親子会社間など、企業グループ内で合併を「成立」させることは難しくありません。司法書士さんに数十万円渡して丸投げしておけば、数カ月後には法的には成立しているでしょう。

しかし、合併は法的に成立していれば完了というものではありません。合併後に組織が大きなトラブルなく統合され、さらに合併前に期待していた効果が現れて初めて「成功」なのです。これはそう簡単なことではなく、準備なしに合併をすると多くの場合で「失敗」に陥ります

合併を成功させるために不可欠な準備が「デューディリジェンス」です。デューディリジェンスの成否が合併の成功を左右すると言っても過言ではありません。今回はそんなデューディリジェンスについて解説いたします。

デューディリジェンスとは

デューディリジェンスは聞きなれない単語かもしれませんが、M&Aの世界では常識的な単語です。わかりやすい日本語に言い換えると「事前調査」が適切でしょう(一応「買収監査」という訳語もありますが、これは本質を捉えていないと思います)。

デューディリジェンスとは、M&A(合併・買収、広義には組織再編と事業売買全般)の実施前に、買収対象企業などの実態を調査することです。

デューディリジェンスを簡単に言うと

たとえば、個人で建売の家を自宅用に買うときを想像してみてください。不動産屋に「今この家を買うとお得ですよ!ハッピーになれますよ!」と言われて、そのまま買う人は皆無でしょう。人生で大きな買い物をするときは、その家を隅々まで内見し、周辺の町の雰囲気や、駅、学校、コンビニ、スーパーなどの距離などを調べ、ローンを返せるかよく計算して購入を検討するはずです。時には税理士や銀行マン、他の不動産屋にも相談しながら、じっくりと考えることが普通です。

合併も、会社にとっては大きなイベントです。銀行マンや税理士が「お得ですよ!節税になりますよ!」と言っても、本当にそうか、合併してちゃんとうまくやれるのかを、時には専門家にも頼みながら検討します。デューディリジェンスと格好よく呼んでいますが、実際は大きな投資行動の前に必要な調査するという、ごく当たり前のことなのです。

デューディリジェンスで行うこと

事業状況、財務・税務の状況、法的問題や法務管理の状況、人事労務の状況など、必要に応じて専門家も使いながら総合的に分析し、「このM&A・組織再編が期待どおりの成果を上げられるか」を検討します。

家を買うときには、広さだけではなく、様々な確度から多面的に検討します。同じように、重要なポイントを漏らさずチェックし、後で「こんな問題があったか!」と後悔しないようにすることが肝要です。

デューディリジェンスの目的

企業買収にせよ、組織再編にせよ、M&Aにはそれぞれの「目的」があります。「ビジネス規模を大きくして業界1位になりたい」「合併することで両事業の連携を深めたい」「合併によって節税を図りたい」「本社機能を一体化してコスト削減を図りたい」などです。

デューディリジェンスでは、

  • 今進行中のM&A手法で、当初の目的を果たすことができるか
  • その過程で注意すべきことは何か
  • 法務や労務などで思わぬトラブルを誘発しないか
  • 発見された問題を回避・軽減するために必要な施策は何か

といったことを検討していきます。

デューディリジェンスの課題

よく「通り一遍のデューディリジェンスをやってくれ」と言われますが、デューディリジェンスにフォーマットはありません。100個会社があれば100通りのデューディリジェンスがあります。

合併で言いますと、

  • 事業状況の分析
  • 社員の意見聴取、ディスカッション
  • 損益や財務内容のシミュレーション計算
  • 合併後の株主構成と調整
  • 必要な許認可と手続確認
  • 人事面の課題検討
  • 労務面の手続確認
  • スケジュールの作成

などなど、それぞれ優先順を付け、社内外のリソースを効率的に活用しながら、幅広く検討していきます。
後述するように、この「優先順位付け」「何をして何をしないのか」がデューディリジェンスでは非常に重要です。

デューディリジェンスの手続

デューディリジェンスにはお金と時間が掛かります(当たり前ですが、専門家も使って調査をする以上、途中で中止してもコストは発生します)。また、まだ合併を実施するか否かを検討している段階では、あまり多くの関係者に知られたくないでしょう。

そこで、まず会社の概況分析から行い、上記のようなデューディリジェンスの課題のうち重要なものはどれか優先順位を付けていきます。そして、特に重要な課題は専門家を雇って徹底調査、重要な課題はコスト次第で調査度合いを検討、重要でない課題は後回しという形でプランニングしていきます。

デューディリジェンスのテーマ

ある意味では、この重要事項の判断、プランニングが一番重要で、様々な組織再編事例を見てきた外部コンサルタントと、社内の状況に精通した社内担当者がディスカッションしながら、重要性を検討していきます。

デューディリジェンスは2段階+準備

デューディリジェンスで調べたいことは山ほどあり、全部行うととんでもないコストと時間が掛かります。上述のように、デューディリジェンスは優先順位を決めて効率的に行うことで、無用なコストや時間を節約できます。

弊社では、以下の「2段階+準備」を基本プロセスとしてデューディリジェンスを進めております。

デューディリジェンスの実施ステップ

プロセス①:プレDD(DDはデューディリジェンスの略)

プレDDは、デューディリジェンスを行うための事前準備・論点整理です。

まず、合併の目的をお伺いし、それを達成するための最優先検討事項を絞り込み、簡易的に、「デューディリジェンスを開始すべきか否か」を検討します。

現在検討中の合併手法が、目的達成のために最適なのか、そもそも法制度的に可能なのかなど、入口の部分の確認も行います。弊社ではこのプレDDを無料で行っております

プレDDは無料相談の一環として行っております。無料相談については「会社合併の無料相談」をご覧ください。

プレDD検討事項①:合併の目的を達成しうるか

たとえば、合併の目的が「繰越欠損金を取り込んで節税したい」であった場合、そもそも繰越欠損金が取り込めない合併形態では意味がありません(繰越欠損金を取り込めない合併については「合併すると節税できる?赤字会社活用法と注意点」をご覧ください)。

初歩的な段階で誤解があると、そもそもデューディリジェンスが無駄になる可能性があります。まずは一般論ベースでチェックし、コストをかけてしっかり調査する必要があるか否かを確認します。

プレDD検討事項②:別スキームの検討

組織再編の方法は合併だけではありません。会社分割や株式交換、株式移転、さらには単純な株式売買取引など、様々なスキーム(手法)を選択・組み合わせることができます。

どのようなスキーム構成が最適かは、会社の状況に応じて選択することになりますが、組織再編の目的を最大限実現できる方法を見つけるため、選択肢を洗い出していきます。

プレDD検討事項③:最重要検討事項の絞り込み

次の段階(1次DD)で検討すべき最重要検討課題を絞り込みます。

最重要検討課題とは、「これが思い通りの結果にならなければ、組織再編は即刻中止だ!」という大前提の事項で、それが1次DDのメインテーマになります。

プロセス②:1次DD

いよいよ実際にコストをかけての検討が始まります。1次DDでは、合併の大前提が実現できそうか、今後何を検討する必要があるかなどを調査していきます

1次DD検討事項①:最重要検討課題の調査

プレDDで絞り込んだ最重要検討課題の調査に着手します。

たとえば、合併の目的を「節税」とした場合、具体的にどの程度の節税効果が期待できるのか、合併することによって増加するコストはどの程度かなどをシミュレーション計算し、税を含めたトータルの収支がどの程度下がるのかを確認します。もちろん、繰越欠損金の節税制度の適用可否なども、組織再編専門の税理士を交えて本格検討します。

もしここで思わしくない調査結果が出た場合、合併以外の方法を検討するか、または組織再編を中止します。それにより、以降のコスト発生を止めることができます。

1次DD検討事項②:要検討事項の洗い出し・整理

次のステップ(2次DD)で検討する事項を検討します。

まず、合併の目的を踏まえて、会社や組織、事業の状況をヒアリングし、他社の失敗事例も考慮しながら、どのような「失敗要因」が潜んでいるか洗い出します。次に、その「失敗要因」の重要性を検討し、しっかり対策すべきか、無視しても問題ないかを判断します。最後に、重要なリスクに対応するために必要な調査を検討し、必要コストを整理します。

1次デューディリジェンスの手続

1次DD検討事項③:2次DD計画の策定

失敗要因を洗い出し、整理できたら、それを踏まえて「2次DDで何をするか」を計画します。

失敗要因に対する要検討事項のコスト・重要度を踏まえて、実施する調査と実施しない調査を分け、トータルのコストと時間を概算します

なお、実際には2次DDの最中でも、現場専門家の判断で追加検討や省略が発生することがありますので、この計画はあくまで暫定計画です。

プロセス③:2次DD

1次DDまでの主要テーマは「合併をやるべきか、やらないべきか」ですが、2次DDになるころは、経営者の腹積もりも「合併をやるぞ!」となっており、2次DDの主要テーマは「どうすれば合併を成功させることができるか?」になります

そのため、時間とコストも意識しながら、合併までに準備すべきことは何か、合併後に着手すべきことは何かを調査していきます。

2次DDの課題①:重要な検討課題の調査

1次DDで整理した検討課題を元に、社内の担当者様や税理士、司法書士、社会保険労務士などの専門家とも分担・連携しながら、重要な検討課題を調査していきます。

たとえば、以下のようなポイントを調査します。

  • 業務フローの統合で問題となりそうな点は何か、どうすればスムーズに統合できるか、または統合しないという選択はできるか
  • 合併により株式の相続税評価額はどの程度変化するか、変化によって株主との関係が悪化しないか
  • 合併により現状の許認可はどうなるのか、再取得が必要な場合はどの程度時間がかかるか
  • 合併後に給与テーブルは統一すべきか、統一する場合の追加コストはどの程度か、合併による従業員の転籍手続はスムーズに可能か
  • 従業員にはいつどのように合併を公表するか、銀行や取引先にはいつどのように公表するか

2次DDの課題②:合併スケジュールの作成

合併の法務手続や公表、組織の統合といった課題をいつ、誰が、どのように行うかといった合併スケジュールを、社内の担当責任者様と一緒に作成します。

合併スケジュールはデューディリジェンスそのものではありませんが、デューディリジェンスの結果を踏まえてまとめた集大成のようなものです。作成自体は社内の担当責任者様の業務になりますが(外部に丸投げするとほとんど実施されなくなるため)、弊社でもしっかりサポートさせていただいております。

デューディリジェンスは合併成功のカナメ!

以上が、弊社が提供している標準的なデューディリジェンスの流れになります。

合併を成功させるためには、しっかりとした合併スケジュールを作り、いつ、誰が、何をするのかを明確にすることが重要です。そしてしっかりした合併スケジュールを作るためには、デューディリジェンスによって会社の状況と合併の課題を明らかにすることが不可欠なのです。

デューディリジェンスは合併成功のカナメです。しっかり実施すればするほど、合併の成功率は上がります。
デューディリジェンスの初めの一歩はプレDDです。まずは無料相談から合併成功への道を歩み始めましょう。