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M&A

タテの会社分割でM&Aをするなら直接吸収しないほうがラクな理由

会社分割は新会社を作ったほうが楽

中小企業のM&Aで実際に使われている主なスキーム(M&A手法)に、「タテの会社分割(分社型分割)スキーム」と呼ばれるものがあります(スピンアウト取引とも言います)。

タテの会社分割スキームについては後述しますが、その他のM&Aスキームや比較は「4大スキームを図解!中小企業のM&A手法のメリットデメリット比較」をご覧ください。

このスキームを一言で言うと「M&A対象事業を一旦子会社化して、そのあとその子会社を譲渡する」という方法です。

これについてあるM&Aアドバイザーから、「吸収分割の方法を使えば、事業譲渡のように直に買い手企業に引き渡せるのに、なぜわざわざ子会社を作る必要があるのか?」と訊かれたことがあります。

その質問を受けたときに私が感じたのは、「あー、この人はM&Aの実務を知らないな」でした。正確には、M&Aの「成立」までたくさん経験してきていても、それよりも遥かに大事な「成功」のためにはあまり汗を流したことがないのだろうなと感じました。

そう、子会社化せずに直接売買するというのは、一見簡単なように見えて、実は非常に大変なことなのです。今回はその理由を解説していきましょう。

タテの会社分割スキームの手順をおさらいしよう

まずは、タテの会社分割スキームがどういった方法だったかを再確認しておきましょう。

タテの会社分割を用いたM&Aスキームとは、M&A対象となる事業を分社型分割(物的分割)と呼ばれる会社分割によって「子会社」にし、その子会社の株式を買い手に売るというスキームです(以下動画参照/音声・字幕あり)。

先に受け皿会社を設立することも多い

会社分割には「新設分割」と「吸収分割」があります。新設分割とは、会社分割の対象となる事業を新会社にすることであり、吸収分割とは、分割対象の事業を既存の別会社に移すことです(下図)。

新設分割と吸収分割

実際、事業を新会社としてまったく新しいハコでスタートする場合でも、許認可や契約関係をスムーズに引き継ぐため、先に受け皿会社を用意してから吸収分割を行うことも多く行われています(下図)。

新設分割代替の吸収分割

買い手企業に吸収分割させることも可能ですが・・・

さて、冒頭のM&Aアドバイザーの質問はこういうことです。

吸収分割もできるのであれば、わざわざ子会社なんか作らずに、直接に吸収分割で買い手企業に事業を移せばいいのでは?(そっちのほうが俺の手間も省けるのでは?)

ダイレクト会社分割

会社分割は分割対価を株式ではなく金銭にすることもできますので、上記のような「ダイレクト会社分割」も制度上は可能です。しかし、実際やってみるとかなり大変で、一旦子会社化したほうがずっと楽なことはすぐにわかるでしょう。

次章より、具体的にどのような困難さが秘められているのかをご紹介します。

ダイレクト会社分割が選ばれない理由

上記のダイレクト会社分割の大きな特徴は、「事業の所属がいきなり他人の会社になる」ということです。

従業員さんの籍や人事制度、取引先との契約関係、資産負債の所有者、物流商流金流のすべてが、ある日を境にまったく別の会社の方式に切り替わるということを意味します。

特に問題となるのは社内の従業員さんです。以下のような問題は必ず発生します。

  • 新しい組織のどう馴染ませていくか
  • 給与体系はどうするか
  • 福利厚生はどうするか
  • 本部との連絡経路はどうするか
  • 稟議や社内承認はどうなるのか
  • 買い手企業側との心理的な壁をどう取り払うか

M&Aというだけでも厄介な課題がさらに難易度を上げてたくさん降りかかってきます。将棋の駒のように考えていると、最悪大量退職を招いてM&Aは失敗に終わります。

ダイレクトな事業の受け入れは、小売店数店舗など、小さな事業であればできないことではありません。しかし、事業が大きくなればなるほど、非現実的な行為になっていきます。

小規模な事業であれば、会社分割よりも事業譲渡のほうが遥かに簡単です。詳しくは「事業譲渡とタテの会社分割(分社型分割)の違い/税・手続・簿外債務」をご覧ください。

子会社化によるワンクッションのメリット

その点、一旦子会社にするということが、売り手・買い手・対象会社の3社にとってどれだけありがたいことかわかりません。

会社分割のメリット

他人同士の会社ではなく、親子会社関係であれば、両社は非常に動きやすくなります。さらに買い手企業からの協力も受けやすく、遥かにスムーズに「事業の切り分け」と「新会社としての巣立ち」が可能になります。

会社分割のメリット

この違いは、買い手企業内部でM&Aをやってみると一目瞭然です。その経験がないとなかなか想像できないかもしれませんが、M&Aは慎重に行うべきということは知っておいていただきたいと思います。

子会社化のデメリット

ただし、上記のような一旦子会社化するタテの会社分割スキームにも、1つ特有のデメリットがあります。それは上記のメリットを消すほど重大なものではありませんが、売り手オーナーさんによっては直前にためらいを覚えてしまうかもしれませんので、あらかじめ知っておいてください。

それは、M&Aが公表されてから譲渡が完了するまで、1~2カ月かかるということです。

実際にM&Aを経験した売り手オーナーさんの多くが、「M&Aが公表されたらなるべく早く売買を完了させたい」と感じます。すでに自分が辞めると宣言してしまった以上、何らかの理由でM&Aが中止になってしまったら、もはや従来通りの経営者には戻れないからです。最終契約後の破談には違約金が伴うと言っても、信用やリーダーシップはお金では買い戻せません。

そのため、1~2カ月の準備期間が非常に重荷になり、「早く買い取ってくれ」と思うかもしれません。しかし、M&Aの対象となる会社を、契約書で約束したとおりの子会社に作り上げるのは、売り手オーナーの最後の責任です。これは大きな事業を売る際の宿命ですので、受け入れていただければと思います。

大きな事業は子会社にしてから売ろう

今回は、会社分割でダイレクトに事業を売るのではなく、一旦子会社化することのメリットについてご案内しました。

M&Aでは小難しい理論や小手先のテクニックよりも、大きな視点で経営の一環として考えていくことが成功のために重要に重要になります。あくまで生き物である事業を他社に引き取ってもらうのだという意識で臨みましょう。

事業承継M&Aが失敗に終わるシンプルな理由とは?

事業承継を目的とした中小企業のM&Aは、多くが「失敗」と言わざるを得ない結果に終わります。


現実に、仲介会社のペースでM&Aを成立させてしまい、取り返しのつかない後悔を人知れず抱いている元経営者は少なくありません。


実は、事業承継M&Aが失敗しやすいということは、少し考えればすぐにわかるシンプルな理由からです。


あなたがM&Aを成功させたい、後悔したくないと強く考えているなら、事業承継M&Aの構造をきちんと理解しておきましょう。


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