7つのポイントにまとめました。これをしっかり読んでいただければ、M&Aで誰かを不幸にしてしまうリスクは大幅に引き下げることができるでしょう。

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古旗 淳一

STRコンサルティング代表(公認会計士・税理士) 中小企業M&Aの専門家として、YouTubeや無料配布書籍で広くM&Aの基礎知識やノウハウを発信している。

M&A後の希望を叶えるたった1つの大原則

まずは大前提として、売り手がM&A後の事業運営に希望を持っている場合に、どのようにその実現を目指すべきかを解説します。最初にこれを読んでおくことで、後述する7つのコツを本質的に理解できるでしょう。

M&A後の事業運営は、買い手が決める

当然のことですが、M&A後の事業運営はすべて買い手が掌握します。売り手である元オーナーは、M&Aが成立したその瞬間から、外部アドバイザーとして提案する以上のことは一切できません。買い手はそのために大金を投じて買い取るのだから、当たり前のことです。

これはある意味残酷なM&Aの大前提であり、最終契約の直前になって売り手に迷いが生じることも珍しくありません(マリッジブルーと呼ばれます)。M&Aでの譲渡を検討している方は、ぜひ「会社を売ると、あなたに何が起こるのか?~覚悟はできていますか~」にも目を通してみてください。

つまり、M&A後に雇用が維持されるか、それともリストラが断行されるかは、すべて買い手の心次第です。

リストラをする買い手企業は決して少なくない

M&A仲介会社の広告を見ると、「M&Aでリストラが起こることは、救済買収でもない限り滅多にない」という宣伝文句を見かけますが、真に受けないでください

確かに、本格的な整理解雇・首切りは、買い手企業の社会的評判を落とすため、ファンドでもない限り割と控えられます。一方で、遠方への転勤・出向や極端な職務転換を命じて自己都合退職に誘導するということは、少ないことではありません。

買い手というものは人員削減によって利益を増やそうとしますし、高齢の社員はお荷物と考えがちです。高いM&A対価を支払って買収するのですから、少しでも良い買い物にしようとするのは当然でしょう。

実際には、社会的評判を気にして「手荒なこと」はしないことも多いですが、すべての買い手が潜在的に人員削減したいと思っている点には注意しましょう。

希望を叶えるにはこれしかない!

では、M&A後の雇用維持を実現するには、どうすればよいでしょうか?

その方法はたった1つ、「手荒なことをしない買い手に売る」。それだけです。

そのためのコツは後述しますが、これは決して難しいことではありません。リーダーの最後の仕事として、自分の後継者に相応しい相手に売るだけです。

ファンドには売らないほうが無難

なお、ファンドは短期間で経営効率を最高レベルに引き上げてから転売する商売ですので、リストラに躊躇しないことが多いです。

仮にファンドが雇用維持を約束したとしても、数年後の転売で雇用維持を前提に売るということはあり得ないので、自分が悪者になるか、ファンドが悪者になるかの違いでしかありません。

そのため、雇用維持を絶対条件にするなら、ファンドは候補から外したほうがいいでしょう。

ファンドに売る際の留意点については、「M&Aの買い手に【ファンド】を選ぶことのメリットとデメリット」にてより詳しく解説しています。

約束が守られるかも注意!

なお、いくら口で「リストラはしません!」と説明していても、本当にそれが実現されるかは神のみぞ知るところです。

買い手として選ばれたいがために、心にもない雇用維持を言い出す輩もいます。また、本気で雇用維持を心に誓っていても、M&A後に十分な利益が出なければ、何らかの形で損益を改善しないわけにはいきません。

単なる書面上の努力義務なんて何の意味もありません。相手が会社を任せるに足るかどうかはしっかり注目しましょう。

雇用維持を求める際のM&Aプロセスの7つのコツ

では、M&A後に雇用維持を希望する場合に、M&Aプロセスをどう立ち回るべきでしょうか。そのコツは以下の7つです。

  1. 買い手候補の事業計画をしっかり吟味する
  2. トップ面談での準備を怠らない
  3. 買い手候補の過去のM&A実績を調べる
  4. 一定規模の買い手を選ぶ
  5. 徹頭徹尾、雇用維持を絶対条件にする
  6. 雇用以外の条件は最低限に
  7. PMIには全面協力する

以下、その内容を説明していきましょう。

なお、M&Aプロセスの順序や内容自体については「自社争奪戦を起こすオークション入札型M&Aプロセスの流れと要点」をご覧ください。

雇用維持のコツ1.買い手候補の事業計画をしっかり吟味する

買い手を選ぶ際、各買い手候補にM&A後の事業計画を提示してもらい、どの事業計画が自身の意に一番沿うかを確認しましょう。

上述のとおり、M&A後は買い手がすべての権限を握ります。少なくとも同じ方向を向いている買い手でなければ、後継者にはなりえません。それを確認するために、事業計画を提出させるのです。

なお、事業計画は損益に結び付いたものがベストです。特に異業種の買い手にありがちですが、提示された損益計画を見て「これは楽観的に考えすぎではないか?」と感じたら要注意。想定通りの利益が出なければ、買い手は約束を守る余裕すらなくなってしまいます。地に足がついた計画であるかはきちんと確認しましょう。

提示された事業計画の注目ポイントについては、「M&A相手を選択するために確認したい事業計画の9つの重要ポイント」にて詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

雇用維持のコツ2.トップ面談での準備を怠らない

適切な後継者選びに事業計画は最重要資料ですが、紙の上で提示された意向が本当に買い手企業の意思を代表しているかはわかりません。実際に、買い手企業経営者(またはM&Aの責任者)と面談し、その真意を確かめることが重要です。

その際の唯一の機会がトップ面談です。トップ面談は、大変多忙なマネジメント同士が顔を合わせる機会ですので、多くの場合で1回しか行うことができません。たった1回のチャンスを最大限生かせるよう、相手の事業計画をよく理解し、組織文化や経営戦略を事前に把握した上で臨みましょう。

トップ面談をしっかり実現するための準備については「最良の後継者を選ぶM&Aでのトップ面談の7つの意義と6つの準備」にて解説していますので、併せてご覧ください。

雇用維持のコツ3.買い手候補の過去のM&A実績を調べる

買い手が過去に「事実上のリストラ」を敢行したことがないかを調べましょう。

本格的な整理解雇でなくても、「手荒なこと」をしたという話はよく出回ります。同業の大手であれば、業界内で情報が回ってくるでしょう。

買い手候補の過去のM&Aで「手荒なこと」があったかどうかは、たとえば以下のような情報源からチェックできます。

  • トップ面談で直接訊く(嘘が出ることはあまりない)
  • M&Aアドバイザー
  • 共通の取引先(情報流出に注意!)
  • 人材紹介会社
  • 転職口コミサイト
  • 帝国データバンク(利益率や人員数の変動)
  • 上場会社の場合、個人投資家と名乗って電話する

ただし、実際に外部からは「手荒なこと」に見えても、当事者にすれば致し方ない事情があることもあります。トップ面談でその真意を訊くことも重要でしょう。

雇用維持のコツ4.一定規模の買い手を選ぶ

買い手にとっても、M&Aは常にうまく行くとは限りません。買収した事業の不振によって買い手企業まで傾くことになれば、どんなに誠実な経営者であっても約束を反故にするしかありません。

そのため、多少の失敗でも約束を守れる体力のある買い手を選びましょう。

雇用維持のコツ5.徹頭徹尾、雇用維持を絶対条件にする

M&Aの最初から、絶対条件として「従業員の雇用を維持すること」を条件に掲げましょう。これにより、雇用維持が呑めない買い手候補は、もっとも早いタイミングで自然と辞退していきます。

M&Aアドバイザーから、「それでは買い手が付かなくなってしまう」と言われるかもしれませんが、M&A後にリストラされるよりマシでしょう。そのぐらいの覚悟があるなら、その覚悟をはっきりと主張すべきです。

なお、「雇用維持が買い手選びの最重要条件である」ということだけ明確にすればよく、「〇年間は雇用を維持する」とか「例外的に解雇を認めるケース」などの具体的な約束事は詰める必要はありません。そもそも自己都合退職は防ぎようはないので、最終契約で細かく条文化したところで牽制以上の意味はありません。あくまで「雇用を重視しない買い手には売らない」ということが伝われば良いのです。

雇用維持のコツ6.雇用以外の条件は最低限に

すべての要望が一度に満たされる完璧なM&Aというものは、なかなか実現できません。要望の優先度を考慮して濃淡をつけざるを得ないのが実情です。雇用維持を重視すればするほど、それ以外の条件では折れざるを得ないでしょう。

特に買い手にとって「価格」は安ければ安いほどありがたいものなので、価格で譲歩する代わりにM&A後の雇用や労働環境を勝ち取るという選択もありえます。雇用維持を希望するということは、買い手が持っているコストカットの選択肢を減らしてもらうということですから、ある程度妥協するのは仕方ないでしょう。

M&A後の継続雇用や労働環境は、M&Aを期に引退する売り手経営者にとっては無関係と考える方もいますし、そこを重視する方も多くいらっしゃいます。中小企業M&Aはあくまでご自身の「満足」を重視すべきですから、どちらも正解だと思います。詳しくは「中小企業M&Aの本質は売り手経営者の『個人的願望』を追求すること」をご覧ください。

雇用維持のコツ7.PMIの全面協力を確約する

M&A後の対象会社の経営は、その全権が買い手に移りますが、元経営者である売り手にはすぐに離れてほしいと思う買い手はそう多くありません。むしろ、雇用維持を志向する買い手ほど、売り手には「顧問」や「会長」として残ってほしいと思いがちです。

一切の責任を背負わないという前提で構いませんので、これらの職を引き受けることを宣言しましょう。早い段階からこれを約束してくれるだけで、買い手はM&A後の雇用維持に対する不安が和らぎます。

その他、PMI(M&A後に買い手が行う組織統合の取組み)への協力は惜しまない姿勢を、インフォメーションメモランダムやトップ面談などの場面で積極的に発信しましょう。このような姿勢こそ、買い手を雇用維持に前向きにさせてくれるでしょう。

おわりに

M&A後に、買い手が決定権限を握る事業運営に対して希望がある場合、同じ方向を向き、それを実現する力を持つ買い手を選ぶしかありません。

今回は、そのための7つのコツをご紹介しました。

  1. 買い手候補の事業計画をしっかり吟味する
  2. トップ面談での準備を怠らない
  3. 買い手候補の過去のM&A実績を調べる
  4. 一定規模の買い手を選ぶ
  5. 徹頭徹尾、雇用維持を絶対条件にする
  6. 雇用以外の条件は最低限に
  7. PMIには全面協力する

上記のポイントを意識して、M&Aで不幸になる人が少しでも減るように頑張りましょう。

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