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M&A(譲渡)

事業の不動産を手元に残して会社を売る4つのM&A手法の図解と比較

不動産を手元に残して会社を売る方法

M&Aでよくあるご相談が、事業本体は他社に譲渡しつつ、事業用の土地(工場用地や店舗用地)を手元において、引き続き土地の賃料収入を得たいというニーズです。M&Aで事業の全部を売ってしまうと収入がなくなってしまいますので、このようなニーズがあるのは当然と思います。

さて、このようなM&Aを実施する方法は、主に以下の4つになります。

  1. 会社ごと売ってから不動産を買い戻す
  2. ヨコの会社分割(分割型分割)で不動産をM&A対象から除外する
  3. 事業譲渡で事業本体を譲渡し、不動産は譲渡しない
  4. タテの会社分割(分社型分割)で事業本体を子会社化して売る

今回は、それぞれの方法について図解と動画を交えながらご紹介し、メリットデメリットを比較していきましょう。

本記事の内容は「4大スキームを図解!中小企業のM&A手法のメリットデメリット」の内容を不動産に特化して具体化したものです。より広範なM&Aスキームの学習は前掲の記事をご覧ください。

ページコンテンツ

事業の不動産を手元に残すM&Aとは

まず、事業の不動産を手元に残すM&Aの内容とメリットデメリットについて簡単に確認しておきましょう。

事業の不動産を手元に残すM&Aの概要

事業の不動産を手元に残すM&Aとは、事業を「事業本体」と「その事業が使っている不動産」に分解し、そのうち「事業本体」をM&A対象にしつつ、「その事業が使っている不動産」を買い手に貸し付ける形で手元に残すというストラクチャーをいいます。

たとえば製造業の場合、「工場本体はM&Aで買い手に譲渡するが、工場用地は引き続き売り手が保有しつづけ、賃料収入を得ていく」というケースが考えられます(下図)。

不動産を手元に残すM&A

不動産を手元に残すメリット

M&Aで不動産を手元に残しておくことには、以下のようなメリットがあります。

メリット1.M&A後の継続収入が得られる

通常はM&Aによって会社を丸ごと売ってしまうと、通常はその後の収入がなくなってしまいます。

この点、不動産を手元に残しておくことで、不動産オーナーとして継続的に収入を得ることが可能です。それも他社を買うほどの優良企業に賃貸することになりますので、賃料未払いのようなリスクはかなり低いと考えていいでしょう。

メリット2.買い手も買いやすくなる

買い手企業がM&Aで買いたいと思っているのは、基本的には事業本体であって、不動産は重荷と感じることが少なくありません。賃料が特別高額でない限りは、買い手探しや価格交渉の面でプラスに働く要因になるでしょう。

メリット3.相続税対策になる

基本的に、キャッシュを保有しているよりも同価値の不動産を保有していたほうが、相続税は大幅に安くなります。

M&Aで、一代では使い切れないキャッシュを受け取って、結局相続税対策として不動産を買うのであれば、最初から優良物件を手放さずに持っていたほうがずっと賢い選択でしょう。

不動産を手元に残すデメリット

一方で、不動産を手元に残すことのデメリットもありますので、事前にきちんと理解したうえで選択しましょう。

デメリット1.M&A価格が減る

不動産をM&A対象から外すということは、その分M&A対象財産が減るということですので、当然M&A価格も減ります。

この減額分を賃料収入で取り戻すということになりますが、やはり数年で取り戻せる額ではありません。それよりも一括でキャッシュをもらったほうがよいという判断も当然あるでしょう。

デメリット2.不動産賃貸事業としてのリスクは存在する

不動産オーナーになるということは、不動産賃貸というビジネスをするということです。土地の価格変動リスクや建物の修繕といった、不動産賃貸事業に必ず付いてくる問題を無視することはできません。

何より、将来買い手企業がビジネスに失敗し、事業が撤退するリスクを考慮しなければなりません。M&Aの契約書に「〇年間は移転や撤退をしないこと」という文言を加えることは可能ですが、買い手としてはこのような将来のリスクを背負う条件は嫌いますので、買い手探しや価格交渉のプラス要因が大きく薄れる点に注意が必要です。

賃貸条件はインフォメーションメモランダムに載せること!

なお、ここで不動産を残すM&Aを実施する際のテクニカルなポイントをご紹介しましょう。それは、賃貸の条件(特に賃料)については、インフォメーションメモランダムに必ず記載することです。

インフォメーションメモランダムについては「会社の値段に3倍差が付くインフォメーションメモランダムの記載内容」をご覧ください。

M&Aの買い手は、M&A対象事業によって得られる将来の損益を予想して入札額を決定します。賃料はこの予想に非常に大きな影響を与えるため、すべての買い手候補が同一の情報を与えられないと、入札の意味そのものがなくなってしまうからです。

M&Aの買い手が入札時に検討している入札額の決定方法については、「DCFなんて嘘?M&Aの入札で買主が本当に使う3つの株式値決め法」を参考にしてください。

事業の不動産を手元に残す4つのM&A手法

それでは、事業の不動産を手元に残して事業本体のみを売るM&A手法をご紹介しましょう。冒頭で触れたとおり、以下の4つのスキームが考えられます。

  1. 会社ごと売ってから不動産を買い戻す
  2. ヨコの会社分割(分割型分割)で不動産をM&A対象から除外する
  3. 事業譲渡で事業本体を譲渡し、不動産は譲渡しない
  4. タテの会社分割(分社型分割)で事業本体を子会社化して売る

それぞれの内容を動画と図解を交えながら紹介しましょう。

手法1.会社ごと売ってから不動産を買い戻す

このスキームは、「単純な株式売買を用いたM&Aスキーム」を使って不動産以外を買い手の手元に引き渡す方法です。以下の動画をご覧ください(音声付き/字幕あり)。

この動画の「対象外資産」が、今回の場合の不動産に該当します。つまり、下図の手順で不動産を買い戻し、賃貸借契約を結ぶというスキームです。

会社ごと売ってから不動産を買い戻す

不動産買戻しスキームのメリット

この方法のメリットとしては、スピーディーに実行が可能という点です。

やっていることは単なる株式と不動産の売買取引ですので、取引までに必要な手続は特になく、不動産登記などの事後手続が少々ある程度です。

不動産買戻しスキームのデメリット

該当不動産の状況にもよりますが、このスキームには多くのデメリットが存在します。

デメリット1.余計な税が発生する

買戻し価格が株式価格に上乗せされることで、売り手個人の所得税が無駄に増えるほか、不動産に含み益が存在している場合はそこに課税が発生します。詳しくは以下の動画をご覧ください。

デメリット2.取引コストが発生する

不動産の所有者が変わることによる不動産取得税や登録免許税が発生します。

また、建物は消費税も生じます。基本的には賃料収入の消費税と相殺し還付申告が可能ですが、社宅が含まれる場合は一部または全部を売り手オーナーが負担することになります。

この辺は難しいので必ず税理士にご確認ください。届出をしなければ還付がもらえないケースもあり、税理士がうっかり忘れてよく賠償問題になるポイントでもあります。

手法2.ヨコの会社分割(分割型分割)で不動産をM&A対象から除外する

上記の買戻しスキームのデメリットのうち、「余計な税が発生する」という問題に対応するのが、このヨコの会社分割スキームです。一般的なM&Aにおけるヨコの会社分割スキームについては以下の動画をご覧ください。

これを応用し、新旧の会社間で賃貸借契約を結ぶという方法です(下図)。

ヨコの会社分割による不動産を残すM&A

ヨコの会社分割スキームのメリット

この方法のメリットは以下の2つです。

メリット1.余計な税金が発生しない

この会社分割による不動産の移転は、不動産に含み益があっても実現することなく、無税で移転できます。これによりM&A対象から不動産を除くことで、買戻しスキームに見られたような無駄な税金の発生を回避することができます。

メリット2.事業本体を既存会社に残せる

後述する事業譲渡やタテの会社分割スキームとの比較として、事業本体を別の会社に移転することなく、既存の会社に残したまま売ることができます。

実際にやってみると、従業員や契約関係、物流商流金流を別の会社に移すというのは結構手間のかかる作業です。ヨコの会社分割スキームではこのような生き物である事業本体を同じ法人のまま移せますので、多少の簡便性が図れます。

ヨコの会社分割スキームのデメリット

このスキームのデメリットとしては、不動産の所有主体が旧会社から新会社に変更になるため、名義変更手続で不動産取得税や登録免許税が発生することです(消費税は発生しません)。

会社分割で不動産が会社間を移転した際は、不動産取得税が非課税になる特例措置が使えることがありますが、ヨコの会社分割を使ったM&Aスキームでは多くの場合で使うことができません。ただし、念のため税理士に確認しておきましょう。登録免許税は必ず発生します。

手法3.事業譲渡で事業本体を譲渡し、不動産は譲渡しない

3つめのスキームは、「事業譲渡」という手法によって事業本体のみを譲渡し、不動産は元の会社に残しておくというスキームです。事業譲渡スキームについては以下の動画をご覧ください。

つまり、事業譲渡後に買い手企業と元の会社の間で不動産の賃貸借契約を結びます(下図)。

事業譲渡による不動産を残すM&A

事業譲渡スキームのメリット

事業譲渡スキームでは、そもそも不動産が一切移動しないので、無駄な税金も取引コストも発生しません。

事業譲渡スキームのデメリット

事業譲渡は小さな事業を売買する際は非常に便利なM&A手法なのですが、ある程度大きな事業を移動させる場合は、後述のタテの会社分割のほうが圧倒的に簡単です。詳しくは「事業譲渡とタテの会社分割(分社型分割)の違い/税・手続・簿外債務」をご覧ください。

事業譲渡スキームの税に関する備考

事業譲渡スキームでは、譲渡の主体が売り手本人ではなく事業を持っていた会社になります。そのため、法人税が発生します。

所得税と法人税は税率や原価の考え方が異なりますので、どちらが税額が大きくなるかは一概に言えません。詳しくは「初心者でもすぐわかる!中小企業M&Aの税金をパターン別に徹底解説」をご覧ください。

また、事業譲渡スキームは単純な株式売買やヨコの会社分割とは異なり、のれんの節税効果が発生します。これによって、事業本体そのものの価値が上昇し、高値で売りやすくなるというメリットもあります。

手法4.タテの会社分割(分社型分割)で事業本体を子会社化して売る

4番目の手法はタテの会社分割(分社型分割)を使ったM&Aスキームを活用します。タテの会社分割を用いたM&Aスキーム自体については以下の動画をご覧ください。

つまり、このM&Aと連続して、元の会社とM&A対象会社で賃貸借契約を結ぶ方法です(下図)。

タテの会社分割による不動産を残すM&A

タテの会社分割スキームのメリット

不動産がそもそも移動しないという点で、事業譲渡スキームと同様のメリットがあります。

事業譲渡スキームとの違いは、ある程度大きな事業を動かす際に圧倒的に手続きが簡単になることです。また、事業本体に不動産がある場合、不動産取得税が非課税になることがあります。

タテの会社分割スキームのデメリット

上述のとおり、事業譲渡に比べれば圧倒的に簡単とはいえ、生き物である事業本体を別会社に移転させるのは簡単なことではありません。M&Aはただでさえ大変な出来事ですので、余分に手間がかかるのは事実です。

タテの会社分割の税に関する備考

タテの会社分割の税金の取扱いは、ほとんど事業譲渡と同一です。すなわち、所得税ではなく法人税が発生しますし、のれんの節税効果も発生します。

手間とコストを比較して検討しよう

今回は、不動産を手元に残したまま事業本体をM&Aする方法を4つご紹介しました。

それぞれ手間とコストがまったく違いますので、1つ1つ並べて比較し、最適な方法を選択することをおすすめします。

M&Aスキームを比較し、最良の方法を選び出す手順については、「後悔しないM&Aスキーム決定のためにプロが実践する手法検討7手順」にて詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。

事業承継M&Aが失敗に終わるシンプルな理由とは?

事業承継を目的とした中小企業のM&Aは、多くが「失敗」と言わざるを得ない結果に終わります。


現実に、仲介会社のペースでM&Aを成立させてしまい、取り返しのつかない後悔を人知れず抱いている元経営者は少なくありません。


実は、事業承継M&Aが失敗しやすいということは、少し考えればすぐにわかるシンプルな理由からです。


あなたがM&Aを成功させたい、後悔したくないと強く考えているなら、事業承継M&Aの構造をきちんと理解しておきましょう。


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