M&A(譲渡)

会社のM&A価格を最大化する売り手の10のテクニック

M&A価格を上げる方法

M&Aは会社や事業を他人に売却することですので、その価格はなるべく高いほうがいいでしょう。

中小企業M&Aにおいては、会社の売買価格は必ずしも論理的に算定されるものではなく、買い手が将来をどう予想しているか、どれだけその会社に希少価値があるか、どれだけ固く成長が見込めるかといった、定性的情報や感覚値が非常に影響を与えています。つまり、このような情報をしっかり買い手候補に伝えることができれば、必然的に高値で売ることができますし、うまく伝わっていなければ安値しかつかないことになります。

中小企業M&Aを主に取り仕切っているM&A仲介会社の中には、この辺の感覚に長けた方も少なからずいますが、残念ながら少数派です。同じ仲介会社であっても担当者のスキルはまちまちなので、結局のところ、売り手オーナーが自己責任で「高値になる仕掛け」を指揮監督していくしかありません。

そこで今回は、M&A価格を引き上げるテクニックをご紹介します。本記事をしっかり読み込み、それを実行できる優秀なM&A仲介会社を選ぶことができれば、M&A価格は確実に最高値になるでしょう。

M&Aのプロセスと高値を引き出す正念場

M&Aでは情報を出すタイミングが非常に重要です。

まずはM&Aプロセスを確認し、どのタイミングに力を入れるべきかを考えましょう。

M&Aプロセスの大きな特徴

中小企業M&Aで主流となっているオークション入札型のM&Aプロセスについては、「自社争奪戦を起こすオークション入札型M&Aプロセスの流れと要点」に詳しく記載しているのですが、今回重視すべき要点は以下のポイントです。

それは、一般的なM&Aプロセスでは、入札して買い手候補を1社に絞った後、会社の内容が確認され、価格交渉によって最終的なM&A価格が決まるということです(下図)。

M&Aプロセスの図解

上述のとおり、入札前の情報提供の資料を「インフォメーションメモランダム(IM)」と呼び、会社を精査することを「デューデリジェンス」と呼びます。

世の中一般で行われるオークションやセリというものは、先に買い手がしっかりと出品物の調査を行い入札しますので、落札価格=売買価格となります。

しかし、M&Aは秘密性が高く、またデューデリジェンスもコストがかかりますので、買い手候補が1社に絞られてから本格的な調査が行われ、そのうえで本格的な価格交渉になります

入札がまったく無意味になることも

では、デューデリジェンスで価格に影響を与えるような重大な事実(Ex.未計上の残業代)が発見された場合、どうなるでしょうか。

当然、1社に絞られた相手と価格交渉することになります。また入札をやり直すことはまずありません。

そうなると、買い手としてはライバルがいなくなったため、何も我慢する必要はありません。大幅な減額を要求し放題です。
M&Aは初心者である売り手より熟練者である買い手のほうが圧倒的に有利な戦いです。M&A仲介会社も案件を成立させてナンボなので、買い手の要求を呑むよう必死で説得してきます(この時期、仲介会社は買い手の味方です)。結果的に、他の買い手候補に売ったほうがM&A価格を維持できたということも少なくありません。

このように、入札前にきちんとした情報を出さないと、入札の意味そのものがなくなってしまいます

M&A価格は「入札前」までが正念場

したがって、複数の買い手候補が相互に牽制しあっている入札前こそが、M&A価格を引き上げる正念場ということになります。

入札前に都合の悪い情報を提供していれば、デューデリジェンスで発見されても問題ありません。「そんなことはわかっていて入札したんでしょ?」と言えば終わりです。

さらに、入札前であれば、意欲の高い買い手は「入札で勝つためにこの問題は呑み込もう」と考えることもあります。入札後、1社に絞られた段階では、その妥協を引き出すハードルは極めて高くなります。

つまり、都合の悪い情報は、入札前に出すべきです。

有利な材料も入札前にアピールすべき

なお、売り手に有利な材料がある場合も、入札前にどんどんアピールしていくべきです。

なぜなら、入札額はM&A価格の上限であり、普通はそこから下がる一方で上がることはないからです。

たとえば、自分の役員退職金を1億円出してもよい場合、インフォメーションメモランダムに「役員退職金は1億円を予定しており、その際に会社にもたらされる節税効果は34百万円である」と書いておくだけで、買い手は34百万円入札額を上げざるをえなくなります。そうしなければ、入札に勝てないからです。

M&Aにおける役員退職金を使った節税方法については、「【図解】M&Aで役員退職金を使った節税方法を徹底解説!」をご覧ください。

特に、M&Aスキーム(売買手法)を「タテの会社分割(分社型分割)」または「事業譲渡」にする際には、インフォメーションメモランダムに「のれんの節税効果」を絶対に記載しましょう。買い手によっては気付かないので、明示することで、全体の入札レベルを数割引き上げることが可能です。

M&Aスキームについては「動画と図解で手法を理解!4つの中小企業向けM&Aスキーム完全比較」をご覧ください。のれんの節税効果については後述します。

情報不足の入札には意味がない

なお、品質以前にやる気のないM&Aアドバイザーが絡んでいると、インフォメーションメモランダムがほとんど決算書や税務申告書、ホームページの要約に過ぎず、まったく新しい情報が得られないことがあります。

このような低レベルなインフォメーションメモランダムでは、買い手は満足な入札ができないため、以下のいずれかの方法をとります。

  • 高値づかみを回避するために、損してもいいと思えるほど低い価格で入札する
  • とりあえず高値で出しておき、落札したらデューデリジェンスを徹底的に行い、様々なことを「発見」して価格減額を迫る

いずれにせよ、低レベルなインフォメーションメモランダムでは、入札は単なる「度胸合戦」に過ぎず、入札本来の目的である「もっとも高く自社を評価してくれる買い手を探す」という目的はまず果たせません。情報不足の入札に意味はないのです。

もう1つの正念場―M&Aの最初期段階

前章より、M&A価格を引き上げる一番の正念場が、「入札前」であることがお分かりいただけたかと思います。

しかし実は、正念場はもう1つあります。ある意味では、こちらのほうが重要かもしれません。それは、M&Aプロセスの一番初期の段階です。

この最初期段階が重要になる理由は以下の2つです。

最初期段階が重要な理由1.M&Aアドバイザーの質

ほとんどの中小企業オーナーさんはM&Aの初心者ですので、仲介会社などのM&Aアドバイザーの協力も得ながら「入札前」の提示資料を作っていきます。インフォメーションメモランダムも通常はM&Aアドバイザーが作ります。

しかし冒頭でも述べたように、このM&Aアドバイザーには質の悪い輩が多く、マトモなインフォメーションメモランダムが作れないことがあります。というかプロからすれば、中小企業M&Aでは半分以上のインフォメーションメモランダムはお粗末なものです。大手仲介会社が作ったものでも大きな差はありません。

したがって、本当に売り手オーナーの利益を最大化するM&Aアドバイザーと契約できるかどうかが、M&A価格を左右する非常に重要な要素になります。

最初期段階が重要な理由2.M&Aスキームで価格は大きく変わる

最初期段階が重要な理由のもうひとつは、M&Aスキーム(売買手法)を方向付けられるのが最初期段階に限られるからです。

M&Aスキームによって、M&A価格は大幅に変わります。たとえば、「M&A価格を跳ね上げる最強の【のれんの節税効果】徹底解説」という記事では、単純な株式譲渡では750百万円になる会社が、タテの会社分割(分社型分割)のスキームにしただけで1,067百万円の価値になるという事例を取り上げています。

このように、M&Aスキームを変えるだけで1.3~1.5倍の価格になることも珍しくないのですが、M&Aプロセスの途中でスキームチェンジすると作業の手戻りや買い手の意欲減退を招くため、M&Aスキームは最初期に方向を決める必要があるのです。

M&Aスキームの決定方法については、「売り手にベストなM&Aスキーム(売買手法)を決める7つの手順」にて詳しく解説していますので、ぜひご参考にしてください。

会社のM&A価格を最大化するテクニック10選

ではいよいよ、会社のM&A価格を引き上げるための具体的なテクニックをご紹介しましょう。これを愚直に行うことが、もっとも高値でのM&Aに直結します。

テクニック1.できることから「磨き上げ」をしよう

まず、会社の「磨き上げ」をしておくと、それだけで会社の透明性が増し、買い手が高値を付けやすくなります。

磨き上げは特別なことをするわけでも、コストをかけるわけでもありません。ただ、「後継者のために何をすべきか」を真剣に考えれば、何から手を付けるべきかが見えてきます。詳しくは「誰でもカンタン!M&A前に行うべき会社の【磨き上げ】の方法と事例」に記載していますので、ぜひ参考にしてみてください。

テクニック2.M&Aスキームを徹底的に比較する

上述のとおり、M&Aスキームを変えるだけでM&A価格が1.3~1.5倍になることも少なくありません。また、税金まで考慮すると、単純な株式譲渡以外の方法を使えば手残りの財産が大きく変わることもあります。

そのため、M&Aの初期段階で、M&Aスキームを徹底的に比較・検討しましょう。その方法は前掲の「売り手にベストなM&Aスキーム(売買手法)を決める7つの手順」に詳しく記載しています。

テクニック3.財務に強いM&Aアドバイザーを選ぶ

満足のいく価格で会社を売却しようと思ったら、財務に強い者と組むのは絶対条件です。

財務に弱いM&Aアドバイザーにインフォメーションメモランダムを作らせると、残念ながらまともなものが出てきません。上述のとおり、入札前の情報は最終的な価格に対するインパクトが極めて甚大ですので、それを取りまとめるM&Aアドバイザーの責任は重大です。

M&Aアドバイザーの選び方については「時代遅れの業者に騙されない初めてのM&A仲介アドバイザーの選び方」にて詳しくご紹介しています。M&A市場の変化についてこれていないM&Aアドバイザーを選んでしまわないよう、十分注意しましょう。

テクニック4.自分にとって最高のショートリストを作る

ショートリストとは、M&Aの買い手候補を募るための「声掛けリスト」です。M&Aアドバイザーはショートリストに記載された相手に情報を開示し、M&Aオークションへの参加を呼び掛けていきます。

オークションでは多くの会社に参加してもらったほうが有利のような気がしますが、実際にはあまり売りたくない相手、自社を評価してくれなさそうな相手、不誠実な相手を参加させてはいけません。このようなプレーヤーが入ると、M&Aプロセス全体を引っ掻き回され、最悪買い叩きを受けることになります。

どの相手に声を掛け、どの相手に掛けないかをしっかり考えていくことで、本当に自社を高く評価してくれる相手に出会うことができます。詳しくは「ぜひ売りたくなる相手とのご縁をつなぐM&Aショートリストの作り方」をご覧ください。

テクニック5.IMに誠実で詳細な情報を載せる

本記事全体を通じて、M&A価格を最大化するうえでのインフォメーションメモランダムの重要性を説明してきました。インフォメーションメモランダムの記載次第で最終的なM&A価格は大きく変わります。

そして、インフォメーションメモランダムの内容は、「誠実」かつ「詳細」である必要があります

インフォメーションメモランダムの内容は後でデューデリジェンスにより確認されますので、嘘や誤りがあれば必ず減額交渉に利用されます。

また、内容が詳細であればあるほど、買い手としては様々な分析が可能です。その中で素晴らしいM&A後の損益見込みを自信をもって描き出した買い手候補が、誠実でよい入札をしてくれるでしょう。

誠実な高値入札を引き出すインフォメーションメモランダムの記載内容については「M&A売価に3倍差が付くインフォメーションメモランダムの記載内容」に詳述していますので、ぜひご覧ください。また、インフォメーションメモランダムの内容の中でも特に重要な実態損益計算書については、「会社を高く売るために必須となる【実態損益計算書】の作り方」をご覧ください。

もしもインフォメーションメモランダム作成段階で、M&Aアドバイザーの能力に大きな問題があると感じた場合は、真剣に契約解除を検討することをおすすめします。その理由については「マトモなIMが作れないM&A仲介会社は即契約解除すべき5つの理由」をご覧ください。

テクニック6.トップ面談で誠実な相手を選び出す

トップ面談は、売り手オーナーと買い手候補の意思決定者が顔を合わせる非常に重要なプロセスです。

これはセレモニーどころの話ではなく、相手が交渉相手として信頼できるか、後継者として任せられるかを品定めする非常に重要なプロセスです。面接のない採用試験がないように、トップ面談のない中小企業M&Aはありえません。

トップ面談では相手をよく観察し、適切な質問を投げながら、不誠実な減額交渉を行う相手ではないかを確認しましょう。トップ面談の臨み方については、「最良の後継者を選ぶM&Aでのトップ面談の7つの意義と6つの準備」をご覧ください。

テクニック7.デューデリジェンスはごまかさない

入札価格はデューデリジェンスによって減額修正されていきますので、売り手としては何とか指摘事項を減らしたいと思うでしょう。そのため、ついごまかしたくなるのも仕方ありません。

しかし、M&Aのプロで構成されるデューデリジェンスチームは、そのようなごまかしはすぐに見抜きます。ごまかしの形跡はかえって買い手の厳しい態度を招きますので、絶対にしないようにしてください。

デューデリジェンスを受けるにあたっての注意点については、「初めてのM&Aでデューデリジェンスを受ける際の6つの準備と心構え」に記載していますので、ご覧ください。

テクニック8.価格交渉ではカウンターを忘れない

デューデリジェンス後の価格交渉では、資産の評価を減少させたり、売り手が認識していなかった負債の存在を指摘され、これを理由に減額を迫られることがあります。

これらに関しては、合理的なものかそうでないかを判断し、不合理な要求であれば突っぱねる必要があります。

一方、合理的な場合でも、「繰延税金資産」という節税効果を資産認識する会計ルールを適用することができれば、減額幅を大きく減らすことができます。このようなカウンターを駆使しながら、価格交渉での減額を少しでも少なくしていきましょう。

デューデリジェンス後の価格交渉については「【売主向け】DD後の最終条件交渉で勝つM&A価格交渉術」にてテクニックを紹介しています。また、繰延税金資産については「M&Aの価格交渉で知らなきゃ大損する繰延税金資産の基礎知識」をご覧ください。

テクニック9.価格以外の条件も使って交渉する

価格交渉では、同時に価格以外で最終契約書に記載すべきM&A条件も交渉されます。

したがって、価格減額要求の内容によっては、誓約事項や表明・保証といった条項をうまく使うことで、M&A価格を減額させずに双方納得のいく落としどころを探すことができます。

M&Aの最終契約については「甘く見ると大火傷!M&A株式譲渡契約で絶対注意すべき5条項」にまとめていますので、併せてご覧ください。

テクニック10.絶対に嘘はつかない

最後に、全般的に言えることですが、絶対に嘘はつかず、誠実に情報開示していくことです。

入札前についた嘘がデューデリジェンスで発覚すると、大幅な減額要求、案件の破談、最悪損害賠償請求といったリスクがあります。

また、デューデリジェンス時についた嘘がM&A後に発覚すると、間違いなく表明・保証対象として損害賠償請求を受けるでしょう。

高く売りたいという思いが高じて嘘をつくと、必ず自分に戻ってきます。過去の粉飾などはインフォメーションメモランダム時点で開示するなどして、嘘のないように進めてください。

おわりに

今回は、「M&Aで高く会社を売却するにはどうすればいいか」という疑問に答えるべく、M&A価格を上げる重要な局面と、価格を上げるテクニックについてご説明しました。

読んでいただければわかるとおり、価格を上げるためには「必要な情報を必要なタイミングで誠実に開示する」ということが最重要です。

これがきちんとできるM&Aアドバイザーと一緒に、愚直に守っていけば、あなたは会社を最高値で売ることができるでしょう。

事業承継M&Aを大成功させる知識と知恵

当サイトでは、事業承継でM&Aを検討している中小企業経営者様向けに、中小企業M&Aの実態と大成功に導くノウハウをご紹介しています。

これをじっくり読んでいただければ、

・M&Aの基本となる知識
・事業承継手段としてのM&Aの検討ポイント
・優秀で最適なM&Aアドバイザーの選び方
・誠実で自社に最適な後継者を見つける方法
・M&A価格を最大化し、節税で財産を残す方法
・失敗リスクを遠ざけるM&Aの進め方

がクリアに理解でき、M&Aを大成功させる技術が自然と身に付くでしょう

専門書を軽く超える濃度と分量で、読むのに時間はかかりますが、それ以上の価値のある知識と知恵をご提供することをお約束します。

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