雑多な数字の海から、7店舗それぞれの「本当の実力」を救い出した事例
今回ご支援したのは、近畿地方で和食系の飲食店を7店舗展開されている会社様でした。
この会社様には、ひとつ大きな特徴がありました。店舗の業態変更が頻繁で、閉鎖する店舗と新規出店が毎年のように入れ替わっていたのです。5年前と今とでは店舗の顔ぶれがかなり違う。経営者としての機動力の証でもありますが、M&Aの場面ではこれが厄介な問題を生みます。
期ごとの損益計算書を見ても、
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既存店の実力なのか、すでに存在しない店舗の損益が混じってはいないか
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新店の立ち上がり(投資)が効いているのか
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閉鎖店舗の撤退コストが混ざっているのか
が渾然一体となってしまい、「今ある7店舗は、それぞれどのくらいの力があるのか」が読み取れない状態でした。
7店舗という規模ですと、1店舗の出退店が全体の数字に与える影響が大きいものです。だからこそ、全体の数字をそのまま見せるだけでは、この会社の本当の実力が正しく伝わらない──最初に向き合ったときの率直な実感でした。
M&Aにおいて、買い手候補が本当に知りたいのは、「今ある店舗が、それぞれどれだけ稼いでいるのか」です。閉鎖済み店舗のコストや一時的な立ち上げ費用が混在したままでは、判断材料としてノイズが多すぎます。
そこで私たちは、過去5期分の帳簿データに立ち返り、仕訳の一本一本を店舗別に分類する作業に取りかかりました。しかし、この積み上げなくして、買い手に「この店舗はこれだけの力がある」と自信を持って示せる数字は作れません。一見途方もない作業のように聞こえるかもしれませんが、我々にとってはどの案件でもいつも行っている作業であり、効率化するノウハウが確立されています。
店舗別に振り分けた後、さらに
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店舗ブランド別
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地域別
- 店舗年齢別
といったセグメントでも集計し直し、「買い手が本当に把握すべき情報だけ」を浮き彫りにしていきました。こうして、各店舗の本来の力と、将来の利益予測の手がかりが一目で伝わる資料の骨格ができあがっていきました。
M&Aの場では、買い手はその会社を“初めて”知ります。どんな経緯で事業を築き、どんな試行錯誤を経て今の姿に至ったのか。ここが伝わらないと、事業の価値は十分に評価されません。
ただ、この会社の出退店の履歴は複雑でした。複雑な情報は文章で長々と説明しても、読み手にはストレスになります。そこで私たちは、出退店の履歴と各期の損益に含まれる新店・閉鎖の影響を、1ページの図解に凝縮し、全体の損益を理解するうえでの注意点が一目瞭然になるよう努めました。
このページにはかなり時間をかけました。構成を何度も練り直し、「初めてこの会社を知る人が、1分以内に全体像をつかめる」状態を目指して試行錯誤を重ね、最終的に納得のいく図解に仕上がったと思っています。
飲食店のようなB2Cビジネスでは、買い手が気にするのは「料理がおいしいか」だけではありません。
どのような立地を選び、どの戦略で店舗開発してきたのか──その方針自体が、事業の力を物語ります。
この会社の業態には、独自のマーケティング戦略がありました。そしてその戦略から、「普通の飲食店は活用しきれない立地こそ、この業態にとっては好立地」ということが理論的に導き出されました。
大手企業には多くの不動産情報が集まりますが、その戦略に合う立地はごく一部です。そこでIMでは、「この業態を取り込めば、今まで見送っていた物件がうまく活用できる」というイメージを買い手に具体的に持ってもらえるよう工夫しました。
単に「儲かっている」と訴えるのではなく、「なぜ、この立地で儲けることができるのか」を仕組みとして見せる。これは買い手にとって、事業の再現性と拡張性を確認する重要な判断材料になります。
結果として、このインフォメーションメモランダムを通じて、飲食事業を営む大手企業様から非常に高い評価をいただき、当初の目標価格を上回る金額でのご成約に至りました。価格面以外にも、残る役員の処遇に対する重要な要望がありましたが、そちらもすべて飲んでいただけました。
7店舗それぞれの本当の力を、ノイズなく、しかし過不足なく伝えること。複雑な出退店の経緯を、ストレスなく理解できる形に翻訳すること。立地戦略という事業の根幹を、理論として見せること。──どれも簡単にはできない作業でしたが、そのすべてが買い手の評価につながったのだと感じています。
飲食業のM&Aでは、どうしても「売上」と「利益」の数字に目が行きがちです。ですが、その数字の背景にある事業実態や事業戦略、経営資源を活用した仕組みまで丁寧に紐解き、伝えきることができれば、事業の本当の価値は数字以上に伝わる。この案件を通じて、改めてそう確信しました。