会社分割は法人が分裂するイベントであり、権利義務関係が優良な事業から切り離されることもあります。したがって、かなり厳格な法務手続を経て成立します。

具体的にどのような法務手続があるのでしょうか。一般的な例を元に全体の手続を見ていきましょう。

会社分割手続の4分類

会社分割の法務手続を大きく分けると、次の4つの手続に分類できます。

  1. 会社間の合意
  2. 株主の承認
  3. 債権者保護手続(借入先の権利を守る手続き)
  4. 会社分割登記手続

このうち、1~3をしっかりやれば会社分割は成立しますが、成立後の4の登記手続も必須です。

会社分割手続1.会社間の合意

まず、会社分割する会社間で「会社分割しましょう!」ということを正式に決定します。

法的な手続としては、

  • 吸収分割契約書または新設分割計画書
  • それぞれの会社の取締役の承認

が必要になります。

つまり、社長同士が分割契約書に判子を押すだけではダメで、ちゃんと他の取締役の承認をもらわなければ成立しません

「取締役の承認」とは、取締役会を設置している会社であれば取締役会の決議、設置していない会社であれば取締役全員の同意が必要になります。それぞれ「取締役会議事録」か「取締役決定書」を作成し、同意を得たことを書面で残します。

会社分割手続2.株主の承認

会社分割はそれぞれの会社の取締役が同意しても、株主が反対した場合は成立しません。会社の一部が分離するというのは会社にとって一大事ですので、会社の所有者たる株主の承認が必要になります。

このときの株主総会は、通常は「特別決議」(3分の2以上の株主の同意が必要)が求められます。つまり、どちらかの会社で3分の1超の株主が反対した場合は、会社分割そのものが成立しません。

なお、資本関係や事業規模などで、一定の場合は株主総会決議を省略できることがあります。もっとも、非上場会社のほとんどは株主総会を問題なく通せますので、上場会社以外では滅多に省略されることはありません。

会社分割手続3.債権者保護手続

会社分割は会社の債権者(銀行、仕入先、取引先など)にとっても軽視できない事態になることがあります。分割移転する事業の債権者は債権を取り立てる先の会社が変わりますし、財務状況の悪い会社に移転されることによって信用力が低下することもあるからです。

そこで、一定の場合、債権者に会社分割に反対する機会を与えなければならないことになっています。具体的には、会社分割の最低1カ月前に合併することを官報等で公表(「公告」といいます)し、反対する債権者には名乗り出るよう促します

もしその期間中に反対する債権者が現れた場合、会社分割を中止するか、その債権者に対する債権を返済します。反対されても即ち会社分割が成立しなくなるわけではありません。

なお、分社型分割の場合は債権者保護手続が不要になることがあります。

会社分割には分社型分割(物的分割)と分割型分割(人的分割)があります。詳しくは「ゼロからわかる会社分割の超基礎知識」をご覧ください。

会社分割手続4.会社分割登記手続

上記手続1~3がすべて完了し、吸収分割契約書や新設分割計画書に記された「合併の効力発生日」が到来すると、会社分割は自動的に成立します。ただし、会社分割が成立したら2週間以内に登記申請をしなければいけません。遅れても会社分割自体が否定されるわけではないのですが、過料(罰金)が発生します。

登記申請に必要な書類は、これまでの手続1~3で集めたものになります。厳密にチェックされますので、一発で完了するようにしっかり準備しましょう。

許認可手続も忘れずに!

上記は会社分割を法的に成立させる法務手続ですが、これとは別に、移転する事業に関する許認可の手続が必要になることがあります。

許認可手続は、その許認可の種類によって、新規取得と同じ手続が必要なこともあれば、事後報告でもよいこともあります。必ず分割前に事前調査を実施し、許認可の更新手続を確認しましょう

司法書士の経験値がカギ!

会社分割の法務手続では、依頼する司法書士の経験値が重要になってきます。実は、司法書士さんであっても組織再編は数回しか経験していない人が多く、法務書類の作成に無駄な時間を費やしてしまったり、期待していたスケジュールを守れなくなってしまうケースも散見されます。

会社分割は法務手続以外の作業も山積みであり、事務作業は最低限の時間と労力で済ませたいところです。いつも頼んでいる人に安直に依頼するのではなく、きちんと経験値を見極めて専門家を選択することが、会社分割を成功させるポイントのひとつです。

弊社では組織再編の経験が豊富で実績ある適材適所の専門家をご紹介しておりますので、適切な専門家がお近くにいらっしゃらない際はお気軽にご相談ください。