処方箋枚数 × 医療モール × 設備投資 強い薬局の強みが最大限買い手に評価された事例
今回ご支援させていただいたのは、調剤薬局を複数営む会社様でした。
複数店舗を営んでいましたが、そのうち1店舗は好調の医療モールに入っており、月間処方箋枚数は5,000枚とかなりの集客力を持つ優良薬局でした。
外から眺めても格別な価値を感じる薬局でしたが、初期的なヒアリングを行うと、足元の最新鋭の調剤機器や効率化システムへの積極投資、大規模なリニューアル、若手薬剤師の人材確保、近隣医療機関の増加など、外観からは読み取れない無形の価値にあふれていると感じられました。
このような事業は何もしなくてもそこそこの高値では売れますが、それは本当の価値ではありません。買い手に対して、目に見えるわかりやすい強みだけでなく、裏側にある様々な強み・経営資源・将来性を理解していただかなければ、「本当はもっと高く売れたはずなのに」という後悔が残ります。そうならないよう、この会社の魅力を余すところなく買い手に伝える資料づくりが我々の使命であると感じました。
折り悪く調剤報酬の改定で医療モール併設薬局の収益性が引き下げられることが予測されており、売主のお客様からは「一度買い手探しに動いてみて、よい入札が入らなかったら今回は諦め、3~4年後に再チャレンジする」とのご意向をいただいていました。そこで「現在の真の市場価値を明確にする」という目的で、スタート戦略講座にお申込みいただきました。
それでも、情報を出さなければ伝わらない CHAPTER.01
調剤薬局業界は、2000年代後半から2010年代にかけてM&Aがとても活発になっており、大手の調剤薬局チェーンやドラッグストアには調剤薬局の買収ノウハウが蓄積されています。そのため、本件のように分かりやすい魅力が目に見える薬局の場合、それだけで買い手の存在は保証されていると言えます。裏を返せば、M&A仲介会社にとっては「そこそこの値段で素早く売る」ことがしやすい会社様でした。
しかしながら、本当に価値のある企業の力というものは、外部から眺めるだけで読み取れる分かりやすいものだけではありません。
この会社様の場合、先進的な調剤技術やITによる業務改善への継続的な積極投資、効率的なオペレーションを実現する計算された内装設計、社員のスキルアップを支援する教育制度と、それに惹かれた若手薬剤師の層の厚みなど、これまで蓄積してきた分かりやすい強みの裏側にある、それを支える経営資源が多数存在していました。
また、将来に向けてのビジネスチャンスとして、医療モールに新たな医療機関が入居したばかりであり、足元で処方箋応需枚数が力強く伸びているという事情もありました。
このようなことから、分かりやすい魅力を素早く買い手に伝えただけでは、この会社の本当の価値は買い手に伝えきれないと思わせる要素が多く、魅力を最大限伝えるための徹底した分析と資料作りが不可欠であると言える会社様でした。
この会社様の分析をさせていただくにあたり、最も時間をかけたのはデータ分析です。
販売データ(レセコンデータ)と顧客マスターをお預かりし、どの地域にお住まいの患者様がどの医療機関からいらっしゃっているのか、それぞれの取引における保険点数とその種類などを、月単位で集計していき、時間による変化も含めた売上高分析を行いました。
販売データは5年分の取引(40万件超)をテーブルデータ化し、Excelで集計していきます。生データから集計していくことで多面的な視点での詳細な比較が可能です。たとえば、診療報酬改定の影響を予測するために保険点数の内訳を集計したり、さらにそれを医療機関別に出すことで新規開業の医療機関が将来の収益にどのような影響を及ぼすかを予測するためのデータを作成するなど、買い手の将来予測・投資判断に有用な情報を柔軟に作っていくことができます。
なお本件の場合、処方箋発行医療機関の名称を各薬剤師がその都度手入力している関係上、表記ゆれや誤字が多く、苦労したところです。しかしながら、処方箋元の割合分布は買い手の投資判断にとって極めて重要なものであるため、丹念に時間をかけて作り込んでいきました。
IMでは、徹底的に分析を施したデータに加え、現場の写真や地図での視覚的な説明、さらに患者様や医療機関、地域の方々から寄せられたお褒めの言葉などのエピソードを織り交ぜて、この会社の魅力と将来性が様々な観点から最大限伝わるような資料作りを心がけました。
事業というものはとても複雑であるため、データだけではその魅力が伝わりません。一方で、データがなければ定性的な説明がぼんやりしたものになってしまいます。定量的なデータと定性的な説明に、写真など厳然たる事実を裏付けとして加えながら説明することによって、分かりやすくかつ説得力のある資料になると考えています。
内容はあくまで冷静なデータや事実の説明ではありますが、読者である買い手の経営層が買収後の事業展開を想像してワクワクしてくるようなIMに仕上げることができたと自負しています(総ページ数:95ページ)。
このような渾身のIM資料を携え、弊社がご紹介した薬局M&Aに強い仲介担当者と契約して買い手探しに進まれました。
その途中で、対象会社の収益には大きなマイナスとなる調剤報酬改定が発表されてしまいましたが、そのような逆境をものともせず、複数の買い手による争奪戦が巻き起こった結果、最終的に予想を大きく上回る価格での売買が成立しました。
私は当初、実際に成立した売買価格の6割程度を予想していましたが、これでもM&A仲介会社がよく使う計算式の2倍近い予想値でした。つまり、一般的な「相場」の3~4倍の価格で成立したということになります。
買い手にその会社の魅力が最大限伝わり、争奪戦が起きた場合、価格はどこまでも伸びるものだと再認識するとともに、お客様が長年築き上げてきたこの会社の本当の実力に相応しい価格で売買が成立したことに、心から安堵した瞬間でした。