「顧客数」だけでは測れない価値を紡ぎ出した事例
今回ご支援したのは、寒冷地エリアで灯油やLPガスなどの燃料の配送販売を行う会社様でした。
冬の寒さが厳しい地域では、暖房や給湯に必要な燃料は、まさに日々の暮らしを支える生活必需品です。
その地域では各家庭の軒先に燃料タンクを設置し、配送業者がそこに燃料を補充、自宅内部の暖房機器や給湯設備にパイプラインで繋いで寒さをしのぐという仕組みが当たり前でした。関東圏で育った筆者にはなかなか実感しにくかったのですが、そのような生活実態を知るほど、この事業が地域の生活を支えている重みを強く感じました。
一方で、少し乱暴な“相場観”もある業界 CHAPTER.01
人口減少の影響もあり、燃料市場規模自体は縮小傾向にありますが、インフラ産業として簡単になくなるものではないため、縮小する市場の中でシェアを高めていこうとする大手事業者も多く、M&Aが活況な業界です。
この業界ではしばしば、
「M&Aの価格は顧客数×数十万円で決まる」
といった説が語られることがあります。
実際にそのような見方で価格を考える買い手もいるのだと思いますが、その言葉をそのまま受け止めてしまうことに、違和感もありました。
なぜなら、それはこれまでの業界内M&Aにおいて、対象会社が持つ“顧客数以外の価値”を丁寧に分析し、きちんと伝える取り組みが十分になされてこなかった結果でもあるのではないか――そんな思いがあったからです。
もちろん、燃料販売事業において顧客数は非常に重要な指標です。ただ、それはあくまで大切な指標の一つに過ぎません。
本件では、お客様からご提供いただいた顧客データや販売データを網羅的に分析していくなかで、いくつもの魅力が見えてきました。
たとえば、
- 大多数の顧客が都度注文ではなく、定期配送顧客(=安定した固定顧客)であったこと
- 個人の顧客が大半ではあったものの、学校といった地域に欠かせない公共施設等の大口の固定顧客が一定数いたこと
- 単に燃料のみを販売するのではなく、各家庭の燃料設備に必要となる部品・機器の交換・取付にも対応し、付加価値サービスとして顧客満足に繋げて高い評価を得ていたこと
などです。これらは、収益の安定性や地域・顧客との結びつきの強さ、現場での積み重ねが感じられる、事業基盤の確かさを裏付けるポイントとなりました。
こういった事業分析を行っていて我々が常日頃思うこととして、同じ事業を営む会社であっても、まったく同じ会社は一つとして存在しないということです。
仮に、顧客数が同じA社とB社があったとしても、
- 顧客がどのエリアに分布しているのか
- 顧客の年代層や属性はどうか
- どのように新規顧客にアプローチし、既存顧客とどのような関係を築いているのか
- 顧客からどのような評価を受けているのか
――そうした中身はすべて異なります。
それだけではありません。従業員の経験値・体制、燃料基地のキャパシティ、配送車両の状況、ITシステム、保安業務の状況など、事業の実態を形づくる要素は多岐にわたります。表面的なところだけを見ていては、その会社の独自性は伝わりません。
だからこそ、こうした一つひとつの要素をIMの中で丁寧に整理し、その会社の実像が買い手候補にきちんと伝わるようまとめていきました。
地域の暮らしを支えてきた会社様です。そうした長年の積み重ねがあるにもかかわらず、「顧客数×数十万円」といった杓子定規な見方で価格を評価されてしまう――対象会社様の積み重ねをきちんと伝える限り、そんなことはありえません。
本件においても、複数の買い手がそれぞれ異なる価格(もちろん例の説での計算より高値で)で手を挙げいただき、最終的には売主様の希望条件を叶える形で売却に至りました。
相場観のある業界であってもその相場観に惑わされずに、見えない価値を表現する意義を感じた事例でした。