2次公募が行われます!

経営資源引継ぎ補助金は8月で一旦公募が終了していましたが、10月に追加で2次公募を行うそうです。

経営資源の引継ぎを検討している中小企業者の皆様へ​

新しい募集期限は10月24日(土)です。以下では日程を差し替えて解説します。

新型コロナウイルスの影響により、事業の先行きが極めて不安定になったことから、「会社を売りたい」という方が非常に増えています。実際、弊社にも多くの無料相談をお申込みいただいています。

今回ばかりは国も雇用維持や景気刺激に本腰を入れているようで、M&Aの仲介手数料や関連費用に対する補助金を用意しました。それが「経営資源引継ぎ補助金」です。

売り手にとっては、実に最大650万円の負担減になりますので、ぜひチェックしたいところです(ただし、ほとんどの売り手にとっては100万円が限度になります。200万円でもありません)。

弊社では補正予算が成立した翌日の2020年5月1日に、中小企業庁に電話して概要を聞いたほか、7月6日公表された公募要領を読み込んで、事務局に不明点を問い合わせました。この記事では、この制度の実務的な重要ポイントを要約してお伝えします。

なお、この制度は以下の流れで進んでいきます。

  1. 2020年10月1日(木)~2020年10月24日(土)に申請(1次公募は2020年7月13日~2020年8月22日でした)
  2. その後、国が採択審査を実施(11月中旬頃に交付決定)
  3. 交付決定後、申請者が一定期間内に対象コストを支出(1月15日締切)
  4. その後、実績を報告すると補助金が支給される(2021年3月末まで)

経営資源引継ぎ補助金の2次公募の流れ

非常に意欲的な補助金制度だと思いますが、少々使い勝手が悪い部分もあるようなので、以下ではポイントを要約して説明していましょう。

この記事では、

  • M&Aで使える経営資源引継ぎ補助金の対象コスト
  • 経営資源引継ぎ補助金を受け取れる企業・個人の要件
  • 経営資源引継ぎ補助金の申請手続きと問題点
  • 補助金制度の賢い使い方(案)

について、実務上重要と思われるポイントに絞り込んで解説していきます。

最後までご覧いただければ、この制度を使うか否かの判断が最短距離でできるようになります。それでは見ていきましょう。

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Q&Aで早わかり!経営資源引継ぎ補助金の要約

詳細なご紹介の前に、この記事の全体像をQ&A形式で要約します。

QuestionAnswer
どんなコストが補助の対象になるの?M&A仲介会社やデューデリジェンス業者、
セカンドオピニオンなど、M&Aの実行や
検討のために支出した幅広いコストが対象
になります。
売り手の場合、事業承継に伴う廃業コスト
も助成されます。
いくらの補助金がもらえるの?支出額の3分の2、または下記の上限額まで
です。
買い手の上限額はいくら?買い手は200万円が上限ですが、
相手が決まっていないようなケースでは
100万円が上限になります。
売り手の上限額はいくら?売り手の上限額は合計650万円ですが、
M&Aに関するコストは200万円までです。
ただし相手が決まっていない段階で申請すると
100万円が上限になります
下限額はあるの?売り手・買い手ともに50万円が下限となります。
M&Aが成立しなかった場合、
仲介への着手金や検討コスト
は補助されるの?
成立しなかった場合でも補助対象となります。
対象コストはいつからいつまでに
支払えばいいの?
交付決定後1月15日までに支払う必要があります。
なお、「事前着手届出書」を提出すると、
4月7日以降の経費も認められます。
どんな企業が補助を受けられるの?中小企業者の定義を満たす企業や個人が
対象になります。中小企業の個人株主も
補助を受けられます。
新型コロナウイルスのせいで業績が
悪化していなければいけないの?
このような要件はありません。
早く応募しないと補助金を
受け取れないの?
予算を超える応募があった場合は、公募
期間に集まった応募の中から選抜して
採択するため、早く出せば有利という
ことはありません。
公募期間はいつからいつまで?2次公募の募集期間は
10月1日から10月24日までです。
いくらで売れるかわからないから、
仲介手数料なんて申請できない
のでは?
見積りがない場合は想定額での申請でOKです。
その場合、申請額と実費の小さいほうが
補助対象金額になります。

経営資源引継ぎ補助金の対象コスト

経営資源引継ぎ補助金は、新型コロナウイルスによって中小企業が立ち行かなくなり、雇用が維持されなくなることを懸念して作られた制度です。

事業承継に関する補助金には、これまで事業承継補助金〔外部〕がありましたが、バカ高いことで有名な仲介手数料などの外部コストは対象外だったので、M&Aではほとんど使われていないものでした。

経営資源引継ぎ補助金は、仲介手数料などもバッチリ対象になっています(後述のとおり、ちょっと使い勝手が悪そうですが)。

M&Aだけの補助金としては、売り手も買い手も最大200万円だが、相手が決まっていない場合は100万円まで!

経営資源引継ぎ補助金では、対象コストの3分の2が、立場や状況に応じた上限額まで補助されます。上限額は以下のとおりです。

立場申請時の状況補助上限額
売り手相手・時期決定済み、廃業費用あり650万円
売り手相手・時期決定済み、廃業費用なし200万円
売り手相手はこれから探す100万円
買い手相手・時期決定済み200万円
買い手相手はこれから探す100万円

以下、ケースに分けて解説していきましょう。

売り手が受け取れる補助金の額-すでに相手が決まっていて、廃業を伴う場合は650万円

すでに相手や時期が決まっていて、廃業を伴う場合は上限額は650万円(廃業費用で450万円+M&Aで200万円)です。

廃業を伴うM&Aとは、たとえばA事業とB事業を営む会社が、A事業は外部に譲渡し、B事業は廃業する、といったケースです。

売り手が受け取れる補助金の額-すでに相手が決まっていて、廃業を伴わない場合は200万円

すでに相手が決まっていて、廃業はせずに全部売るという場合は、200万円が上限になります。

この場合、制度上は「経営資源の引継ぎを実現させるための支援」という枠での処理になります。

相手未定でも応募はできる

この「経営資源の引継ぎを実現させるための支援」は後述の「コストの支出期間(2021年1月15日まで)」のうちにM&Aの成立が見込まれている場合に申請できます。

なので、相手が未定の場合でも「1月15日までに成立する計画」ということであれば応募は可能とのことです。ただし、具体性がないと審査における優先度は劣後するため、実質的には採択までは難しいと思われます。

売り手が受け取れる補助金の額-相手がまだ決まっていない場合は100万円

申請時点で相手が決まっていない場合は、100万円が上限になります

この場合、制度上は「経営資源の引継ぎを促すための支援」という枠になります。

実際のところ、ほとんどの売り手さんはこの段階ではないでしょうか? 基本はMAX100万円だと考えたほうがよさそうです。

買い手が受け取れる補助金の額-すでに相手が決まっている場合は200万円

すでにM&Aの相手や実施時期が決まっている場合は、200万円が上限になります。

なお、ある程度話が進んでいればOKのようで、たとえばデューデリジェンス時点ではまだ買うかどうか明確ではないですが、デューデリジェンスの費用はこの200万円の枠で申請できるようです。

成立しなかった場合は上限100万円

この上限200万円の枠で採択になっても、1月15日までにM&Aが成立しなかった場合、上限が100万円に減るとのことです。

買い手が受け取れる補助金の額-相手が決まっていない場合は100万円

申請時点で相手が決まっていない場合は、上限は売り手と同じ100万円になります。

いずれの場合も下限は50万円

なお、上限だけではなく下限値も決まっており、50万円以上でなければ補助の対象にはなりません。

仲介手数料をはじめ、幅広なコストが対象になる

補助の対象となるコストはかなり幅広です。M&Aのために一般的に支出するものは大半がカバーされていると思います。

  • FAや仲介の着手金、マーケティング費用、リテーナー費用(月額報酬)、基本合意時報酬(中間報酬)、成功報酬
  • マッチングプラットフォームの登録料・利用料
  • 価値算定報酬
  • デューデリジェンス費用
  • 各種調査費用
  • 契約書等の作成・レビュー報酬(弁護士)
  • クロージング手続き等に関する弁護士への依頼費用
  • クロージングに向けたコンサルタント等へのアドバイス費用
  • 不動産鑑定評価書の取得費用
  • 不動産売買、定款変更等、抵当権等の登記費用、許認可等申請費用
  • 最終契約に基づく労務関連手続きのための社会保険労務士費用
  • その他M&Aに関するアドバイス費用、専門家等への謝金

なお、ファイル共有サービスやバーチャルデータルームの使用料は対象外だそうです(なぜだ?)。

2021年1月15日までに支払ったコストが対象になる

補助金の対象となるコストは、2021年1月15日に支払いが完了したものに限ります。

なお、支払うことが確定していても、実際に支払っていなければ、原則として補助金の対象にはなりません(支払えていないことに相当の理由がある場合を除く)。

交付決定日以後に発注されたコストに限る/ただし例外あり

補助金は、交付決定日以後に発生(発注)したコストが対象になります。補助金がもらえることが決定する前に着手金を支払った場合は、その着手金は補助金の対象になりません。

ただし、「事前着手届出書」を提出すれば、2020年4月7日まで遡っての発注が認められるようです(事前に着手した理由の記載が必要)。

M&Aが成立しなくても支払った費用は補助される

M&Aが期限内に成立しなかった場合、所定の届出を事務局に行い、期間終了後も5年は事後報告を行うことを条件に、支払った費用については補助されます。

経営資源引継ぎ補助金を受け取れる企業・個人の要件

経営資源引継ぎ補助金を受けられるのは、「中小企業者」である法人やそれを譲渡する個人になります。

以下の「中小企業者」が補助金を受け取れる

中小企業庁の事業ですので、中小企業者が対象になります。中小企業者とは、中小企業基本法で定められた以下の要件を満たす法人・個人です。

業種分類要件
製造業その他資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人
卸売業資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
小売業資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人
サービス業資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人

ただし、色々例外もあるので、詳しくは以下をご覧ください。

FAQ「中小企業の定義について」

個人株主も補助金を受けられる

売り手の場合、M&A対象会社と個人株主が共同で申請することで、個人株主が負担した仲介手数料等のコストも補助されます。

大企業の買い手は補助金の対象外

上記の中小企業者に該当しない場合は補助金の対象とはなりません。

M&A対象が中小企業者であり、買い手が大企業の場合は、売り手が補助金の対象になっても買い手は補助金を受け取れません(下図)。

経営資源引継ぎ補助金の受給対象者

個人事業も受給対象になる

個人事業主の方が営業譲渡で事業を売る場合も、上記の中小企業者の要件を満たせば補助金の対象となります。

個人M&Aは対象外

個人事業主が、個人事業として事業を引き継ぐ場合は対象になりますが、いわゆる個人M&A(サラリーマンが300万円で買う的な)は対象とはならない、とのことです(事務局に確認済み)。

新型コロナウイルスの影響は問わない

ちなみに、新型コロナウイルス対策の補正予算で成立していますが、支給要件にコロナウイルスの影響を受けているか否かは問われていません。

5月に中小企業庁に聞いたところ、そのような要件設定は実務上不可能ということのようです。

予算規模36億円の限度内で選抜される(早い者勝ちではない)

なお、国の予算にも限りがありますので、申請すれば必ず補助金を受けられるわけではありません。

応募が予算を超えた場合、事業予算36億円の中で、選抜して採択/非採択を決めます。

具体的な選定基準は公表されていませんが、提出された交付申請書類等を見て、

  • 案件が具体化しているか否か
  • 買い手の財務内容が健全かどうか
  • M&Aの目的・必要性
  • M&Aの効果・地域経済への影響

を加味して選抜します。

「今すぐ会社売却を決断しないと補助金が受けられませんよ!」と急かしてくるM&A業者も出てくるかもしれませんが、実際には早い者勝ちではありませんし、早く応募しても公募期間終了まで待たされますので、じっくり考えて検討しましょう。

採択結果は公表されない

普通の補助金は採択結果(誰が補助金をもらうか)を公表しますが、それでは秘密保持義務もあったものではないので、この補助金の場合は公表しないそうです。

採択者は郵送で通知を受け取ります。郵送先は社長の個人宅などにもできるとのことです。

経営資源引継ぎ補助金の申請手続き

経営資源引継ぎ補助金の申請手続きは、概ね他の補助金と同様です。

国の作業期間や年度の予算スケジュールに合わせる形で、時間的な制約がどうしても存在するようです。少々使い勝手が悪いかもしれません。

申請から受給までの流れ

冒頭でご紹介したとおり、以下の流れで進みます。

  1. 2020年10月1日(木)~2020年10月24日(土)に申請
  2. その後、国が採択審査を実施(11月中旬頃に交付決定)
  3. 交付決定後、申請者が一定期間内に対象コストを支出(1月15日締切)
  4. その後、実績を報告すると補助金が支給される(2021年3月末まで)

経営資源引継ぎ補助金の2次公募の流れ

発注~支払いの期間は2カ月程度

交付決定は11月の中旬頃を予定しているそうです。交付決定後に発注し、1月15日までに支払った支出が対象となりますので、その猶予は2カ月程度ということになります。

この期間で発注から支払いまで完了する経費はかなり限られると思いますが、

  • 仲介業者への着手金
  • 弁護士の契約書チェック費用
  • デューデリジェンス費用
  • セカンドオピニオン費用

といった経費はタイミングが合えば入れられそうです。

なお、1次募集では4カ月の猶予が設けられていました。

発注スタートの交付決定日は11月中旬予定

なお、交付決定の時期が公募要綱には記載されていませんでしたが、電話で事務局に確認したところ、11月の中旬を予定しているとのことです。

よって、11月中旬以降に発注した経費のみが補助対象です。

ただし、事前着手届出書を提出すれば、それ以前の発注・支出も認められます。

対象コストの支出期限は1月15日まで

国の事業ですので、3月末までに支給まで完了する必要があり、事務手続きの時間を考慮すると、1月15日が締め切りになります。こちらは順延されませんでした。

金額の申請は想定額でOK

なお、M&Aの仲介手数料はM&A価格によって決まることが多いのですが、申請した時点ではまだこれから買い手を探すという段階ですので、いくらで売れるかなんてさっぱりわかりません。平常時でも不透明なのに、経済が混乱している現状では本当に予測不能です。

このように見積りがない場合、申請する金額は不確定な概算額でOKにする予定とのことです。

なお、申請額と実際に発生したコストを比較して、どちらか低い金額が補助の対象となるそうです。

経営資源引継ぎ補助金の申請金額

原則的には相見積りが必要

ある程度相場観に沿った経費かどうかを確認するため、原則として相見積りを取得する必要があります。

ただし、仲介業者が独占契約をしている売り案件を持ち込んできた場合など、実際には相見積りが不可能な場合もありますので、そのような事情があれば相見積りでなくても受け付けられるとのことです。

コストの項目と金額はかなり多めに申請するのが吉?

今回中小企業庁に取材させていただき、経営資源引継ぎ補助金は、かなりM&A実務に配慮した運用を目指されていると感じました。その一方で、コストの支出期限の短さなど、国の補助金であるがための難しさも強く感じました。

調べていて思ったことは、1月15日までに支出する可能性が少しでもあるコストは、可能な限り多く申請しておいたほうがいいのではないかということです。

M&Aプロセスはどう動くかわかりません。買い手の買収意欲が極めて低い現状ではなおさら予測不能です(思いのほか早くコロナが終息して、急激に買収機運が高まる可能性すらありますし)。

また、申請した金額どおり使わなくても別にペナルティがないのであれば、かなり高めに申請しておいたほうがいいのではないでしょうか。

先の見えない状況ですから、可能性のあるコストを広く深く盛り込んでおき、「たまたま9~1月に当たればラッキー」ぐらいの気持ちでいたほうがいいのではないかとも思うところです。

おわりに

今回は、ようやく詳細が判明した経営資源引継ぎ補助金について、実務上気になる重要ポイントを解説しました。

M&Aプロセスは臨機応変に対応することが重要で、補助金のスケジュールに合わせて動くのはなかなか難しいと思います。特に売り手にとっては実質的に上限が100万円ですので、数億円のM&Aが見込めるのであれば、申請しないのも選択肢でしょう。

申請の際には必ず公募要領を確認し、リスクとリターンを天秤にかけながら判断してください。

(公式HP)経営資源の引継ぎを検討している中小企業者の皆様へ​
(公募要領)https://k-shigen.go.jp/download/koubo_youryou.pdf