適正じゃないけど実際使える年買法(年倍法)の計算ロジックと運用法
M&Aの書籍やWeb記事を読んでいると、「M&A価格は純資産プラス営業利益3~5年分が目安」という実務慣行が紹介されていることがあります。 このような価格の決め方を俗に「年買法」または「年倍法」と呼びますが、実際にこのような計算を社内ルールとして定め、入札額の目安にしている会社は今も多いです。後述のように非常に使いやすいため、多くの買い手企業が経営意思決定に活かしているのです。 ただし、これを無批判に適用し、本気でそのような価格提示をしているようでは、M&Aの成功は遠い先です。本当にM&Aがうまい買い手企業は、自社のM&A戦略を踏まえて巧みにアレンジした年買法を使っています。 今回は、年買法が広く使われるようになった経緯と、変革が求められるようになった理由、そして優秀な買い手企業が実際に用いている「年買法のアレンジ方法」についてご紹介しましょう。 YouTube動画でも解説しています YouTubeチャンネルでも年買法を解説する動画を作りました。この記事よりも少し概略的・本質的な内容にしております。ぜひ併せてご覧ください(19分15秒)。 曖昧な部分が重要!値決めで使う「年買法」の計算や欠点を解説【動画で学ぶM&A】 年買法(年倍法)とは?計算式と考え方 年買法(年倍法)とは、M&A価格を考えるときに、純資産に数年分の利益等を付加して株式の価格を算定する方法です。「年買法」と「年倍法」の2種類の表記が見られますが、読み方はいずれも「ネンバイホウ」です。 漢字表記が定まっていないことが物語っているとおり、学術的な定義を得た言葉ではありません。むしろ、「理論的な合理性に乏しい単なる実務慣行」と言っていいでしょう。しかし、考え方がシンプルで応用しやすいため、DCF法などの「理論的に適正とされる企業価値評価方法」よりも使われている場面は広範です。 よくある年買法の計算式 年買法は漢字表記が定まっていないだけあって、計算式は多種多様です。元々合理性よりも使いやすさから開発された方法ですので、答えはありません。使用している各社が使いやすいようにアレンジすればそれでいいのです。 ただ、ひと昔前によく使われていたとされる計算式は以下のとおりです。 株式価値 = 時価純資産 + 修正営業利益 × 3年分※ 上記は「ちょっと前はこういう感じでM&Aの入札額を決めている会社が多かった」という話であって、それ以上でも以下でもありません。買い手によって、「3年分※」のところが4年になったり5年になったりしますが、その数値には特に理論的な裏付けはありません。 なお、「時価純資産」と「修正営業利益」の意味は以下のとおりです。 時価純資産 B/S上の資産を時価に直し、引当金を考慮した実態純資産額 修正営業利益 P/Lから過大な役員報酬や節税の費用を適正額に修正した営業利益 そのため、営業利益の3~5年分という幅は生じるものの、そこさえ決めてしまえば誰が計算してもほとんど同一の計算結果が出るようになっていました。これが昔価格目安に使われていた理由です。 使う利益は過去?将来? M&Aは過去ではなく事業の将来を売買する取引ですから、上記計算式では将来の予想利益を使わなければ何の意味もないはずです。 しかし、昔なが … 続きを読む 適正じゃないけど実際使える年買法(年倍法)の計算ロジックと運用法
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